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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
45話「ダークナイトシンドローム」
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「……とりあえずここでよ」
桃が言ってきた。ここにはもう用はない。居ても無駄なだけだしな。どうしてこんなことをしたのかの理由も分かったんだ。充分すぎる。
俺と桃は部屋をあとにした。
「……」
「……」
会話ができない。あんなことを知ってしまったんだ。話そうにも話せない。
しばらく白い道を歩く。もうこの道に慣れてしまった。ヒルの居場所は一向に掴むことはできないし、歩き回るのも疲れたな。
「……っっっ!!??」
桃が腰から地面に落ちた。顔は恐怖に満ちていて、青ざめている。
「どうした!?」
「ぁ、あぁ、め、めめめ、目が……」
「目?」
桃が指を指した。指の方向に顔を向ける。
そこには壁の隙間からニョロっと触手に繋がっている目玉があった。その目玉は充血しており、蛇の目のように鋭い眼光を放っていた。
「っっ……」
まるで蛇に睨まれた蛙のように動くことができない。指一本動くことができない。あれは一体なんなんだ……。
睨め続けられていると、目は壁の隙間に戻って行った。10分くらい見つめられ続けていただろう。
一気に体の重圧が取れた。地面に膝から崩れ落ちる。流れ落ちていた冷や汗を腕で拭い、桃の方に目を向けた。
桃もかなり疲弊しているようで、肩を上下に大きく揺らしてガタガタと震えていた。俺でも動けなくなるほどの威圧感を放つ目に見られていたのだ。こうなっても仕方がない。
「大丈夫か?」
「……う、うん」
と言いつつもまだ体は震えている。
多分腰を抜かしてるんだろう。やはり最初に睨まれたのが効いたのか。
桃の腕を掴んで引っ張りあげた。あんまり食べてないからか、軽い。あの目はなんだったのか。気になる。
おそらく化け物の類なんだろう。こういうパターンはすぐに出てくる。もう何回もやってるんだ。今更こんなんでビビる俺じゃない。
「気おつけて進むぞ。多分近くに化け物がいる」
「……わかった」
桃の頭を撫でる。化け物に出来れば会いたくはない。この子を守りながら戦うのはさすがにきついからな。
ふと奥の方に目をやった。なぜかは分からない。本能……といった方がいいかな。とにかく桃の後ろ、奥の方に目を移した。
奥の方から銀色に煌びく、鋭く尖った刃がこっちに向かってきているのがわかった。その速度は凄まじく、まさに銃弾のように速かった。
「桃!!」
俺は桃を横に突き飛ばした。
「え――」
桃は横の壁に激突し、地面に腰から落ちた。この子さっきから腰にダメージばっかいってるな。大丈夫かな。
刃が俺の腹を貫通した。
「ガハッッッッ」
口から血が流れ落ちる。痛い。なんだこれは。
「――はは、また会ったな……」
声が聞こえた。聞こえた先はこの触手が伸びてきている方向だ。近い。コツコツと歩いてくる音が鮮明に聞こえる。
刃が奥に戻って行った。同時に俺の腹からも刃が抜け出す。俺の腹には血のシミがでっかい水滴のようについていた。
呼吸が乱れた。いつまで経っても不意打ちだけはなれないな。
呼吸を整えて顔を上げた。体は痛い。だがそれ以上に俺を刺した化け物がどんなのかが気になったのだ。
そこにはスーツ姿の男がいた。見たことのある白いスーツに白い肌。身長は高く、俺よりも大きい。
こいつは……学校で出会ったやつだ。まさかこいつがホープ・マックイーンなのか!?思っていたよりも顔がいいぞ。あと若い。
「久しぶりだな糞餓鬼。元気にしてたか?」
ホープが俺に向かって、まるで友達に挨拶するかのような声で言ってきた。
「最悪な挨拶の仕方だな。もっと優しくしてくれてもいいんじゃないか?俺は客人だぞ」
「……それもそうだな」
ホープが触手を桃に向かって伸ばした。桃はまた腰を抜かしているようだった。俺はすぐさま桃を引っ張りあげて、俺の後ろに押し倒した。
触手は桃がいた所に深々と刺さった。もしあの場にずっといたなら、首に刃が突き刺さり、桃は死んでいただろう。
あきらかに殺意の籠った攻撃。桃を確実に殺すはずだった刃。なぜ攻撃したのかは分からないが、この時点でホープは俺の殺害対象に入った。説得もする気はない。
触手がホープの元に戻っていく。まさに非科学的な体をしている。本来腕があるはずの場所には、先端に刃がついてある触手が、両方2つずつで合計4本ついている。なんか使いにくそうだな。
「……なぜ助ける。今のお前にそいつは役立たずだろう」
「役はあるさ。俺の精神安定剤って言う役がな」
桃に目を向ける。ホープの言うことは実質正しいとも言える。言いたくはないが。
この後、確実に戦闘となる。ホープとは2度戦っているが、怪我人の桃を守りながら戦える敵ではない。
桃から離れるのもかなり危ないが、ここは別行動をさせないと。
「……桃」
「え……」
「進め。俺はこいつを倒してから追いかける。その間にヒルを探すんだ。いざって時はどこかに隠れてろ」
これが最善だと思いたい。まだここには他の化け物もいるはずだ。少なくとも、上で俺を襲ったデカい女はいるんだ。1人にするのは危ないだろう。
だが、ここで桃を守りながら戦っても2人とも殺される可能性が高い。だからせめて確率の高い方を取るしかない。
「で、でも――「でもでもない!」
桃が涙を浮かべながら驚いた表情をした。
「頼む……俺は死なないからさ。俺のことは心配しなくていい。どこかでずっと隠れていてもいい。……だから進め」
「……っっ!!」
「これは離れ離れになる訳じゃない。ただちょっと別行動するだけだ。安心しろ。どこにいても君は見つけ出すよ」
我ながら結構キザなセリフだと思う。だけど桃には逃げてもらわないといけない。今更恥ずかしがってなんかいられるか。
「……うん!」
桃は力強い返事で返してくれた。そして俺の後ろへと、進んで行った。振り返ってしまうと、心配が心を支配してしまう。それだとダメだ。だから振り向かなかった。これが桃のことを最大限信じた結果だ。
「……お別れは済んだか?」
「あぁ、おかげさまで。待ってくれるなんて随分と優しいんだな」
「あの子はお前との戦いに邪魔だった。だが、あの子がいないとお前の強さを最大限引き出せないだろうからな」
「そんなに俺と戦いたかったのか?まぁあんだけイキっておいてただのガキに2回もやられちゃあボスとしての威厳が持たないからな」
「それもある。だが、あの時は本気じゃなかった。お前も力を最大限出すことはできなかっただろ。だから今度は最大の本気だ」
ホープが触手を振り回し始めた。近づくと首と胴体がお別れ会をしてしまうな。
「お前はこの世界を生きてきた強者だ。今度は俺も手加減なしで行くぞ」
ホープが体を捻らせた。触手が目にも映らないほどの速さで動いたのがなんとかわかった。
「その前に場所を移動させよう。ここじゃあ狭すぎる」
何かが切れる音がする。俺の体ではない。痛みもないしそれは分かる。
ズゴゴゴゴ……
何かが落ちる音がする。コンクリートが落ちている。
「上か!?」
上を見る。しかし何も起こっていない。
「残念。下でした」
体が無重力になったような感覚がした。しかしそれは一瞬の出来事。そのまたすぐに体が地面に落ちていく感覚に襲われた。というか実際に落ちている。
俺が落ちていくのと同じタイミングでホープも下へと落ちてきた。
「さぁ、第3ラウンドを始めよう。――死ぬ覚悟はできたか!?」
続く
桃が言ってきた。ここにはもう用はない。居ても無駄なだけだしな。どうしてこんなことをしたのかの理由も分かったんだ。充分すぎる。
俺と桃は部屋をあとにした。
「……」
「……」
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しばらく白い道を歩く。もうこの道に慣れてしまった。ヒルの居場所は一向に掴むことはできないし、歩き回るのも疲れたな。
「……っっっ!!??」
桃が腰から地面に落ちた。顔は恐怖に満ちていて、青ざめている。
「どうした!?」
「ぁ、あぁ、め、めめめ、目が……」
「目?」
桃が指を指した。指の方向に顔を向ける。
そこには壁の隙間からニョロっと触手に繋がっている目玉があった。その目玉は充血しており、蛇の目のように鋭い眼光を放っていた。
「っっ……」
まるで蛇に睨まれた蛙のように動くことができない。指一本動くことができない。あれは一体なんなんだ……。
睨め続けられていると、目は壁の隙間に戻って行った。10分くらい見つめられ続けていただろう。
一気に体の重圧が取れた。地面に膝から崩れ落ちる。流れ落ちていた冷や汗を腕で拭い、桃の方に目を向けた。
桃もかなり疲弊しているようで、肩を上下に大きく揺らしてガタガタと震えていた。俺でも動けなくなるほどの威圧感を放つ目に見られていたのだ。こうなっても仕方がない。
「大丈夫か?」
「……う、うん」
と言いつつもまだ体は震えている。
多分腰を抜かしてるんだろう。やはり最初に睨まれたのが効いたのか。
桃の腕を掴んで引っ張りあげた。あんまり食べてないからか、軽い。あの目はなんだったのか。気になる。
おそらく化け物の類なんだろう。こういうパターンはすぐに出てくる。もう何回もやってるんだ。今更こんなんでビビる俺じゃない。
「気おつけて進むぞ。多分近くに化け物がいる」
「……わかった」
桃の頭を撫でる。化け物に出来れば会いたくはない。この子を守りながら戦うのはさすがにきついからな。
ふと奥の方に目をやった。なぜかは分からない。本能……といった方がいいかな。とにかく桃の後ろ、奥の方に目を移した。
奥の方から銀色に煌びく、鋭く尖った刃がこっちに向かってきているのがわかった。その速度は凄まじく、まさに銃弾のように速かった。
「桃!!」
俺は桃を横に突き飛ばした。
「え――」
桃は横の壁に激突し、地面に腰から落ちた。この子さっきから腰にダメージばっかいってるな。大丈夫かな。
刃が俺の腹を貫通した。
「ガハッッッッ」
口から血が流れ落ちる。痛い。なんだこれは。
「――はは、また会ったな……」
声が聞こえた。聞こえた先はこの触手が伸びてきている方向だ。近い。コツコツと歩いてくる音が鮮明に聞こえる。
刃が奥に戻って行った。同時に俺の腹からも刃が抜け出す。俺の腹には血のシミがでっかい水滴のようについていた。
呼吸が乱れた。いつまで経っても不意打ちだけはなれないな。
呼吸を整えて顔を上げた。体は痛い。だがそれ以上に俺を刺した化け物がどんなのかが気になったのだ。
そこにはスーツ姿の男がいた。見たことのある白いスーツに白い肌。身長は高く、俺よりも大きい。
こいつは……学校で出会ったやつだ。まさかこいつがホープ・マックイーンなのか!?思っていたよりも顔がいいぞ。あと若い。
「久しぶりだな糞餓鬼。元気にしてたか?」
ホープが俺に向かって、まるで友達に挨拶するかのような声で言ってきた。
「最悪な挨拶の仕方だな。もっと優しくしてくれてもいいんじゃないか?俺は客人だぞ」
「……それもそうだな」
ホープが触手を桃に向かって伸ばした。桃はまた腰を抜かしているようだった。俺はすぐさま桃を引っ張りあげて、俺の後ろに押し倒した。
触手は桃がいた所に深々と刺さった。もしあの場にずっといたなら、首に刃が突き刺さり、桃は死んでいただろう。
あきらかに殺意の籠った攻撃。桃を確実に殺すはずだった刃。なぜ攻撃したのかは分からないが、この時点でホープは俺の殺害対象に入った。説得もする気はない。
触手がホープの元に戻っていく。まさに非科学的な体をしている。本来腕があるはずの場所には、先端に刃がついてある触手が、両方2つずつで合計4本ついている。なんか使いにくそうだな。
「……なぜ助ける。今のお前にそいつは役立たずだろう」
「役はあるさ。俺の精神安定剤って言う役がな」
桃に目を向ける。ホープの言うことは実質正しいとも言える。言いたくはないが。
この後、確実に戦闘となる。ホープとは2度戦っているが、怪我人の桃を守りながら戦える敵ではない。
桃から離れるのもかなり危ないが、ここは別行動をさせないと。
「……桃」
「え……」
「進め。俺はこいつを倒してから追いかける。その間にヒルを探すんだ。いざって時はどこかに隠れてろ」
これが最善だと思いたい。まだここには他の化け物もいるはずだ。少なくとも、上で俺を襲ったデカい女はいるんだ。1人にするのは危ないだろう。
だが、ここで桃を守りながら戦っても2人とも殺される可能性が高い。だからせめて確率の高い方を取るしかない。
「で、でも――「でもでもない!」
桃が涙を浮かべながら驚いた表情をした。
「頼む……俺は死なないからさ。俺のことは心配しなくていい。どこかでずっと隠れていてもいい。……だから進め」
「……っっ!!」
「これは離れ離れになる訳じゃない。ただちょっと別行動するだけだ。安心しろ。どこにいても君は見つけ出すよ」
我ながら結構キザなセリフだと思う。だけど桃には逃げてもらわないといけない。今更恥ずかしがってなんかいられるか。
「……うん!」
桃は力強い返事で返してくれた。そして俺の後ろへと、進んで行った。振り返ってしまうと、心配が心を支配してしまう。それだとダメだ。だから振り向かなかった。これが桃のことを最大限信じた結果だ。
「……お別れは済んだか?」
「あぁ、おかげさまで。待ってくれるなんて随分と優しいんだな」
「あの子はお前との戦いに邪魔だった。だが、あの子がいないとお前の強さを最大限引き出せないだろうからな」
「そんなに俺と戦いたかったのか?まぁあんだけイキっておいてただのガキに2回もやられちゃあボスとしての威厳が持たないからな」
「それもある。だが、あの時は本気じゃなかった。お前も力を最大限出すことはできなかっただろ。だから今度は最大の本気だ」
ホープが触手を振り回し始めた。近づくと首と胴体がお別れ会をしてしまうな。
「お前はこの世界を生きてきた強者だ。今度は俺も手加減なしで行くぞ」
ホープが体を捻らせた。触手が目にも映らないほどの速さで動いたのがなんとかわかった。
「その前に場所を移動させよう。ここじゃあ狭すぎる」
何かが切れる音がする。俺の体ではない。痛みもないしそれは分かる。
ズゴゴゴゴ……
何かが落ちる音がする。コンクリートが落ちている。
「上か!?」
上を見る。しかし何も起こっていない。
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体が無重力になったような感覚がした。しかしそれは一瞬の出来事。そのまたすぐに体が地面に落ちていく感覚に襲われた。というか実際に落ちている。
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続く
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