46 / 48
家族の形
しおりを挟む
一時期,私は,自覚のないことについて,きつい言葉で,歌子を責めて悪かったと深く反省した。そして,今も,悪かったと思っている。嫌な思いをしているのに,何も言わずに我慢して,ストレスをこれ以上溜められないぐらい溜め続けて,爆発して,相手に八つ当たりするのは,コミュニケーションのやり方としては,根本的に間違っている。
しかし,今は,こうも思う。自覚があるかどうかは,関係ない。自覚があるかどうかという基準で,人の言動を評価してはならない。自覚がないから,悪くないのではない。
自覚がないという点では,私も,歌子も,同じだった。私は,自覚がなくても,歌子を傷つけてしまった。間違っていた。歌子も,それと同様に,知らないうちに,私をたくさん傷つけてしまっていた。ある意味,私も,歌子も,悪い。しかし,ある意味,私も,歌子も,悪くないのだ。
おそらく、誰をも傷つけずに人生を全うするのは,無理な話だ。自覚がなくても,人を傷つけてしまうし,自分も傷ついてしまう。しかし,これは辛いことではあるし,避けたいものでもある。この避けたいことをしてしまうのは,まだ人間関係なのかもしれないけれど…。
私は,歌子と決着をつけることも、納得することもないだろう。それでも、好きだ。歌子も,私に対して,同じ気持ちを抱いているに違いない。
歌子が私のことをどう思っているのか,知ることはないだろう。おそらく本人も,よくわかっていないだろう。しかし,もうこだわらないことにした。そのことは,関係ないことに気がついた。
だって,たとえ私たちが嫌でも,私たちは,目に見えない,手に取れない不思議な運命の働きによって,強い絆で結ばれ,縁が切れそうにない。そういう意味では,確かに歌子が言うように,親子に似ているのかもしれない。
人とのご縁は,自分で作るものでも,自分で切る物でもない。人智を超えたものなのだ。
この町を歩いていると,私は,何処からともなく,ジャズ音楽が聴こえてくる。奏の家のある通りに近づくと,「今日は,違う用事だ。」と頭でわかっていても,足が勝手に奏の自宅の方へ向かおうとする。奏や歌子のことを思うと,数え切れないほどの思い出が蘇って来る。楽しい思い出,悔しい思い出,悲しい思い出,嬉しい思い出。この思い出たちが私に元気をくれ,心を満たしてくれる。私を支えてくれる心の拠り所そのものだ。何処にいても,その思い出たちが心から消えることはない。
奏と歌子は,私にとって,正に,喜怒哀楽を共にし,人生を一緒に歩んだ人だ。たとえ一緒に歩んだのは,ただのひと時でも,そのひとときは,輝いていた。
そう思うと,胸を張って,言える。私たちは,家族だと。私たちは,何処にいても,一緒だと。繋がっていると。
そして,それが,人のことが好きか,嫌いかなどより,ずっと重要で,素敵なことではないかと…。
終
しかし,今は,こうも思う。自覚があるかどうかは,関係ない。自覚があるかどうかという基準で,人の言動を評価してはならない。自覚がないから,悪くないのではない。
自覚がないという点では,私も,歌子も,同じだった。私は,自覚がなくても,歌子を傷つけてしまった。間違っていた。歌子も,それと同様に,知らないうちに,私をたくさん傷つけてしまっていた。ある意味,私も,歌子も,悪い。しかし,ある意味,私も,歌子も,悪くないのだ。
おそらく、誰をも傷つけずに人生を全うするのは,無理な話だ。自覚がなくても,人を傷つけてしまうし,自分も傷ついてしまう。しかし,これは辛いことではあるし,避けたいものでもある。この避けたいことをしてしまうのは,まだ人間関係なのかもしれないけれど…。
私は,歌子と決着をつけることも、納得することもないだろう。それでも、好きだ。歌子も,私に対して,同じ気持ちを抱いているに違いない。
歌子が私のことをどう思っているのか,知ることはないだろう。おそらく本人も,よくわかっていないだろう。しかし,もうこだわらないことにした。そのことは,関係ないことに気がついた。
だって,たとえ私たちが嫌でも,私たちは,目に見えない,手に取れない不思議な運命の働きによって,強い絆で結ばれ,縁が切れそうにない。そういう意味では,確かに歌子が言うように,親子に似ているのかもしれない。
人とのご縁は,自分で作るものでも,自分で切る物でもない。人智を超えたものなのだ。
この町を歩いていると,私は,何処からともなく,ジャズ音楽が聴こえてくる。奏の家のある通りに近づくと,「今日は,違う用事だ。」と頭でわかっていても,足が勝手に奏の自宅の方へ向かおうとする。奏や歌子のことを思うと,数え切れないほどの思い出が蘇って来る。楽しい思い出,悔しい思い出,悲しい思い出,嬉しい思い出。この思い出たちが私に元気をくれ,心を満たしてくれる。私を支えてくれる心の拠り所そのものだ。何処にいても,その思い出たちが心から消えることはない。
奏と歌子は,私にとって,正に,喜怒哀楽を共にし,人生を一緒に歩んだ人だ。たとえ一緒に歩んだのは,ただのひと時でも,そのひとときは,輝いていた。
そう思うと,胸を張って,言える。私たちは,家族だと。私たちは,何処にいても,一緒だと。繋がっていると。
そして,それが,人のことが好きか,嫌いかなどより,ずっと重要で,素敵なことではないかと…。
終
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる