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後章 終わらぬ雨なら止めてやる

第53話 詰み

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「「「「「…………」」」」」

全てを語り終えた貴大は賢者のような面持おももちをしていた。それに対して――話を聞いた4人の顔には様々な感情が溢れだしている。

同情。悲しみ。焦燥しょうそう。疑問。止まらぬ感情。4人の胸にそれぞれ違う感情が流れ込んでいる。だがたった一つ。とある感情だけは共通していた。

――それは『怒り』である。

「なんだよ……それ。なんだよそれ……!!」
「そ、そんなの時雨ちゃんは悪くねぇじゃん!!何も悪いことしてねぇじゃん!!」
「時雨だけじゃない!時雨のお父さんもお母さんも――みんな悪いことなんてしてなかった!」

夢に見た。時雨が人を殺すところを。
夢に見た。女が『時雨に殺された』と言ったところを。
夢に見た。時雨が狂っているところを――。

――違った。何もかもが違った。時雨は何も悪いことをしていなかった。狂ってなんていなかった。ましてや人を殺してなんていなかった。

被害者。時雨だけじゃない。時雨の家族全員が被害者だ。誰も何も悪いことをしていないのだ。

「ふざっ……ふざけるなよ……そんなんで……そんな理由で時雨を――クソっ!!」

八重が壁を蹴った。鈍い音と共に木がひしゃげる音がする。


「……疑問があります。聞いてもいいですか?」

比較的に冷静だった石蕗が震える声で言う。

「なんで今頃になって襲われたんですか」
「単純です。。別に幽霊だからってなんでも分かるわけじゃない。なんの頼りもなく時雨ちゃんを探して彷徨さまよってたんでしょう。だから毎回時間が経ってから襲ってくるんです」
「……なるほど。最悪の答え合わせですね」

石蕗は拳を強く握っていた。指と指の隙間から血が出るほどに。それほどまで怒っていた。怒りに満ちていたのだ。

「なにか……方法はないんですか。アレを何とかして倒す方法とかないんですか!?」
「……」

唇を噛みながら首を振る。

「私よりも腕の立つ霊媒師5人と共に除霊にのぞみました。その結果がこれです。私一人ではどうすることも……」
「他には!?他には対処できる人とかいないんですか!?」
「……残念ながら」
「じゃあ……私たちは……このまま……」

残り4時間……話をしていたから3時間半くらいか。どのみち変わりない。

「……私たちはまだ楽に死ねるでしょうね」
「……どういうことですか」
「あの悪霊は時雨さんに強い憎悪を抱いています。何年も何年も溜め込まれた怒り。そんな怒りを持った相手が1回の苦痛で満足は……できないでしょう」

――時雨はいたぶられる。このままだと時雨は村雨のように地獄の苦しみを与えられる。

「……」

わざわざ貴大がこのことを言った理由。眠っている時雨以外が察することができた。

「――――仏様に身をゆだねましょう」

要するに『自殺しよう』ということだ。生きていれば苦しむ。今ならまださっさと死ねる。だからせめて自殺しよう。そういうことだ。


静かになった。外は大雨。外には誰もいる気配はない。無いのに――殺気だけは過敏かびんに感じる。

「……はは」

絶望。この文字が似合う状況は他に無いだろう。

だって打つ手がない。かといって逃げられない。そして待っていてもあるのは絶対的な『死』だけ。

「……時雨」

八重が髪を撫でた。

「――――ん、ん」

ようやくか。やっとか。今更か。時雨はゆっくりと目を開けた。

「……?」

知らない場所。知らない人。絶望に満ちた皆の表情。まずは困惑――そして除霊が失敗したということを理解した。

「……ねぇ時雨」
「……なに」
「ごめんね……大好きだよ」

涙を流しながら時雨を抱き締める。

「……私も」

光の涙で頬を濡らしながら、優しく抱き締め返した。


「……はは。まさかこんなことになるなんてな」
「探偵ごっこのつもりだったんですがね……」
「……少し空気を読まない発言をします」

貴大が口を開く。

「時雨さんはもちろん、八重さんと光さん、あと私はどう足掻いても死にます。ですが……えにしの浅い2人ならば逃げられる……かも知れません」
「それで私たちが首を縦に振って食いつくと思いますか?」
「友達を見殺しにして逃げられるほど弱くもありませんよ。……まぁ死が怖くない、と思えるほど強くもありませんが」

乾いた笑いをする2人。そんな2人を見て貴大は悲しそうな顔をした。



八重はさっきから黙ったままだ。『死にたくない』はある。そして『死なせたくない』というのもある。

……方法がないのだ。いくら考えても。いくら願っても。もう死ぬしか方法が思い浮かばないのだ。

なら死ぬか。時雨や他のみんなと一緒に死ぬか。――他に選択肢はない。ゲームで言う『詰み』だ。

「……考えても……もうダメか」

八重は時雨の手を――――。
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