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中章 雨は止むことを知らず

第29話 決戦

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「おっほー!ここも久しぶりだなぁ!」
「そもそも人里が久しぶりだからなぁ!」

本堂では着々と準備が進められていた。そこへやってきたのは4から50代の中年の男2人であった。

「鮫島さん。松明さん。お久しぶりです」
「これは祭松さん!また若々しくなりましたねぇ」
「――あんたらは随分と偉くなったね」

後ろから現れた朱美に2人はピシッと背筋を凍らせた。

「アタシは『すぐに来い』と言ったはずだよ。もう何時間経ったのかねぇ」
「ま、待ってくださいよぉ朱美さん。僕ら香川の山に居たんですよ?徳島まで車かっ飛ばして来たんですから多目に――」
「――遅いと思っとるんだったらさっさと動かんかい馬鹿たれ!!」
「「は、はい!!」」

馬のように駆けゆく2人。

「あの2人が元気そうで良かったです」
「ったく。山篭やまごもりして礼儀も忘れちまったのかい」
「まぁまぁ……車をかっ飛ばしてきたのは本当そうですし」
「仕方ない、祭松さんに免じて許してやるか――貴大!」
「はい!」

木像の菩薩ぼさつを持ってきていた貴大。朱美の声に応じてすぐに駆け寄った。

「あの子を呼んできな」
「――始めるんですね」

ニヤリと笑って首を振る。

「行ってこい」

声と共に八重たちのいる部屋へと貴大は走っていった。


その時――本堂にいる全員が異常を感じ取った。さっき朱美が怒った時とは違う。まさに『殺意』と言うべきものを。

「ふん。怒ってるね。死んだくせしていっちょ前に」
「それほど恨んでいるのでしょう。あの子と関わるもの、そして自らを邪魔するもの全てを殺そうとするほど」

先程の2人と青年が走ってきた。青年の名は龍宮。龍宮も2人よりちょっと前に朱美に説教されている。

「さっきのは……」
「――なに手を止めてんだい。さっさと終わらせるよ」

朱美は臆することなく命令する。祭松は――部屋のすみに目を流して準備を再開した。



「準備が整いました」

部屋に入った一言目。その言葉で全員の心臓が引き締まった。

「……分かりました」
「それでは時雨を連れてゆきます」
「手伝います」
「いえ結構です。それよりも聞いてください」

貴大が正座した。

「これから始まる除霊は大変危険なことです。本堂に近づく……いや、周りにいるだけで何かしらの異常を負う可能性があります。なので除霊が終わるまで貴方たちはこの部屋から出ないでください。――特に貴方たち2人は」

八重と光に目を合わせた。

「もちろん残りの御二方おふたかたも部屋から絶対に出ないようにしてください。トイレはアソコにあります。お風呂は終われば貸しますので本日は我慢してください」
「それはいいですけど……どれくらかかるんですか?」
「少なくとも本日中には終わりません。明日の……お昼になるかも」
「長いな……」
「けどこれで――除霊できるんですよね?」
「この世に絶対などございません。ですが約束します。――必ずや」

強い言葉。有無うむを言わさない絶対的な自信。そして他にない選択肢。4人とも信じるしか他に道はなかった。

「終われば私が部屋の扉を開けます。なのでノックされても、呼ばれても扉を開けないように」
「……分かりました」

じゃあノックしてるのは誰。呼んでるのは誰――怖くなった4人は頭を振るった。

「時雨を……よろしくお願いします」
「――任せてください」

貴大は時雨を抱えて部屋を出た。そして――扉を閉めた。



部屋の中は静まり返った。もはや何もできることは無い。ただ祈るしか。4人にできることはなかった。

また全員が各々の体勢に戻る。疲れは溜まっている。だから目をつむって――も眠れない。やはり心配だ。

「……腹減ったな」
「昼あんなに食ったのにか?」
「カロリーいっぱい使ったからなぁ」
「これか?」

指を丸にして人差し指を出し入れする。その合図に八重は親指を立てて返した。

「なんか私もお腹すいてきちゃった」
「でも食べる物もないしなー」
「――金平糖コンペイトウならありますよ?」
「え、なんで?」
「好物なので」

ポケットから出した金平糖コンペイトウを配る。

「美味しい」
「これ食べたの久しぶりだな」
「ありがとうございます」
「これがないと仕事が手につかないんですよね。いつも食べてるんです」
「甘い物を食べると集中できますからね」

ポリポリと噛む度に優しい甘みが口に広がっていく。溶けた甘みと唾液を飲み込む――それでもまだ口には甘さが残っていた。

「……ふぅ」

気が抜けたのか。安心したのか。八重のまぶたは徐々に、徐々に重くなっていった――。
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