Catastrophe

アタラクシア

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Execution of Justiceルート(山ノ井花音編)

1話「正義などない」

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それはほんの少し前の記憶。

お父さんと桜を見に行ったあの日のことだ。お母さんは用事が終わってから行くって言ってたから、先にお父さんと2人で見に行った。

お父さんはいつも仕事だったから、一緒に遊べるってことでとても楽しみにしてた。2人で鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり……。

でもそれは叶わなかった。







「……さすがに朝は寒いな。もう1つ毛布被るか?」
「うんん。大丈夫だよ」

まだ朝の日差しが出てないくらいの時間帯。両親にワガママを言って2人で花見の場所取りをしに来た。

当たり前だけど、まだ人もほとんど居ない。スーツを着た男の人とかがちょっといただけだった。

「どこにする?トイレは近いよりも遠い方がいいだろ。あとは社会人とは離れておいた方がいいな。酒飲んだヤツらは何するか分からないしな」
「パパとママと一緒だったらどこでもいいよ」
「ハハ。お前は無欲だな」

お父さんと話しながら歩く。私の手をまるまる覆うくらい大きい手が、優しく私を包み込んでくれていた。



お父さんが立ち止まった。私も反射的に立ち止まる。上を見上げるととても綺麗な桜の木があった。

「……ここがいい」
「奇遇だな。俺もここがいいって思ってたんだ」
「気が合うね、お父さん」


2人で小さいシートを引く。ピンク色の可愛いキャラクターが書いてあるシート。まさに女の子が使うようなシートだ。3人だけだからこれくらいの大きさでいいらしい。

「そこもってて」
「おっけーここだな。……よし!これでいい」

シートの四方に大きい釘みたいなやつを打って、シートが飛ばされないようにした。

「場所取りも終わったことだし、帰るか」

お父さんと手を繋いで歩き出す。ちょっと冷たかったけど暖かい手。矛盾してるね。


「――最近学校楽しいか?」
「うん。お友達できたよ。マヤちゃんっていう子なんだけどね――」

お父さんの仕事の関係上、私はよく引っ越しをする。友達ともよく別れてしまうけど、それでも1人は寂しいから友達を作ってる。

……そりゃあできることなら引っ越しなんてしたくない。友達とも別れたくない。パパにも一緒にいてほしい。

けどワガママなんて言えない。仕方ないことなんだもん。



「それでねそれでね!」
「うんうん。ゆっくり話していい――」

お父さんが黙り込んだ。お父さんの腕を引く。なんだか脱力しているようだ。

「お父さん、どうかしたの?」

お父さんの目が怖い。私のことを睨みつけているわけではないけど、なんだかすごく怖い気分になる。

「お父さん?お父さん!?」

お父さんを揺らす。お父さんは無反応だ。何が起きたんだろうと不思議に見る。

ふと、お父さんが見つめている先を見てみる。


誰かがいた。黒い服を着ている誰か。分からない。けどお父さんの目より怖かった。幽霊とかそんなのよりも怖い。

「………………」

男の人の手がキランと光った。背筋がゾワッとする感覚に襲われた。

「花音!!逃げろ!!」

お父さんに突き飛ばされた。それと同時に男の人がお父さんに突進してくる。

「――うぁ!!」

地面に腰が着いた。痛い。結構強く飛ばされたから痛い。


お父さんと男の人がもつれあっている。銀色の何かが地面に落ちた。カランカランと音がする。

その瞬間、男の人に覆い被さるようにしてお父さんと男の人が倒れ伏した。

「離せ!!離せ!!」

お父さんが力いっぱいその人を押さえつけている。腕にも力が入っていた。




突然誰かに持ち上げられた。お父さんじゃない。お父さんは前にいるからお父さんじゃない。

首を締め付けられるようにして持たれている。痛い。苦しい。なんとも言えない不快感もあった。

こめかみに何かを付けられた。分からない。何をつけられているのかが全く見えない。でも危ないものっていうのはなんとなくで分かった。

お父さんはこういう時、基本は動かずに言うことを聞けって言っていた。だからできるだけ暴れずにいた。とても怖かったけど我慢した。

「動くなよ……」
「ま、待て……その子は離せ……関係ないだろ」
「いーや関係あるね。すごく関係ある」

私の後ろの人の声はとても低かった。テレビとかに出てくる鬼とか幽霊みたいに怖い感じの声だ。

「お前らのせいなんだぜ……お前がちゃんと母さんを助けなかったから……お前がちゃんと仕事していたらこんなことにはならなかったんだ!!」
「……あの時は……本当に悪かったと思っている……」
「黙れ!思っていたら母さんは蘇るのか!?なんでお前が幸せに家族と過ごしているんだ!!」

なんの話をしているのか分からない。お父さんと知り合いなんだろうか。いい関係ではないことは誰の目から見ても明らかだった。

「俺はこの子を殺す。お前が味わうべきものを味あわせてやる……」
「ま、待ってくれ!その子は関係ないだろ――」
「うるさい黙れ!!」

耳元でカチャっていう音が聞こえた。嫌な予感がした。とても嫌な予感がした。













バァン!!!

音がした。とんでもない爆音。静かな桜の木の下で悪魔のような音が鳴り響いた。

それと同時か、少したったくらいだった。男の人の腕の力が弱くなった。小さい私でも簡単に振り解けるくらいに。

男の人が後ろに倒れた。私は怖くなってお父さんの方に駆け寄った。

お父さんが強く抱きしめてくれる。それに安心したのか、私は涙が止まらなくなってしまった。お父さんの服をびちゃびちゃにしてしまうくらいに泣いてしまった。

お父さんの顔はとても険しかった。お父さんの手には黒い色をした何かがあった。先端からは煙みたいなのが出ている。

私の泣く声と爆音に気がついたのか、警察の人とか周りに住んでいる人とかがワラワラと集まってきた。私はそんな状態でもお父さんの胸の中で泣き続けていたのであった。












続く
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