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1章 血塗れになったエルフ
第15話 焚き火の前にて!
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「――おぶってください」
「ちょっと前に言ったこと思い出してみな」
「疲れすぎて思い出せません」
子供みたいなことを言うヘキオン。カエデは呆れながらも、少し期待していた顔をしている。
「まぁそこまで言うなら――」
「――!!カエデさん聞こえます!?」
「え、何が?」
「水の音です!音は――こっち!」
さっきまでの疲れはどこへ行ったのか。スキップをしながら坂を登っている。……なんかカエデは残念そうだ。
――木々を抜けた先にあったのは川であった。腰を抜かすほどに綺麗な水。川の底が軽く見えるほどの透明度だ。
流れの音が心地いい。魚が跳ねる景色はのどかで癒される。自然の匂いは味があると錯覚するほど鼻腔を燻っていた。
「川です!川ですよ!」
「綺麗だなぁ。空気みたいじゃん」
自然の中にある美しさ。この言葉が似合う景色はそうそうない。疲れが大きかったからか、ヘキオンは川の前で倒れるように寝っ転がった。
「今日はここで野宿しましょうよ!」
「いいね。時間もちょうどいいし、そうするか」
「いやったー!!」
倒れているヘキオンの横にバックを置き、体をグッと伸ばす。森の空気が体のすみずみに染み渡るようだ。
「――――」
「……寝てる」
ヘキオンは疲れでそれどころではなかったようだ。
焚き火がパチパチと燃えている。さっきまで降り注いでいた焼けるような日差しは、いつの間にか凍えるような寒さへと変わっていた。
寒さは焚き火によって和らいでいる。この暖かさは何にも変えがたい。
「昼と夜の寒暖差がすごいですね」
「山だからな。風邪ひくなよ」
「子供は風の子ですよ」
「子供だったり大人だったり忙しいな」
「えへへ」
焚き火に手をかざしながら笑う。――はっきり言って、今のヘキオンは美人だ。炎の明かりがヘキオンの表情を美しく照らしている。
絵にして飾りたい。飾って眺めてたい。食事の時や本を読んでる時、リラックスしてる時に目の端に入ってきて欲しい。
そんなことを考えていると徐々にニヤニヤしてくる。しかしニヤニヤすると変なので、口を抑えて表情筋をほぐす。
「……なんか最初の時と違うな」
「最初の時?」
「初めて会った時はオドオドた」
「あれは状況が状況ですから」
「それに他人行儀だった」
「会って間もないですからね」
まだ出会って3日くらいの2人。だがそう見てみると、確かに最初の時とはカエデへの接し方が違う。
「うーん……あれですかね。思っていたよりも歳が近いからですかね」
「ぶっちゃけ最初に俺のこと見た時、何歳くらいと思った?」
「……30歳」
「まじか……」
「40歳かもって……」
「そんな老け顔かぁ……」
割とマジでショックを受けている。
「多分ヒゲですよ!ヒゲのせいです!剃ったら20代には見えます!」
「……ヘキオンはいいなぁ。年相応っていうか。なんならもっと若く見られるだろ?」
「良くないですよ。周りがゴツイから浮いちゃうんです。女の人も美人でナイスバディなのばっかりだし」
「ヘキオンも美人だと思うよ」
――素だった。反射的に口に出してしまった。背中に嫌な汗をかく。
(やばい気持ち悪がられるか……)
心の中で自分を罵倒する。反省会をする。反応を見たくないが、見てみたい。ヘキオンの言葉を固唾を飲んで待つ――。
「――私は美人じゃないですよー。可愛い系です」
「それ自分で言っちゃうんだ」
「事実ですからー」
思っていたよりもヘキオンの自己評価は高かったようだ。カエデはほっと息を撫で下ろす――。
「――――!?」
瞬間だ。刹那だ。ともかく一瞬の出来事だ。胸を撫で下ろしている表情のカエデ。その手に矢が握られていた。
「……不意打ちはいただけないね」
矢の軌道はヘキオンの方向へ。虚空から物質を生み出す能力は持っていない。となると誰かが撃ってきた、ということになる。
カエデじゃないことは確かだ。ならば誰か。ヘキオンは自分の言ったことを思い出した。
『――ウッドエルフの原住民』
言葉と共に現れたのは褐色の女だった。耳は大きくとんがっており、長い金髪はシルクのように滑らか。
年齢は20代前半くらいだろうか。胸と腰周りのみ隠された体は社会から隔絶された隔たりを感じる。
「……マチからキたニンゲンだな」
「だったらどうする?」
「ここからタちサれ。ここはワレらのトチだ」
「だってさ。どうするヘキオン」
「え、私に振ってくるんですか?」
エルフは矢に手を添える。戦闘態勢はバッチリってところだ。このまま熟慮してる暇はない。
「話し合いはできなさそうだし……あの人の言うとおりにここから離れて――」
「――よしウッドエルフ!このヘキオンが相手してやるってさ!」
「……はい?」
エルフが弓に矢をつがえた。もう戦う気マンマンだ。
「なにいってんですか!?」
「実践だよ実践。ウルフィーロードの時とか、人狼の時みたいになったらどうする。これからの旅はずっと俺に頼るのか?」
「それは……」
「雑魚ばっか相手にしてても強くならないし、ただのトレーニングでも限界がある。運のいいことにあのエルフは強い。格上と戦えば、それだけいい経験になるんだぞ」
「……分かりました。戦います」
「危なくなったら助けてやる。だから自爆する勢いでやりな」
「そこまではしませんけど……」
「ちょっと前に言ったこと思い出してみな」
「疲れすぎて思い出せません」
子供みたいなことを言うヘキオン。カエデは呆れながらも、少し期待していた顔をしている。
「まぁそこまで言うなら――」
「――!!カエデさん聞こえます!?」
「え、何が?」
「水の音です!音は――こっち!」
さっきまでの疲れはどこへ行ったのか。スキップをしながら坂を登っている。……なんかカエデは残念そうだ。
――木々を抜けた先にあったのは川であった。腰を抜かすほどに綺麗な水。川の底が軽く見えるほどの透明度だ。
流れの音が心地いい。魚が跳ねる景色はのどかで癒される。自然の匂いは味があると錯覚するほど鼻腔を燻っていた。
「川です!川ですよ!」
「綺麗だなぁ。空気みたいじゃん」
自然の中にある美しさ。この言葉が似合う景色はそうそうない。疲れが大きかったからか、ヘキオンは川の前で倒れるように寝っ転がった。
「今日はここで野宿しましょうよ!」
「いいね。時間もちょうどいいし、そうするか」
「いやったー!!」
倒れているヘキオンの横にバックを置き、体をグッと伸ばす。森の空気が体のすみずみに染み渡るようだ。
「――――」
「……寝てる」
ヘキオンは疲れでそれどころではなかったようだ。
焚き火がパチパチと燃えている。さっきまで降り注いでいた焼けるような日差しは、いつの間にか凍えるような寒さへと変わっていた。
寒さは焚き火によって和らいでいる。この暖かさは何にも変えがたい。
「昼と夜の寒暖差がすごいですね」
「山だからな。風邪ひくなよ」
「子供は風の子ですよ」
「子供だったり大人だったり忙しいな」
「えへへ」
焚き火に手をかざしながら笑う。――はっきり言って、今のヘキオンは美人だ。炎の明かりがヘキオンの表情を美しく照らしている。
絵にして飾りたい。飾って眺めてたい。食事の時や本を読んでる時、リラックスしてる時に目の端に入ってきて欲しい。
そんなことを考えていると徐々にニヤニヤしてくる。しかしニヤニヤすると変なので、口を抑えて表情筋をほぐす。
「……なんか最初の時と違うな」
「最初の時?」
「初めて会った時はオドオドた」
「あれは状況が状況ですから」
「それに他人行儀だった」
「会って間もないですからね」
まだ出会って3日くらいの2人。だがそう見てみると、確かに最初の時とはカエデへの接し方が違う。
「うーん……あれですかね。思っていたよりも歳が近いからですかね」
「ぶっちゃけ最初に俺のこと見た時、何歳くらいと思った?」
「……30歳」
「まじか……」
「40歳かもって……」
「そんな老け顔かぁ……」
割とマジでショックを受けている。
「多分ヒゲですよ!ヒゲのせいです!剃ったら20代には見えます!」
「……ヘキオンはいいなぁ。年相応っていうか。なんならもっと若く見られるだろ?」
「良くないですよ。周りがゴツイから浮いちゃうんです。女の人も美人でナイスバディなのばっかりだし」
「ヘキオンも美人だと思うよ」
――素だった。反射的に口に出してしまった。背中に嫌な汗をかく。
(やばい気持ち悪がられるか……)
心の中で自分を罵倒する。反省会をする。反応を見たくないが、見てみたい。ヘキオンの言葉を固唾を飲んで待つ――。
「――私は美人じゃないですよー。可愛い系です」
「それ自分で言っちゃうんだ」
「事実ですからー」
思っていたよりもヘキオンの自己評価は高かったようだ。カエデはほっと息を撫で下ろす――。
「――――!?」
瞬間だ。刹那だ。ともかく一瞬の出来事だ。胸を撫で下ろしている表情のカエデ。その手に矢が握られていた。
「……不意打ちはいただけないね」
矢の軌道はヘキオンの方向へ。虚空から物質を生み出す能力は持っていない。となると誰かが撃ってきた、ということになる。
カエデじゃないことは確かだ。ならば誰か。ヘキオンは自分の言ったことを思い出した。
『――ウッドエルフの原住民』
言葉と共に現れたのは褐色の女だった。耳は大きくとんがっており、長い金髪はシルクのように滑らか。
年齢は20代前半くらいだろうか。胸と腰周りのみ隠された体は社会から隔絶された隔たりを感じる。
「……マチからキたニンゲンだな」
「だったらどうする?」
「ここからタちサれ。ここはワレらのトチだ」
「だってさ。どうするヘキオン」
「え、私に振ってくるんですか?」
エルフは矢に手を添える。戦闘態勢はバッチリってところだ。このまま熟慮してる暇はない。
「話し合いはできなさそうだし……あの人の言うとおりにここから離れて――」
「――よしウッドエルフ!このヘキオンが相手してやるってさ!」
「……はい?」
エルフが弓に矢をつがえた。もう戦う気マンマンだ。
「なにいってんですか!?」
「実践だよ実践。ウルフィーロードの時とか、人狼の時みたいになったらどうする。これからの旅はずっと俺に頼るのか?」
「それは……」
「雑魚ばっか相手にしてても強くならないし、ただのトレーニングでも限界がある。運のいいことにあのエルフは強い。格上と戦えば、それだけいい経験になるんだぞ」
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