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不倫にも痴話喧嘩
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奏と歌子は,運命共同体と言っても過言ではないような親しい関係だったのは間違いないが,決して,どんな時も平和に過ごしていたわけではない。夫婦のように痴話喧嘩をすることもあったし,半年以上冷戦状態が続くときもあった。
ある時,珍しく歌子から,新年会をしようと誘われたのだった。歌子は,こう言う誘いをあまりしない。歌子からのお誘いは,ほとんど仕事を口実にしたものだから,パーティーしようなんて言うのは,珍しかった。嬉しくて,そのつもりで三ヶ日がまだ明けていない町中を歩き,奏のお家へと向かった。
ところが,着いてみると,奏も歌子も様子がおかしかった。
みんなにお酒を注いで,奏が音頭をとった。
「はい,ただ今から,大人の井上歌子ちゃんが呼んだ新年会を始めます。はーい,乾杯!」
と奏が「大人」と言う言葉を強調して,挨拶をした。
歌子が奏を睨みつけるのも,見逃せなかった。どうやら,二人は,喧嘩中のようだった。
途中まで,歌子はほとんど喋らずに黙っていた。すると,突然喋り始めた。
「あの,私は奥さんじゃないんだから,歌子さんと呼ぶべきだよ。呼び捨てはおかしい。」
「え?何,それ?」
おそらく何十年も前から歌子のことを「歌子」や「歌子ちゃん」と呼んできた奏がドギマギする。
歌子はそれ以上何も言わずに,リンゴを切り始めた。すると、奏が彼女の背中に手をかけて,宥めようとした。
「ちょっと触らんといてくれる?」
と歌子がまた怒る。普段からされていることなのに。
「そして,集まる時に私はよくご飯を作ったりしているけど,奥さんじゃないし,お母さんじゃないんだから,もうやらない。これからは,お弁当にして,割り勘にしよう。友人だから,その方がいい。」
と今度は,日頃のことについて文句を言い出した。
私たちは,集まる時に歌子に食事を作るようにお願いをしたことは一度もない。いつも自分から勝手にやっていることだ。いつも,まるで自分の家のように,お鍋や調理器具のしまってある場所を全部覚えていて,「これ,使っていい?」などと全く気を使わずに,慣れた感じで食事の支度をし,もてなしてくれて来た。「手伝おうか?」と申し出ても、いつも「いい」と言うし,負担に感じている様子は,全くなかった。むしろ,いつも楽しそうだった。それなのに,どうしたのだろう…。
奏は,「はい。はい。」と半分聞き流している感じで頷いて,言った。
「じゃ,なんと呼んだらいいかわからないけど,ビール出して。」
私と彼氏は,いたたまれなくなって,言って,席を立とうとした。「あの,私たちは,もう帰るので,二人でごゆっくり。」
すると,歌子が言った。
「ごめんね。今日は,何も言うつもりはなかった。メールに書いてあったように,新年会のつもりだった。でも,出会うとやっぱり…。」
歌子がここまで申し訳なさそうに言うと,急に口調が変わった。
「でも,なんでも勉強だから,見せてもいいと思った。あなたたちも,いい関係だけど,人間関係は,ちょっとしたことでも,放っておくと大きな問題になるから,何でも話し合った方がいい。」
と奏と喧嘩中だと言うのに,私と彼氏に注目を向けて,お説教が始まった。
自分と奏の喧嘩の様子が私たちにとって,良い教材になると思っているところは,彼女らしい。普段人に見せない見苦しいところでも,私たちより長く生きている自分のものだから,教育機会だと考えるなんて,人よがり過ぎる。
と言うことで,歌子は,私たちに帰ってほしくなかったらしい。おそらく,私たちが帰ると,奏と二人きりになるからだった。
そしたら,奏が言った。
「若者を巻き込まずに,さっきの話をしようよ。」
私と彼氏は,帰るなら今だと頃合いを見計らい,お暇した。
次出会った時は,いつもの二人に戻っていたから,二人は,その後話して,仲直りできたようだ。
ある時,珍しく歌子から,新年会をしようと誘われたのだった。歌子は,こう言う誘いをあまりしない。歌子からのお誘いは,ほとんど仕事を口実にしたものだから,パーティーしようなんて言うのは,珍しかった。嬉しくて,そのつもりで三ヶ日がまだ明けていない町中を歩き,奏のお家へと向かった。
ところが,着いてみると,奏も歌子も様子がおかしかった。
みんなにお酒を注いで,奏が音頭をとった。
「はい,ただ今から,大人の井上歌子ちゃんが呼んだ新年会を始めます。はーい,乾杯!」
と奏が「大人」と言う言葉を強調して,挨拶をした。
歌子が奏を睨みつけるのも,見逃せなかった。どうやら,二人は,喧嘩中のようだった。
途中まで,歌子はほとんど喋らずに黙っていた。すると,突然喋り始めた。
「あの,私は奥さんじゃないんだから,歌子さんと呼ぶべきだよ。呼び捨てはおかしい。」
「え?何,それ?」
おそらく何十年も前から歌子のことを「歌子」や「歌子ちゃん」と呼んできた奏がドギマギする。
歌子はそれ以上何も言わずに,リンゴを切り始めた。すると、奏が彼女の背中に手をかけて,宥めようとした。
「ちょっと触らんといてくれる?」
と歌子がまた怒る。普段からされていることなのに。
「そして,集まる時に私はよくご飯を作ったりしているけど,奥さんじゃないし,お母さんじゃないんだから,もうやらない。これからは,お弁当にして,割り勘にしよう。友人だから,その方がいい。」
と今度は,日頃のことについて文句を言い出した。
私たちは,集まる時に歌子に食事を作るようにお願いをしたことは一度もない。いつも自分から勝手にやっていることだ。いつも,まるで自分の家のように,お鍋や調理器具のしまってある場所を全部覚えていて,「これ,使っていい?」などと全く気を使わずに,慣れた感じで食事の支度をし,もてなしてくれて来た。「手伝おうか?」と申し出ても、いつも「いい」と言うし,負担に感じている様子は,全くなかった。むしろ,いつも楽しそうだった。それなのに,どうしたのだろう…。
奏は,「はい。はい。」と半分聞き流している感じで頷いて,言った。
「じゃ,なんと呼んだらいいかわからないけど,ビール出して。」
私と彼氏は,いたたまれなくなって,言って,席を立とうとした。「あの,私たちは,もう帰るので,二人でごゆっくり。」
すると,歌子が言った。
「ごめんね。今日は,何も言うつもりはなかった。メールに書いてあったように,新年会のつもりだった。でも,出会うとやっぱり…。」
歌子がここまで申し訳なさそうに言うと,急に口調が変わった。
「でも,なんでも勉強だから,見せてもいいと思った。あなたたちも,いい関係だけど,人間関係は,ちょっとしたことでも,放っておくと大きな問題になるから,何でも話し合った方がいい。」
と奏と喧嘩中だと言うのに,私と彼氏に注目を向けて,お説教が始まった。
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と言うことで,歌子は,私たちに帰ってほしくなかったらしい。おそらく,私たちが帰ると,奏と二人きりになるからだった。
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「若者を巻き込まずに,さっきの話をしようよ。」
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