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第二章 紗夜と喜佐光
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喜佐光様と手下どもは、みぞおちを打たれたように声も立てられない様子で、その場に呆然と立ち尽くしていました。血潮が逆上する思いで、空を舞う龍神様を凝視しています。
「本当に現れやがった…。まさか、蛙が龍神の正体だったとは…。」
雨でずぶ濡れになっていましたが、誰も動く事が出来ませんでした。
喜佐光様に蹴り倒されたままの私の前に、銀髪の青年が羽のように軽やかに降り立ちました。
私の夢の中でしか会うことが出来なかった、あのお方が目の前に現れたのです!! 銀髪で細身で長身で凛々しいけれども笑った時の笑顔が優しくて…。
「主様…いえ、龍牙様…?」
私は甦りつつある記憶を頼りにその名を口にしていました。溢れてくる涙が止まりませんでした。
お会いしたかった…。夢の中でしか会えない寂しい夜を、たった一人で幾度過ごしたことでしょう。
「紗夜殿、ありがとうございます。」
銀髪のこのお方、龍牙様こそ龍神様が人間界に現れる際のお姿…、つまり龍神様の化身なのです。
「紗夜殿の口づけが、私を蛙から元の姿に戻してくださいました。感謝いたします。」
龍牙様は私を優しく抱き起こし、そう言って下さいました。ここで私は確信しました。お姿は銀髪の青年ですが、話し方は蛙様そのものだったのです!
「蛙様、よく生きて…、よかった。」
私の表情がほころんでゆくのが自分でもよくわかります。龍牙様も私に優しい笑顔を向けてくださっていました。
「紗夜殿、もう記憶が戻って…? 」
「まだ、少しずつですが… 」
少しずつ甦る記憶。
そうです、全ての記憶を失っても、私は待ち続けていたのです。長い長い間…龍神の化身である龍牙様が、蛙の姿から再び元に戻ることを…。
長い長い間…。その記憶の糸をたどっていこうとするのですが…
まるで私の失った記憶が戻ることを邪魔するかのように、喜佐光様が乱入してきます。
「お前ら、イチャついてるんじゃねぇぞ!! 殺してやる!!」
邪魔をしないで下さい!! 貴方はもうお呼びではありません。帰っていただいて結構なのです。招かざる客がいちばん歓迎されるのは、帰るときなのですよ(#6)!
しかし喜佐光様は嫉妬に狂い刀を振りかざし襲いかかってきたのです。
「龍牙様…危ない!」
しかし、龍牙様はまったく動じることなく憤然とした面持ちで喜佐光様を見ます。猛毒のような殺気立った心…そして、全身怒りの塊で爆発したように叫んだのです。
「紗夜殿に暴力を振るい、泣かせた貴様だけは許さん!!!!」
喜佐光様は龍牙様に睨まれただけで、雌ヒョウの群れに襲われたロバのようにおどおどし、動けなくなってしまいました。
喜佐光様に向かって微かに風が吹いたような気がしました。
「?」
しかし次の瞬間、そよ風は爆風と化し喜佐光様に喰らいついたのです!! 全身のお召し物がズタズタに引き裂かれ宙に舞いました。喜佐光様の手下どもは誰もが残虐な光景を想像して目を背けてしまいましたが、喜佐光様はそこに立っていました。何も変わったご様子はありませんでした。
衣服以外は。
全裸になってしまった喜佐光様の身体は随分痩せて貧相で、その中央に位置する小型の根菜類もまた何処が種馬なのかというくらいに、可哀そうなくらいで…(割愛)…。
ガタガタと震え腰を抜かしたままの喜佐光様。
「怒りは醜さを露見させる。だから、これ以上はやらない。だが次に紗夜殿に手出しした場合…」
龍牙様は無理矢理にでもご自分の怒りを抑えようとしているようでした。
「…その時は、容赦なく殺す!! わかったのなら、すぐに消えろ!!」
龍神様とは思えないお言葉ですが、それほどまでに私の事を想っていて下さることの裏返しだったのです。
龍神様の圧倒的な威圧感に押し潰された喜佐光様は、自力で立つことは出来ず「畜生、覚えてろよ!!」などと捨て台詞を吐いたものの、結局、手下どもに連れられ山を下りてゆきました。
**
上空の龍神様のお姿はやがて消え、地上の龍牙様の姿だけになっていました。
「紗夜殿、ゆっくりと再会を喜びたいのは山々なのですが、すぐに龍神の社(龍加美家)までお送りします。何故かは、おわかりですね?」
私は龍牙様を見つめたまま静かに頷きました。
念願の恵みの雨が降り村は救われたように思えましたが、それだけでは駄目だったのですね…?
既に水だけでは甦ることが出来ないほど深刻な状態だったのです。田畑の農作物は弱りはてて生きる力さえ失っていました。全滅寸前だったのです。
もう少し早ければ助かったのかもしれませんが、現時点ではもはやどうすることも出来ないほど事態は深刻でした。
(#6) 「招かざる客がいちばん歓迎されるのは、しばしば帰ったときである。」 シェイクスピア
「本当に現れやがった…。まさか、蛙が龍神の正体だったとは…。」
雨でずぶ濡れになっていましたが、誰も動く事が出来ませんでした。
喜佐光様に蹴り倒されたままの私の前に、銀髪の青年が羽のように軽やかに降り立ちました。
私の夢の中でしか会うことが出来なかった、あのお方が目の前に現れたのです!! 銀髪で細身で長身で凛々しいけれども笑った時の笑顔が優しくて…。
「主様…いえ、龍牙様…?」
私は甦りつつある記憶を頼りにその名を口にしていました。溢れてくる涙が止まりませんでした。
お会いしたかった…。夢の中でしか会えない寂しい夜を、たった一人で幾度過ごしたことでしょう。
「紗夜殿、ありがとうございます。」
銀髪のこのお方、龍牙様こそ龍神様が人間界に現れる際のお姿…、つまり龍神様の化身なのです。
「紗夜殿の口づけが、私を蛙から元の姿に戻してくださいました。感謝いたします。」
龍牙様は私を優しく抱き起こし、そう言って下さいました。ここで私は確信しました。お姿は銀髪の青年ですが、話し方は蛙様そのものだったのです!
「蛙様、よく生きて…、よかった。」
私の表情がほころんでゆくのが自分でもよくわかります。龍牙様も私に優しい笑顔を向けてくださっていました。
「紗夜殿、もう記憶が戻って…? 」
「まだ、少しずつですが… 」
少しずつ甦る記憶。
そうです、全ての記憶を失っても、私は待ち続けていたのです。長い長い間…龍神の化身である龍牙様が、蛙の姿から再び元に戻ることを…。
長い長い間…。その記憶の糸をたどっていこうとするのですが…
まるで私の失った記憶が戻ることを邪魔するかのように、喜佐光様が乱入してきます。
「お前ら、イチャついてるんじゃねぇぞ!! 殺してやる!!」
邪魔をしないで下さい!! 貴方はもうお呼びではありません。帰っていただいて結構なのです。招かざる客がいちばん歓迎されるのは、帰るときなのですよ(#6)!
しかし喜佐光様は嫉妬に狂い刀を振りかざし襲いかかってきたのです。
「龍牙様…危ない!」
しかし、龍牙様はまったく動じることなく憤然とした面持ちで喜佐光様を見ます。猛毒のような殺気立った心…そして、全身怒りの塊で爆発したように叫んだのです。
「紗夜殿に暴力を振るい、泣かせた貴様だけは許さん!!!!」
喜佐光様は龍牙様に睨まれただけで、雌ヒョウの群れに襲われたロバのようにおどおどし、動けなくなってしまいました。
喜佐光様に向かって微かに風が吹いたような気がしました。
「?」
しかし次の瞬間、そよ風は爆風と化し喜佐光様に喰らいついたのです!! 全身のお召し物がズタズタに引き裂かれ宙に舞いました。喜佐光様の手下どもは誰もが残虐な光景を想像して目を背けてしまいましたが、喜佐光様はそこに立っていました。何も変わったご様子はありませんでした。
衣服以外は。
全裸になってしまった喜佐光様の身体は随分痩せて貧相で、その中央に位置する小型の根菜類もまた何処が種馬なのかというくらいに、可哀そうなくらいで…(割愛)…。
ガタガタと震え腰を抜かしたままの喜佐光様。
「怒りは醜さを露見させる。だから、これ以上はやらない。だが次に紗夜殿に手出しした場合…」
龍牙様は無理矢理にでもご自分の怒りを抑えようとしているようでした。
「…その時は、容赦なく殺す!! わかったのなら、すぐに消えろ!!」
龍神様とは思えないお言葉ですが、それほどまでに私の事を想っていて下さることの裏返しだったのです。
龍神様の圧倒的な威圧感に押し潰された喜佐光様は、自力で立つことは出来ず「畜生、覚えてろよ!!」などと捨て台詞を吐いたものの、結局、手下どもに連れられ山を下りてゆきました。
**
上空の龍神様のお姿はやがて消え、地上の龍牙様の姿だけになっていました。
「紗夜殿、ゆっくりと再会を喜びたいのは山々なのですが、すぐに龍神の社(龍加美家)までお送りします。何故かは、おわかりですね?」
私は龍牙様を見つめたまま静かに頷きました。
念願の恵みの雨が降り村は救われたように思えましたが、それだけでは駄目だったのですね…?
既に水だけでは甦ることが出来ないほど深刻な状態だったのです。田畑の農作物は弱りはてて生きる力さえ失っていました。全滅寸前だったのです。
もう少し早ければ助かったのかもしれませんが、現時点ではもはやどうすることも出来ないほど事態は深刻でした。
(#6) 「招かざる客がいちばん歓迎されるのは、しばしば帰ったときである。」 シェイクスピア
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