Catastrophe

アタラクシア

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Execution of Justiceルート(山ノ井花音編)

23話「疑いの眼差し」

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「――げぇ……」

お酢を飲み干した私はみんなが集まってる所に移動した。口の中が酸っぱい。

「今日はまだ1日目だ。食料は温存しておくべきだろう」
「賛成ね。お腹は空いたけどここで食べるべきでもないと思うわ。食料は少ないだろうし」

どうやら今日は食事をするかしないかで話し合ってるようだ。そういえばお腹空いたな。散々動き回ったし。

「未来はお腹空いてる?」
「空いてるけど……大丈夫だよ。私我慢できる」
「強いな。俺が君と同じ歳頃ならお腹空いたって泣き喚いてたぞ」
「それは子供すぎるだろ……」

なんかこういう時ってみんなストレスが溜まってギスギスしてると思ったんだけどなぁ。まぁまだ1日目だしね。ギスギスしてない方が私もいいし。

「それじゃあもうそろそろ寝るとするか」
「……ねぇ、ノア。水浴びできたりってしない?」
「奥の休憩部屋に軽いシャワーならある。まだ水は出ると思うぞ」
「ありがとー」

着替え持ってくるべきだったかな。まぁ最悪水で体を洗えば問題ないか。せめて頭だけでも洗いたい。

「なんか意外だね。花音ちゃんって匂いとか体とか気にしなさそうな感じなのに」
「気にするよ。人のことなんだと思ってるの……」

むしろ百合ちゃんは毎日風呂に入らないと気が済まなそうな感じだったんだけどな。まぁ今は怪我してるし仕方ないのかな。




軽く全身に水浴びをして戻ってきた。タイツは軽く洗って窓際に干してある。しばらくすれば乾くだろう。

「花音さんはそこね」

大輝さんが大きめのソファがあった。軽くシートも置いてくれている。

「ごめんね。助けてきてくれたのにこんなに質素な寝床で」
「ソファで寝るのには慣れてますから」

そういえばよくソファで眠ってお母さんに起こされてたなぁ。ソファってなんであんなに寝っ転がりやすい形してるんだろう。



ソファにぐでっと寝転んだ。息を大きく吐いて力を抜く。

「……まだ……1日目か……」

真っ暗な天井を見ながら呟いた。あんなに色々あったのにまだ1日目だ。これからいつまでいるのかも分からない。明日になったら死んでるかも。

悲しいことも危ないこともあった。これからもまだまだそんなことがあるんだろう。

……お母さん、お父さん。会いたいな……。今は何をしてるんだろう。お父さんもゾンビになってるのかな……。

彩はどうしてるんだろう。頭のいい子だから頑張って生きてるって信じたい。












――ちゃん

――ぇちゃん!

――ねぇちゃん!


「お姉ちゃん起きてー!」
「わわ」

未来ちゃんに揺さぶられて目が覚めた。体をグッと伸ばしながら体を起こす。ここからだと外が見えないから分からないけど多分朝だろう。

「どうしたの?こんな朝早くから――」


未来ちゃんの後ろ。そこには昨日倒した赤い服を着た男が立っていた。昨日とは違う男だが手にはハンマーを持っている。

私は未来ちゃんを抱きしめて男と距離をとった。銃を取ろうと手でまさぐったがない。……そういえば昨日水浴びをする時に置いたままだったなぁ。

「落ち着け。戦う気はない」

男が冷静な声でこちらに話しかけてくる。確かに声に殺気を感じられないけど。

「ちょうどいい。お前に1つ聞きたいことがあるんだ」

男が近くにあった木の椅子に座った。なんか偉そうだな。

「その前に自己紹介をしておく。俺はマーカス。下のレガシーの区域の者だ。佐藤班の副班長をしている」
「……班とかあるの?」
「かなり広い範囲を持っているからな。班に分けて運営している」
「そーなの」

そんなんならちょっとぐらい分けてあげてもいいのに。どんだけ強欲なの、そのレガシーってやつは。

「それでだな。昨日偵察として向かわせていたリドリーがボロボロになって倒れているのを見つけた。今も近くの人形屋で休ませている」
「……それで何が言いたいの?」
「お前なにか知らないのか?」

男が私のことを冷たい目で見てきた。……それって多分昨日私が倒したあの男だよね。

「どんな人?特徴は?」
「身長は180ほど。髪は坊主で色黒。俺と同じ服を着ていたやつだ」

あ、完全に昨日のだ。やばいやばいどうしよう。これバレたらとんでもない事になりそうなんだけど……。

私が倒したってことがバレたらダメなんだ。大丈夫大丈夫。嘘をつくのは得意……のかもしれないし。

「……見てない。昨日は通気口を結構移動したけどそんな人知らない」

ちゃんと男の方を見て言ってやった。堂々としてたらバレないはず。


男は無言で立ち上がって私の方に歩いてきた。未来ちゃんを強く抱きしめる。ここは私達の拠点だ。こいつだけならみんなで倒せる。

……でもその後の方が怖い。報復とかされたらたまったもんじゃないぞ。バレませんように、バレませんように……。

男が目線を私に合わせてきた。なんだか男の人が怖くてちょっとしり込みしてしまう。それでも頑張って男を見続けた。













「――怪しいな。だが今日のところは信じておいてやる」

男が腰を上げた。持っていたハンマーを腰に仕舞う。

「リドリーの顔面の骨が砕けているんだ。まだ意識も戻ってない。ただ意識が戻ったらまた聞きに来る」
「今度来る時はお昼とかにしてよ。寝起きドッキリとか私無理だから」
「考えておく。私もリンチされるのは嫌なもんでな」
「するわけないでしょ」

男が後ろを向いた。まだまだ安心できないけどとりあえずその場は乗り切れたのかな……?


男が2歩歩いたあと、私の方に目を向けた。体が震える。まだなにかあるのだろうか。

「……入ってはこれたのだが……ここってどうやって出るのだ?」
「……そこにあるハシゴ」
「何故最初からつけていないのだ?」
「それは私が1番知りたい」












続く
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