Catastrophe

アタラクシア

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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)

29話「最果ての摩天楼」

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――次の日。

あれから俺は左目で弓を撃つ練習をしていた。外にいるゾンビを的にしてひたすら撃ち続けた。撃った矢はヒルが取りに行ってくれたから俺は動かずにすんだ。

これから黒幕の所に忍び込むんだから不完全だとダメだ。せめて弓だけでも完全にしておかないといけない。片目のハンデはかなりでかいからな。

傷を治している暇はない。今、桃が生きているという確証もないからな。祈るしか方法がない。

「ワン!」
「……ヒル……お前だけが癒しだよ……」

ヒルの頭を撫でた。ヒルは俺の精神を回復させてくれる最高の存在だ。もしこの子がいなかったら俺はどうなっているんだろうな。









「……よし」

全員に毛布をかけ終わった。……これで何度目だろうな。もう嫌になってくる。いつまでたっても慣れない……というと嘘になるのが嫌だ。

「……桃を助けに行ってくる。少し時間はかかるかもだけど……終わったらまたここに戻ってくるよ。それまでは……ゆっくり寝ててね」

俺は皆に背を向けて歩き出した。ヒルも俺の後ろについてくる。俺は振り返ることなく拠点をあとにした。









空はまだ明るかった。空気は暑くはないけど寒くもなかった。気持ち悪い空気が辺りを包み込んでいる。呼吸する度に不純物を吸い込んでいるようだ。



タキオン株式会社につくのにそう時間がかからなかった。会社はかなりでかく、ビルというよりもどデカい病院みたいな感じだった。辺りを塀で囲んでおり、上には有刺鉄線が巻き付けられてある。上からの侵入はキツそうだ。

正面からの入口もあるが屈強そうな兵士が銃を持って立っている。ゾンビにもなっていないようだ。

とりあえず近くの草むらに隠れて兵士たちの動向を見る。いざと言う時は弓で狙撃すればいい。もう左打ちにも慣れたからな。



しばらく待っていると1人の若い男性と小さい女の子がフラフラしながら正面入口に歩いてくるのが見えた。服はボロボロで血が着いており、だいたい何があったのかは察せられる。

「た、たた、た、助けてください……」
「名前は?」
「に、西村 則夫ですぅ……どうか、どうか入れてくださいぃ……」
「いいだろう。入ってまっすぐ行けば会社の入口だ」
「あ、ありがとうございます!よかったな!助かるぞ環奈!」
「や、やったぁ……」

男と少女が嬉しそうに歩き出した。希望が見えたかのように目をキラキラとさせて歩く。歩き方はたどたどしいがそれでもまっすぐ歩いた。












男が正面入口を通り抜けた瞬間、兵士のうちの1人が男を撃ち殺した。男は地面に倒れる。

「……え?……お父さん?……お父さん、お父さん!!お父さん!!!お父さ――」

少女も撃ち殺された。兵士たちは殺す時も無表情だった。

「これ片付けてきてくれ」
「えーさっきも俺がやったじゃん」
「あれはジャンケンで負けたからだろ。頼むよ」
「ちぇ、分かったよ」

何事もないかのように日常の会話を続けていた。体がゾワッとした。それと同時に俺はわかったことがある。ここには重要な何かある、と。


弦に矢をつがえる。ここに重要な何かがあるのはわかった。あとは侵入するだけだ。周りから入るのは無理だからとりあえず正面突破をする。

少し移動した。兵士たち2人は横一列に並んでいる。だから兵士たちが重なるところで撃てば2人いっぺんに殺すことができるはずだ。

弦を引いて、矢を放った。狙い通り矢は手前の男の頭を貫通した後、奥の男の頭もそのまま撃ち抜いた。とりあえずはこれで安心だ。





タキオン株式会社の扉の前についた。ここの中に桃がいる。もしかしたらあの女がまた嘘をついている可能性もあるがここに何かがあるのは確定している。


目を瞑って今までの事を思い出す。

母を殺してしまったこと。初っ端からいい思い出じゃないな。

神蔵さんと花蓮ちゃんのこと。そういえばいきなり殺されかけたっけな。……あの人たちも守れなかったな。

グラミスさんや龍之介さんや金地のこと。全員なんだかんだいい人だったな。……この人たちも守れなかったな……。

透くんに日向ちゃん。……思い出したくはない。

ヒルとは下水道であったっけ。いい思い出かと言われるとそれはないと言いきれるな。

そして、ログにハンガー、バジルや笠松、マギーとワイトにマヤ。……みんないい人だった。もう少しだけ生きてて欲しかった。



いい思い出なんてなかった。だけどある意味このバイオハザードのおかげでみんなに出会えたんだ。その点は感謝しないとな。……やっぱ感謝するのは嫌だな。全てが終わったら、みんなの墓を作ってあげよう。うん、それがいい。

あとは桃を助けるだけだ。心残りはない。ヒルの頭を撫でる。

「クゥゥゥン……」

気持ちよさそうに唸っている。出来ればヒルを逃がしてあげたいが……心のどこかで1人になりたくないって思ってる自分がいる。ヒルには悪いが全て俺の身勝手だ。





頬を叩いて気合いを入れる。体は既にボロボロだ。そんなのは分かってる。今の俺に必要なのは精神力だ。ここから先は何があってもへこたれてる暇はなくなるんだ。俺のやるべきことはただ1つ。『桃を助ける』だ。ただそれ1つのみ。それ以外は捨てろ。

俺は扉を開けた。












続く
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