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中章 雨は止むことを知らず
第27話 安息も休息もなく
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寺の敷地に入ると狙っていたかのように若い坊さんが出迎えてくれた。坊さんは時雨を見てそうそうに駆け寄ってくる。
「これは――すぐに本堂の方へ」
案内された先は本堂。よく怖い話とかで出てくる場所。それとまんま同じような内装だった。
木の床。木の壁。木材の香り。そこに居るだけで肉体が。精神が安心する。だが――今はそれどころじゃない。
本堂の方で出迎えてくれたのは目的の人。見事なまでのツルッパゲ。年齢は70を超えるくらい。これまた『和尚さん』と言われて思い浮かべるまんまの人が出てきた。
「海月君から話は聞いてます。安養寺祭松と申します」
「私は息子の貴大です」
門の方で出迎えてくれたのは和尚の息子だったらしい。なんとなく面影は感じる。
「さて――何をしたんですか?」
「……はい?」
「その子ですよ。例えば誰かから恨みをかったとか、入っちゃいけない場所に入ったとか。安心してください。警察にも誰にも言いませんから」
「――やってないですよ!時雨は何もやってないです!」
「ふぅむ……それはおかしいですね」
祭松は顎を指でなぞりながら言う。
「それにしては取り憑いている者の『恨み』が強すぎます。それこそ末代まで呪うほどの強大な恨み。しかもそれにしては最近産まれた方です。平安や江戸時代なんかじゃなくもっと最近に」
その言葉に思うとこがあった光は体をビクリと跳ねさせた。
「時雨は何もしていません。誰かに恨みを買うようなことをしない、優しくて穏やかな子です」
「そうですか。まぁ本人にも聞いてみたいのですが……しばらくは起きなさそうですね」
「起こしましょうか?」
「いえ、海月君の除霊の影響が残ってるんでしょう。むしろちょうどいい」
「ちょうどいい……とは?」
「『睡眠』というのは脳の休息。そして魂の休息でもあります。獣は餌となる動物が眠っている時を狙います。悪霊とてそれも同じ。魂が眠っているところへ漬け込むんです。だが捕食しようと構えている獣は逆に他のものに気を取られない。だからそこを狙う」
「は、はぁ」
祭松は懐からスマホを取り出した。
「意外と近代的ですね」
「便利ですから――もしもし。私だ」
祭松が電話を始めると同時に貴大が話し始めた。
「準備が大掛かりになりそうですね。ではこちらへ」
4人は言われるがまま貴大について行った。
道中、心配になった八重が貴大に話しかける。
「あの……時雨は大丈夫でしょうか?」
「おそらくは」
「おそらくって……」
「何事にも絶対はございません。ですが――『霊を祓う』という点でいえば、日本において父を超える者はいませんでしょう」
……そう言われても安心はできない。まだ恐怖が頭の中に残っているからだ。
「私からも1つ。本当に時雨さんは何もしていないのですか?」
「していません。断言します」
「そうですか」
「……そんなにやばいんですか?時雨ちゃんに憑いてる霊って」
弦之介が問う。
「――貴方と貴女」
そう言って八重と光に指を指してきた。
「夢を見ましたね。それも悪夢を」
「え……」
「分かるんですか……?」
「私は父ほど見えませんがそれでも分かります」
そう言ってまた歩き出す。
「父も言っていましたが、睡眠とは魂が眠っている状態。そして夢というのは魂の願望。つまり生きようとする意思でもあります」
「は、はい」
「ですが――時雨さんに憑いている霊は本人だけに飽き足らず、縁の深い人にまで影響を及ぼしています。存在しているだけで他人の生きる意思すら侵食している。こう言えばどれほど恐ろしい相手か分かりますか?」
実に簡単な説明。それでいて恐怖を煽るには十分な内容。八重は答えることをせずに首を縦に振るだけだった。
「私たちからすれば時雨さんや貴方たちがまだ生きていることすら不思議なほどです。よほど強い守護霊に護られているのでしょう。もしくは――」
「もしくは……?」
「――霊がまだ殺す気がないだけか」
「これは――すぐに本堂の方へ」
案内された先は本堂。よく怖い話とかで出てくる場所。それとまんま同じような内装だった。
木の床。木の壁。木材の香り。そこに居るだけで肉体が。精神が安心する。だが――今はそれどころじゃない。
本堂の方で出迎えてくれたのは目的の人。見事なまでのツルッパゲ。年齢は70を超えるくらい。これまた『和尚さん』と言われて思い浮かべるまんまの人が出てきた。
「海月君から話は聞いてます。安養寺祭松と申します」
「私は息子の貴大です」
門の方で出迎えてくれたのは和尚の息子だったらしい。なんとなく面影は感じる。
「さて――何をしたんですか?」
「……はい?」
「その子ですよ。例えば誰かから恨みをかったとか、入っちゃいけない場所に入ったとか。安心してください。警察にも誰にも言いませんから」
「――やってないですよ!時雨は何もやってないです!」
「ふぅむ……それはおかしいですね」
祭松は顎を指でなぞりながら言う。
「それにしては取り憑いている者の『恨み』が強すぎます。それこそ末代まで呪うほどの強大な恨み。しかもそれにしては最近産まれた方です。平安や江戸時代なんかじゃなくもっと最近に」
その言葉に思うとこがあった光は体をビクリと跳ねさせた。
「時雨は何もしていません。誰かに恨みを買うようなことをしない、優しくて穏やかな子です」
「そうですか。まぁ本人にも聞いてみたいのですが……しばらくは起きなさそうですね」
「起こしましょうか?」
「いえ、海月君の除霊の影響が残ってるんでしょう。むしろちょうどいい」
「ちょうどいい……とは?」
「『睡眠』というのは脳の休息。そして魂の休息でもあります。獣は餌となる動物が眠っている時を狙います。悪霊とてそれも同じ。魂が眠っているところへ漬け込むんです。だが捕食しようと構えている獣は逆に他のものに気を取られない。だからそこを狙う」
「は、はぁ」
祭松は懐からスマホを取り出した。
「意外と近代的ですね」
「便利ですから――もしもし。私だ」
祭松が電話を始めると同時に貴大が話し始めた。
「準備が大掛かりになりそうですね。ではこちらへ」
4人は言われるがまま貴大について行った。
道中、心配になった八重が貴大に話しかける。
「あの……時雨は大丈夫でしょうか?」
「おそらくは」
「おそらくって……」
「何事にも絶対はございません。ですが――『霊を祓う』という点でいえば、日本において父を超える者はいませんでしょう」
……そう言われても安心はできない。まだ恐怖が頭の中に残っているからだ。
「私からも1つ。本当に時雨さんは何もしていないのですか?」
「していません。断言します」
「そうですか」
「……そんなにやばいんですか?時雨ちゃんに憑いてる霊って」
弦之介が問う。
「――貴方と貴女」
そう言って八重と光に指を指してきた。
「夢を見ましたね。それも悪夢を」
「え……」
「分かるんですか……?」
「私は父ほど見えませんがそれでも分かります」
そう言ってまた歩き出す。
「父も言っていましたが、睡眠とは魂が眠っている状態。そして夢というのは魂の願望。つまり生きようとする意思でもあります」
「は、はい」
「ですが――時雨さんに憑いている霊は本人だけに飽き足らず、縁の深い人にまで影響を及ぼしています。存在しているだけで他人の生きる意思すら侵食している。こう言えばどれほど恐ろしい相手か分かりますか?」
実に簡単な説明。それでいて恐怖を煽るには十分な内容。八重は答えることをせずに首を縦に振るだけだった。
「私たちからすれば時雨さんや貴方たちがまだ生きていることすら不思議なほどです。よほど強い守護霊に護られているのでしょう。もしくは――」
「もしくは……?」
「――霊がまだ殺す気がないだけか」
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