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1章 血塗れになったエルフ
第39話 先はまだまだ永く!
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――そこから1週間後。
旧村長が死んでからは事が早かった。息子であるザッシュが村長の座を引き継ぎ、村は存続していくことになった。
麒麟やインカーネーションの出現によって家屋はほとんど倒壊。カエデやヘキオンも復興の手伝いをすることとなった。
村では旧村長のことを教訓に、埋葬を徹底的に行うことにしたようだ。そして魔女のこともあってか、外部からの種族の受け入れを更に厳しくすることも決定したようだ。
じゃあ村はこのまま現状維持か――というのは味気ない。とのことで、村では1年に数度、街へエルフを留学させるそうだ。
『エルフのことはエルフがやる。だからその為の知識をつけてもらう』とザッシュは息巻いている。それが功を奏するか、負と出るかは誰にも分からない。
「――というカンじでカこうとオモってる」
「うん!いいと思う!」
紙につらつらと文字を書いている青年エルフ。その横でヘキオンがサポートをしていた。
どうやら村の歴史書に新たな1ページを加えるらしい。ヘキオンはその為の手伝いだ。
「でもいいの?村の歴史書って大事な書物に、私の名前なんか書いて」
「あなたはムラをスクってくれた。ムラのエイユウのナマエをカかなくてどうする」
「――そう。そうだよね」
「ムフフ」とヘキオンは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ヘキオン!」
外から声がする。もう時間のようだ。
「あ、行かなくちゃ」
「そうか……ザンネンだな」
「また来れたら来るよ」
「それコないやつでしょ」
外へと出ようとした時――青年エルフが言った。
「ホンをカくことがユメなんだ。そのトキはキミのことをカいてもいい?」
「――書くなら短めにね」
カエデの元へと駆け寄るヘキオン。既に村人たちは見送りの準備を済ませていたようだ。もちろん新村長のザッシュと村長婦人のクエッテもいる。
「おまたせしましたー!」
「何してたんだ?」
「本を見てました」
「本なんて読むのか?」
「将来的には!」
「なんだよそれ」
荷物の入ったバックを背負う。中身は食料と水、そして世界地図が入っている。クエッテとザッシュから分けてもらったものだ。
「もう少し居てもいいんだぞ?」
「そうだよ。ゆっくりしてけば?」
「それは悪いよ。それに俺らは冒険者だ。冒険をするのが仕事だ」
「……カエデさんがかっこいいこと言ってる」
「いつもかっこいいだろ」
「おい」
ドッと笑いが起こった。嵐のような笑い。全てが終わった笑い。眩しいくらいの明るい村を見て、カエデとヘキオンは優しく微笑んだ。
「イっちゃったね」
姿が見えなくなるほどに手を振り続けた後、クエッテが呟く。ザッシュは静かに「うん」と一言。
「アラシのような人たちだったね……」
「村を建て直す嵐とか聞いた事ないけどな」
手を繋ぐ2人。クエッテの細い指とザッシュの太い指が絡まる。
「……あの二人も俺らみたいにくっつけばいいんだがな」
「カタホウはまだそのつもりはないらしいけど」
優しい笑い。幸せな空間。暖かい言葉で埋め尽くされた領域。ふたりは幸せそうに笑い合っていた。
――ここから遥かに遠く離れた場所。
そこには右腕を切断された痛みに未だ悶えているパサランがいた。
「ああああああああぁぁぁああ!!」
いや――右腕だけじゃない。身体中が血塗れだ。傷だらけだ。カエデが付けたんじゃない。カエデと会う前にもついていなかった傷だ。
「――無様ね」
パサランの奥。深淵のような暗闇に真っ赤な光が灯る。目だ。爬虫類のような真っ赤な目が暗闇にポツンと浮かんでいる。
パサランの位置からは全貌が見えない。しかし重圧は分かる。十分、それどころか必要過多なほどに。
その声は女性のようだった。高い声の女性。少女のように高い声だが、ちゃんと『女の人』というのが分かるような声。
声だけ聞けば普通だ。だが暗闇に赤い目。このふたつと合わされば、得体の知れない恐怖を発生させる。
「散々やられて負けて帰って結局それ……醜い」
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません」
「喋らないで。空気が汚れる。もうしばらく懺悔してなさい」
目は暗闇の奥へと消えていく。石床の上をハイヒールのような音を鳴らしながら。
「ヘキオン……それはいいとして――」
暗闇に浮かぶ水晶。光っているが、周りの景色は反射しない。赤い目の体も見えることはなかった。
水晶には――カエデが写っている。ケセランを殺す直前。ケセランが最後に見たであろう姿と景色。その時のカエデが写っていた。
「この男は誰――?」
……。沈黙の後、水晶が破裂した。
「厄介そうなやつね。面倒なことになりそうだわ」
壊れた水晶を踏みつける音を鳴らしながら、赤い目は奥へ奥へと進んで行ったのだった。
1章 血塗れになったエルフ 終
旧村長が死んでからは事が早かった。息子であるザッシュが村長の座を引き継ぎ、村は存続していくことになった。
麒麟やインカーネーションの出現によって家屋はほとんど倒壊。カエデやヘキオンも復興の手伝いをすることとなった。
村では旧村長のことを教訓に、埋葬を徹底的に行うことにしたようだ。そして魔女のこともあってか、外部からの種族の受け入れを更に厳しくすることも決定したようだ。
じゃあ村はこのまま現状維持か――というのは味気ない。とのことで、村では1年に数度、街へエルフを留学させるそうだ。
『エルフのことはエルフがやる。だからその為の知識をつけてもらう』とザッシュは息巻いている。それが功を奏するか、負と出るかは誰にも分からない。
「――というカンじでカこうとオモってる」
「うん!いいと思う!」
紙につらつらと文字を書いている青年エルフ。その横でヘキオンがサポートをしていた。
どうやら村の歴史書に新たな1ページを加えるらしい。ヘキオンはその為の手伝いだ。
「でもいいの?村の歴史書って大事な書物に、私の名前なんか書いて」
「あなたはムラをスクってくれた。ムラのエイユウのナマエをカかなくてどうする」
「――そう。そうだよね」
「ムフフ」とヘキオンは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ヘキオン!」
外から声がする。もう時間のようだ。
「あ、行かなくちゃ」
「そうか……ザンネンだな」
「また来れたら来るよ」
「それコないやつでしょ」
外へと出ようとした時――青年エルフが言った。
「ホンをカくことがユメなんだ。そのトキはキミのことをカいてもいい?」
「――書くなら短めにね」
カエデの元へと駆け寄るヘキオン。既に村人たちは見送りの準備を済ませていたようだ。もちろん新村長のザッシュと村長婦人のクエッテもいる。
「おまたせしましたー!」
「何してたんだ?」
「本を見てました」
「本なんて読むのか?」
「将来的には!」
「なんだよそれ」
荷物の入ったバックを背負う。中身は食料と水、そして世界地図が入っている。クエッテとザッシュから分けてもらったものだ。
「もう少し居てもいいんだぞ?」
「そうだよ。ゆっくりしてけば?」
「それは悪いよ。それに俺らは冒険者だ。冒険をするのが仕事だ」
「……カエデさんがかっこいいこと言ってる」
「いつもかっこいいだろ」
「おい」
ドッと笑いが起こった。嵐のような笑い。全てが終わった笑い。眩しいくらいの明るい村を見て、カエデとヘキオンは優しく微笑んだ。
「イっちゃったね」
姿が見えなくなるほどに手を振り続けた後、クエッテが呟く。ザッシュは静かに「うん」と一言。
「アラシのような人たちだったね……」
「村を建て直す嵐とか聞いた事ないけどな」
手を繋ぐ2人。クエッテの細い指とザッシュの太い指が絡まる。
「……あの二人も俺らみたいにくっつけばいいんだがな」
「カタホウはまだそのつもりはないらしいけど」
優しい笑い。幸せな空間。暖かい言葉で埋め尽くされた領域。ふたりは幸せそうに笑い合っていた。
――ここから遥かに遠く離れた場所。
そこには右腕を切断された痛みに未だ悶えているパサランがいた。
「ああああああああぁぁぁああ!!」
いや――右腕だけじゃない。身体中が血塗れだ。傷だらけだ。カエデが付けたんじゃない。カエデと会う前にもついていなかった傷だ。
「――無様ね」
パサランの奥。深淵のような暗闇に真っ赤な光が灯る。目だ。爬虫類のような真っ赤な目が暗闇にポツンと浮かんでいる。
パサランの位置からは全貌が見えない。しかし重圧は分かる。十分、それどころか必要過多なほどに。
その声は女性のようだった。高い声の女性。少女のように高い声だが、ちゃんと『女の人』というのが分かるような声。
声だけ聞けば普通だ。だが暗闇に赤い目。このふたつと合わされば、得体の知れない恐怖を発生させる。
「散々やられて負けて帰って結局それ……醜い」
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません」
「喋らないで。空気が汚れる。もうしばらく懺悔してなさい」
目は暗闇の奥へと消えていく。石床の上をハイヒールのような音を鳴らしながら。
「ヘキオン……それはいいとして――」
暗闇に浮かぶ水晶。光っているが、周りの景色は反射しない。赤い目の体も見えることはなかった。
水晶には――カエデが写っている。ケセランを殺す直前。ケセランが最後に見たであろう姿と景色。その時のカエデが写っていた。
「この男は誰――?」
……。沈黙の後、水晶が破裂した。
「厄介そうなやつね。面倒なことになりそうだわ」
壊れた水晶を踏みつける音を鳴らしながら、赤い目は奥へ奥へと進んで行ったのだった。
1章 血塗れになったエルフ 終
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