33 / 48
1章 血塗れになったエルフ
第33話 刻むぜ電撃のビート!
しおりを挟む
ギリギリで回避することができた。地面に倒れたヘキオンは麻痺の影響を残している。
「く――あ――ぐっ――」
髪に付いた土を顔を振って払い落とす。
「……?」
麻痺が溶けてきた頃。ふと気がついた。周りから重低音が聞こえてくる。
エレキギターのような。クラブでDJが鳴らしている音楽のような。リズミカルとも言える音が耳に入ってきた。
目が眩むほどの光を放ちながら直線が動いていた。右へ行ったり、後ろから来たり、左から来たり、正面から来たり。
目で終えるのは通った後の残光だけだ。肝心の本体は視界に映らない。すばしっこい。麒麟こそゴキブリのようだ。
だが不幸中の幸いなのは周りが開けていること。森の木々の中だったら見ることはさらに困難となっていたはず。
「だから避けられる」なんて話ではない。かろうじて反応はするも、避けきれずに頭が衝突する。
「ぐ――ぅ」
回避行動を取っていたので威力は半減。しかし脳を揺さぶるのには十分な強さだ。
もう一撃。こちらも回避しきれず衝突。片脚から鈍い音が聞こえた。
さらにもう一撃。胴体を滑るように衝突。なんとか受け流せたが、響くような痛みがヘキオンを襲い続ける。
もう一撃。
もう一撃。
もう一撃。
絶え間なくやってくる攻撃にヘキオンは反撃できずにいた。
「あ――く――」
重低音は続いている。リズムは止まっていない。
「あーこの音楽嫌い……」
脚は折れていない。痛いが使える。運良く骨はどこも折れていなかった。
(動きは直線。方向転換も急にはできないはず。だったら――)
前方に水を集める。作戦は至極簡単。それゆえ至難。単純明快。予測だ。
攻撃場所を予測して置き攻撃をすれば――。誰でも思いつくことのできる作戦。だからこそ難しい作戦。
確率が低いなら上げるのみ。その手段をヘキオンは持ち合わせていた。
「ウォーターサーチ」
圧縮した水分を空中で解放。小雨よりも細かくなった水分が辺りに降り注ぐ。目に見えない水はすぐに広い範囲を埋めつくした。
この水分はしばらく空中に漂う。水分がどこかに引っ付くのを使用者は感じ取れる。そのようにして付着した水分を元に頭の中にマップを広げるのがウォーターサーチという技だ。
今回の場合はマップを調べるのが目的じゃない。麒麟は雷を纏っている。そして雷は熱と密接な関係を持っている。
つまり麒麟が通れば水分は蒸発。その情報もヘキオンの元へ届く。目に見えないのなら頭脳戦で勝負だ。
(――――)
マップは麒麟の動きを示している。意識を集中。右手には迎撃のために水を既に圧縮していた。
あとは攻撃するのみ。そのタイミングは一瞬。ミスは命取り。下手したら成功しても自分がタダじゃ済まないかも。
だが何もせずに負けるより、何かして負けた方がいい。絶対にいい。あの偉そうな面に拳をぶちかます――。
――来た。その時が来た。向かってくる。麒麟の体が迫ってくる。
角を前面に出しているので頭は低い。普通ならジャンプしないと届かない位置だが、今なら当てられる。
腕がへし折れてもいい。どうせ後で治せる。いるのは痛みに耐える覚悟だけ。歯を食いしばり、涙を流すだけ。
――拳を振るう。振るった。角はおでこの位置だ。角とかち合うのは流石に無理。その下。何も無い場所をぶん殴る。
迫る。水は今できる最大量を圧縮した。自分でも反動は想像できない。……想像なんてしない。行動した以上、何もかも後の祭りだ。
今はただ。拳を当てるのみ。雷は迫った。麒麟は反応できない。完璧なカウンター。確実に当てられる――。
――ありえないことが起こった。麒麟が消えた。原理が分かったのは数コンマ後だ。
なんと――麒麟はジャンプしたのだ。普通に。障害物を乗り越えるように。
(へ――)
ここでヘキオンは理解した。今までのは『突進』ではなく、『高速移動』であったと。つまりただ走っているだけなのだ。
だから避けられた。苦もなく避けられた。驚く時間すらない。それよりも先に来たのは――最大威力の反動であった。
「――――あ」
目の前が水で埋まっていく。そんな情報よりも先に来たのは――『折れた』という確実な確信であった。
麒麟はヘキオンを通り過ぎてすぐに急転換。動けないヘキオンに角を突き立てる。
――今度ばかりは避けられない。角は腹部を貫通。さらに突進の衝撃で数十メートル飛ばされる。
運が良かった点は助走がほとんどなかったこと。そのため単純なパワーはそこまでだ。しかしダメージは決して低くなかった。
肋骨は2本折れ、腹部は貫通だけじゃなく火傷も負っている。むしろこれだけで済んだのは運がいいのかもしれない。
――やっぱり運は悪かった。対峙した相手がとにかく悪かった。
麒麟がしていたのは高速移動。がむしゃらに突進するんじゃない。はね飛ばされたヘキオンに追いつくのも簡単な事だ。
力が1番強いのは後ろ脚だ。器用にブレーキをかけつつ後ろを向き、彫刻のようなその後ろ脚でヘキオンを――。
馬の脚力が凄いのは知っているだろう。脚の細い競走馬でも木材程度なら簡単に壊せる。ばんえい馬ならば1000kgのソリを引きずることも可能だ。
そんな馬を元にしている麒麟の脚力が強いのは当然だ。さらに雷を使うことによってパワーを上げることができる。
それほどの力を持つ麒麟に後脚で蹴られる。どうなるかは……むしろ予想がつかないか。
「く――あ――ぐっ――」
髪に付いた土を顔を振って払い落とす。
「……?」
麻痺が溶けてきた頃。ふと気がついた。周りから重低音が聞こえてくる。
エレキギターのような。クラブでDJが鳴らしている音楽のような。リズミカルとも言える音が耳に入ってきた。
目が眩むほどの光を放ちながら直線が動いていた。右へ行ったり、後ろから来たり、左から来たり、正面から来たり。
目で終えるのは通った後の残光だけだ。肝心の本体は視界に映らない。すばしっこい。麒麟こそゴキブリのようだ。
だが不幸中の幸いなのは周りが開けていること。森の木々の中だったら見ることはさらに困難となっていたはず。
「だから避けられる」なんて話ではない。かろうじて反応はするも、避けきれずに頭が衝突する。
「ぐ――ぅ」
回避行動を取っていたので威力は半減。しかし脳を揺さぶるのには十分な強さだ。
もう一撃。こちらも回避しきれず衝突。片脚から鈍い音が聞こえた。
さらにもう一撃。胴体を滑るように衝突。なんとか受け流せたが、響くような痛みがヘキオンを襲い続ける。
もう一撃。
もう一撃。
もう一撃。
絶え間なくやってくる攻撃にヘキオンは反撃できずにいた。
「あ――く――」
重低音は続いている。リズムは止まっていない。
「あーこの音楽嫌い……」
脚は折れていない。痛いが使える。運良く骨はどこも折れていなかった。
(動きは直線。方向転換も急にはできないはず。だったら――)
前方に水を集める。作戦は至極簡単。それゆえ至難。単純明快。予測だ。
攻撃場所を予測して置き攻撃をすれば――。誰でも思いつくことのできる作戦。だからこそ難しい作戦。
確率が低いなら上げるのみ。その手段をヘキオンは持ち合わせていた。
「ウォーターサーチ」
圧縮した水分を空中で解放。小雨よりも細かくなった水分が辺りに降り注ぐ。目に見えない水はすぐに広い範囲を埋めつくした。
この水分はしばらく空中に漂う。水分がどこかに引っ付くのを使用者は感じ取れる。そのようにして付着した水分を元に頭の中にマップを広げるのがウォーターサーチという技だ。
今回の場合はマップを調べるのが目的じゃない。麒麟は雷を纏っている。そして雷は熱と密接な関係を持っている。
つまり麒麟が通れば水分は蒸発。その情報もヘキオンの元へ届く。目に見えないのなら頭脳戦で勝負だ。
(――――)
マップは麒麟の動きを示している。意識を集中。右手には迎撃のために水を既に圧縮していた。
あとは攻撃するのみ。そのタイミングは一瞬。ミスは命取り。下手したら成功しても自分がタダじゃ済まないかも。
だが何もせずに負けるより、何かして負けた方がいい。絶対にいい。あの偉そうな面に拳をぶちかます――。
――来た。その時が来た。向かってくる。麒麟の体が迫ってくる。
角を前面に出しているので頭は低い。普通ならジャンプしないと届かない位置だが、今なら当てられる。
腕がへし折れてもいい。どうせ後で治せる。いるのは痛みに耐える覚悟だけ。歯を食いしばり、涙を流すだけ。
――拳を振るう。振るった。角はおでこの位置だ。角とかち合うのは流石に無理。その下。何も無い場所をぶん殴る。
迫る。水は今できる最大量を圧縮した。自分でも反動は想像できない。……想像なんてしない。行動した以上、何もかも後の祭りだ。
今はただ。拳を当てるのみ。雷は迫った。麒麟は反応できない。完璧なカウンター。確実に当てられる――。
――ありえないことが起こった。麒麟が消えた。原理が分かったのは数コンマ後だ。
なんと――麒麟はジャンプしたのだ。普通に。障害物を乗り越えるように。
(へ――)
ここでヘキオンは理解した。今までのは『突進』ではなく、『高速移動』であったと。つまりただ走っているだけなのだ。
だから避けられた。苦もなく避けられた。驚く時間すらない。それよりも先に来たのは――最大威力の反動であった。
「――――あ」
目の前が水で埋まっていく。そんな情報よりも先に来たのは――『折れた』という確実な確信であった。
麒麟はヘキオンを通り過ぎてすぐに急転換。動けないヘキオンに角を突き立てる。
――今度ばかりは避けられない。角は腹部を貫通。さらに突進の衝撃で数十メートル飛ばされる。
運が良かった点は助走がほとんどなかったこと。そのため単純なパワーはそこまでだ。しかしダメージは決して低くなかった。
肋骨は2本折れ、腹部は貫通だけじゃなく火傷も負っている。むしろこれだけで済んだのは運がいいのかもしれない。
――やっぱり運は悪かった。対峙した相手がとにかく悪かった。
麒麟がしていたのは高速移動。がむしゃらに突進するんじゃない。はね飛ばされたヘキオンに追いつくのも簡単な事だ。
力が1番強いのは後ろ脚だ。器用にブレーキをかけつつ後ろを向き、彫刻のようなその後ろ脚でヘキオンを――。
馬の脚力が凄いのは知っているだろう。脚の細い競走馬でも木材程度なら簡単に壊せる。ばんえい馬ならば1000kgのソリを引きずることも可能だ。
そんな馬を元にしている麒麟の脚力が強いのは当然だ。さらに雷を使うことによってパワーを上げることができる。
それほどの力を持つ麒麟に後脚で蹴られる。どうなるかは……むしろ予想がつかないか。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる