44 / 82
Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
44話「聖者の行進」
しおりを挟む――いつの間にGPSなんて付けていたんだ…
自分でも知らない事が行われていた事に驚きつつも『あぁ』と返事をする。
芹名の声が次第に遠のいているような気がして、何とか意識を保とうと必死に手元の砂を握った。
悠長に電話で話していられるほど、今の龍司に余裕などない。
腹部を銃弾が貫通しているのだ。
頭や心臓に比べると腹部は致命傷という訳ではなく即死はしないが、この状態が長く続けば何が起きても不思議ではない。
これなら、なにも感じず一発で死んだ方がまだ楽だとさえ思った。
「龍司様!大丈夫ですか?ボクたちがそちらに到着するまで、おおよそ20分程かかります。龍司様のご容態を推測すると腹部を撃たれ、血が止まらないという事なので恐らく肝臓か腹大動脈どちらかをかすめている可能性が高いと考えられます。どちらも大量の血液が循環している場所になりますので、今この状態も非常に危険な状況ですっ!…龍司様のジャケットの内ポケットの奥に、止血用と鎮痛剤が一緒になったカプセルが入っています。ボクが開発したものですが、効果は即効性のものなのですぐ使用してください!」
「はぁっ…ッ!ハァッ…!ハァ…ッ!くッ…カプ、セル…?」
「はい!もしもの時の為に入れさせてもらいました。救急車にはボクから電話して龍司様の所へ急いで行って貰うように手配致します!龍司様、お怪我で動ける状況ではないと重々承知ですが…なるべくそこの場所から離れるようにしてください!まだ、龍司様を狙っている人間は近くにいるはず…再び撃たれる可能性がかなり高いです!」
「はぁ…ッ!…分かった…ッ」
龍司は言われた通り、ジャケットの内ポケットの奥を探す。
奥からは小さなプラスチックの容器が出てきた。
恐らくこの中に芹那が開発した薬が入っているのだろう。
振れば、カラカラと中から音がする。
容器についてあるボタンらしき突起物を押すと、引き出しのようにカプセルが1つ乗って出てきた。
指先で掴み押し込むように口に入れると歯で噛み砕く。
中からはドロリとした液体状のものが出てきて、口内へと溶けていく。
龍司は喉を鳴らして液体を飲み込んだ。
味は薬特有の苦みは全くなく、無味無臭と言ったところだ。
「今―…薬を飲んだ…そろそろ、切る…ッ」
「…かしこまりました…。龍司様、どうかご無事で――。」
電話を切るとジャケットの横ポケットに仕舞い、手元の砂を握る。
芹名が即効性と言っていただけの事はある。
薬を飲む前と比べ、少しではあるが痛みが幾分和らいだ気がした。
変わらず腹部から下は、流れた血で真っ赤だが、流れたまま一向に止まることがなかった血液の流れが、薬を飲む前に比べて若干遅くなった気がする。
腕に力を入れて匍匐前進で体を前へと移動させる。
龍司が前に進むたびに砂が体中へばりつき、砂浜が赤く染まった
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。
鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。
最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。
迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく……
3月24日完結予定
毎日16時ごろに更新します
お越しをお待ちしております

特別。
月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。
一流のスポーツ選手となって活躍する。
ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。
すごい発明をして大金持ちになる。
歴史に名を刻むほどの偉人となる。
現実という物語の中で、主人公になる。
自分はみんなとはちがう。
この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。
自分が生きた証が欲しい。
特別な存在になりたい。
特別な存在でありたい。
特別な存在だったらいいな。
そんな願望、誰だって少しは持っているだろう?
でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら……
自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。
次々と明らかになっていく真実。
特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか……
伝奇ホラー作品。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……


どうやら世界が滅亡したようだけれど、想定の範囲内です。
化茶ぬき
ホラー
十月十四日
地球へと降り注いだ流星群によって人類は滅亡したかと思われた――
しかし、翌日にベッドから起き上がった戎崎零士の目に映ったのは流星群が落ちたとは思えないいつも通りの光景だった。
だが、それ以外の何もかもが違っていた。
獣のように襲い掛かってくる人間
なぜ自分が生き残ったのか
ゾンビ化した原因はなんなのか
世界がゾンビに侵されることを望んでいた戎崎零士が
世界に起きた原因を探るために動き出す――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる