29 / 82
Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
29話「最果ての摩天楼」
しおりを挟む 目が覚めるとレイズナーが隣で私を見つめていることに驚き、昨晩を思い出し顔が真っ赤になった。
「おはようヴィクトリカ」
「これで本当に夫婦になったわね」
互いに裸で寝たらしく、どこを見ていいか分からず天井を睨み付けていると、レイズナーがキスをしてきた。
「これからは寝室を一緒にしないか。パーティから戻ってからの話しだが」
昨日私に触れた手が、再び体に触れてくる。
キスは次第に熱を帯び、アイラが入って来なければ、私はまた自分を見失うところだった。彼女はノックはするようになったものの、せっかちな性格故か、返事を待たずに扉を開ける。
アイラは素っ裸の私たちを見て、レイズナーが無理矢理襲ったのだと勘違いし、怒り狂いながら彼を追い回す。
誤解を解くため説明しなくてはならず、再び私は自分の顔が赤くなるのを感じた。
*
婚約パーティは、王都からやや離れたヒースの父が所有する屋敷で行われるということだった。一泊二日で、明日の昼には向こうを発つ。
従者の他に、護衛としてハンが名乗り出た。
気が進まないなら行かなくていい、とレイズナーは言ってくれたけど、私には出席する理由が山ほどあった。
帰ってからの楽しみもある。
アイラとハンに、言葉を教える約束をしている。テオと一緒に料理をするのも、帰ったその日にすることになっている。今までは考えられなかったことだけど、彼女たちとの交流を、私は楽しみにしていた。
馬車で、隣にいるレイズナーを盗み見ようとして失敗した。視線に気付いた彼が私を見たからだ。
「何だ?」
「いいえ、あなたの目の色って、とても綺麗だと思って」
彼はわずかに笑った。
レイズナーの盗み見に失敗する理由には気がついていた。彼はいつも、私の様子を気にかけている。
彼は私のことが好きなんだ。結婚を申し込んだのも、初めからただ、それだけだった。
このまま、本当の夫婦になれるかもしれない。
そう思うと、心も落ち着いていた。レイズナーを処刑するなんて、きっとお兄様の脅しに違いない。だって二人は友人だったんだから。
お兄様に言おう。私は自分の意思でレイズナーと一晩共にしたし、これから先もそのつもりだと。私は意思のある一人の人間で、お兄様の言うことを聞いているだけの人形じゃない。
パーティが終わったら、レイズナーに、お兄様から言われたことを伝えよう。レイズナーが人を殺したことがあるなんて、誤解に違いない。彼は、皆が言っているような冷酷非道の人間じゃないんだから。
会場に着くと、ポーリーナとヒースが連れ立ってやってきた。
「まあレイブン、馬子にも衣装ね」
「彼をそんな風に言わないで」
「あら! お姉様だってレイブンを嫌っていたでしょう?」
わざとレイズナーに聞かせるようにポーリーナは言う。言葉に気をつけながら答えた。
「以前は確かに、そうだったわ。だけど、今は考えを改めたの」
腕を組む私とレイズナーをじっと見つめ、ポーリーナははっとしたように言った。
「彼に抱かれたのね!」
ヒースがぎょっとした様子でポーリーナを見た。
側にいた貴族達がざわつき私たちを見ても、ポーリーナは収まらない。
「そうなんでしょう? 彼と寝たんだわ!」
レイズナーが微かに眉を上げ私を見る。彼の口元に、まいったとでも言いたげな笑みがあるのを見て、私は安堵した。彼は妹の癇癪気味な当てつけを、気にしていないようだ。
「ポーリーナ。なんてことを大声で言っているんです。夫婦なんだもの、当然のことでしょう?」
その時聞こえた鋭い声に、私は自分の頬が緩むのを禁じ得なかった。
「ルイサお姉様!」
貴族達の中から現れたのは大きなお腹を抱えたルイサお姉様だった。会うのは年始の挨拶で渡航して以来、数ヶ月ぶりだった。相変わらず、他を圧倒する豪華絢爛なドレスを着て、きっちりと結い上げられたブロンドの髪には宝石がちりばめられた飾りが埋め込まれ、隙の無い完璧な化粧をしていた。
レイズナーとヒースが頭を下げる。
「レイブン、わたくしの可愛い妹を妻にした気分はどう?」
「この世で一番幸福な思いです」
「でしょうね。違う言葉が返ってきたら、わたくしはあなたを殺していたでしょう」
レイズナーの口元が引きつるのが見えた。
「後で、ゆっくり話しましょう、ヴィクトリカ。二人きりでね?」
じゃ、と言ってお姉様が去る。そっけないのは、今後の作戦のためだろうか。
でも、と私は思う。
助けを求めた手前情けないことではあるけれど、レイズナーとの関係を続けていくことに希望を見いだしていることを、言わなくてはならない。
お姉様が去ると、ポーリーナとヒースも別の客の世話があると去って行った。
お兄様は夕食に間に合うように到着するとのことだった。それまでは立食形式のパーティが続く。
レイズナーと私は、それぞれ話しかけてくる人たちの相手をし、そのうちに距離が空いていった。
ポーリーナが再びやってきたのはその頃だ。かなり酒を飲んでいる様子で、顔が上気している。
「ヴィクトリカお姉様、お元気ぃ?」
楽しそうに私の腕を掴むと、庭の外へ連れ出した。庭にも数人の貴族達が立ち話をしていたが、こちらを気に留めた様子もない。
ポーリーナははしゃぎながら言った。
「なんていい気分なのかしら? こんなの、久しぶりだわ! 皆、私を羨ましがるんだもの、主役になった気がするわ」
「もちろんあなたが主役なのよポーリーナ。今日のあなたはとても綺麗よ。私からもお祝いを言うわ」
「お姉様、幸せそうね」
「ええ、まあ」
一瞬にして、ポーリーナは冷めた視線になる。
「ヒースが言っていたわ。お姉様って彼を愛さなかったんでしょう? ヒースがどれほど寂しい思いをしてたか知ってる? レイブンに乗り換えて、さぞご満悦でしょうね」
「そんなんじゃないわ!」
驚いて声を荒げた。ヒースがそんなことを言うなんて。それともポーリーナの嘘だろうか。
「皆が見ているわ。声を小さくしてね?」
「私は式の日まで、花婿が違う人になっていただなんて知らなかった。ヒースを愛していたし、レイズナーなんて愛していなかった! 彼との結婚なんて望んでいなかったわ!」
言い切ると、今度はポーリーナが目を見開いた。
「嘘よ! お姉様の嘘つき!」
「ヴィクトリカが言っていることは本当さ」
突然、レイズナーの声がした。振り返ると、片手にワイングラスを持った彼がいる。
「俺は彼女欲しさに結婚を申し込み、君たちのお兄様はそれを認めた。ヴィクトリカ王女は、望まぬ結婚に身を堕とし、悪魔と評される極悪人と結ばれた。それが全てで、それ以外の真実などない」
ポーリーナは、ひどく打ちのめされた表情になる。私も冷静でいられなかった。たとえ始まりは無理矢理だったとしても、今はレイズナーと夫婦としてやっていきたいと思っている。
だけどレイズナーは凍り付くような冷酷な表情をしていた。彼を愛していないと言ったから? 今は違うと断言できるの? ――私は何も言えなくなる。
ポーリーナは私たちを見比べて、呆然と呟いた。
「そんな……そんなはずないわ」
ふらりと彼女は立ち上がり、パーティの中に戻っていく。私はレイズナーに向き合った。
「レイズナー、今のは違うのよ。いいえ、違くはないんだけど、少なくとも今は」
「分かっているさ。君の全ての煩いの原因は俺だ、だけど君を解放するつもりはない。残念ながら、一生ね」
レイズナーは少しも分かっていない。なんと説明しようかと考えていると、庭で楽しげに話す女性の声が聞こえ、はっとしたようにレイズナーは顔をそちらへ向けた。
「おはようヴィクトリカ」
「これで本当に夫婦になったわね」
互いに裸で寝たらしく、どこを見ていいか分からず天井を睨み付けていると、レイズナーがキスをしてきた。
「これからは寝室を一緒にしないか。パーティから戻ってからの話しだが」
昨日私に触れた手が、再び体に触れてくる。
キスは次第に熱を帯び、アイラが入って来なければ、私はまた自分を見失うところだった。彼女はノックはするようになったものの、せっかちな性格故か、返事を待たずに扉を開ける。
アイラは素っ裸の私たちを見て、レイズナーが無理矢理襲ったのだと勘違いし、怒り狂いながら彼を追い回す。
誤解を解くため説明しなくてはならず、再び私は自分の顔が赤くなるのを感じた。
*
婚約パーティは、王都からやや離れたヒースの父が所有する屋敷で行われるということだった。一泊二日で、明日の昼には向こうを発つ。
従者の他に、護衛としてハンが名乗り出た。
気が進まないなら行かなくていい、とレイズナーは言ってくれたけど、私には出席する理由が山ほどあった。
帰ってからの楽しみもある。
アイラとハンに、言葉を教える約束をしている。テオと一緒に料理をするのも、帰ったその日にすることになっている。今までは考えられなかったことだけど、彼女たちとの交流を、私は楽しみにしていた。
馬車で、隣にいるレイズナーを盗み見ようとして失敗した。視線に気付いた彼が私を見たからだ。
「何だ?」
「いいえ、あなたの目の色って、とても綺麗だと思って」
彼はわずかに笑った。
レイズナーの盗み見に失敗する理由には気がついていた。彼はいつも、私の様子を気にかけている。
彼は私のことが好きなんだ。結婚を申し込んだのも、初めからただ、それだけだった。
このまま、本当の夫婦になれるかもしれない。
そう思うと、心も落ち着いていた。レイズナーを処刑するなんて、きっとお兄様の脅しに違いない。だって二人は友人だったんだから。
お兄様に言おう。私は自分の意思でレイズナーと一晩共にしたし、これから先もそのつもりだと。私は意思のある一人の人間で、お兄様の言うことを聞いているだけの人形じゃない。
パーティが終わったら、レイズナーに、お兄様から言われたことを伝えよう。レイズナーが人を殺したことがあるなんて、誤解に違いない。彼は、皆が言っているような冷酷非道の人間じゃないんだから。
会場に着くと、ポーリーナとヒースが連れ立ってやってきた。
「まあレイブン、馬子にも衣装ね」
「彼をそんな風に言わないで」
「あら! お姉様だってレイブンを嫌っていたでしょう?」
わざとレイズナーに聞かせるようにポーリーナは言う。言葉に気をつけながら答えた。
「以前は確かに、そうだったわ。だけど、今は考えを改めたの」
腕を組む私とレイズナーをじっと見つめ、ポーリーナははっとしたように言った。
「彼に抱かれたのね!」
ヒースがぎょっとした様子でポーリーナを見た。
側にいた貴族達がざわつき私たちを見ても、ポーリーナは収まらない。
「そうなんでしょう? 彼と寝たんだわ!」
レイズナーが微かに眉を上げ私を見る。彼の口元に、まいったとでも言いたげな笑みがあるのを見て、私は安堵した。彼は妹の癇癪気味な当てつけを、気にしていないようだ。
「ポーリーナ。なんてことを大声で言っているんです。夫婦なんだもの、当然のことでしょう?」
その時聞こえた鋭い声に、私は自分の頬が緩むのを禁じ得なかった。
「ルイサお姉様!」
貴族達の中から現れたのは大きなお腹を抱えたルイサお姉様だった。会うのは年始の挨拶で渡航して以来、数ヶ月ぶりだった。相変わらず、他を圧倒する豪華絢爛なドレスを着て、きっちりと結い上げられたブロンドの髪には宝石がちりばめられた飾りが埋め込まれ、隙の無い完璧な化粧をしていた。
レイズナーとヒースが頭を下げる。
「レイブン、わたくしの可愛い妹を妻にした気分はどう?」
「この世で一番幸福な思いです」
「でしょうね。違う言葉が返ってきたら、わたくしはあなたを殺していたでしょう」
レイズナーの口元が引きつるのが見えた。
「後で、ゆっくり話しましょう、ヴィクトリカ。二人きりでね?」
じゃ、と言ってお姉様が去る。そっけないのは、今後の作戦のためだろうか。
でも、と私は思う。
助けを求めた手前情けないことではあるけれど、レイズナーとの関係を続けていくことに希望を見いだしていることを、言わなくてはならない。
お姉様が去ると、ポーリーナとヒースも別の客の世話があると去って行った。
お兄様は夕食に間に合うように到着するとのことだった。それまでは立食形式のパーティが続く。
レイズナーと私は、それぞれ話しかけてくる人たちの相手をし、そのうちに距離が空いていった。
ポーリーナが再びやってきたのはその頃だ。かなり酒を飲んでいる様子で、顔が上気している。
「ヴィクトリカお姉様、お元気ぃ?」
楽しそうに私の腕を掴むと、庭の外へ連れ出した。庭にも数人の貴族達が立ち話をしていたが、こちらを気に留めた様子もない。
ポーリーナははしゃぎながら言った。
「なんていい気分なのかしら? こんなの、久しぶりだわ! 皆、私を羨ましがるんだもの、主役になった気がするわ」
「もちろんあなたが主役なのよポーリーナ。今日のあなたはとても綺麗よ。私からもお祝いを言うわ」
「お姉様、幸せそうね」
「ええ、まあ」
一瞬にして、ポーリーナは冷めた視線になる。
「ヒースが言っていたわ。お姉様って彼を愛さなかったんでしょう? ヒースがどれほど寂しい思いをしてたか知ってる? レイブンに乗り換えて、さぞご満悦でしょうね」
「そんなんじゃないわ!」
驚いて声を荒げた。ヒースがそんなことを言うなんて。それともポーリーナの嘘だろうか。
「皆が見ているわ。声を小さくしてね?」
「私は式の日まで、花婿が違う人になっていただなんて知らなかった。ヒースを愛していたし、レイズナーなんて愛していなかった! 彼との結婚なんて望んでいなかったわ!」
言い切ると、今度はポーリーナが目を見開いた。
「嘘よ! お姉様の嘘つき!」
「ヴィクトリカが言っていることは本当さ」
突然、レイズナーの声がした。振り返ると、片手にワイングラスを持った彼がいる。
「俺は彼女欲しさに結婚を申し込み、君たちのお兄様はそれを認めた。ヴィクトリカ王女は、望まぬ結婚に身を堕とし、悪魔と評される極悪人と結ばれた。それが全てで、それ以外の真実などない」
ポーリーナは、ひどく打ちのめされた表情になる。私も冷静でいられなかった。たとえ始まりは無理矢理だったとしても、今はレイズナーと夫婦としてやっていきたいと思っている。
だけどレイズナーは凍り付くような冷酷な表情をしていた。彼を愛していないと言ったから? 今は違うと断言できるの? ――私は何も言えなくなる。
ポーリーナは私たちを見比べて、呆然と呟いた。
「そんな……そんなはずないわ」
ふらりと彼女は立ち上がり、パーティの中に戻っていく。私はレイズナーに向き合った。
「レイズナー、今のは違うのよ。いいえ、違くはないんだけど、少なくとも今は」
「分かっているさ。君の全ての煩いの原因は俺だ、だけど君を解放するつもりはない。残念ながら、一生ね」
レイズナーは少しも分かっていない。なんと説明しようかと考えていると、庭で楽しげに話す女性の声が聞こえ、はっとしたようにレイズナーは顔をそちらへ向けた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ill〜怪異特務課事件簿〜
錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。
ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。
とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。
お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。
鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。
最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。
迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく……
3月24日完結予定
毎日16時ごろに更新します
お越しをお待ちしております

特別。
月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。
一流のスポーツ選手となって活躍する。
ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。
すごい発明をして大金持ちになる。
歴史に名を刻むほどの偉人となる。
現実という物語の中で、主人公になる。
自分はみんなとはちがう。
この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。
自分が生きた証が欲しい。
特別な存在になりたい。
特別な存在でありたい。
特別な存在だったらいいな。
そんな願望、誰だって少しは持っているだろう?
でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら……
自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。
次々と明らかになっていく真実。
特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか……
伝奇ホラー作品。
ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける
気ままに
ホラー
家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!
しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!
もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!
てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。
ネタバレ注意!↓↓
黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。
そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。
そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……
"P-tB"
人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……
何故ゾンビが生まれたか……
何故知性あるゾンビが居るのか……
そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

鎌倉呪具師の回収録~使霊の箱~
平本りこ
ホラー
――恐ろしきは怨霊か、それとも。
土蔵珠子はある日突然、婚約者と勤め先、住んでいた家を同時に失った。
六年前、母に先立たれた珠子にとって、二度目の大きな裏切りだった。
けれど、悲嘆にくれてばかりもいられない。珠子には頼れる親戚もいないのだ。
住む場所だけはどうにかしなければと思うが、職も保証人もないので物件探しは難航し、なんとか借りることのできたのは、鎌倉にあるおんぼろアパートだ。
いわくつき物件のご多分に漏れず、入居初日の晩、稲光が差し込む窓越しに、珠子は恐ろしいものを見てしまう。
それは、古風な小袖を纏い焼けただれた女性の姿であった。
時を同じくして、呪具師一族の末裔である大江間諭が珠子の部屋の隣に越して来る。
呪具とは、鎌倉時代から続く大江間という一族が神秘の力を織り合わせて作り出した、超常現象を引き起こす道具のことである。
諭は日本中に散らばってしまった危険な呪具を回収するため、怨霊の気配が漂うおんぼろアパートにやってきたのだった。
ひょんなことから、霊を成仏させるために強力することになった珠子と諭。やがて、珠子には、残留思念を読む異能があることがわかる。けれどそれは生まれつきのものではなく、どうやら珠子は後天的に、生身の「呪具」になってしまったようなのだ。
さらに、諭が追っている呪具には珠子の母親の死と関連があることがわかってきて……。
※毎日17:40更新
最終章は3月29日に4エピソード同時更新です

怨念がおんねん〜祓い屋アベの記録〜
君影 ルナ
ホラー
・事例 壱
『自分』は真冬に似合わない服装で、見知らぬ集落に向かって歩いているらしい。
何故『自分』はあの集落に向かっている?
何故『自分』のことが分からない?
何故……
・事例 弍
??
──────────
・ホラー編と解決編とに分かれております。
・純粋にホラーを楽しみたい方は漢数字の話だけを、解決編も楽しみたい方は数字を気にせず読んでいただけたらと思います。
・フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる