Catastrophe

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
63 / 82
Execution of Justiceルート(山ノ井花音編)

5話「進む地獄 止まる悪夢」

しおりを挟む
――1時間後

制服のスカートと上着を脱ぐ。生暖かい空気が素肌に絡みついてきた。


ずっと泣いていても仕方なかった。少し泣いた後、私は家に戻って避難する用意をすることにした。

これはほとんど災害のようなものだ。生きている人がいたらどこかに避難するだろう。ここの近くだったら……学校とかかな。


動きやすい服に着替えた。上は紺色のパーカーで中に黒いTシャツを着ている。下は黒色のショートパンツに黒タイツだ。とりあえず動きやすさを重視した服だ。

今つけていたヘアゴムを外して付け直す。いつも通り髪を後ろで結んだ。

地震とかが起きてもいいように用意されてあった非常用バックを背中に背負う。中には水や非常食、スマホや家中からかき集めた便利グッズを入れてある。結構重い。

「……お父さん……」

お父さんは無事なのかな。お父さんまでお母さんみたいになってたら立ち直れる自信が無い。


頭を振って頬を叩く。いつまでも気持ちが沈んだままだったらダメだ。お母さんのために生きないと!




……………………。

外から何かが聞こえる。機械の無機質な音じゃない。ちゃんと命がある音だ。生きている人だろうか。

「……なんか嫌な予感がする……」

なんとなく予感がした。しかしどの道外にはでないといけないのだ。


荷物を持てるだけ持って玄関へと歩いていった。



――アヒャアヒャ



外から聞こえてくるのは人の声だ。人が笑う声。変な笑い方だけど人の声だ。しかし声に人間味を感じられない。かと言って機械っぽい感じでもない。例えるなら感情のない動物みたいな声だった。

「……」

聞こえてくるのは下から。さっきのお母さんと同じような笑い声だ。

頭の中の恐怖に耐えて、塀の下を覗いてみた。












アヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャ
アヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャ












さっきのお母さんのような人達が沢山いた。目測でも20人以上はいる。そんなまさに『ゾンビ』というべき化け物達が私の階にまで迫ってきていた。

垂直の壁に超人的な力で穴を空け、そこを足場にして上がってきている。

「うそ……うそ!うそ!うそ!?」

とりあえずやばい。たった1人でもあんなにやばかったのにこの数はやばい。

ここにいたら殺られる。私は階段に向かって走り出した。




階段の上からジャンプをして一気に下へと降りる。バックのせいで体が重いけど鍛えてるから問題はない。

階段の壁は鉄格子になっていて外を見渡すことができる。高いところが苦手な私にとっては最悪だったけど今はありがたい。

下を確認してみると、ゾンビみたいな人達がフラフラと歩いているのが見えた。

「震えていたのが兆候だったのかな……」

まだまだ疑問や不安が多いが考えてる暇はない。


最上段からジャンプして一番下まで下る。小学生の時にやっていたことをまさか今やるとは思わなかった。

小学生の時よりかは身体能力が上がっているとは思うがそれでも降りるのは辛い。足がジーンってなる。

それでも死にたくはないので頑張って頑張って耐えて耐える。









2階と1階の間にある踊り場に降りた時だった。


アヒャアヒャアヒャアヒャアヒャ!!!


「うわぁ!?」

男の姿をしたゾンビがいた。ゾンビに首を掴まれて壁に叩きつけられる。

「ガ……アァ……」

強烈な力で首を圧迫される。人間の力じゃない。やっぱりこいつは人間じゃない。


アヒャアヒャアヒャアヒャアヒャ!!!!


ゾンビがガチッガチっと歯を鳴らした。私の頭に噛み付こうと顔を近づけてくる。

「……ァ……ァァァア!」

ゾンビの顎を蹴りあげた。怯んだようで掴んでいた手の力が弱まる。

その隙にゾンビの腹に蹴りを入れた。ゾンビの背中が後ろの鉄格子に衝突する。

隙だ。隙の塊。相手がどんなパワーを持っていたとしても元は人間。生物である限り、隙というものは必ず生まれる。


私は右脚を軸として回転し、ゾンビの腹に向かって遠心力で威力が上がっている左足を叩き込んだ。俗に言う後ろ蹴りというやつだ。かっこよく言うとバックキックと言う。

後ろの鉄格子が高い音を立てて凹んだ。ゾンビもその音に共鳴するかのように、体内の空気を全て吐き出したかのような声を出した。

ゾンビの体が地面に沈む。とりあえずはこれでまともには動けないはず。


一気に下へと飛び降りる。衝撃を横に受け流して、そのままスピードに乗って住人専用の扉から外に出た。


外にはゾンビがポツポツといた。顔はドロドロに溶けているような見た目なのに、服装は綺麗だったのが逆に不気味さを強くしていた。












続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ill〜怪異特務課事件簿〜

錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。 ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。 とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。 最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。 迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく…… 3月24日完結予定 毎日16時ごろに更新します お越しをお待ちしております

特別。

月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。 一流のスポーツ選手となって活躍する。 ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。 すごい発明をして大金持ちになる。 歴史に名を刻むほどの偉人となる。 現実という物語の中で、主人公になる。 自分はみんなとはちがう。 この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。 自分が生きた証が欲しい。 特別な存在になりたい。 特別な存在でありたい。 特別な存在だったらいいな。 そんな願望、誰だって少しは持っているだろう? でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら…… 自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。 次々と明らかになっていく真実。 特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか…… 伝奇ホラー作品。

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

噺拾い

かぼちゃ
ホラー
本作品はフィクションです。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

処理中です...