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1章 血塗れになったエルフ
第29話 世界でいちばん強いやつ!
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――魔王。この世でもっとも強い生命体。
魔王を倒すためだけに他の生物が作られた、とされるほど強大で強力な生物。魔物は魔王によって生成されている。
最強のフィジカル。無限と思えるほどの魔力。強力無慈悲な魔法。あらゆる面が最強。さらには特定の武器しか効かない特殊な体質まで持っている、まさに最強の存在。
数百年前。初代勇者パーティによって魔王討伐作戦が決行された。結果は両者痛み分け。
勇者パーティ側は僧侶を失い、魔王側は右半身を失うほどの重症を負わされている。その時の傷によって現在はなりを潜めている――と言われてはいるものの、魔物の活動は過去よりも活発になってきていた。
「魔王……そんなビックネームをここで聞くとはな」
「――お話はここまで」
「そうか」
――ケセランの頭が消えた。
「魔王が動き出したのか……それとも勝手に動いてるのか……。俺にはどうでもいいことか」
気になることも多い。だが今はそれどころでもない。
「この世界はどうなるんだ……」
それでもカエデは声を漏らしてしまった。
『――なんだ。ここにエルフがいたのか。弱々しすぎて気が付かなかった』
ゆっくりと3人の方へ体を向ける。
恐怖のあまり動けなくなっていた。長い間このクライムフォレストに引きこもっていたこともあってか、自分より圧倒的に格上の相手とは戦ったことがない。更にその格上の相手が自分に殺意をむきだしているのである。
『抵抗すると更に苦しむことになるぞ……と言っても、抵抗する気はないとは思うがな』
ゆっくりと。まるで王者のように近づく。王者の余裕。戦う前から戦意喪失している相手に本気を出すことは無い。そう行動で伝えてるようだった。
死の恐怖。それすらも薄らぐほどの威圧。こんなやつには勝てない。そう確信すると、不思議と恐怖は和らいでいた。どうせ勝てないのなら抵抗する必要は無い。
クエッテが目を瞑った。その死を受け入れてるようだった。まるで天使がお迎えに来た時のようだ。
さもそれが最善の策のように。
さもそれが幸福であるかのように。
さもそれが1番いい選択であるかのように。
雷の裁定者による審判を受け入れた。
「――アクアミサイル!!!」
麒麟の頬にヘキオンの足がめり込んだ。
水の推進力。手のひらから水を高圧噴射させ、その推進力を使って麒麟に蹴りをいれた。場合にもよるが普通に蹴るよりも威力はかなり高い。
両手両足を使って反動を抑える。地面に跡をつけながら地面に着地した。
見た目だけ見るならダメージは残っていない。だが驚きはしていた。最強と思っていた自分が不意打ちとはいえ攻撃を受ける。初めての経験だ。
「面倒くさそうな魔物が2匹かぁ……これは骨が折れそうだね」
遠くにいたとはいえ、麒麟の威圧はヘキオンも喰らっているはず。なのにヘキオンからは恐れの感情をまったく感じない。
『……』
クエッテとザッシュはそのことに驚いていた。
「クエッテ!ザッシュさん!」
「「――あ」」
ヘキオンの声で意識を取り戻す。
「クエッテは近くのエルフを避難させてあげて!ここら一帯が消し飛ぶかもしれないから!」
「わ、わかった」
「ザッシュさんは赤ん坊の方を相手して!時間稼ぎでいい!いざってなったらカエデさんがやってくれる……はず!」
「お、おう……!」
声に反応した2人。クエッテは怪我をしているエルフと村長を抱えて走っていった。
両手に水を纏う。闘志は麒麟を前にして消えることなく。静止している麒麟に拳という名の『戦闘宣言』を向けた。
「さて――ちょっと相手してもらうよ」
『……1発攻撃を当てたくらいで調子に乗るなよ』
「調子?乗る?ごめんね、私そんな名前の乗り物は見たことがないや――」
――麒麟は真っ黒に伸びた角を天に掲げるように、後ろ足で器用に立ち上がった。
同時に蒼色の雷が角から天に向かって発射される。その雷は真っ黒の雲に接触し、その雲を蒼色に染め上げた。
『ゴット・オブ・ライジング・サン』
麒麟の声と共鳴するように。声の命令に従うように。神が空間を操作するかのように。
雷鳴が森全体を支配した。あらゆる所に大きな雷が落ちていく。神の裁きというのもあながち間違いではないと思えるほどの景色。
「な――にこれ――!?」
『エルフは後回しだ。まず先に貴様を殺してやる』
緊張が体を巡る。雷の轟と心臓の音が重なる。――ヘキオンはとても心地よい気分だった。
もう前とは違う。ウルフィーロードや人狼の時とは違う。信頼できる人を見つけたのだ。だから捨て身になって戦える。心置き無く戦える。
「――やってみろ」
ヘキオンは大きく構えた。
魔王を倒すためだけに他の生物が作られた、とされるほど強大で強力な生物。魔物は魔王によって生成されている。
最強のフィジカル。無限と思えるほどの魔力。強力無慈悲な魔法。あらゆる面が最強。さらには特定の武器しか効かない特殊な体質まで持っている、まさに最強の存在。
数百年前。初代勇者パーティによって魔王討伐作戦が決行された。結果は両者痛み分け。
勇者パーティ側は僧侶を失い、魔王側は右半身を失うほどの重症を負わされている。その時の傷によって現在はなりを潜めている――と言われてはいるものの、魔物の活動は過去よりも活発になってきていた。
「魔王……そんなビックネームをここで聞くとはな」
「――お話はここまで」
「そうか」
――ケセランの頭が消えた。
「魔王が動き出したのか……それとも勝手に動いてるのか……。俺にはどうでもいいことか」
気になることも多い。だが今はそれどころでもない。
「この世界はどうなるんだ……」
それでもカエデは声を漏らしてしまった。
『――なんだ。ここにエルフがいたのか。弱々しすぎて気が付かなかった』
ゆっくりと3人の方へ体を向ける。
恐怖のあまり動けなくなっていた。長い間このクライムフォレストに引きこもっていたこともあってか、自分より圧倒的に格上の相手とは戦ったことがない。更にその格上の相手が自分に殺意をむきだしているのである。
『抵抗すると更に苦しむことになるぞ……と言っても、抵抗する気はないとは思うがな』
ゆっくりと。まるで王者のように近づく。王者の余裕。戦う前から戦意喪失している相手に本気を出すことは無い。そう行動で伝えてるようだった。
死の恐怖。それすらも薄らぐほどの威圧。こんなやつには勝てない。そう確信すると、不思議と恐怖は和らいでいた。どうせ勝てないのなら抵抗する必要は無い。
クエッテが目を瞑った。その死を受け入れてるようだった。まるで天使がお迎えに来た時のようだ。
さもそれが最善の策のように。
さもそれが幸福であるかのように。
さもそれが1番いい選択であるかのように。
雷の裁定者による審判を受け入れた。
「――アクアミサイル!!!」
麒麟の頬にヘキオンの足がめり込んだ。
水の推進力。手のひらから水を高圧噴射させ、その推進力を使って麒麟に蹴りをいれた。場合にもよるが普通に蹴るよりも威力はかなり高い。
両手両足を使って反動を抑える。地面に跡をつけながら地面に着地した。
見た目だけ見るならダメージは残っていない。だが驚きはしていた。最強と思っていた自分が不意打ちとはいえ攻撃を受ける。初めての経験だ。
「面倒くさそうな魔物が2匹かぁ……これは骨が折れそうだね」
遠くにいたとはいえ、麒麟の威圧はヘキオンも喰らっているはず。なのにヘキオンからは恐れの感情をまったく感じない。
『……』
クエッテとザッシュはそのことに驚いていた。
「クエッテ!ザッシュさん!」
「「――あ」」
ヘキオンの声で意識を取り戻す。
「クエッテは近くのエルフを避難させてあげて!ここら一帯が消し飛ぶかもしれないから!」
「わ、わかった」
「ザッシュさんは赤ん坊の方を相手して!時間稼ぎでいい!いざってなったらカエデさんがやってくれる……はず!」
「お、おう……!」
声に反応した2人。クエッテは怪我をしているエルフと村長を抱えて走っていった。
両手に水を纏う。闘志は麒麟を前にして消えることなく。静止している麒麟に拳という名の『戦闘宣言』を向けた。
「さて――ちょっと相手してもらうよ」
『……1発攻撃を当てたくらいで調子に乗るなよ』
「調子?乗る?ごめんね、私そんな名前の乗り物は見たことがないや――」
――麒麟は真っ黒に伸びた角を天に掲げるように、後ろ足で器用に立ち上がった。
同時に蒼色の雷が角から天に向かって発射される。その雷は真っ黒の雲に接触し、その雲を蒼色に染め上げた。
『ゴット・オブ・ライジング・サン』
麒麟の声と共鳴するように。声の命令に従うように。神が空間を操作するかのように。
雷鳴が森全体を支配した。あらゆる所に大きな雷が落ちていく。神の裁きというのもあながち間違いではないと思えるほどの景色。
「な――にこれ――!?」
『エルフは後回しだ。まず先に貴様を殺してやる』
緊張が体を巡る。雷の轟と心臓の音が重なる。――ヘキオンはとても心地よい気分だった。
もう前とは違う。ウルフィーロードや人狼の時とは違う。信頼できる人を見つけたのだ。だから捨て身になって戦える。心置き無く戦える。
「――やってみろ」
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