Catastrophe

アタラクシア

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Execution of Justiceルート(山ノ井花音編)

11話「分割分離」

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彩がゾンビの頭を踏み潰した。辺りに赤黒い血が飛び散る。案外血の色は普通の人と変わらないようだった。


あの後から私たちは順調にショッピングモールへと進み続けていた。ゾンビも単体で出てくるから対処も簡単にできる。

途中に置かれてあった無人販売所から野菜をかすめとったりした。もちろんお金は置いてきた。念の為に持ってきといて良かった。彩からは『アホか』って言われたけど……。






そうして歩いているうちに、いつの間にかショッピングモールの近くにまで来ていたのだった。


大型ショッピングモール『ドリームタウン』。店舗面積は44300㎡で屋上を合わせると5階もある。中には服屋や雑貨屋、ゲームセンターにスーパー、駄菓子屋とおもちゃ屋などなど……。

休日には駐車場いっぱいに車があるほど人気の場所だ。私も小学生の時はお母さんと行っていた。最近はそういえば来てなかったな。




ガードレールから正面駐車場を視察する。駐車場にはやはりと言うべきか、ゾンビが大量にいた。この感じだと裏面駐車場も大量に居そうだ。

「ゾンビが多いね。正面からは無理そう」

用水路にいるみんなのところに飛び降りながら報告する。

「何体ぐらいいるか分かるか?」
「わかんない。100体くらいいるんじゃない?」
「どうする?全員殺っちゃう?」
「馬鹿言わないで。全員殺る前に全員に殺られちゃうから。別に正面以外でも出入口くらいあるでしょ。3階の駐車場からなら行けるんじゃない?」
「あぁ確かに。2階なら正面に比べて狭いしゾンビも少なそう」
「なら、ゾンビに見つからないうちにさっさと行くか」

ベレッタのスライドを引いて銃弾の確認をする。正一に投げられたから壊れたかと心配してたけど問題はなさそうだ。

「……そういえば正一。武器ないけど大丈夫?」

彩にはショットガン、百合ちゃんは弓と武器を持ってるけど、正一はずっと素手だ。特に戦ってるのは見たことない。私よりかは強くなさそうだし……。

「ん?あぁ大丈夫だ。お前らに着いてくし。自分の身は自分で守れるさ。後俺は強いよ」
「……ほんとに?」
「問題ない。お前らに死んでも着いてくから」

ここだけ聞くとストーカーみたいだなぁ。







身を縮めて道路を素早く横切る。緑の花壇をジャンプで乗り越え、車の影に隠れた。頭を半分くらい出して前を確認する。

3階の駐車場に行くためには坂道の道路を車で進む必要がある。一応階段もあるが、関係者以外立ち入り禁止のため入ることができない。多分坂道の方が速いし。

「正面に12から15体ほど、右に8体で左に11体ってところかな」
「気がつかれずに行くのは難しそうだね。どうするの?」

彩が顎に手を当ててなにかを考えている。全員を相手に戦うのも無理そうだしどうするんだろう。

「……隠れて行くのは無理だね。誰かが囮になってその隙に行くしかない」
「じゃあ誰が囮になるの?ジャンケンで決める?」
「言い出しっぺの法則だからね。私が行くよ」

彩が肩を鳴らした。彩1人だけだと不安だ。それなら私も――

「1人じゃキツイだろ。俺も囮になる」
「……」
「無言はYESととるぞ」

正一が車の上に飛び乗った。辺りのゾンビが正一の方に顔を向ける。……大胆すぎない?

「2人は先に入ってて。フードコートで落ち合おう」
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったらこんな作戦出さない」

彩がボンネットに飛び乗った。ゾンビたちが段々と彩達に近づいてくる。

百合ちゃんと目を合わせた。わざわざ危険なことを2人が率先してやってくれてるんだ。これ以上心配するのも野暮だろう。


「――さぁ行って!!」

彩と正一が思い切り走り出した。ゾンビも全員2人の跡を追って獣のように走り始めた。

ほとんど同時に私たちも坂道の道路に向かって走った。ゾンビが全員あっちに行ってくれている。行くなら今しかない。


息をするのも忘れて走る。百合ちゃんも頑張って私に着いてきているようだ。

壁を蹴りあげて手すりに手をかける。腕に力を込めて一気に登りきった。登れなくてちょこちょこジャンプしている百合ちゃんの手を掴んで引っ張り上げた。

「身長伸ばさないとね」
「そんなに変わらないでしょ!」

百合ちゃんにチョップされた。ちょっと痛かった。でも可愛かった。


2人で坂道を全力で登る。正面には2体のゾンビが佇んでいた。まだ気がついていない。

既に百合ちゃんは弓を引いていた。目を配らせて左の方のゾンビを攻撃することを教えてくれた。

右のゾンビの膝を土台にして飛び上がった。首に脚を絡ませてガッツリ締め付ける。そのままバク宙するように体を仰け反らせ、その反動でゾンビを投げ飛ばした。

左のゾンビはもう地面に倒れていた。頭からは赤い血が坂に沿って流れていた。



坂を登りきった。百合ちゃんも少し遅れてやってくる。2人とも肩で息をしていた。坂道ダッシュってやっぱりいつやってもキツい。

3階の駐車場は外に比べて薄暗く不気味な雰囲気を出していた。ゾンビも少なめとはいえ2人で全員を相手にするというのは無理な量はいた。

「ちょっとこれはやばいね……」

ただ薄暗い上に車が多い。隠れる場所は沢山ある。頑張ればなんとかできそうだ。

「じゃあ行こっか」

私は歩き出した……が、百合ちゃんはその場に立ち止まっている。

「?百合ちゃんどうしたの?」

声をかけるが反応しない。なんだか震えているようにも見える。

「百合ちゃん?百合ちゃん!?」

百合ちゃんの肩を大きく揺らす。百合ちゃんがハッとしたように体をビクッとさせた。

「百合ちゃんどうしたの――」
「避けて!!」

百合ちゃんが私を押し飛ばした。その瞬間、轟音と共に私の目の前に黒い何かが落ちてきた。地面にヒビが入ったようで小さい瓦礫が顔にパラパラと降ってきた。

砂煙にまみれて落ちてきた何かが見えない。しかし煙の中から獣が唸るような声が聞こえてくる。

腰の痛みに耐えて立ち上がった。砂煙で向こう側が見えないから百合ちゃんの確認ができない。百合ちゃんは無事なんだろうか。











砂煙が晴れてきた。そこには真っ黒な衣装に身を包んだ女の子がいた。身長は140cmくらいで小学生くらいに見える。

髪は肩くらいの長さの黒髪で顔は可愛い。暗い路地を1人で歩いていたら誰かに攫われそうなくらいには可愛い。

服はノースリーブの黒いドレスを来ている。スカートの下の方は透明でキラキラしていた。鎖骨あたりは少女の白い素肌が見えており大変セクシーに見える。今なら性的搾取とか言って規制されそうだ。

見た目だけならちょっとエロくて可愛い女の子に見える。妹に欲しいくらいだ。いや別にロリコンってわけじゃないけど。

その少女の背中からはコウモリの羽のような翼がはえていた。翼からは黒い棘が痛々しく飛び出ている。翼のみを切り取って宗教家に放り投げたら『悪魔の翼じゃ!』っと騒ぎそうな見た目だ。

翼以外は普通のはずだ。見た目だけなら私の好みでもある。いやロリコンじゃないけど。しかしその翼だけで恐怖を覚えるのには十分だった。

「……あら、お姉ちゃんすごいね」

少女はクスッと私に向かって笑いかけてきた。












続く
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