Catastrophe

アタラクシア

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Execution of Justiceルート(山ノ井花音編)

10話「再スタート」

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従業員が使う用の鉄パイプ椅子に座る。ちょうど男と女の子と向き合うようにして。横には殺気を撒き散らしている彩がいる。怖い。

「……」
「……」

女の子と彩がずっと睨み合ってる。2人ともいい印象はしないだろうけど。でも女の子はともかく、なんで彩はこんなに怒ってるんだろう。

別になにかされたって訳じゃないのに。まぁ警戒してるだけなんだと思うけど。

「……ま、まずは名前から言っていこ!そしたら……ほら、親近感湧くじゃん!」
「親近感の意味知ってるのか?」

頭をフル回転させて捻り出した案を口に出した。ツッコまれたが、これしか案がない。

「私の名前は山ノ井花音やまのいかのんっていいます。えーっと……ピチピチの高校1年生です!」

できるだけコミカルに言ってみた。





しけちゃった。やっばい、これ恥ずかしい。誰も目を合わせてくれない。せめて誰か反応してくれたらマシなのに全員無視する。

「……ハイ……ゴメンナサイ……」

顔を真っ赤にして座っちゃった。なかやまきんに君ってすごいと改めて実感しちゃった。


「……俺は江口正一えぐちしょういち。……ピチピチの高校2年生だ」

おーーーっと?意外とノリがいいぞこの人!やっさしー!絶対モテるよこの人!特別に私を蹴ったこと許してやろう。

「……ほ、ほら彩。自己紹介、自己紹介」

小声で彩に喋りかける。彩はすんごい嫌そうな顔をした。

「……坂見彩さかみあや。ピチピチの高校1年生」

……いや彩も乗るのこれ?乗られたら乗られたで恥ずかしいんだけど。

「……はぁ、言うよ。言えばいいんでしょ。なんでこんな罰ゲームみたいなことを……」
「いや……乗っからなくてもいいからね」
平野百合ひらのゆり。……ピ、ピピ、ピチピチの……高校2年生」

百合ちゃんが顔を真っ赤にして自己紹介してくれた。……無理して言わなくてもいいのに。可愛いけど。

「……自己紹介も終わったことだしね。話し合いと行きましょう!」
「話し合うって何を話し合うんだ?」

正一が聞いてきた。……そういえばなんで話し合いになったんだっけな。

「話し合うことなんかないでしょ。そっちが先に仕掛けてきたんだし。反撃する権利はあるでしょ」
「仕方ないでしょ。あなた達が来るちょっと前に普通の人に襲われたんだから。警戒だってするよ」
「それとこれとは話が別でしょ。それに花音ちゃんが花音ちゃんが『攻撃しないで』って言っても攻撃してきたしさ」
「騙し討ちの可能性もあるでしょ。現に銃を持ってたじゃん」

バッチバッチに喧嘩し続けている。正直割り込みたくない。女の喧嘩って超怖いよね。私も女だけど。

「ま、まぁ!とりあえずこれ以上喧嘩するのはやめようよ!ね!?ね!?」
「……」
「……」
「今はこんな状況なんだしさ、2人とも一緒に行動しない?」

喧嘩をやめてくれたので提案してみた。一緒に行動すれば安全だろうし。こういう時は団体行動した方がいいだろう。

「……俺はいいぜ。お前らが悪いやつじゃないってことは分かったし」
「……まぁ正一が言うなら別にいいけど」
「おぉ!ありがとうね!」
「はぁ……なんかあったら花音ちゃんのせいだからね」

良かったぁ。本当に良かったぁ。これで一件落着ということだ。心強い仲間も増えたし安心だ。

「それで?これからどうするつもりだったの?」
「ショッピングモールに行こうとしてた。資源が多いし」
「ここに居るって選択は?」
「ここよりもショッピングモールの方が食料多いでしょ。それにショッピングモールの方が自衛隊とかが救援に来てくれやすいし」

なんかすごい真面目に話し合ってる……さっきまで殺し合いをしようとしていたとは思えないなぁ。まぁこうしたのは私だけど。












裏口の扉を開けて外に出た。前にはちょうど駐車場があり、車が数台置かれてあった。

ゆっくりと車の影に移動する。ゾンビも普通にいる。ここで戦いたくはない。銃弾も有限だし。

遠くの方にはどデカいショッピングモールが鎮座しているのが見えた。こっから見ると山にも引けを取らないくらいには大きい。確かにあそこなら資源も多いだろう。

「……もしかして歩くの?」

百合ちゃんが聞いてきた。私が無言で頷くと、百合ちゃんは『えぇ』と呟いた。

「わざわざ大通りを歩くこともない。隣見てみろよ」

正一が言ってきたので、言われた通りに隣を見てみた。そこには大きな畑があった。ゾンビもそんなにいない。進むならこっちの方がいいだろう。

畑の間の細い道なら汚れることもないし、ゾンビに襲われることも少ない。ここが中途半端に田舎で良かった。なんか今日は安心することが多いな。悲しかったり安心したり大変だ。





「じゃあ進む順番ね。まず私が1番前、その次に花音ちゃん、次が百合ね。それで異論はないよね」
「「「うん」」」
「じゃあ私についてきて。速かったら言ってよ」

中で話し合った進み方を確認して、私たちは歩き出した。ちょっと間を空けて、もしものことがあった時でも対処できるようにする。

……そういえば彩、さっきからずっと正一と話そうとしてないな。目も合わせようとしてないし、さっきも正一の名前が出てなかった。

百合ちゃんならまだ分かるけど、なんでそんなに正一を避けるんだろう。……たまたまかな。

私はそんなことを思いながら彩の背中を追っていた。












続く
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