多民族から成る複合社会マレーシアとその歪み

Yoshinari F/Route-17

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第2章 複合社会における民族間の歪み

2-(2) 民族間の経済格差

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 近年のマレーシアの経済発展の速度には目を見張るものがある。アジア諸国の中でもトップクラスであり、日本やアメリカなど先進国にも迫る勢いである。そんなマレーシアの経済発展を今日まで支えてきたのは何を隠そう華人なのである。華人は植民地時代の鉱山における契約労働者から商店の経営を経て現在では財閥化し、経済面のありとあらゆる分野へ進出している。この華人の経済発展こそが、マレーシア国家の経済発展へと繋がったのである。一方でマレー人はその多くが植民地時代から農民として生きてきた。田畑を耕し農作物を栽培して生活してきたのである。その暮らしぶりは華人に比べ非常に質素なものだった。このため、豊かな華人と貧しいマレー人、という図式が成り立ってしまったのである。

 図5はマレー人、華人、タミル人の平均月収の推移のモデルである。1位は華人で、他のグループに大差をつけている。商店や企業を経営し、あらゆる分野へ進出していることを考えれば、この結果にも頷ける。続いて2位はサービス業に従事するタミル人である。そして最下位となるのが農村で農業を営むマレー人なのである。この平均所得の順位は年度が変わっても変化することはない。最下位のマレー人の収入は全体の平均値を大きく下回り、それに対して1位の華人は平均値を大きく上回っている。そしてこの格差は時間が経っても、差が縮まることはないのである。


 無論、全てのマレー人が貧しい訳ではないし、全ての華人が豊かな訳でもないが、マレーシアの民族間には大きな経済格差が存在し、華人が圧倒的な力でマレーシアの経済を支配しているのである。クアラ・ルンプールの靴屋ではタミル(マレー)人が店員として働き、華人が店のオーナーをしていた。マラッカへ行った際に乗った長距離バスの運転手はマレー人だったが、バス会社を経営しているのは大抵、華人であることが多い。マレー人やタミル人が華人のもとで職に就き、労働者として働いているのである。このような構造が複合社会マレーシアにおいて民族間の経済格差を生み出し、歪みをもたらすのである。豊かな者と貧しい者の間に存在する亀裂は、貧富の格差が消滅するまで修復することが出来ないだろう。

 古くからマレーシアの地で暮らしてきたマレー人にとっては、植民地時代に入国してきた華人やタミル人は移民集団、つまり「よそ者」である。その「よそ者」が自分たちよりも豊かな暮らしをしているとなると、内心穏やかではない。特にマレーシア経済を支配している華人に対して強い不満を持っている。
 反対に華人から見れば、マレー人が貧しいのは怠けているからである、という考えを持っている。マレー人の生活が豊かにならないのはマレー人が頑張って働かないからなのだという。
 複合社会マレーシアにおける多民族の共存は、その内部に民族間の不満や反感を抱えたものである。それは特に言語、文化、宗教の違いや、経済格差が原因となっている。言語や文化が異なれば互いの生活習慣を理解し合うことは難しいし、宗教が違えばそれぞれの「正義」も「タブー」も異なる。さらに経済格差の存在が民族間の壁をより高く、溝をより深くしてしまっている。それでも複合社会は成り立っているし、人々は今日もその中で生活しているのである。


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