星が降りそうな港町

Yonekoto8484

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家族の形

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一時期,私は,自覚のないことについて,きつい言葉で,歌子を責めて悪かったと深く反省した。そして,今も,悪かったと思っている。嫌な思いをしているのに,何も言わずに我慢して,ストレスをこれ以上溜められないぐらい溜め続けて,爆発して,相手に八つ当たりするのは,コミュニケーションのやり方としては,根本的に間違っている。

しかし,今は,こうも思う。自覚があるかどうかは,関係ない。自覚があるかどうかという基準で,人の言動を評価してはならない。自覚がないから,悪くないのではない。

自覚がないという点では,私も,歌子も,同じだった。私は,自覚がなくても,歌子を傷つけてしまった。間違っていた。歌子も,それと同様に,知らないうちに,私をたくさん傷つけてしまっていた。ある意味,私も,歌子も,悪い。しかし,ある意味,私も,歌子も,悪くないのだ。

おそらく、誰をも傷つけずに人生を全うするのは,無理な話だ。自覚がなくても,人を傷つけてしまうし,自分も傷ついてしまう。しかし,これは辛いことではあるし,避けたいものでもある。この避けたいことをしてしまうのは,まだ人間関係なのかもしれないけれど…。

私は,歌子と決着をつけることも、納得することもないだろう。それでも、好きだ。歌子も,私に対して,同じ気持ちを抱いているに違いない。

歌子が私のことをどう思っているのか,知ることはないだろう。おそらく本人も,よくわかっていないだろう。しかし,もうこだわらないことにした。そのことは,関係ないことに気がついた。

だって,たとえ私たちが嫌でも,私たちは,目に見えない,手に取れない不思議な運命の働きによって,強い絆で結ばれ,縁が切れそうにない。そういう意味では,確かに歌子が言うように,親子に似ているのかもしれない。

人とのご縁は,自分で作るものでも,自分で切る物でもない。人智を超えたものなのだ。

この町を歩いていると,私は,何処からともなく,ジャズ音楽が聴こえてくる。奏の家のある通りに近づくと,「今日は,違う用事だ。」と頭でわかっていても,足が勝手に奏の自宅の方へ向かおうとする。奏や歌子のことを思うと,数え切れないほどの思い出が蘇って来る。楽しい思い出,悔しい思い出,悲しい思い出,嬉しい思い出。この思い出たちが私に元気をくれ,心を満たしてくれる。私を支えてくれる心の拠り所そのものだ。何処にいても,その思い出たちが心から消えることはない。

奏と歌子は,私にとって,正に,喜怒哀楽を共にし,人生を一緒に歩んだ人だ。たとえ一緒に歩んだのは,ただのひと時でも,そのひとときは,輝いていた。

そう思うと,胸を張って,言える。私たちは,家族だと。私たちは,何処にいても,一緒だと。繋がっていると。

そして,それが,人のことが好きか,嫌いかなどより,ずっと重要で,素敵なことではないかと…。

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