多民族から成る複合社会マレーシアとその歪み

Yoshinari F/Route-17

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第1章 複合社会マレーシア(1)

1-(2) マレー人、華人、タミル人の社会

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 マレーシアの総人口のうち、各民族がそれぞれ占める割合は、マレー人が44%、華人が31%、タミル人が8%となり、その他に複数の少数民族が存在する(注1)。マレー人、華人、タミル人はいずれの民族も言語、生活習慣、宗教を異にし互いに共通する部分がない。マレー人はマレー語を母語とし、イスラム教を信仰している。華人は華語、中国仏教。タミル人はタミル語、ヒンズー教という組み合わせになっている(図2)。

 生活習慣も異なっている。その理由は信仰する宗教によってタブー(禁忌)が異なるからだと言っても良い。例えば食事で、イスラム教徒であるマレー人が豚を食べないのは、イスラム教典の中で豚は汚らわしい--ものとされているからである。また、ヒンズー教徒であるタミル人は牛を食べない。牛は神、もしくはその使いだからである。一方、華人には食事におけるタブーはない。豚でも牛でも好きなものを食べることが出来るのである。宗教上のタブーの有無によって、各民族の食生活は全く異なったものになっている。従って外食をする店も別々となる。マレー人は豚を使わないイスラム系の店へ、タミル人は牛を使用しないヒンズー系の店へいく。そのどちらでもない華人は、牛と豚を両方扱う中国系の店へ行くことになる。民族ごとに別々の店で食事をする、民族学的「個室」(compartment)が形成される。特定の店には特定の民族だけが出入りし、複数の民族が同じ店を利用することはない。

 「個室」という現象は食事だけに限られたことではない。宗教的タブーは食事だけでなく日常生活全般にも数多く存在するからである。そのため、都市内部では各民族ごとの「住み分け」がなされ、同じ民族同士が集まりセグリゲィションを形成している(図3)。このセグリゲィションこそがチャイナタウンであり、インド人街(リトル・インディア、リトル・ボンベイ)と呼ばれるもので、そこに暮らす民族によって中国風、インド風といったそれぞれの特徴を持っている。複合社会マレーシアは民族ごとに形成された無数のセグリゲィションの集合体であると言えるのだ。


 複数の民族が「共存」するマレーシアでは、それぞれの民族が確固たるオリジナリティーを守ったまま生活している。言語の例を取り上げると、マレーシアでは四大公用語として、英語、マレー語、華語、タミル語が認められている(注2)。つまり、英語と各民族の母語が公用語とされているのである。これは各民族の人口比率が比較的近いことが理由である。図4はマレーシアと日本における、民族ごとの人口比率を比較したものである。
マレーシアでは、マレー人、華人、タミル人が比較的バランス良く存在する。一方で、日本は90%以上を占める大和民族と、わずか数%に満たない少数民族(アイヌ人や琉球人)で構成されているため、少数民族の言語が公的な場で聞かれることはない。日本の公用語(国語)が日本語と定められてしまっているためである。マレーシアでは民族ごとの人口比率が近いため、日本のように少数民族が多数派の民族に追いやられてしまったり呑み込まれてしまったりすることがなかった。言語だけではなく、ライフスタイルなど全ての面において各民族、独自の道を守ってきたのである。


注1 その他の少数民族をマレー人と分類するかどうかでこの数字は変動する。
注2 現在マレー語が国語と定められているため、新聞、テレビ、ラジオなどのメディアをはじめ公共の場でマレー語が使用される比率が高まっている。

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