Catastrophe

アタラクシア

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Execution of Justiceルート(山ノ井花音編)

18話「2つ目の敵」

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「そうだ、これもっとけ」

ノアに黒い携帯電話みたいなのを渡された。なんか見たことある……無線か。

「これ無線じゃん。こんなのどこで手に入れたの?」
「レガシーと交渉した。この銃もレガシーと交渉して貰ってる」

交渉とかできるんだ。生き抜くためには活用しないとね。

「もしはぐれた時は無線で俺を呼べ。使い方はわかるか?」
「うん。多分」
「……まぁいいか。2人1緒に行動するからな。勝手に行動するなよ。俺の近くにいろよ?」
「えーなにそれ告白?」

頭を殴られた。痛い……。












埃っぽい通気口をゆっくり移動する。服で口と花を覆って呼吸をする。ノアは特に気にしてないように進んでいる。

「……ノア」
「ん?」

ずっと歩いてても暇なのでノアのことを聞いてみようと思った。銃を撃てたり、無線を使えたりと普通の人ではなさそうだし。

「仕事はなにしてたの?」
「……軍人だ」
「へぇ。私のお父さんは自衛隊なんだ」
「そうか。……だからお前銃を撃てんのか」
「そうだよ。ノアは家族いるの?」

ノアが欠伸をした。そもそもノアって何歳くらいなんだろ。

「……かな?」
「……」
「ちょっと前は親も兄弟も嫁も娘も息子もいた。……俺がコンゴ戦争に行ってる時だった」

コンゴ戦争。1996年から1997年まで続いた戦争。1度は終わったのだが、1998年に周辺国がコンゴ民主共和国に進行したことにより第二次コンゴ戦争が勃発した。2003年には終結したようだが、今も武装勢力同士が衝突している。

「家に帰ったらさ……全員死んでたんだ。ついこの前までは皆元気だったんだぜ。みんな幸せだった。……いつの間にか1人になってしまった」
「……なんか……ごめん」
「いいんだ。俺も聞いてもらいたかったし。……家族がいなくなってから何もやる気が起きなくなった。だから日本に来た。日本に友人がいたから」
「……」
「友達のコネで空き家を貰ってそこに引きこもってた。……しばらくしてこのショッピングモールに遊びにきてたらこんなことになった」

……聞かない方がよかったな。日本ってそうとう恵まれてたことを実感した。

「今も知らない家族を見ると心の底からドクドクしてくるんだ。気分が悪くなる」
「……じゃあなんで……未来ちゃんを探しているの?家族を見たら気分が悪くなるんでしょ?」
「さぁな……なんでだろ」

ノアの声がさっきよりも優しくなった。心のどこかではやっぱり家族のことを気にかけてるんだろう。









「――やっぱりいないな」

通気口をくまなく動き回って見てみたが、見つからない。外はもう真っ暗だ。

「どうする?」
「……もう少しだけ探そう。それで見つからなかったら明日だ」
「わかった」

――なんだか嫌な想像ばかり思いついてしまう。ゾンビは小さい子を襲ってるんだろうか。それだと悲惨すぎるな。

「お前が5歳の子ならどこに行く?」
「……おもちゃ売り場とか?」
「そこはもう行ってるだろ」

うーん。思いつかない。子供なんてずっと動き回ってるイメージしかないからなぁ。どーこいるんだろう。







ガタッ


「――なにをしてるんだお前たち」

奥の方から男の人が出てきた。手には包丁を持っている。

すぐさま男に銃を向けた。しかしノアが手を下げさせてくる。

「龍宮の所のやつだ。1度会ってる」

耳元で囁かれる。一応警戒だけしておく。

「ってお前か。まだ女の子は見つからないのか?」
「あぁ。お前も見てないのか?」
「まだ見てない。すまないな」

……割といい人そう。物腰は柔らかいし。みんなこういう人ならいいんだけどね。

「それじゃあ子供探し頑張れ――ってことで。質問料として食料を寄越せ」

……前言撤回。こういう人が溢れてるのはやだ。男の人の声も一気に低くなった。なんか怖い……。

「……持ってない」
「えー、なら仕方ない。じゃあそこの女を寄越せ」

……あれ?女って私?私寄越せって言ってるの?……嘘でしょ?

「ダメだ」
「聞こえなかったか?寄越せと言ったんだ。俺は『ください』って頼んでない。寄越せって言ってるんだよ」
「俺も『やめてください』って言ってない。『ダメだ』って言ってる」
「そうか……」

男が包丁を前に構えた。男との距離は約5mほど。この細い通気口では全力で動くこともできないだろう。

「お前には目があるのか。こっちには銃があるんだぞ」
「おやぁいいのか?俺を撃ったら龍宮さんと敵対することになるんだぞ。お前の所なんか簡単に潰せる」

うっわ人質とか最低だ。こんな奴に従うのはやだなぁ。……でも従わないとまずいことになるよね。

もし連れていかれたら男の人たちに……や、やだ。行きたくない……。

「ここでお前を殺して下に落とせば誰も気がつかねぇよ。こっちは2人で銃もある。1人が包丁持ってた程度で怯むとでも思うのか?」
「1人ねぇ……」

後ろから足音が聞こえてきた。後ろにも人がいる。逃げられないっていうことかな。いやの方が正しいか。

後ろの男はアイスピックを持っている。銃火器じゃないだけマシだね。

「どうする?渡して安全に帰るか、ここで俺らを殺して地獄を見るか……選べ」

やばいやばい……。どうしたらいいのどうしたらいいのどうしたらいいの……。行きたくないよ行きたくないよ……。

恐怖で体が震える。ノアはそんな私を見てこう囁いてきた。

「――戦えるな?」












続く
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