1 / 11
衝撃
しおりを挟む
高校2年生の志穂は,部活が終わり,のんびりと帰る準備をしていると,携帯の画面が目に留まった。着信が入っていた。
「お父さんから?どうしたんだろう?」
父親は,志穂が部活中だとわかっているから,余程のことがないと,この時間帯には,かけないはずだ。何かがあったに違いない。
志穂は,慌てて,父親にかけ直した。
「お父さん?今終わったけど,どうした?」
父親の説明を聞いて,志穂の顔が真っ青になった。祖母は,突然意識を失い,倒れて,救急車で病院に運ばれたらしい。今,意識は戻ったが,調子が悪くて,しばらく検査入院をすることになったという。
志穂の母親は,志穂が小学低学年の時に病気で亡くなって以来,若くして夫を亡くし,独り身になってしまった母方の祖母は,志穂と父親と同居し,志穂の母代わりになってくれた。母親が亡くなってから,志穂は,何でも祖母に相談し,悩みを打ち明けて来た。志穂にとっては,「心の支え」と言っても,過言ではない,正に掛け替えの無い存在だ。
志穂は,暗くて塞ぎ込んだ気持ちで,電車に乗り,祖母が入院したという病院へと向かった。
そして,母親が入院した時のことを久しぶりに思い出した。母親も,ある日突然倒れて,病院に運び込まれたのだった。そして,そのまま帰らぬ人になったのだった。
病院のある駅で降り,まっしぐらに病院に向かった。
祖母の顔を見て,志穂は,ますます心配になった。今朝,「行ってきます!」と挨拶して,家を出た時の顔ではなくなっていた。顔色が悪く,表情は沈んでいた。いつもの祖母ではなかった。
しかし,志穂の顔を見ると,努力して,笑顔を作り、志穂が病院のベッドに座るように合図をした。
「志穂ちゃん,いらっしゃい。」
志穂が座ると,祖母が囁くような小さな声で言った。
「私は,きっと,もう長くないの。」
「決めつけないで,おばあちゃん。ただの貧血かもしれないし。」
祖母は,過去には何度も,貧血になり,調子を崩したことがある。
「いや,貧血じゃない。癌だ。私には,わかる。」
祖母が自信満々に断言した。
志穂は,頭を横に振った。
「…あなたに話しておくべきことがあるの。本当は,もっと早く話すべきだったかもしれない…。」
祖母が複雑な表情で言った。
「何?」
志穂が単純に尋ねた。
「お母さんとお父さんに「絶対に言わないで。」と口止めされたから,これまで黙って来たけど,やっぱりあなたは知るべきだと思う…あなたは,本当は,うちの孫じゃない。お父さんも,あなたの本当の父親じゃない。」
祖母が志穂の顔を見ずに,言った。志穂の顔を見ながら言うのは,辛いようだった。
「え!?…そんな!?」
志穂は,どう反応すれば良いのか,まるでわからなかった。
「娘は,子供の頃から病気で,子供を授かれない体だった。不妊治療をしても,ダメだった。
あなたは,拾われたの。詳しいことは,私もよく知らない…でも,これ。」
祖母が話しながら,自分の鞄から貝殻を出した。
「お母さんが亡くなった後,これを処分してとお父さんに頼まれ,預かったの。でも,出来なかった…というか,処分してはいけないと思った。きっと,何か秘密が隠されている。」
祖母が重々しい口ぶりで話した。
「ただの貝殻じゃん。」
志穂が手に取ってみて,呟いた。
「いや,きっと違う。あなたを見つけたところにあったんだって…きっと,何かがある,この貝殻は。
あなたのだから,返すね。お父さんには,見つからないように,大事にしてよ。」
祖母に貝殻を返そうと手を差し伸ばしたら,押し返された。
「おばあちゃんが私のおばあちゃんじゃないって,どういうこと!?」
志穂は,うろたえて,聞き返した。
「言葉通りの意味だ。私たちは,血は繋がっていない。」
祖母が志穂の顔をまっすぐに見ながら,言いにくそうに言った。
「そんな…。」
志穂は,祖母の話の意味をすぐに飲み込めなかった。
「あなたを本当の孫のように接して,可愛がって来たし,あなたも私を本当の祖母のように慕って来た。あなたは,私の宝物だ。家族だ。これからも,それは,ずっと変わらない。
でも,あなたには,真実を知ってほしいと,ずっと思って来た。私は,嘘が嫌いだ。嘘は,ダメだ。たとえ,人を幸せにするような嘘でも…。これまで,黙っていてごめんね,志穂。」
祖母がそう言うと,泣き始めた。
志穂は,祖母の話が信じられなくて,いや,信じたくなくて,首を横に振り続けた。涙が滲み,頬を伝い始めるの感じた。
「あなたには,自分とは,誰なのか知らずに,人生を送ってほしくないの…嘘の人生を送ってほしくないの。
だから,傷つくとわかっていても,話すことにした。あなたを大事に思っているから…。
私だって,話したくなかったよ。私のことをずっとおばあちゃんと思っていて欲しかったよ。」
「お父さんから?どうしたんだろう?」
父親は,志穂が部活中だとわかっているから,余程のことがないと,この時間帯には,かけないはずだ。何かがあったに違いない。
志穂は,慌てて,父親にかけ直した。
「お父さん?今終わったけど,どうした?」
父親の説明を聞いて,志穂の顔が真っ青になった。祖母は,突然意識を失い,倒れて,救急車で病院に運ばれたらしい。今,意識は戻ったが,調子が悪くて,しばらく検査入院をすることになったという。
志穂の母親は,志穂が小学低学年の時に病気で亡くなって以来,若くして夫を亡くし,独り身になってしまった母方の祖母は,志穂と父親と同居し,志穂の母代わりになってくれた。母親が亡くなってから,志穂は,何でも祖母に相談し,悩みを打ち明けて来た。志穂にとっては,「心の支え」と言っても,過言ではない,正に掛け替えの無い存在だ。
志穂は,暗くて塞ぎ込んだ気持ちで,電車に乗り,祖母が入院したという病院へと向かった。
そして,母親が入院した時のことを久しぶりに思い出した。母親も,ある日突然倒れて,病院に運び込まれたのだった。そして,そのまま帰らぬ人になったのだった。
病院のある駅で降り,まっしぐらに病院に向かった。
祖母の顔を見て,志穂は,ますます心配になった。今朝,「行ってきます!」と挨拶して,家を出た時の顔ではなくなっていた。顔色が悪く,表情は沈んでいた。いつもの祖母ではなかった。
しかし,志穂の顔を見ると,努力して,笑顔を作り、志穂が病院のベッドに座るように合図をした。
「志穂ちゃん,いらっしゃい。」
志穂が座ると,祖母が囁くような小さな声で言った。
「私は,きっと,もう長くないの。」
「決めつけないで,おばあちゃん。ただの貧血かもしれないし。」
祖母は,過去には何度も,貧血になり,調子を崩したことがある。
「いや,貧血じゃない。癌だ。私には,わかる。」
祖母が自信満々に断言した。
志穂は,頭を横に振った。
「…あなたに話しておくべきことがあるの。本当は,もっと早く話すべきだったかもしれない…。」
祖母が複雑な表情で言った。
「何?」
志穂が単純に尋ねた。
「お母さんとお父さんに「絶対に言わないで。」と口止めされたから,これまで黙って来たけど,やっぱりあなたは知るべきだと思う…あなたは,本当は,うちの孫じゃない。お父さんも,あなたの本当の父親じゃない。」
祖母が志穂の顔を見ずに,言った。志穂の顔を見ながら言うのは,辛いようだった。
「え!?…そんな!?」
志穂は,どう反応すれば良いのか,まるでわからなかった。
「娘は,子供の頃から病気で,子供を授かれない体だった。不妊治療をしても,ダメだった。
あなたは,拾われたの。詳しいことは,私もよく知らない…でも,これ。」
祖母が話しながら,自分の鞄から貝殻を出した。
「お母さんが亡くなった後,これを処分してとお父さんに頼まれ,預かったの。でも,出来なかった…というか,処分してはいけないと思った。きっと,何か秘密が隠されている。」
祖母が重々しい口ぶりで話した。
「ただの貝殻じゃん。」
志穂が手に取ってみて,呟いた。
「いや,きっと違う。あなたを見つけたところにあったんだって…きっと,何かがある,この貝殻は。
あなたのだから,返すね。お父さんには,見つからないように,大事にしてよ。」
祖母に貝殻を返そうと手を差し伸ばしたら,押し返された。
「おばあちゃんが私のおばあちゃんじゃないって,どういうこと!?」
志穂は,うろたえて,聞き返した。
「言葉通りの意味だ。私たちは,血は繋がっていない。」
祖母が志穂の顔をまっすぐに見ながら,言いにくそうに言った。
「そんな…。」
志穂は,祖母の話の意味をすぐに飲み込めなかった。
「あなたを本当の孫のように接して,可愛がって来たし,あなたも私を本当の祖母のように慕って来た。あなたは,私の宝物だ。家族だ。これからも,それは,ずっと変わらない。
でも,あなたには,真実を知ってほしいと,ずっと思って来た。私は,嘘が嫌いだ。嘘は,ダメだ。たとえ,人を幸せにするような嘘でも…。これまで,黙っていてごめんね,志穂。」
祖母がそう言うと,泣き始めた。
志穂は,祖母の話が信じられなくて,いや,信じたくなくて,首を横に振り続けた。涙が滲み,頬を伝い始めるの感じた。
「あなたには,自分とは,誰なのか知らずに,人生を送ってほしくないの…嘘の人生を送ってほしくないの。
だから,傷つくとわかっていても,話すことにした。あなたを大事に思っているから…。
私だって,話したくなかったよ。私のことをずっとおばあちゃんと思っていて欲しかったよ。」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
息子の幽霊と暮らす私
Yonekoto8484
ミステリー
息子が大豪雨で命を落としたと訃報が届き,悲しむ尚美の元に,ある日,その息子の幽霊が現れる。ところが,幽霊は,自分の死に至った経緯はおろか,自分の正体すらも覚えていない。 事故死として片付けられた息子の死に,何か成仏出来ない理由が潜んでいるのではないかと母親の尚美が疑い,調べ始める。 息子の死に隠された悲しい真相とは!?
Springs -ハルタチ-
ささゆき細雪
ミステリー
――恋した少女は、呪われた人殺しの魔女。
ロシアからの帰国子女、上城春咲(かみじょうすざく)は謎めいた眠り姫に恋をした。真夏の学園の裏庭で。
金木犀咲き誇る秋、上城はあのときの少女、鈴代泉観(すずしろいずみ)と邂逅する。だが、彼女は眠り姫ではなく、クラスメイトたちに畏怖されている魔女だった。
ある放課後。上城は豊(ゆたか)という少女から、半年前に起きた転落事故の現場に鈴代が居合わせたことを知る。彼女は人殺しだから関わるなと憎らしげに言われ、上城は余計に鈴代のことが気になってしまう。
そして、鈴代の目の前で、父親の殺人未遂事件が起こる……
――呪いを解くのと、謎を解くのは似ている?
初々しく危うい恋人たちによる謎解きの物語、ここに開幕――!
思いつき犯罪の極み
つっちーfrom千葉
ミステリー
自分の周囲にいる人間の些細なミスや不祥事を強く非難し、社会全体の動向を日々傍観している自分だけが正義なのだと、のたまう男の起こす奇妙な事件。ダイエットのための日課の散歩途中に、たまたま巡り合わせた豪邸に、まだ見ぬ凶悪な窃盗団が今まさに触手を伸ばしていると夢想して、本当に存在するかも分からぬ老夫婦を救うために、男はこの邸宅の内部に乗り込んでいく。
闇の残火―近江に潜む闇―
渋川宙
ミステリー
美少女に導かれて迷い込んだ村は、秘密を抱える村だった!?
歴史大好き、民俗学大好きな大学生の古関文人。彼が夏休みを利用して出掛けたのは滋賀県だった。
そこで紀貫之のお墓にお参りしたところ不思議な少女と出会い、秘密の村に転がり落ちることに!?
さらにその村で不可解な殺人事件まで起こり――
復讐の旋律
北川 悠
ミステリー
昨年、特別賞を頂きました【嗜食】は現在、非公開とさせていただいておりますが、改稿を加え、近いうち再搭載させていただきますので、よろしくお願いします。
復讐の旋律 あらすじ
田代香苗の目の前で、彼女の元恋人で無職のチンピラ、入谷健吾が無残に殺されるという事件が起きる。犯人からの通報によって田代は保護され、警察病院に入院した。
県警本部の北川警部が率いるチームが、その事件を担当するが、圧力がかかって捜査本部は解散。そんな時、川島という医師が、田代香苗の元同級生である三枝京子を連れて、面会にやってくる。
事件に進展がないまま、時が過ぎていくが、ある暴力団組長からホワイト興産という、謎の団体の噂を聞く。犯人は誰なのか? ホワイト興産とははたして何者なのか?
まあ、なんというか古典的な復讐ミステリーです……
よかったら読んでみてください。
そして何も言わなくなった【改稿版】
浦登みっひ
ミステリー
高校生活最後の夏休み。女子高生の仄香は、思い出作りのため、父が所有する別荘に親しい友人たちを招いた。
沖縄のさらに南、太平洋上に浮かぶ乙軒島。スマートフォンすら使えない絶海の孤島で楽しく過ごす仄香たちだったが、三日目の朝、友人の一人が死体となって発見され、その遺体には悍ましい凌辱の痕跡が残されていた。突然の悲劇に驚く仄香たち。しかし、それは後に続く惨劇の序章にすぎなかった。
原案:あっきコタロウ氏
※以前公開していた同名作品のトリック等の変更、加筆修正を行った改稿版になります。
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる