無職で何が悪い!!―Those days are like dreams―

アタラクシア

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1章 血塗れになったエルフ

第22話 毒の水溜まりは危険!

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その後はスムーズに進むことができた。

トラップは効かない。魔物は敵にすらならない。ならばダンジョンなどちょっと広い公園程度のものでしかなくなる。

楽だ。危険がないからドキドキする心配はない――そのはずだった。しかしザッシュの心臓はずっと鳴りっぱなしであった。

カエデは自分に対して敵対心を持っていない。それは察していた。そしてそれは事実だ。敵意を持つ理由がない。

しかし恐怖がなくなることは無かった。さっきまでふざけきっていた男が圧倒的に強い。それもただの圧倒的じゃない。天井が見えないほどの実力差だ。

そんな男が近くにいる。それだけで恐怖は体を支配する。


必然的に会話は無くなった。カエデもザッシュの心情を察していたので、自分から会話を振ることはなくなった。

カエデはまだ17歳だ。怖がられるということに悲しみの感情を抱いている。寂しさを抱いている。心にいるヘキオンに癒しを縋っていた。……この心情をザッシュが覗き見れば、多少は恐怖が軽減されると思う。





そんなこんなでダンジョンに入って1時間半。2人は最深部へとたどり着いた。

なんにもない半径20mくらいのドーム状の場所。上の方に松明がかなりの量が置かれてある。上に向かって声を出すとかなり反響していた。

そして地面。現在地より5mほど下にそのじめんがある。今まで通ってきたダンジョンの床とは違う素材。土に似た見た目だが、おそらくはカーペットだ。

「……ここが最深部か?」
「あぁ……」
「なんもないぞ」
「なんもないな」

下へと降りる2人。床の感触を不自然に思いながらも、ドームの中心まで歩を進める。


――本当に何もない。宝玉なんて影も形もない。

「……本当にここが最深部か?」
「そのはずだ――あれはなんだ?」

ザッシュが指を指した。その方向にはとても小さい水溜まりのようなものがある。ちょっと遠くから見たらまったく見えないであろうほどの小ささだ。


水溜まりに近づくカエデとザッシュ。テニスボールぐらいの大きさの穴に水が溜まっている。

「なんだこれ。なんでこんなところに水溜まりが?」
「地下水……ってわけではないよな?」

そもそも水にしては粘度がある。見るだけでトロみがかっているのも分かる。それに濁ってもいる。カエデもそれに気がついたようだ。

「……これは……この液体は……!」




――ボコッ

カエデがなにかに気がついた瞬間。水溜まりに泡が浮き出てきた。光のように速く膨らみ、破裂する。

泡。泡が出てくる。ならば下に何かはある。ほかの洞窟。ほかの穴。もしくは――か。

「な、なんだ?」

ボコボコと泡が増えてゆく。まるで沸騰したお湯のように泡が止めどなく溢れてきた。

泡の破裂によう衝撃で液体が弾け飛ぶ。破裂は段々と大きくなっていき、それに比例して水滴の弾け飛び方も大きくなっていった。


地面が音を出し始める。地面が揺れ始める。まるで地震のように揺れ動く。

「うおぁ!?」

ザッシュが立てないほどの揺れが起きた。カエデは何も無いかのように立っている。

しかしこの状況は異常だというのもカエデは理解している。だがなぜ起こっているのかが分かっていない。


――水溜まりの水量が爆発的に増えた。


まるで噴火した火山のように液体を吹き出す。その高さは低く見積っても10m。とろみがついてるので色が違えばマグマのようにも見える。

「なっ――」

声を出すのも遅れるほど唐突な出来事。ザッシュは反射ですら動くことはできなかった。


そんなザッシュの首根っこを掴み、先程まで歩いていた通路に投げ飛ばす。

「――え?」

反応より前にザッシュの体は地面に堕ちていた。展開が速すぎて脳みそが廻っていない様子。


上に飛ばされた液体が雨のように降ってくる。よく見ると紫色に近い色をしていた。

とろみのついた液体がカエデに降り注ぐ。特に反応はしていないが、地面に重い音を鳴らしているのを見るに相当の重さと分かる。

降ってきた液体はボコボコの地面に大きな細かい水溜まりを増やしていった。カエデの足もだんだんと水溜まりに浸かっていく。

「――大丈夫か……っっ!?」

ザッシュが声をかけようと身を乗り出そうとしたが何故か突如止まった。自分の左手を驚いた目でじっと見ている。


ザッシュの手には黒い斑点のようなものが浮き出ていた。明らかに異常。原因は明らかに降り注いでいた液体だ。

「気おつけろ!この液体に触れたら痛いぞ!」

当たり前のようなことを大声で叫ぶカエデ。ザッシュはカエデの言うことを聞いたようで、奥の方へとズリ下がった。




さっきまでは小さかった穴が大きくなっている。水が噴出した影響か、誰かが無理矢理広げたのか。


――ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!!


甲高い笑い声。聞くだけで耳鳴りがなるほどの高さ。大きさ。その声に思わずザッシュは耳を塞いでいた。


さっきの穴から大きな白い手が飛び出てくる。1本。2本。地面にヒビを入れて穴から出てくる者がいた。


真っ白な人肌。腰まである長い黒髪。上半身は裸。顔は美女と言えるだろう。体は上半身だけで2mはある。

大きさを除けばここだけ見れば普通だ。。正確には上半身だけ見れば。

下半身はまさに蛇。真っ白な鱗をもつ蛇だ。上半身に対して下半身は長い。少なくとも10mはあるだろう。まるで太いアナコンダだ。



――キャハ♪



その女のような蛇がカエデを中心にぐるりと回る。その深淵のように黒い目でカエデを見続けていた。

「――ここに人が来るのは久しぶりだな」

女の蛇が喋りだした。甲高い声は変わらないが、大きい声じゃないだけマシなようだ。

「お前はなんだ?」
「私は蛇の中の蛇!姫の中の姫!名を『ヒステリア』という!!」
「いい名前じゃないか」

首を鳴らすカエデ。その手には――木の棒が握られていた。

「ヒヒヒ。最近はだァれも来なかったから腹が空いてるんだ」
「部下が有能なおかげだな」
「スケルトンのことか?確かに私も思ったよ。配置を減らすべきだったな」
「そうした方がいい。関係ないけど、白銀の宝玉ってどこにある?」
「宝玉かぁ?――私を倒せれば出てくるぞ」

蛇のように舌をチロチロと出している。カエデをおちょくっている。目もそうだ。人を心底小馬鹿にしたような目付きをしている。

「無駄な殺生はしたくないんだが」
「スケルトンを殺してきたくせによく言う」
「死体はノーカウントだ」

棒を指だけでクルクルと回した。

「さて――冬眠したいか。それとも永眠が好みか?」
「――永眠のが好みだァ!!」

ヒステリアがカエデに突進してきた。
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