Catastrophe

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
45 / 82
Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)

45話「ダークナイトシンドローム」

しおりを挟む
「……とりあえずここでよ」

桃が言ってきた。ここにはもう用はない。居ても無駄なだけだしな。どうしてこんなことをしたのかの理由も分かったんだ。充分すぎる。

俺と桃は部屋をあとにした。












「……」
「……」

会話ができない。あんなことを知ってしまったんだ。話そうにも話せない。

しばらく白い道を歩く。もうこの道に慣れてしまった。ヒルの居場所は一向に掴むことはできないし、歩き回るのも疲れたな。

「……っっっ!!??」

桃が腰から地面に落ちた。顔は恐怖に満ちていて、青ざめている。

「どうした!?」
「ぁ、あぁ、め、めめめ、目が……」
「目?」

桃が指を指した。指の方向に顔を向ける。



そこには壁の隙間からニョロっと触手に繋がっている目玉があった。その目玉は充血しており、蛇の目のように鋭い眼光を放っていた。

「っっ……」

まるで蛇に睨まれた蛙のように動くことができない。指一本動くことができない。あれは一体なんなんだ……。


睨め続けられていると、目は壁の隙間に戻って行った。10分くらい見つめられ続けていただろう。

一気に体の重圧が取れた。地面に膝から崩れ落ちる。流れ落ちていた冷や汗を腕で拭い、桃の方に目を向けた。

桃もかなり疲弊しているようで、肩を上下に大きく揺らしてガタガタと震えていた。俺でも動けなくなるほどの威圧感を放つ目に見られていたのだ。こうなっても仕方がない。

「大丈夫か?」
「……う、うん」

と言いつつもまだ体は震えている。

多分腰を抜かしてるんだろう。やはり最初に睨まれたのが効いたのか。

桃の腕を掴んで引っ張りあげた。あんまり食べてないからか、軽い。あの目はなんだったのか。気になる。

おそらく化け物の類なんだろう。こういうパターンはすぐに出てくる。もう何回もやってるんだ。今更こんなんでビビる俺じゃない。

「気おつけて進むぞ。多分近くに化け物がいる」
「……わかった」

桃の頭を撫でる。化け物に出来れば会いたくはない。この子を守りながら戦うのはさすがにきついからな。



ふと奥の方に目をやった。なぜかは分からない。本能……といった方がいいかな。とにかく桃の後ろ、奥の方に目を移した。


















奥の方から銀色に煌びく、鋭く尖った刃がこっちに向かってきているのがわかった。その速度は凄まじく、まさに銃弾のように速かった。

「桃!!」

俺は桃を横に突き飛ばした。

「え――」

桃は横の壁に激突し、地面に腰から落ちた。この子さっきから腰にダメージばっかいってるな。大丈夫かな。


刃が俺の腹を貫通した。

「ガハッッッッ」

口から血が流れ落ちる。痛い。なんだこれは。

「――はは、また会ったな……」

声が聞こえた。聞こえた先はこの触手が伸びてきている方向だ。近い。コツコツと歩いてくる音が鮮明に聞こえる。

刃が奥に戻って行った。同時に俺の腹からも刃が抜け出す。俺の腹には血のシミがでっかい水滴のようについていた。

呼吸が乱れた。いつまで経っても不意打ちだけはなれないな。



呼吸を整えて顔を上げた。体は痛い。だがそれ以上に俺を刺した化け物がどんなのかが気になったのだ。












そこにはスーツ姿の男がいた。見たことのある白いスーツに白い肌。身長は高く、俺よりも大きい。

こいつは……学校で出会ったやつだ。まさかこいつがホープ・マックイーンなのか!?思っていたよりも顔がいいぞ。あと若い。

「久しぶりだな糞餓鬼。元気にしてたか?」

ホープが俺に向かって、まるで友達に挨拶するかのような声で言ってきた。

「最悪な挨拶の仕方だな。もっと優しくしてくれてもいいんじゃないか?俺は客人だぞ」
「……それもそうだな」

ホープが触手を桃に向かって伸ばした。桃はまた腰を抜かしているようだった。俺はすぐさま桃を引っ張りあげて、俺の後ろに押し倒した。

触手は桃がいた所に深々と刺さった。もしあの場にずっといたなら、首に刃が突き刺さり、桃は死んでいただろう。

あきらかに殺意の籠った攻撃。桃を確実に殺すはずだった刃。なぜ攻撃したのかは分からないが、この時点でホープは俺の殺害対象に入った。説得もする気はない。

触手がホープの元に戻っていく。まさに非科学的な体をしている。本来腕があるはずの場所には、先端に刃がついてある触手が、両方2つずつで合計4本ついている。なんか使いにくそうだな。

「……なぜ助ける。今のお前にそいつは役立たずだろう」
「役はあるさ。俺の精神安定剤って言う役がな」

桃に目を向ける。ホープの言うことは実質正しいとも言える。言いたくはないが。

この後、確実に戦闘となる。ホープとは2度戦っているが、怪我人の桃を守りながら戦える敵ではない。

桃から離れるのもかなり危ないが、ここは別行動をさせないと。

「……桃」
「え……」
「進め。俺はこいつを倒してから追いかける。その間にヒルを探すんだ。いざって時はどこかに隠れてろ」

これが最善だと思いたい。まだここには他の化け物もいるはずだ。少なくとも、上で俺を襲ったデカい女はいるんだ。1人にするのは危ないだろう。

だが、ここで桃を守りながら戦っても2人とも殺される可能性が高い。だからせめて確率の高い方を取るしかない。

「で、でも――「でもでもない!」

桃が涙を浮かべながら驚いた表情をした。

「頼む……俺は死なないからさ。俺のことは心配しなくていい。どこかでずっと隠れていてもいい。……だから進め」
「……っっ!!」
「これは離れ離れになる訳じゃない。ただちょっと別行動するだけだ。安心しろ。どこにいても君は見つけ出すよ」

我ながら結構キザなセリフだと思う。だけど桃には逃げてもらわないといけない。今更恥ずかしがってなんかいられるか。

「……うん!」

桃は力強い返事で返してくれた。そして俺の後ろへと、進んで行った。振り返ってしまうと、心配が心を支配してしまう。それだとダメだ。だから振り向かなかった。これが桃のことを最大限信じた結果だ。



「……お別れは済んだか?」
「あぁ、おかげさまで。待ってくれるなんて随分と優しいんだな」
「あの子はお前との戦いに邪魔だった。だが、あの子がいないとお前の強さを最大限引き出せないだろうからな」
「そんなに俺と戦いたかったのか?まぁあんだけイキっておいてただのガキに2回もやられちゃあボスとしての威厳が持たないからな」
「それもある。だが、あの時は本気じゃなかった。お前も力を最大限出すことはできなかっただろ。だから今度は最大の本気だ」

ホープが触手を振り回し始めた。近づくと首と胴体がお別れ会をしてしまうな。

「お前はこの世界を生きてきた強者だ。今度は俺も手加減なしで行くぞ」

ホープが体を捻らせた。触手が目にも映らないほどの速さで動いたのがなんとかわかった。

「その前に場所を移動させよう。ここじゃあ狭すぎる」

何かが切れる音がする。俺の体ではない。痛みもないしそれは分かる。


ズゴゴゴゴ……

何かが落ちる音がする。コンクリートが落ちている。

「上か!?」

上を見る。しかし何も起こっていない。

「残念。下でした」

体が無重力になったような感覚がした。しかしそれは一瞬の出来事。そのまたすぐに体が地面に落ちていく感覚に襲われた。というか実際に落ちている。

俺が落ちていくのと同じタイミングでホープも下へと落ちてきた。

「さぁ、第3ラウンドを始めよう。――死ぬ覚悟はできたか!?」












続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特別。

月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。 一流のスポーツ選手となって活躍する。 ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。 すごい発明をして大金持ちになる。 歴史に名を刻むほどの偉人となる。 現実という物語の中で、主人公になる。 自分はみんなとはちがう。 この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。 自分が生きた証が欲しい。 特別な存在になりたい。 特別な存在でありたい。 特別な存在だったらいいな。 そんな願望、誰だって少しは持っているだろう? でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら…… 自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。 次々と明らかになっていく真実。 特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか…… 伝奇ホラー作品。

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。 最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。 迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく…… 3月24日完結予定 毎日16時ごろに更新します お越しをお待ちしております

噺拾い

かぼちゃ
ホラー
本作品はフィクションです。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

消える死体

ツヨシ
ホラー
女の子の死体が消える

どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。

化茶ぬき
ホラー
十月十四日 地球へと降り注いだ流星群によって人類は滅亡したかと思われた―― しかし、翌日にベッドから起き上がった戎崎零士の目に映ったのは流星群が落ちたとは思えないいつも通りの光景だった。 だが、それ以外の何もかもが違っていた。 獣のように襲い掛かってくる人間 なぜ自分が生き残ったのか ゾンビ化した原因はなんなのか 世界がゾンビに侵されることを望んでいた戎崎零士が 世界に起きた原因を探るために動き出す――

処理中です...