無職で何が悪い!!―Those days are like dreams―

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
16 / 48
1章 血塗れになったエルフ

第16話 優位などぶち抜け!

しおりを挟む
ヘキオンは焚き火の前に立った。エルフとの距離は20~30m。水の推進力を使えば3歩で詰められる距離だ。

武器から見て遠距離型。ならばシンプルに近距離戦が苦手なはず。接近戦で勝負を決める。

その為には最初の1発が重要だ。おそらく近づく前に撃たれる。撃たれる前に倒せればいいが、今のヘキオンにそれほどの実力はない。

回避しつつ距離を詰める。その場で回避では2発目を撃たれる危険性がある。さらに距離まで離されれば目も当てられない。

リスクを最小限にし、勝率を最大限にする。勝負は一瞬。唾をゴクリと飲み、緊張を押さえつける――。





――どこかで鳥が羽ばたいた。それが勝負開始の合図となる。

破裂音と共に接近するヘキオン。エルフは弓を構えて狙いを付けた。

速いのは――やはりエルフ。パチッと電気が矢の先端で弾けた。

(雷属性か……ヘキオンとは相性がよくなさそうだな)


――矢が発射された。雷を纏った矢は空気を切り裂きながら突き進む。

スピードは落としたくない。加速を付けたまま攻撃したい。なら止まるわけにはいかない。

電撃の矢は徐々に迫ってくる。心臓の音は鼓膜にどんどん近づいてくる。唾を飲み込んでる暇はない。

迫る。迫る。迫る。迫ってくる。
30cmもない。
20cmを切った。
10cmまで近づく。
あと3cmに――。


ここで回避。狙われていたのは顔だ。だから動きを最小限にした。顔を少しずらす。矢は頬を少し切って奥へと飛んでいった。

「――!?」

避けられると思っていなかった。それよりも完全に当たったと思っていた。思考している間にヘキオンは間合いまで詰めていた――。

アクアブロー水殴り!!」

拳はエルフに突き刺さ――らない。体勢をわざと崩して攻撃を回避する。

予想内。次に水は足へと集中する。

アクアインパクト水衝撃!!」

――これも回避。ふくらはぎで電気が弾けたと同時に、兎のように横へジャンプする。


体をヘキオンの方へ滑らせながら矢をつがえる。攻撃後の硬直を狙われた。これは避けられない。

「くっ――」

水が手に集約。攻撃は互いに同時となった。


矢が放たれる。水が放出される。

ウォータースプラッシュ水放出!!」

水は矢の軌道を変えるほどの威力。本来なら胸を貫いていたはずの矢は、ヘキオンの左アバラを1ミリほど掠って飛んでいった。



仕切り直し、となる。ヘキオンは攻撃のために水をまとめようとする。エルフも同じ。だが目的は分かっていても、予測できない行動をした。

またふくらはぎに電気が走る。それと同時にエルフは大きく飛び上がった。

「え――!?」

弓は既に相手へ。引ききった弦はギリギリ音を立てる。矢は電気にまとわりつかれて黄色に光っていた。

収束する狙い。その間は隙だらけだ。だがここに来て臆してしまった。

「うっ――ウォーターウォール水の壁!」

前方から高圧の水が勢いよく飛び出す。それはさながら水の壁。他に例えようようのない水の壁が出現した。


「――レイジングブラスト雷纏う四重の矢

弓の先端。さっきまで矢のつがえてあった場所から四本のビームが飛び出す。

四本のビームはそれぞれの方向に蛇のように動き回る。統率なんて取れていない。しかし狙いだけは決まっていた。


二本は壁に当たって消滅。残りの二本は壁から回り込んできた。

「うわぁ――!?」

咄嗟。脊髄反射が機能したおかげで、1本はかわせた。しかし最後の1本はかわしきれずに太ももを掠る。


撃たれてしまったのはしょうがない。直撃しなかったのは運が良かった。今度は同じ行動をしない。ヘキオンは水の壁を解いた――。


――いない。いない。空中にいたエルフがどこにも見当たらない。消えたのか。消滅したのか。はたまた逃げたのか。

ありえない妄想が顔を出しては隠れていく。
あらゆる可能性を引き出しては片付けていく。

何が起きているのかも分からない表情のまま――ヘキオンは自分の後ろで光る雷を視界に収めた。


エルフの体に雷が走っていた。髪、肌、爪。中に入って、皮膚、脂肪、筋肉、骨、神経、血管。全ての部位に稲妻が跡をつけていく。

目には黄色の閃光。熱を帯びる体表面。スピードは格段に上昇していた。近距離戦が苦手なのなら、その対策をするのは普通だ。

それがこの技。身体中に電気を纏い、自身のスピードを上昇させる――。

「――エレキニックブラスト巡る雷

手に握られた矢はヘキオンに向かう。もう避けられない。軌道も変えられない。当たるのは確実。そして不変だ。

刺さる場所は胸近く。大ダメージは必須。下手したら死ぬ。というのに――カエデは動く気配がない。

臆したか?反応できないか?――どっちも違う。この時点でわかっていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

インフィニティ•ゼノ•リバース

タカユキ
ファンタジー
女神様に異世界転移された俺とクラスメイトは、魔王討伐の使命を背負った。 しかし、それを素直に応じるクラスメイト達ではなかった。 それぞれ独自に日常謳歌したりしていた。 最初は真面目に修行していたが、敵の恐ろしい能力を知り、魔王討伐は保留にした。 そして日常を楽しんでいたが…魔族に襲われ、日常に変化が起きた。 そしてある日、2つの自分だけのオリジナルスキルがある事を知る。 その一つは無限の力、もう一つが人形を作り、それを魔族に変える力だった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり
ファンタジー
27歳にして、今ゆっくりと死に向かう男がいる。 彼の人生は実にスーパーハードモードだった。 両親は早くに他界し、孤児院でイジメられ、やっと出れたと思えば余命宣告をされた。 彼は死に際に願う。 「来世は最強の魔法使いとか世界を救う勇者とかになりたいものだ。あ、あとハーレムも追加で。」と。 力尽きた彼が目を覚ますと、子供の体に転生していた。 転生は成功した。 しかし、願いは1つも叶わない。 魔術?厄災?ノア? 訳の分からないことばかりだ。 彼の2度目のスーパーハードモードな人生が始まる。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...