Catastrophe

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
50 / 82
Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)

50話「終局」

しおりを挟む
体が重力に従って下へと落ちてゆく。風は体全体を押し上げようと、体が動かないほどの強さで全身を押してくる。

この触手はある男と繋がっていた。俺が知っている男だ。というかさっきまで会っていた男だ。どいつもこいつもしつこい奴らばかりだ。少しは引くことを覚えてたりしないのかまったく。

「貴様のせい……貴様のせいで、貴様のせいで全てが台無しだ!!」

ホープが触手を1本飛ばしてきた。銀色に輝くその刃が俺のボロボロの腹に突入してきた。

「グフッ――しつこいぞてめぇ……。さっさと死んでくれよマジで!!」

血が落ちる速度よりも俺が落ちる速度の方が速いので、血が上へと飛び上がっているように見える。

「30年だ!30年もかけてこの作戦を実行したんだぞ!!」

触手が俺の右胸を貫いた。とてつもなく痛い。まるで火で炙られてる気分だ。

「貴様が産まれるよりもはるかに長い年月をかけて実行したんだ!!それを貴様が全て壊した!!貴様だけは殺してやる!!」
「弱肉強食って言ったのはお前だろ!?お前が馬鹿だったってだけのことだ!!」

突風に逆らって弓を構える。手が震える。風によってガタガタと狙いが定まらない。胸から血も吹き出ている。

「殺してやる!!殺してやる!!殺してやる!!殺してやる!!殺してやるぅ!!」

ホープが何か喚いている。あいつは同じことしか言わない、壊れたロボットかよ。


少しだけ落ち着いた。大きく息を吐いて、精神を落ち着かせる。

手のブレが少なくなった。体の痛みも減った。意識はホープを殺すということで固定する。殺り方はわかるんだ。そろそろ決着をつけないとな。

「くたばれクソ野郎が……」

指から弦が離れた。風や血を切り裂きながら、ホープの元へ進む。まるでそれだけが加速しているかのようなスピードでホープの心臓へ到達した。

心臓を刺し裂き、心臓の筋肉を切断する。血を全身に浴びながらも、その矢は止まることなく進み続けた。そして、その矢は自分の目の前にあった壁を突き破って行った。

「ああああああああああ!!!!!!!クソクソクソクソクソクソッッッタレめ!!くたばれ!!死ね!!消えろ!!貴様はここで終わりだァァァァ!!」

地面が徐々に近づいてくる。……まさか本当に落ちるとは思ってなかったな。よかったよ。


体から触手が抜け落ちた。同時に息苦しさも消えた。これで自由に動く事が出来る。

体をずらして、下の自動車に標準を合わせる。これなら死なないはず。いや、死ぬわけにはいかない。ここから出て桃と暮らすんだ。寝ている訳にはいかないんだ――。












目を覚ます。上にのしかかっていた木箱を押しのける。目の前にはボコボコにへこんだ白い車が置いてあった。よかった。本当にクッションになった。

弓を見てみる。まだ一応使える。外に出たら新調しないとな。まぁ記念に置いておくが。こいつはずっと戦ってきてくれたからな。捨てるなんてできないさ。

矢も見てみる。残り本数は20本。さっきバッグから補充はしたから問題はない。折れてもないから使える。よかった。

「ハァハァ……またこの階段のぼんのかよ」

嫌だなー。なんでエレベーターを用意してないんだよ。馬鹿か。変なところ作るより、もっと作るべきものあっただろ。

フラフラと歩き出す。足取りはおぼつかない。俺の体は限界をとうに超えていた。多分寝転んだらそのまま死にそうだ。頭も痛いしな。

「……桃。もうすぐだ。終わったら膝枕でもしてくれよ……」

上にいる桃に向かって小声で叫ぶ。聞こえでもしてたら大変だな。無事だといいんだが。

「俺も……さっさと出ないと」

あの女は死んでるだろうか。死んでてもらわないと困る。あの女が桃を殺してたら、まじで生き地獄を味あわせてやるからな。












突然、地面が大きく揺れた。地震とかではない。いや、地震と同じか。それほどまでに大きく揺れた。立っていられないほどに。

「なんだ?何が起こってる……」

少し焦げ臭い匂いを感じた。何かが燃えている?……いや、これは火事か!?つまりさっきのは爆発!?

「なんで……なんで爆発なんか……」

なんで……とりあえずここを出よう。つか、出ないと死ぬ。

足を引きずりながら階段に向かう。焦りからか火事のせいかは知らないが、汗をかいてきた。まずい。さっさと出ないと……。





「……貴様は終わりだ……」

聞き覚えのある声が聞こえてきた。ドスの効いた黒い声。聞くだけで殺したくなるほど頭がおかしくなりそうな声。

後ろを振り向く。そこにはぐちゃぐちゃの肉体になっているホープの姿があった。顔だけは無事で、その腹の立つ顔が人形のようにたっていた。


ぐちゃぐちゃになっていた身体が、沸騰したお湯のようにグツグツと揺れている。肉体はもはや液体とも言えるほどに原型が無くなっていた。

「貴様はこコで死ぬんだ……貴様の運命はここで終わりだ……」

なんなんだよこいつ……。なんでこんなことになってんのに生きてんだよ……。しつこすぎんだろ……。

「貴様は死ヌ!!誰の助けも得られるコとも無ク!!孤独に!!誰にも見らレルことも無く!!貴様は独りダ!!いつモノよう二独りで孤独に戦ウンダ!!」

ホープの体が内部で爆発しているかのように、肉体の面積が大きくなる。徐々に、徐々に、少しずつだが大きくなっていく。……どうやら、まだやらないといけないことがあるらしい。

ここまで来たんだ。決着をつけるのは俺だ。俺は戦わなくてはならない。桃が幸せに暮らせるような世界を作るんだ。そのためにはこいつを殺さなくてはいけないんだ……。

「……確かに俺は1人だ。だが、孤独じゃない。お前とは違うんだ。俺には桃がいる。チビがいる。心の中には、今まで死んでいった人がいるんだ。……本当に孤独なのはお前だけだ」

弦を少し弾く。もうそろそろ弦も限界だな。「げん」だけにね。……ハハ。

「お前は終わりだ!!もう何も無い!!ここで……ここで……」

ホープの体の変化が止まったようだ。ようやくうるさいのが終わったか。

その体はまさに「怪物」というのが合っているような外見だった。

顔は釣り上げられているかのように鋭くなっており、目の色も紫色に変わっている。体そのものも巨大化しており、目測3m近くはある。中指の部分には長い刃が縦に着いており、肘の先にまで刃が伸びている。

もはや人間とは呼べない体だろう。だが、中身には似合っているな。

「ここで殺してやる!!!!!」

それしか言えないのか。語彙力もないな。学校では国語の評定が1だっただろうな。

「そろそろ、くたばってくれよ……」

俺は弦を強く引いた。












続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ill〜怪異特務課事件簿〜

錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。 ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。 とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。

ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon
ホラー
元特殊作戦群の隊員が親友の娘「詩織」を連れてゾンビが蔓延する世界でどのように生き、どのように死んでいくかを語る

鎌倉呪具師の回収録~使霊の箱~

平本りこ
ホラー
――恐ろしきは怨霊か、それとも。 土蔵珠子はある日突然、婚約者と勤め先、住んでいた家を同時に失った。 六年前、母に先立たれた珠子にとって、二度目の大きな裏切りだった。 けれど、悲嘆にくれてばかりもいられない。珠子には頼れる親戚もいないのだ。 住む場所だけはどうにかしなければと思うが、職も保証人もないので物件探しは難航し、なんとか借りることのできたのは、鎌倉にあるおんぼろアパートだ。 いわくつき物件のご多分に漏れず、入居初日の晩、稲光が差し込む窓越しに、珠子は恐ろしいものを見てしまう。 それは、古風な小袖を纏い焼けただれた女性の姿であった。 時を同じくして、呪具師一族の末裔である大江間諭が珠子の部屋の隣に越して来る。 呪具とは、鎌倉時代から続く大江間という一族が神秘の力を織り合わせて作り出した、超常現象を引き起こす道具のことである。 諭は日本中に散らばってしまった危険な呪具を回収するため、怨霊の気配が漂うおんぼろアパートにやってきたのだった。 ひょんなことから、霊を成仏させるために強力することになった珠子と諭。やがて、珠子には、残留思念を読む異能があることがわかる。けれどそれは生まれつきのものではなく、どうやら珠子は後天的に、生身の「呪具」になってしまったようなのだ。 さらに、諭が追っている呪具には珠子の母親の死と関連があることがわかってきて……。 ※毎日17:40更新 最終章は3月29日に4エピソード同時更新です

怨念がおんねん〜祓い屋アベの記録〜

君影 ルナ
ホラー
・事例 壱 『自分』は真冬に似合わない服装で、見知らぬ集落に向かって歩いているらしい。 何故『自分』はあの集落に向かっている? 何故『自分』のことが分からない? 何故…… ・事例 弍 ?? ────────── ・ホラー編と解決編とに分かれております。 ・純粋にホラーを楽しみたい方は漢数字の話だけを、解決編も楽しみたい方は数字を気にせず読んでいただけたらと思います。 ・フィクションです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...