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春通し
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海は全てを飲み込む
愛情も,憎しみも
光も,暗闇も
勇気も,恐怖も
希望も,絶望も
夏も,冬も
暖かい陽射しも,木枯らしも
春も,秋も
鳥の囀(さえず)りも,赤く染まった紅葉の葉っぱも
裕福も,貧しいも
高いも,低いも
綺麗も,醜いも
清いも,汚れも
潔いも,貪欲も
傲慢も,卑屈も
強いも,弱いも
誠実も,狡いも
真実も,嘘も
徳も,罪も
熱意も,無関心も
輝きも,影も
全てを飲み込み,無にする
しかし,太陽と月だけは飲み込まれるどころか,流されることもない
1.
春遠し
晩秋の風景を前に,若い夫婦が幼い子供を連れて歩く。時折吹き荒れる風も初秋の爽やかなものとは打って変わり,木枯らしのように骨身に染みる寒さになっていた。一歩でも外に出れば,長い冬がすぐそこまで迫ってきていることがはっきりと肌身で感じられ,その先の春は果てしなく遠いゴールにしか感じられない。樹木の葉っぱはとっくに散り,途絶えずに行き交う人の波に踏み潰され,地面に散らばっている。踏み潰され,細かくなった枯れ葉には,風で舞う元気すら残っていない。
人間の世界に嫁ぎ,一年前に第一子を産み,今第二子を身篭っている人魚の海保(みほ)菜(な)には,晩秋の冷たい風が誰よりも冷たく鋭く頬にあたる。
「まだ彼女は何かわからないね。」
海保菜は一歳数か月の娘を抱っこしながら,夫の尚弥を見て,言った。
人間の姿で産まれた娘の体が,海に入ったら,どうなるかわからなくて,怖いから,あえて海に触れさせていない。海の水に触れたことは,まだ一度もない。
しかし,親として,海保菜も尚弥も,娘の体質が気になって,ならない。生粋の人間なのか,人魚なのか,知りたくてたまらない。
「そうだね…。ずっと思っていることだけど、子供には話さない方がいいと思う。」
と尚弥は突然切り出した。
「話さない方がいいと思うって、何を?」
海保菜には,最初は,夫の言葉の意味がよく分からなくて,困惑した。
「人魚だということを話さない方がいいと思う」
尚弥は,続けた。
「えー!?なんで!?」
海保菜は,面食らった。
「子供が口を滑らせて、他人に話したら困るだろう?知らないことは,話せないから,秘密が守れる年になるまで黙っていた方がいいと思う。」
尚弥は,自分の考えを説明した。
「その事を話さずに,一体どうやって子育てをしたらいいというの!?その大事なことも話せないと,子供と向き合えないじゃない?」海保菜は,ドギマギした。
「人魚だと言わなくても,向き合えるだろう?人魚である以前に,自分は自分だし。」
と尚弥は,反論した。
「自分を隠しながら,子供と向き合うことなんて,出来ない。矛盾しているし…そんなこと,できるわけがない!」海保菜は,とうとう自分の気持ちが抑えられなくなり,むきになっていた。
「矛盾していないと思うけど…。」尚弥は,変わらず落ち着いた口調で会話を続けた。
「じゃ,この子も人魚なら,どうする!?まだわからないよ!いつか変わるかもしれない。今,お腹の中にいる子だって,そうだ。まだわからない。まだこんなに幼いのに,一生嘘をつくと決めるなんて,早いよ!
そして,たとえ人魚じゃなくても,秘密にしたくない。知ってほしい。ありのままの自分として,自分の子供と向き合いたい。芝居しながら,育てたくない。
それに,人魚の血を引いているのよ!それなのに,そのことを話さないなんて,考えられない。
人魚の血は,人間のとは,違うよ。今は,まだ感じなくても,いつか感じるようになる。とんでもなく強いものだよ。話さないわけにはいかない。」
「海保菜、違うよ。一生秘密にしようとは,言っていない。ただ,ある程度大きくなるまで待とうと言っているだけだよ。他人に話してはいけないことだって,ちゃんと理解できる年になるまで内緒にしたい。ずっとじゃない。」
数日後,海保菜は久しぶりに娘が寝静まった後,抜け出し,海に帰っていた。娘は,最近ようやく朝までまとまって寝てくれるようになり,海に帰りやすくなっていた。朝までに戻らなければならないので,短い時間しか過ごせないが,短時間でも,無理して足で過ごし,疲れを溜めている体が,大分楽になる。
先日の尚弥とのやりとりが頭から離れない。ひたすら泳ぎ回って,自分を落ち着かせようとした。しかし,なかなか落ち着かなくて、何時間もひたすら当てもなく泳ぎ続けた。すると,体力を消耗し切って,疲れのあまり砂の上で横になった。新しい命が成長している自分のお腹を優しく撫でてみた。すると,中で赤ちゃんが動く気配がした。今回は,男の子が産まれるらしい。人間のお医者さんは,そう言った。人間は,そういうことばかりを気にする,よくわからない生き物だ。
自分は、そんなことより、人魚なのか,人間なのか,知りたい。姿の問題じゃない。
お腹の中で成長している赤ちゃんも,今家のベッドでもすやすやと眠っている娘も,何かわからない。最初は,どちらでも構わないと思った。しかし,尚弥が人魚のことを話すべきではないと思うと話し出した途端,自分の中では,何かが変わった。どちらでもいいと思えなくなったのだ。
しかし,人魚であれ,人間であれ,自分の正体は秘密にしたくない。秘密にすることを想像するだけで,胸が苦しくなる。自分のことが話せないということは,本当の意味で親子にはなれないということだ。そう思った。
人間でも,尚弥なら,理解しあって,尊重しあって,暮らしていけると思っていた。しかし,今では,もはや自信がない。尚弥のことをよく知っていて,この人間なら,信頼できると思っていた。今では,尚弥のことをよく知っているかどうかというのも,疑問だ。最初は、仲良く過ごしていたが,結婚して子供が産まれてからはギクシャクし出し,今は,衝突してばかりだ。
今では,尚弥のことを全部知っていると思い込んでいた自分,愛情があればどんな違いも乗り越え克服できると思っていた自分,人魚でも人間社会に難なく溶け込み陸で生活出来ると思っていた自分は,非常に甘く,未熟に思える。同じ人魚同士でも,うまくいかずに別れてしまう人が後を経たないというのに,全く違う生き物の人間と上手くやれると過信していた自分は,世間知らずで,身の程知らずだったと絶望しかけている。
しかし,故郷を捨てて陸に行ったのだから,産まれた村にも,自分の居場所は,もうない。裏切り者と見なされているから,戻っても,四方八方から貶(けな)されるだけだ。今でも,自分を歓迎してくれるのは,親だけだ。
それに,子供がいるから,ややこしい。子供の体質が分からないから,連れて帰られるかどうか分からないし、子供を置いてまで海に戻ろうとは,思わない。
自分には,戻るという選択肢は,ない。
どうして,この人生を選んだのだろう?五年前の自分は,何を考えていたのだろう?
自問自答を繰り返す。しかし,答えは,一向に出ない。
しばらく、家族に会いに行く気にも,陸に戻って尚弥と話し合う気にもなれなかった。朝まで,一人で色々考えて,過ごした。秋晴れの空には,大きくて丸い満月が浮かび,しくしくと泣いている海保菜の横顔を微かに照らした。
尚弥も,その夜は,なかなか眠れなかった。
海保菜は,人魚だと分かった上で,縁談をし,結婚した。それは,間違いない。人魚だから惚れたということも,あるのかもしれない。妻のどんなに知っても,依然として謎めいていて,知り尽くせない,捉え所がないところに惹かれた。風や空のような飄々(ひょうひょう)とした存在だというのは,彼女が持つ魅力の一つであり,彼女のそのところに魅了された。
しかし,今では,妻をどんなに知っても,どこまで追求しても,知り尽くせないのは,むしろ怖く思える。
夜中に目が覚めて,隣を見れば,いなくなっていることが,度々ある。もちろん,海に行っているのは,知っている。人魚だから,定期的に海に行って,英気を養わないと,やっていけないというのも,わかっている。一応,わかっているつもりではいる。体は,違うから,仕方がない。陸に上がってもらい,無理をさせているから,夜中に抜け出すことくらいは,大目に見なければ,仕方がない。しかし,夜中に起きて,隣で寝ていないことがわかると,胸が侘(わび)しい気持ちでいっぱいになる。
そして,海保菜の育った世界のことを色々聞いているとはいえ,訪れたことがあるわけではないし,直接的に知る由はない。間接的にしか知ることができない。知れないのは,仕方がないことだけれど,これもまた寂しいことだ。
海保菜は,どのような生き物なのかというのも,完全には,理解していない気がしてならない。もちろん,人魚だ。しかし,人魚という漠然としたイメージはあっても,詳しいことは,知らない。妻の顔に時折浮かぶ,少しも人間らしくない,不思議な表情を見る時や,尚弥の質問を巧みにはぐらかす時など,怖くなる時がある。暴力的な言動はないが,妻の雰囲気には,どことなく,飼い慣らされていない,何をしでかすかわからない驚異的な大自然や,野生動物に似た様相があるような気がして,怖いと思わずにはいられない。
妻を抱いても,彼女の本当の体ではないし,本当の体を滅多に見せてもらえない。そう考えると,いつまでも夫婦になり切れていないような気がして,親密さが足りない気がして,安心出来ない。私たちは,生涯共にする家族だ,と堂々と,宣言出来るような安心感は,いつまでも生まれない。逆に,掴(つか)み所がなさすぎて,砂のように指の間から零れ落ちてしまいそうな,いつもぬけの殻状態になってもおかしくないような,感覚に常に襲われる。妻が,何を考えているのか,人間の自分のことをどう思っているのか,全く見当が付かない。
愛情も,憎しみも
光も,暗闇も
勇気も,恐怖も
希望も,絶望も
夏も,冬も
暖かい陽射しも,木枯らしも
春も,秋も
鳥の囀(さえず)りも,赤く染まった紅葉の葉っぱも
裕福も,貧しいも
高いも,低いも
綺麗も,醜いも
清いも,汚れも
潔いも,貪欲も
傲慢も,卑屈も
強いも,弱いも
誠実も,狡いも
真実も,嘘も
徳も,罪も
熱意も,無関心も
輝きも,影も
全てを飲み込み,無にする
しかし,太陽と月だけは飲み込まれるどころか,流されることもない
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春遠し
晩秋の風景を前に,若い夫婦が幼い子供を連れて歩く。時折吹き荒れる風も初秋の爽やかなものとは打って変わり,木枯らしのように骨身に染みる寒さになっていた。一歩でも外に出れば,長い冬がすぐそこまで迫ってきていることがはっきりと肌身で感じられ,その先の春は果てしなく遠いゴールにしか感じられない。樹木の葉っぱはとっくに散り,途絶えずに行き交う人の波に踏み潰され,地面に散らばっている。踏み潰され,細かくなった枯れ葉には,風で舞う元気すら残っていない。
人間の世界に嫁ぎ,一年前に第一子を産み,今第二子を身篭っている人魚の海保(みほ)菜(な)には,晩秋の冷たい風が誰よりも冷たく鋭く頬にあたる。
「まだ彼女は何かわからないね。」
海保菜は一歳数か月の娘を抱っこしながら,夫の尚弥を見て,言った。
人間の姿で産まれた娘の体が,海に入ったら,どうなるかわからなくて,怖いから,あえて海に触れさせていない。海の水に触れたことは,まだ一度もない。
しかし,親として,海保菜も尚弥も,娘の体質が気になって,ならない。生粋の人間なのか,人魚なのか,知りたくてたまらない。
「そうだね…。ずっと思っていることだけど、子供には話さない方がいいと思う。」
と尚弥は突然切り出した。
「話さない方がいいと思うって、何を?」
海保菜には,最初は,夫の言葉の意味がよく分からなくて,困惑した。
「人魚だということを話さない方がいいと思う」
尚弥は,続けた。
「えー!?なんで!?」
海保菜は,面食らった。
「子供が口を滑らせて、他人に話したら困るだろう?知らないことは,話せないから,秘密が守れる年になるまで黙っていた方がいいと思う。」
尚弥は,自分の考えを説明した。
「その事を話さずに,一体どうやって子育てをしたらいいというの!?その大事なことも話せないと,子供と向き合えないじゃない?」海保菜は,ドギマギした。
「人魚だと言わなくても,向き合えるだろう?人魚である以前に,自分は自分だし。」
と尚弥は,反論した。
「自分を隠しながら,子供と向き合うことなんて,出来ない。矛盾しているし…そんなこと,できるわけがない!」海保菜は,とうとう自分の気持ちが抑えられなくなり,むきになっていた。
「矛盾していないと思うけど…。」尚弥は,変わらず落ち着いた口調で会話を続けた。
「じゃ,この子も人魚なら,どうする!?まだわからないよ!いつか変わるかもしれない。今,お腹の中にいる子だって,そうだ。まだわからない。まだこんなに幼いのに,一生嘘をつくと決めるなんて,早いよ!
そして,たとえ人魚じゃなくても,秘密にしたくない。知ってほしい。ありのままの自分として,自分の子供と向き合いたい。芝居しながら,育てたくない。
それに,人魚の血を引いているのよ!それなのに,そのことを話さないなんて,考えられない。
人魚の血は,人間のとは,違うよ。今は,まだ感じなくても,いつか感じるようになる。とんでもなく強いものだよ。話さないわけにはいかない。」
「海保菜、違うよ。一生秘密にしようとは,言っていない。ただ,ある程度大きくなるまで待とうと言っているだけだよ。他人に話してはいけないことだって,ちゃんと理解できる年になるまで内緒にしたい。ずっとじゃない。」
数日後,海保菜は久しぶりに娘が寝静まった後,抜け出し,海に帰っていた。娘は,最近ようやく朝までまとまって寝てくれるようになり,海に帰りやすくなっていた。朝までに戻らなければならないので,短い時間しか過ごせないが,短時間でも,無理して足で過ごし,疲れを溜めている体が,大分楽になる。
先日の尚弥とのやりとりが頭から離れない。ひたすら泳ぎ回って,自分を落ち着かせようとした。しかし,なかなか落ち着かなくて、何時間もひたすら当てもなく泳ぎ続けた。すると,体力を消耗し切って,疲れのあまり砂の上で横になった。新しい命が成長している自分のお腹を優しく撫でてみた。すると,中で赤ちゃんが動く気配がした。今回は,男の子が産まれるらしい。人間のお医者さんは,そう言った。人間は,そういうことばかりを気にする,よくわからない生き物だ。
自分は、そんなことより、人魚なのか,人間なのか,知りたい。姿の問題じゃない。
お腹の中で成長している赤ちゃんも,今家のベッドでもすやすやと眠っている娘も,何かわからない。最初は,どちらでも構わないと思った。しかし,尚弥が人魚のことを話すべきではないと思うと話し出した途端,自分の中では,何かが変わった。どちらでもいいと思えなくなったのだ。
しかし,人魚であれ,人間であれ,自分の正体は秘密にしたくない。秘密にすることを想像するだけで,胸が苦しくなる。自分のことが話せないということは,本当の意味で親子にはなれないということだ。そう思った。
人間でも,尚弥なら,理解しあって,尊重しあって,暮らしていけると思っていた。しかし,今では,もはや自信がない。尚弥のことをよく知っていて,この人間なら,信頼できると思っていた。今では,尚弥のことをよく知っているかどうかというのも,疑問だ。最初は、仲良く過ごしていたが,結婚して子供が産まれてからはギクシャクし出し,今は,衝突してばかりだ。
今では,尚弥のことを全部知っていると思い込んでいた自分,愛情があればどんな違いも乗り越え克服できると思っていた自分,人魚でも人間社会に難なく溶け込み陸で生活出来ると思っていた自分は,非常に甘く,未熟に思える。同じ人魚同士でも,うまくいかずに別れてしまう人が後を経たないというのに,全く違う生き物の人間と上手くやれると過信していた自分は,世間知らずで,身の程知らずだったと絶望しかけている。
しかし,故郷を捨てて陸に行ったのだから,産まれた村にも,自分の居場所は,もうない。裏切り者と見なされているから,戻っても,四方八方から貶(けな)されるだけだ。今でも,自分を歓迎してくれるのは,親だけだ。
それに,子供がいるから,ややこしい。子供の体質が分からないから,連れて帰られるかどうか分からないし、子供を置いてまで海に戻ろうとは,思わない。
自分には,戻るという選択肢は,ない。
どうして,この人生を選んだのだろう?五年前の自分は,何を考えていたのだろう?
自問自答を繰り返す。しかし,答えは,一向に出ない。
しばらく、家族に会いに行く気にも,陸に戻って尚弥と話し合う気にもなれなかった。朝まで,一人で色々考えて,過ごした。秋晴れの空には,大きくて丸い満月が浮かび,しくしくと泣いている海保菜の横顔を微かに照らした。
尚弥も,その夜は,なかなか眠れなかった。
海保菜は,人魚だと分かった上で,縁談をし,結婚した。それは,間違いない。人魚だから惚れたということも,あるのかもしれない。妻のどんなに知っても,依然として謎めいていて,知り尽くせない,捉え所がないところに惹かれた。風や空のような飄々(ひょうひょう)とした存在だというのは,彼女が持つ魅力の一つであり,彼女のそのところに魅了された。
しかし,今では,妻をどんなに知っても,どこまで追求しても,知り尽くせないのは,むしろ怖く思える。
夜中に目が覚めて,隣を見れば,いなくなっていることが,度々ある。もちろん,海に行っているのは,知っている。人魚だから,定期的に海に行って,英気を養わないと,やっていけないというのも,わかっている。一応,わかっているつもりではいる。体は,違うから,仕方がない。陸に上がってもらい,無理をさせているから,夜中に抜け出すことくらいは,大目に見なければ,仕方がない。しかし,夜中に起きて,隣で寝ていないことがわかると,胸が侘(わび)しい気持ちでいっぱいになる。
そして,海保菜の育った世界のことを色々聞いているとはいえ,訪れたことがあるわけではないし,直接的に知る由はない。間接的にしか知ることができない。知れないのは,仕方がないことだけれど,これもまた寂しいことだ。
海保菜は,どのような生き物なのかというのも,完全には,理解していない気がしてならない。もちろん,人魚だ。しかし,人魚という漠然としたイメージはあっても,詳しいことは,知らない。妻の顔に時折浮かぶ,少しも人間らしくない,不思議な表情を見る時や,尚弥の質問を巧みにはぐらかす時など,怖くなる時がある。暴力的な言動はないが,妻の雰囲気には,どことなく,飼い慣らされていない,何をしでかすかわからない驚異的な大自然や,野生動物に似た様相があるような気がして,怖いと思わずにはいられない。
妻を抱いても,彼女の本当の体ではないし,本当の体を滅多に見せてもらえない。そう考えると,いつまでも夫婦になり切れていないような気がして,親密さが足りない気がして,安心出来ない。私たちは,生涯共にする家族だ,と堂々と,宣言出来るような安心感は,いつまでも生まれない。逆に,掴(つか)み所がなさすぎて,砂のように指の間から零れ落ちてしまいそうな,いつもぬけの殻状態になってもおかしくないような,感覚に常に襲われる。妻が,何を考えているのか,人間の自分のことをどう思っているのか,全く見当が付かない。
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