19 / 48
不倫にも痴話喧嘩
しおりを挟む
奏と歌子は,運命共同体と言っても過言ではないような親しい関係だったのは間違いないが,決して,どんな時も平和に過ごしていたわけではない。夫婦のように痴話喧嘩をすることもあったし,半年以上冷戦状態が続くときもあった。
ある時,珍しく歌子から,新年会をしようと誘われたのだった。歌子は,こう言う誘いをあまりしない。歌子からのお誘いは,ほとんど仕事を口実にしたものだから,パーティーしようなんて言うのは,珍しかった。嬉しくて,そのつもりで三ヶ日がまだ明けていない町中を歩き,奏のお家へと向かった。
ところが,着いてみると,奏も歌子も様子がおかしかった。
みんなにお酒を注いで,奏が音頭をとった。
「はい,ただ今から,大人の井上歌子ちゃんが呼んだ新年会を始めます。はーい,乾杯!」
と奏が「大人」と言う言葉を強調して,挨拶をした。
歌子が奏を睨みつけるのも,見逃せなかった。どうやら,二人は,喧嘩中のようだった。
途中まで,歌子はほとんど喋らずに黙っていた。すると,突然喋り始めた。
「あの,私は奥さんじゃないんだから,歌子さんと呼ぶべきだよ。呼び捨てはおかしい。」
「え?何,それ?」
おそらく何十年も前から歌子のことを「歌子」や「歌子ちゃん」と呼んできた奏がドギマギする。
歌子はそれ以上何も言わずに,リンゴを切り始めた。すると、奏が彼女の背中に手をかけて,宥めようとした。
「ちょっと触らんといてくれる?」
と歌子がまた怒る。普段からされていることなのに。
「そして,集まる時に私はよくご飯を作ったりしているけど,奥さんじゃないし,お母さんじゃないんだから,もうやらない。これからは,お弁当にして,割り勘にしよう。友人だから,その方がいい。」
と今度は,日頃のことについて文句を言い出した。
私たちは,集まる時に歌子に食事を作るようにお願いをしたことは一度もない。いつも自分から勝手にやっていることだ。いつも,まるで自分の家のように,お鍋や調理器具のしまってある場所を全部覚えていて,「これ,使っていい?」などと全く気を使わずに,慣れた感じで食事の支度をし,もてなしてくれて来た。「手伝おうか?」と申し出ても、いつも「いい」と言うし,負担に感じている様子は,全くなかった。むしろ,いつも楽しそうだった。それなのに,どうしたのだろう…。
奏は,「はい。はい。」と半分聞き流している感じで頷いて,言った。
「じゃ,なんと呼んだらいいかわからないけど,ビール出して。」
私と彼氏は,いたたまれなくなって,言って,席を立とうとした。「あの,私たちは,もう帰るので,二人でごゆっくり。」
すると,歌子が言った。
「ごめんね。今日は,何も言うつもりはなかった。メールに書いてあったように,新年会のつもりだった。でも,出会うとやっぱり…。」
歌子がここまで申し訳なさそうに言うと,急に口調が変わった。
「でも,なんでも勉強だから,見せてもいいと思った。あなたたちも,いい関係だけど,人間関係は,ちょっとしたことでも,放っておくと大きな問題になるから,何でも話し合った方がいい。」
と奏と喧嘩中だと言うのに,私と彼氏に注目を向けて,お説教が始まった。
自分と奏の喧嘩の様子が私たちにとって,良い教材になると思っているところは,彼女らしい。普段人に見せない見苦しいところでも,私たちより長く生きている自分のものだから,教育機会だと考えるなんて,人よがり過ぎる。
と言うことで,歌子は,私たちに帰ってほしくなかったらしい。おそらく,私たちが帰ると,奏と二人きりになるからだった。
そしたら,奏が言った。
「若者を巻き込まずに,さっきの話をしようよ。」
私と彼氏は,帰るなら今だと頃合いを見計らい,お暇した。
次出会った時は,いつもの二人に戻っていたから,二人は,その後話して,仲直りできたようだ。
ある時,珍しく歌子から,新年会をしようと誘われたのだった。歌子は,こう言う誘いをあまりしない。歌子からのお誘いは,ほとんど仕事を口実にしたものだから,パーティーしようなんて言うのは,珍しかった。嬉しくて,そのつもりで三ヶ日がまだ明けていない町中を歩き,奏のお家へと向かった。
ところが,着いてみると,奏も歌子も様子がおかしかった。
みんなにお酒を注いで,奏が音頭をとった。
「はい,ただ今から,大人の井上歌子ちゃんが呼んだ新年会を始めます。はーい,乾杯!」
と奏が「大人」と言う言葉を強調して,挨拶をした。
歌子が奏を睨みつけるのも,見逃せなかった。どうやら,二人は,喧嘩中のようだった。
途中まで,歌子はほとんど喋らずに黙っていた。すると,突然喋り始めた。
「あの,私は奥さんじゃないんだから,歌子さんと呼ぶべきだよ。呼び捨てはおかしい。」
「え?何,それ?」
おそらく何十年も前から歌子のことを「歌子」や「歌子ちゃん」と呼んできた奏がドギマギする。
歌子はそれ以上何も言わずに,リンゴを切り始めた。すると、奏が彼女の背中に手をかけて,宥めようとした。
「ちょっと触らんといてくれる?」
と歌子がまた怒る。普段からされていることなのに。
「そして,集まる時に私はよくご飯を作ったりしているけど,奥さんじゃないし,お母さんじゃないんだから,もうやらない。これからは,お弁当にして,割り勘にしよう。友人だから,その方がいい。」
と今度は,日頃のことについて文句を言い出した。
私たちは,集まる時に歌子に食事を作るようにお願いをしたことは一度もない。いつも自分から勝手にやっていることだ。いつも,まるで自分の家のように,お鍋や調理器具のしまってある場所を全部覚えていて,「これ,使っていい?」などと全く気を使わずに,慣れた感じで食事の支度をし,もてなしてくれて来た。「手伝おうか?」と申し出ても、いつも「いい」と言うし,負担に感じている様子は,全くなかった。むしろ,いつも楽しそうだった。それなのに,どうしたのだろう…。
奏は,「はい。はい。」と半分聞き流している感じで頷いて,言った。
「じゃ,なんと呼んだらいいかわからないけど,ビール出して。」
私と彼氏は,いたたまれなくなって,言って,席を立とうとした。「あの,私たちは,もう帰るので,二人でごゆっくり。」
すると,歌子が言った。
「ごめんね。今日は,何も言うつもりはなかった。メールに書いてあったように,新年会のつもりだった。でも,出会うとやっぱり…。」
歌子がここまで申し訳なさそうに言うと,急に口調が変わった。
「でも,なんでも勉強だから,見せてもいいと思った。あなたたちも,いい関係だけど,人間関係は,ちょっとしたことでも,放っておくと大きな問題になるから,何でも話し合った方がいい。」
と奏と喧嘩中だと言うのに,私と彼氏に注目を向けて,お説教が始まった。
自分と奏の喧嘩の様子が私たちにとって,良い教材になると思っているところは,彼女らしい。普段人に見せない見苦しいところでも,私たちより長く生きている自分のものだから,教育機会だと考えるなんて,人よがり過ぎる。
と言うことで,歌子は,私たちに帰ってほしくなかったらしい。おそらく,私たちが帰ると,奏と二人きりになるからだった。
そしたら,奏が言った。
「若者を巻き込まずに,さっきの話をしようよ。」
私と彼氏は,帰るなら今だと頃合いを見計らい,お暇した。
次出会った時は,いつもの二人に戻っていたから,二人は,その後話して,仲直りできたようだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる