無職で何が悪い!!―Those days are like dreams―

アタラクシア

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2章 宝石の並ぶ村

第44話 タッグ交代!

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――――――――――。


「――ん」

ヘキオンが目を覚ます。見慣れない天井。トゲトゲゴツゴツしており、さっきまでの荒野とは思えないほど青い。

それに涼しい。ヘキオンの肌に冷たい空気が纏わりつく。

「あれ?……何が起きてたっけ……」

ムクリと起きるヘキオン。辺りをキョロキョロと見回している。


「――カエデさーん?どこー?」

こだまするヘキオンの声。音の反響からして、ここは洞窟のようだ。気がついたヘキオンも不思議そうに頭をかしげる。そういえばほとんど寝起きだったなこの子。

「……もしかして……はぐれた!?」

青ざめる顔。わりと暗めのところに1人は怖い。自分の居場所も分からないようなところで1人にされるのは怖いに決まっている。



「……」

ヘキオンの後ろ。ナイフを構えていた男。ダークナイトで真っ黒に染まっている。ヘキオンが寝ている間に殺すつもりだったようだ。

まだ気がついていない。なんなら1人と思って涙目になっている。

「……ふん」

構わない。この男は冷酷。魔物が命乞いをしようが、人間がガタガタ震えていようが関係なく殺してきた。


「あぅぅ……カエデさぁぁん……」

オロオロしている。伝説の魔獣を倒した少女とは思えないほど弱々しい。

振りかぶっているナイフ。あとは下ろすだけ。自分のしようとしたところを見られていた。いやまぁほとんど寝てたのだが。

ならばこの男にとって、ヘキオンは殺しの対象内。さっさと殺すべきだろう。

「――ちっ」



ダークナイトを解除する。纏われていた黒い影が分散して消えていった。

「……おい」
「わっひゃあ!?」

情けない声を出すヘキオン。いきなり現れた男にびっくりしている。

「え?誰?誰ですか?」
「お前見た……あーそっか。寝てたのか」


「上でその……連れの男と会ったんだ。たまたま。それで話してたら地震が起きて……こうなった」
「あーそうだったんですね」

嘘。嘘をついた。ヘキオンは寝てたので嘘をつかれていることは知らない。

「えーっと……お名前は?」
「スプリングだ。職業は暗殺者アサシン
「そうなんですね!私はヘキオンです!職業は魔法使い!」

元気よく挨拶する。初対面の人を信じすぎな気もするが、まぁそれがこの子のいい所でもあるのだろう。

「そうか……それでここがどこかわかるか?」
「すみません。私も知らなくて……」
「なら仕方ない。とりあえず歩くか」
「そうですね!」

元気そうに返事するヘキオン。

「……あとで……あとで……」
「なにか言いました?」
「いや、なんでもない」





――その少し後。


「――っは!?」
「――わぁ!?」

起き上がるカエデ。それに驚く少女。ナイフを握りしめており、カエデを殺そうと振りかぶっていたところだった。

黒い布は脱いでいる。オレンジ色のターバンに白い服、そしてジーパンのショートパンツを履いていた。

驚く程に白い肌。絵の具で塗ったのかと思うほどだ。髪も爪も。体の何から何まで真っ白。それでいて瞳は赤い。不思議だが美しい見た目にカエデも少し惹き込まれた。

「……」
「あっ……あっ――てや!」

振り下ろされるナイフ。鋭く研がれたナイフがカエデの頭に突き刺さっ……てはない。鉄と鉄がぶつかったかのような音を出した。

「――ふぇ!?な、なぜ!?」
「……暗殺ならまだしも、こんな真正面から俺にダメージを与えれるわけないだろ。どんだけレベル差あると思ってんだ」

無傷の頭をパッパっと払って立ち上がる。

「私はレベル35もあるんだよ!それなのに刃が刺さらないなんて……」
「意外と高いな。今のヘキオンよりちょっと低いくらいか」

辺りを見渡すカエデ。ヘキオンと同じような光景。どちらが前か後ろかも分からない。

「ムググ……こんな弱そうな人に……」
「弱そうなのは認めるが……言われると腹立つな。上で俺にビビり散らかしてたのを忘れたのか?」
「それはそうだけど……」

カエデに対抗するように立ち上がる。身長は小さい。ヘキオンよりかは少し大きいくらいか。

「……名前は?」
「え?……ウォーカーです」
「カエデだ。一緒に行動してやる」
「は!?」

歩き出すカエデ。どういうつもりなのか。自分を殺そうとした相手と一緒に行動しようとしている。

「なんであなたなんかと!」
「じゃあここに居ていいぞ。1な」
「なぁ!?……や、そ……それは……」

ビクリとするウォーカー。歳は分からないが、身長からして若いだろう。そんな子が独り……。まぁ無理だろうな。


「――し、仕方なく!仕方なくね!出口を見つけたら殺すから!!」
「それ言ったら暗殺にもならないぞー」

先々歩くカエデ。ウォーカーはそんなカエデに走ってついて行くのであった。
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