3 / 61
序章 雨模様のパジャマの少女
第2話 幸福な毎日を
しおりを挟む
八重が時雨と出会ったのは大学一年生の時だった。初めて受けた講義。その隣の席に時雨は座っていた。
最初は特に会話もなかった。だが次の日も、そのまた次の日も。狙っているかのように2人は隣り合わせで座っていた。
次第に会話が生まれてくる。次第に仲が良くなってくる。次第に意識し始める。
温厚でお淑やか。控えめなところも八重の好み。対する時雨も、八重の元気で明るい所に好意を抱いていった。
「僕と結婚してください……『こちらこそお願いします』……ふふ」
ショーケースに並べられたネックレスを見ながら、少々気持ちの悪い笑みを浮かべている――と、八重のスマホが振動した。
「おわっ!?」と声を出しつつスマホの画面を覗く。映し出されたのは『兄貴』の文字。
『――もしもし?』
「なんだよ兄貴」
それは4歳離れた兄からの電話だった。
『光ちゃんから聞いたぞー。告白、成功したんだってな』
「まぁ一応」
『やるじゃねぇか。まさか弟に先越されるとは思ってなかったぞ』
兄弟の関係は良好。昔から仲良しだ。――しかし光といつ知り合ったのかは疑問だ。
(……考えても仕方ないか)
そこについては特に触れない。
『籍はいつ入れんだ?』
「未定だよ。ご両親からの了承が得られてなくて」
まだ告白してOKを貰っただけだ。むしろ本番はこれから。初めて時雨の両親に会った時はもうそれはそれは――。
昔ながらの頑固親父!……って感じで八重は震え上がった。ぶっちゃけると苦手ではあるのだが、流石に挨拶に行かないわけにはいかないだろう。憂鬱だ。
『……男はガッツだ。きちんと真摯に頼めばご両親も納得してくれるさ。可愛い嫁さんのためにも頑張れ』
「んな在り来りなことを言われてもなぁ」
歩きスマホ。それも店内。通常ならダメ一択。他に客がいないからこそギリギリ許されている迷惑行為をしながら歩いていると、ひとつのネックレスの前で立ち止まった。
目を惹かれたのだ。黄色のダイヤモンドが付いたネックレス。シンプルながらも美しく、控えめでありながらも目が離せない力強さ。
自分の心の中にある時雨の様相にピッタリのネックレスを見つけたのだった。まさに運命的な出会いだ。
「これ……いいな」
『どうした?』
「ネックレス見つけてさ。黄色の……ダイヤモンドか。時雨にすげぇ似合いそう」
『そうかぁ?時雨ちゃんは水色とかの方がいいと思うけど』
なんて言われるも、決めた心は揺るがない。ダイヤモンドに反射する自分の顔がキラリと光った。
「……」
しかし躊躇う。躊躇う理由はネックレスの下にあった。
「13万……」
買えなくはない。だが手軽に出せる値段でもない。
『――誰かが言った』
「どした?トリコでも見てんのか?」
『悩む理由が値段なら買え。それ以外ならどんなにお得でも買うな……ってな』
「……名言をどうも」
――決まった。悩んでいた心が『買う』と決定を付ける。金なんて削れば幾らでも集められる。愛する時雨のためなら金の問題など屁でもない。
「予約……しとくか」
ネックレスをつけた時雨……ベールを付けている時雨……頬を赤くしている時雨……。止まらない妄想に浸りながら、八重はネックレスを眺めていた。
最初は特に会話もなかった。だが次の日も、そのまた次の日も。狙っているかのように2人は隣り合わせで座っていた。
次第に会話が生まれてくる。次第に仲が良くなってくる。次第に意識し始める。
温厚でお淑やか。控えめなところも八重の好み。対する時雨も、八重の元気で明るい所に好意を抱いていった。
「僕と結婚してください……『こちらこそお願いします』……ふふ」
ショーケースに並べられたネックレスを見ながら、少々気持ちの悪い笑みを浮かべている――と、八重のスマホが振動した。
「おわっ!?」と声を出しつつスマホの画面を覗く。映し出されたのは『兄貴』の文字。
『――もしもし?』
「なんだよ兄貴」
それは4歳離れた兄からの電話だった。
『光ちゃんから聞いたぞー。告白、成功したんだってな』
「まぁ一応」
『やるじゃねぇか。まさか弟に先越されるとは思ってなかったぞ』
兄弟の関係は良好。昔から仲良しだ。――しかし光といつ知り合ったのかは疑問だ。
(……考えても仕方ないか)
そこについては特に触れない。
『籍はいつ入れんだ?』
「未定だよ。ご両親からの了承が得られてなくて」
まだ告白してOKを貰っただけだ。むしろ本番はこれから。初めて時雨の両親に会った時はもうそれはそれは――。
昔ながらの頑固親父!……って感じで八重は震え上がった。ぶっちゃけると苦手ではあるのだが、流石に挨拶に行かないわけにはいかないだろう。憂鬱だ。
『……男はガッツだ。きちんと真摯に頼めばご両親も納得してくれるさ。可愛い嫁さんのためにも頑張れ』
「んな在り来りなことを言われてもなぁ」
歩きスマホ。それも店内。通常ならダメ一択。他に客がいないからこそギリギリ許されている迷惑行為をしながら歩いていると、ひとつのネックレスの前で立ち止まった。
目を惹かれたのだ。黄色のダイヤモンドが付いたネックレス。シンプルながらも美しく、控えめでありながらも目が離せない力強さ。
自分の心の中にある時雨の様相にピッタリのネックレスを見つけたのだった。まさに運命的な出会いだ。
「これ……いいな」
『どうした?』
「ネックレス見つけてさ。黄色の……ダイヤモンドか。時雨にすげぇ似合いそう」
『そうかぁ?時雨ちゃんは水色とかの方がいいと思うけど』
なんて言われるも、決めた心は揺るがない。ダイヤモンドに反射する自分の顔がキラリと光った。
「……」
しかし躊躇う。躊躇う理由はネックレスの下にあった。
「13万……」
買えなくはない。だが手軽に出せる値段でもない。
『――誰かが言った』
「どした?トリコでも見てんのか?」
『悩む理由が値段なら買え。それ以外ならどんなにお得でも買うな……ってな』
「……名言をどうも」
――決まった。悩んでいた心が『買う』と決定を付ける。金なんて削れば幾らでも集められる。愛する時雨のためなら金の問題など屁でもない。
「予約……しとくか」
ネックレスをつけた時雨……ベールを付けている時雨……頬を赤くしている時雨……。止まらない妄想に浸りながら、八重はネックレスを眺めていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
【完結】わたしの娘を返してっ!
月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。
学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。
病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。
しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。
妻も娘を可愛がっていた筈なのに――――
病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。
それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと――――
俺が悪かったっ!?
だから、頼むからっ……
俺の娘を返してくれっ!?
FLY ME TO THE MOON
如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる