Catastrophe

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
77 / 82
Execution of Justiceルート(山ノ井花音編)

19話「死の煽り」

しおりを挟む
「……どうするの?」
「銃火器を使ったら音がでかい。ここからだと龍宮の区間に近いからバレる可能性がある。素手で制圧する」
「相手武器持ってるけど……いけるの?」
「できれば銃で脅した時に手を引いてもらいたかったがこうなっては仕方ない。それにこっちは軍人と自衛隊の娘だぜ。ただの一般男性に負けるわけないだろ」

なんか不安だな。一般人とはいえ武器持ってるから勝てるかどうか……いや、よく考えてみたら私も普通に一般人だわ!

ここはかなり狭い。いつもみたいに思いっきり動くことができない。しゃがんで進むだけでも精一杯だ。






「――わかった。この子を渡す。だから見逃せ」
「いい選択だな。お前は長生きするぞ」

前にいた男が私の後ろにいる男になにか合図をした。後ろの男が近づいてくる。

「――ノア?嘘だよね?……だ、だって……ノア!?なんとか言ってよ!」

ノアに掴みかかった。そのままの勢いでノアを押し倒す。ノアはそのまま無反応だ。

「ノア!……なんで?なんでなの!?」

後ろの男に服を引っ張られた。

「残念だったなお嬢ちゃん。運の尽きだ。別に悪いことはしないさ。ただちょっとストレスのはけ口になるだけだ。悪いようにはしねぇよ」

男が耳元で話してきた。なんだか不快感がすごい。まぁ残念ながら百合ちゃんの所に戻らないといけないからね。違うところに行く気はない。



前の男がノアに近づいてきた。男の包丁がきらりと銀光する。

「……まだ用か?」
「いや?ただお前は良い奴だなって思っただけだよ。じゃあ子供探し頑張ってな」






男がノアの肩に手を置いた瞬間、男の顔面にノアの拳が沈みこんだ。同時に私も後ろの男の頬に肘をめり込ませる。

男が壁に音を立てて叩きつけられた。私は男の髪と左手首を掴み、男の顎に膝を叩き込んだ。

男の頭が天井に激突し、地面にうつ伏せに倒れた。


手をパンパンと叩く。弱みに漬け込んであれこれするやつは嫌いだからね。私がやらなくてもいつかはこうなってただろうさ。

ノアの方も片付いたようで、男の腕を180度回転させて締め上げている。その手にあった包丁は寂しそうに地面に落ちていた。

「き……きさ……ま……。こんなことをして……ただで……済むとでも……」
「アホか。誰も見てねぇんだ。下に落としてゾンビに喰わせればお前は誰にも知られずに死ぬんだよ」

言い終わったのと同じくらいに、ノアが男の腕をへし折った。痛みで叫ぼうとする男の口をノアが塞いだ。

……え?殺すの?生かしてもっと情報とか貰えばいいのに……。

「人が来る前に落とすぞ。準備しろ――花音!後ろ!」
「え――」


すごい力で押し倒された。殴り倒した男だ。まだ気絶させきれてなかったようだ。ちょっとまずいかも。

「てめぇ……糞ガキがぁ……調子に乗るなよ……」

男が拳を引き上げる。アイスピックは持ってないだけいいか。いや良くない良くない。突然のことすぎて反応が遅れた――。



顔面に向かって落ちてきた拳を右に避ける。男の拳は地面へと落ちていった。

ガシャン

拳が地面に落ちると同刻に、何かが外れる音がした。体が少しだけ沈む。私はゆっくりと床の方に目をやった。


ガシャン

男が殴った所にはちょうど通気口があった。下にはゾンビがいる。そして体が何故か下に沈んでいる……。

「あれ?こ、これって……」


カァン!!

通気口の入口が壊れ、私は男と共に下に落下した。硬いコンクリートに背中から叩き落とされる。


アヒャ?アヒャ?アーーーーヒャ??


「ひぃっ!?や、やめてくれ、ま、待って――」

周りからゾンビが集まってきた。これは……まずいよね!?

「花音!!逃げろ!!」

私はすぐに立ち上がって走り始めた。ゾンビが私の方に走ってくるのをなんとなく感じた。



後ろから聞こえてくる悲鳴を無視して猛ダッシュする。落ちた場所は靴屋だ。周りにはハイヒールやら革靴やらが丁寧に並べられていた。

前から来るオシャレな服を来ているゾンビを避けて靴屋から出た。周りには大量のゾンビが来ている。


アヒャアヒャアヒャアヒャァァァ!!


ゾンビが私に襲いかかってきた。子供が落ちないようにつけてある手すりを足場にしてゾンビを回避した。

いちいちゾンビを倒してる暇はない。さっさと逃げるに限る。

前にいるゾンビをスライディングで通り抜け、ひたすら走る。時にはゾンビを足場にして他のゾンビを飛び越したり、壁キックで飛び越えて走った。


「――はぁ……はぁ……ちょ……っと疲れて来た……かも」

さすがに全力で走ってたら疲れた。周りにはまだまだゾンビがいる。

「どこか……どこか……隠れられる場所……」

周りを見渡す。――ダメだどこもかしこもゾンビがいる。こういう時はタンスとかに身を潜めるパターンのはずなのにぃ……。


アヒャアヒャアヒャアヒャアヒャ!!


少し先にいるゾンビがこっちに走ってきた。私は助走をつけてジャンプをし、斜めに回転しながらゾンビの頭部を蹴りつけた。パルクールの技でコークスクリューと言う。

ゾンビが横のガラスに顔から突っ込んだ。突っ込んだ店はオシャレな服屋だった。

「……ここ、いいかも」

私は服屋に足を踏み入れた。












続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特別。

月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。 一流のスポーツ選手となって活躍する。 ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。 すごい発明をして大金持ちになる。 歴史に名を刻むほどの偉人となる。 現実という物語の中で、主人公になる。 自分はみんなとはちがう。 この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。 自分が生きた証が欲しい。 特別な存在になりたい。 特別な存在でありたい。 特別な存在だったらいいな。 そんな願望、誰だって少しは持っているだろう? でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら…… 自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。 次々と明らかになっていく真実。 特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか…… 伝奇ホラー作品。

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。 最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。 迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく…… 3月24日完結予定 毎日16時ごろに更新します お越しをお待ちしております

噺拾い

かぼちゃ
ホラー
本作品はフィクションです。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

消える死体

ツヨシ
ホラー
女の子の死体が消える

どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき
ホラー
十月十四日 地球へと降り注いだ流星群によって人類は滅亡したかと思われた―― しかし、翌日にベッドから起き上がった戎崎零士の目に映ったのは流星群が落ちたとは思えないいつも通りの光景だった。 だが、それ以外の何もかもが違っていた。 獣のように襲い掛かってくる人間 なぜ自分が生き残ったのか ゾンビ化した原因はなんなのか 世界がゾンビに侵されることを望んでいた戎崎零士が 世界に起きた原因を探るために動き出す――

処理中です...