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序章
第9話 白い狼をぶっ飛ばせ!
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男の体から真っ白の体毛が突き出てきた。170cmほどの体はムクムクと大きくなり、3mをも超える大きさへ変貌した。ガリガリの体も風船のように筋肉が浮かび上がってくる。
顔は――まさに狼。狼男だ。人狼だ。ウルフィーロードよりも小柄ではあるが、威圧感はそれ以上。体が凍りついたかと思うほどの恐怖がヘキオンを襲った。
「ふふ……いい肉だ。叫ぶなよ?人が来ると困る」
逃げなくては。体を動かそうとする。反射的にだ。本能的に逃げようとした。
(ザック、ミク……)
――2人の名前が頭の中に浮かんだ。2人がボロボロの姿が。
(……逃げちゃ……ダメだ。ダメだ!)
逃げようとした体を止めて人狼を睨みつける。
「逃げないのか?待ってやってもいいぞ?」
「……私は逃げない!ザックとミクの仇討ちをさしてもらうよ!」
「――いい闘争心だ。本気で喰い殺してやるよ!!」
ヘキオンのレベルは25。
対して人狼は38。
単純なレベルは人狼の方が高い。しかしあくまでもレベルは指標。戦いは実力と経験、その時の運によって決められる――。
波が岸壁に叩きつけられたかのように。水風船を壁に叩きつけたかのように。ヘキオンの踏み込みに合わせて衝撃は地面を破壊した。
弾丸の如き速さ。かろうじて反応した人狼が動きに合わせて拳を振るう。
「――」
――それより先に懐へと忍び込んだ。水を肘から噴出させる。
「アクアブロー!!」
人狼の腹筋に突き刺さる拳。ダメージは腹を貫通する。
「がぶっ――」
怯んだ。すかさず降りてきた顔面にハイキックを放った。流れるように回し蹴り。かかとを腹筋に叩きつける。
「――アクアインパクト!!」
水圧は一気に解放され、衝撃が人狼をぶっ飛ばした。だが反動もある。ヘキオンは数メートル吹っ飛んだ。
ズキズキ痛む体を持ち上げる。手応えはあった。ちょっとくらいは効いているはず。そう思っていた。
「――最後の攻撃は効いた。なかなかやるじゃないか」
倒れてすらいなかった。蹴った場所を手で払う。傷もついてないし、痛がってる様子もない。つまり――ノーダメージ。
腹筋と体毛は鉄のように硬かった。殴った拳は今も痛み続けている。さらにアクアインパクトの反動で足も痛む。
攻撃したはずなのに、こっちの方がダメージを受けている。だが止まる理由にはならない。拳を握って立ち上がった。
「ほら頑張れ。本気でやらないと死ぬぞ?」
人狼は野生の姿を取り戻したかのように四足歩行へと変化する。鉄と同程度の強度を持つ爪を地面に食い込ませ、狙いをつける。
――来た。白き月の使徒はヘキオンを喰い殺すために走ってくる。
水を両足に纏わせ、人狼に合わせて廻し蹴り。水の噴出によって威力は上がっている。
「――そんなものかァ!?」
波打つ頬。しかし皮膚は異常に固く、中の牙は何一つ変わらない。
引っ込めようとした足を掴まれた。凄まじい握力。ミシミシと筋肉が音を立てた。
「いっっっ――!?」
「つーかまえた!!」
そのまま手裏剣のようにヘキオンをぶん投げる。ペリルの家の壁を壊し、奥の家も壊し、ヘキオンは家を挟んだ道まで投げ飛ばされた。
「っっ――」
身体中に重い痺れと痛みが襲いかかる。耐えるだけなら簡単だ。だが問題は動けるかどうかである――。
「――ハハハハハハッッッ!!!」
数瞬、目を離しただけだった。いやそれはヘキオンの頭の中だけの話。実際は近づくのに十分なほどの時間、ヘキオンは動けずにいたのだ。
叩きつけられる拳を転がって避ける。地面には蜘蛛の巣のようなヒビが入った。
(あんなのに当たれば……)
痛みのある中で回避したので体が動かない。仕掛けてくる追撃をまともに喰らってしまう――。
――その直前。足裏から水の衝撃を放ち、無理やり攻撃を回避した。
体勢を立て直す。されとて状況は変わらない。こっちからはダメージを与えられないのに、相手の攻撃は1発1発が即死級。不条理だ。
不平等だ。だが文句を言っても加減をしてくれる相手か。答えは十中八九『いいえ』だ。ならば勝つ方法を。繊維のように細い糸筋を探さなければ。
(真っ向から殴り合うんじゃ勝ち目は無い。幸いにも近距離でのスピードは私の方がちょっと上だ)
事実だ。ただし勝っているのは近距離でのスピード。100m走とかだと人狼の方が速い。
(私の攻撃は効かない。だったら――効くようにさせてやる)
握りしめた拳には水を纏わせる。眼前に立つ人狼の姿が瞳に反射した。
作戦はダメ元だ。そもそもが勝ち目の薄い戦い。どうせ負けるならやれることをやってから負ける。
ひとつの望みを賭け、ヘキオンは脚に力を込めた。
顔は――まさに狼。狼男だ。人狼だ。ウルフィーロードよりも小柄ではあるが、威圧感はそれ以上。体が凍りついたかと思うほどの恐怖がヘキオンを襲った。
「ふふ……いい肉だ。叫ぶなよ?人が来ると困る」
逃げなくては。体を動かそうとする。反射的にだ。本能的に逃げようとした。
(ザック、ミク……)
――2人の名前が頭の中に浮かんだ。2人がボロボロの姿が。
(……逃げちゃ……ダメだ。ダメだ!)
逃げようとした体を止めて人狼を睨みつける。
「逃げないのか?待ってやってもいいぞ?」
「……私は逃げない!ザックとミクの仇討ちをさしてもらうよ!」
「――いい闘争心だ。本気で喰い殺してやるよ!!」
ヘキオンのレベルは25。
対して人狼は38。
単純なレベルは人狼の方が高い。しかしあくまでもレベルは指標。戦いは実力と経験、その時の運によって決められる――。
波が岸壁に叩きつけられたかのように。水風船を壁に叩きつけたかのように。ヘキオンの踏み込みに合わせて衝撃は地面を破壊した。
弾丸の如き速さ。かろうじて反応した人狼が動きに合わせて拳を振るう。
「――」
――それより先に懐へと忍び込んだ。水を肘から噴出させる。
「アクアブロー!!」
人狼の腹筋に突き刺さる拳。ダメージは腹を貫通する。
「がぶっ――」
怯んだ。すかさず降りてきた顔面にハイキックを放った。流れるように回し蹴り。かかとを腹筋に叩きつける。
「――アクアインパクト!!」
水圧は一気に解放され、衝撃が人狼をぶっ飛ばした。だが反動もある。ヘキオンは数メートル吹っ飛んだ。
ズキズキ痛む体を持ち上げる。手応えはあった。ちょっとくらいは効いているはず。そう思っていた。
「――最後の攻撃は効いた。なかなかやるじゃないか」
倒れてすらいなかった。蹴った場所を手で払う。傷もついてないし、痛がってる様子もない。つまり――ノーダメージ。
腹筋と体毛は鉄のように硬かった。殴った拳は今も痛み続けている。さらにアクアインパクトの反動で足も痛む。
攻撃したはずなのに、こっちの方がダメージを受けている。だが止まる理由にはならない。拳を握って立ち上がった。
「ほら頑張れ。本気でやらないと死ぬぞ?」
人狼は野生の姿を取り戻したかのように四足歩行へと変化する。鉄と同程度の強度を持つ爪を地面に食い込ませ、狙いをつける。
――来た。白き月の使徒はヘキオンを喰い殺すために走ってくる。
水を両足に纏わせ、人狼に合わせて廻し蹴り。水の噴出によって威力は上がっている。
「――そんなものかァ!?」
波打つ頬。しかし皮膚は異常に固く、中の牙は何一つ変わらない。
引っ込めようとした足を掴まれた。凄まじい握力。ミシミシと筋肉が音を立てた。
「いっっっ――!?」
「つーかまえた!!」
そのまま手裏剣のようにヘキオンをぶん投げる。ペリルの家の壁を壊し、奥の家も壊し、ヘキオンは家を挟んだ道まで投げ飛ばされた。
「っっ――」
身体中に重い痺れと痛みが襲いかかる。耐えるだけなら簡単だ。だが問題は動けるかどうかである――。
「――ハハハハハハッッッ!!!」
数瞬、目を離しただけだった。いやそれはヘキオンの頭の中だけの話。実際は近づくのに十分なほどの時間、ヘキオンは動けずにいたのだ。
叩きつけられる拳を転がって避ける。地面には蜘蛛の巣のようなヒビが入った。
(あんなのに当たれば……)
痛みのある中で回避したので体が動かない。仕掛けてくる追撃をまともに喰らってしまう――。
――その直前。足裏から水の衝撃を放ち、無理やり攻撃を回避した。
体勢を立て直す。されとて状況は変わらない。こっちからはダメージを与えられないのに、相手の攻撃は1発1発が即死級。不条理だ。
不平等だ。だが文句を言っても加減をしてくれる相手か。答えは十中八九『いいえ』だ。ならば勝つ方法を。繊維のように細い糸筋を探さなければ。
(真っ向から殴り合うんじゃ勝ち目は無い。幸いにも近距離でのスピードは私の方がちょっと上だ)
事実だ。ただし勝っているのは近距離でのスピード。100m走とかだと人狼の方が速い。
(私の攻撃は効かない。だったら――効くようにさせてやる)
握りしめた拳には水を纏わせる。眼前に立つ人狼の姿が瞳に反射した。
作戦はダメ元だ。そもそもが勝ち目の薄い戦い。どうせ負けるならやれることをやってから負ける。
ひとつの望みを賭け、ヘキオンは脚に力を込めた。
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