無職で何が悪い!!―Those days are like dreams―

アタラクシア

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1章 血塗れになったエルフ

第30話 応用と流用!

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麒麟の体から雷が漏れ出ている。青白い稲妻だ。雷は1300度を超えると青色に変化するらしい。つまり麒麟が操る雷は1300度以上。

この温度まで来ると『水』くらいは軽く蒸発する。そしてヘキオンの操る水も特別なものじゃない。

となると攻撃したところで蒸発させられるのがオチだ。ならば真っ向勝負では勝ち目などない。搦手で行くのが最善だ。

そのためには平らな場所ではダメ。森の中で戦う。隙を見つけてぶちのめす――。

「ザッシュさん!そっちは頼んだよ!」
「……あぁ」


水のロケット。ペットボトルロケットは理科の実験でもやったことがあるだろう。今からするのはそれの応用技。なんてカッコつけていうが、単純に『流用した』という方が正しい。

(ぶっつけ本番だけどできるかな……)

ずっと構想はあった。魔力の流れも技名も。完璧にできていた。足りなかったのは度胸だけ。――今なら全て揃ってる。



「――ウォータージェット水噴射



手のひらと足裏から水が噴射される。推進力はヘキオンの体を浮かせるほど。バランスを崩しかけながらも、きちんと飛ぶことに成功した。

「よし!よし!よし!」

現実にもフライボートというものがある。容量は同じ。つまりネリオミアこっちでも使用は可能だ。

元々ウォータージェットという魔法は存在している。圧縮した水を敵に向けて放つ基本的な技だ。これを使った。

遠距離から攻撃を放つ魔法使いじゃ、思いつかないような運用法。ヘキオンだからこそ思いついた技。――はさすがに言い過ぎか。


「ついてきなよ。勇気があるんだったら……ね」

そのまま森の方まで飛んでいく。

『――付き合ってやる』

青白い閃光。動く大地。雷光を血走らせ、豪傑の脚を動かす。その速さは雷の如し。目標に角を向けて走り出した。



村に残ったのはザッシュとインカーネーション。山全体を覆う雷と振動の中。2人は睨み合っていた。

片や敵意。片や哀れみと同情。そして親愛の眼差し。思ってもいなかった状況に唇を噛み締める。

「……ごめん。本当にごめん」

それでもやらなきゃいけないことがある。魔力を両手に込めて地面に叩きつけた。

があの世に送ってやるからな――」





村からそう遠くない洞窟。あまり広くはないが、村人を収めるのには十分な広さ。

クエッテは大半のエルフを集めることに成功していた。パニックでちりじりになっていたので全員ではない。あと残り数人だ。

「カミナリ……ナニがオこってるの……?」

パニックなのはクエッテも同じこと。念の為に構え続けている弓が震えていた。


「――クエッテ!ノコりのひとりをミつけた!」
「これでゼンイン?」
「そうだ!はやくヒナンするぞ!」

泣きじゃくる子供エルフを抱えて洞窟へと走る。その時――雷がクエッテの場所に落ちるのを感じた。

予測じゃない。雷属性だから感知することができる。感知したからこそ分かった。――これは避けられない。耐えられない。

「しまった――」




――雷を弾く影が1つ。カエデだ。弾いた雷は遠くの方まで吹っ飛んだ。

「無事か?」
「カエデ……!」

驚いているエルフ2人を洞窟へと誘導する。

「どうなってんだ?なんか雷が突然降ってきて……まさかあのクソ魔女のせい――」
「タスけてカエデ!」
「落ち着けよ。寄りかかった船だしな。あーでもヘキオンを先に――」
「ワタシタチはダイジョウブ!だからザッシュとヘキオンを!」

カエデがピクリと反応する。

「……2人はどこにいるのか知ってるのか?」
「ヘキオンは麒麟とタタってるはず。ザッシュは……アカんボウと」
「え、なに、ふざけてる?」
「ふざけてない!」

初めて聞くとふざけているとしか思えない。クエッテはカエデに起きたことを説明した。


「……なるほどな。本当の話なら両方とも危なそうだ」
「ワタシたちはいいからふたりを――」
「――その前に何か隠してることがあるんじゃないか」

――図星。はっきりと隠していたことを言われ、しどろもどろになっている。

「そ……それは……」
「言わないならいいさ。俺はザッシュを助けない。ヘキオン助ける。そうするが……それでいいのか?」
「……ワかった。ハナす」
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