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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
28話「守るべきだったもの」
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拳を握りしめる。ハーデストの腕は元の長さに戻っていった。訳の分からない体質をしやがって。
横を軽く見る。さっきまで元気だったマヤの体が地面に横たわっている。……言いたくないがマヤのおかげで初見殺しの技はわかった。この子の死は無駄ではない。
「楓夜!」
マギーの声だ。フラフラしながらこっちに歩いてきた。
「……笠松とマヤは……」
軽く辺りを見た。顔が徐々に歪んでいくのがわかる。
「……すまない。守れなかった」
「いや……俺も戦えなかったのが悪いんだ。……ここからだ。ここからこいつを殺すぞ……」
「分かってる」
ハーデストは必ず倒す。ここまでやられて黙って逃げる訳にはいかないんだ。
「それで……どうやるの?」
ワイトも来た。無い方の腕に布を巻いている。布には血が着いており、なかなかに痛々しい。
「……あっそうだ。わざわざ回りくどいことをしなくてもいいじゃねぇか」
「どういうことだ?」
「こいつは一応カニだよな?」
「まぁそう見えるけど……」
「カニは口になにか鋭いものを刺して回転させて締めるというのがあるんだ」
2人がジト目でこちらを見てくる。
「……まじでそれやるのか?」
「これが確実だろ」
「……仕方ないね。やるしかない」
ハーデストが蟹かどうかは正直怪しいがやるしかない。だが問題は――。
「誰が近づくか……か」
「俺が行くよ。言い出しっぺの法則って言うだろ?」
俺はどうせ死なないからな。こういう特攻みたいなのがお似合いだ。
「なら俺も行く。お前が刺して、俺がハーデストの動きを止める。ワイトは援護を頼むぞ」
「いいのか?」
「問題は無い」
「片腕だから足でまといにはなるけどごめんね」
「いつも通りだろ」
「うるせ」
大きく息を吸う。ハーデストは俺の事を睨みつけている。俺もハーデストのことをめいいっぱいの敵意を向けて睨みつけた。
ハーデストに向かって走る。ワイトは柱を盾にしながら回りこんだ。
ハーデストが腕を振り上げた。鋭く光るハサミが高速で回転し始める。まるで丸鋸のようだ。
ウィィィィィィィィン!!!!
高速回転するハサミを俺に向かって叩きつけてきた。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!」
マギーが俺の前に立ってハーデストの腕を受け止めた。目の前がマギーの血で染まった。
「マギ……」
声を出したかった。助けたかった。だが今は最大級のチャンス。それもマギーが作ってくれたものだ。それを無に返すことはできない。
俺はマギーを避けて走った。クイーバーから矢を取り出す。狙うはハーデストの口の奥。
――矢を握りしめる。
――腰を捻って力を溜める。
――息を大きく吐いて脱力する。
――手の力を抜いてムチのようにしならせる。
――足は固定してうごかさないようにする。
溜めた力を解放させてハーデストの口の中に矢を差し込んだ。ゴリッという音を立てながら奥に奥にねじ込む。
「カカカカカ」
ハーデストの口から紫色の唾液にも似た血がドバドバと出てくる。ハーデストがブルブルと震えている。
「がぁ!!ぁぁぁ……」
後ろで肉が落ちるような音が聞こえた。何の音かは考えたくない。今はとにかくこいつを殺すことだけに集中する。
ブゥゥゥゥゥン!!!
後ろから音が近づいてきた。まだハーデストは生きている。せめてあと少しだけ……あとほんの少しだけ……。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ガルルルルルゥゥゥ!!!!!!」
ワイトとヒルの声が聞こえた。それと同時に肉が裂ける音も聞こえる。……せめてこいつを、こいつを殺さないと……。
「……これで、終わりだァァァ!!!」
矢をさらに奥へと差し込んだ。
「ガ……ガブッ……」
後ろからの音が消えた。地面に金属が落ちるような音がする。ハーデストの膝がついた。
「ハァハァ……クソッタレめ……」
俺の膝もついた。疲れからか頭がぼーっとする。
肩から地面に倒れた。せめて気絶する前にちゃんとハーデストが死んだかを確認しないと……。
ハーデストに目をやる。ハーデストの頭は白く風化していった。そして、いつものように。いつも見ていたように白い灰となって消えていった。
よかった。倒せたんだ。みんなで力を合わせて倒せたんだ。これで終わった。少しだけ疲れたな。だけどまだ休んでられない。
桃を助けないと。桃だ。皆が桃を助けるために俺を生かしたんだ。俺はせめて役目を果たさないと。……でもちょっとだけ。ちょっとだけ――寝ようかな――。
「クゥゥゥン……」
目が覚めた。何とか体を起こした。近くにはヒルがいた。
「あぁ……ヒルか……よーしよしよし」
ヒルの頭を撫でる。ヒルにもかなり助けられた。この子の功績はなかなかでかいぞ。後でお肉やろう。
そうだ。みんなと一緒に食べよう。やっぱりタンパク質を取らないと人間は生きてられないや。
「なぁ、皆で肉を食べようぜ。確か缶ずめであったよな――」
俺の見えてる景色に生きている人はいなかった。地面は洪水でも起きたかのように血で満たされている。辺り一体には鉄の香りが漂っている。いつも嗅いでいたはずだ。なのに……なぜか今日のは……いつもより嫌な感じだ。
笠松の上半身だけが近くで倒れている。
マギーの切れた体から血が出ている。
ワイトの半分に割れた体が血溜まりに浮かんでいる。
マヤの頭が近くに寄ってきた。顔からは涙が流れていた。
「ハハ……結構、こうなるのかよ……」
俺は死体から目を逸らすように天井を見上げながらそう呟いたのだった。
続く
横を軽く見る。さっきまで元気だったマヤの体が地面に横たわっている。……言いたくないがマヤのおかげで初見殺しの技はわかった。この子の死は無駄ではない。
「楓夜!」
マギーの声だ。フラフラしながらこっちに歩いてきた。
「……笠松とマヤは……」
軽く辺りを見た。顔が徐々に歪んでいくのがわかる。
「……すまない。守れなかった」
「いや……俺も戦えなかったのが悪いんだ。……ここからだ。ここからこいつを殺すぞ……」
「分かってる」
ハーデストは必ず倒す。ここまでやられて黙って逃げる訳にはいかないんだ。
「それで……どうやるの?」
ワイトも来た。無い方の腕に布を巻いている。布には血が着いており、なかなかに痛々しい。
「……あっそうだ。わざわざ回りくどいことをしなくてもいいじゃねぇか」
「どういうことだ?」
「こいつは一応カニだよな?」
「まぁそう見えるけど……」
「カニは口になにか鋭いものを刺して回転させて締めるというのがあるんだ」
2人がジト目でこちらを見てくる。
「……まじでそれやるのか?」
「これが確実だろ」
「……仕方ないね。やるしかない」
ハーデストが蟹かどうかは正直怪しいがやるしかない。だが問題は――。
「誰が近づくか……か」
「俺が行くよ。言い出しっぺの法則って言うだろ?」
俺はどうせ死なないからな。こういう特攻みたいなのがお似合いだ。
「なら俺も行く。お前が刺して、俺がハーデストの動きを止める。ワイトは援護を頼むぞ」
「いいのか?」
「問題は無い」
「片腕だから足でまといにはなるけどごめんね」
「いつも通りだろ」
「うるせ」
大きく息を吸う。ハーデストは俺の事を睨みつけている。俺もハーデストのことをめいいっぱいの敵意を向けて睨みつけた。
ハーデストに向かって走る。ワイトは柱を盾にしながら回りこんだ。
ハーデストが腕を振り上げた。鋭く光るハサミが高速で回転し始める。まるで丸鋸のようだ。
ウィィィィィィィィン!!!!
高速回転するハサミを俺に向かって叩きつけてきた。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!」
マギーが俺の前に立ってハーデストの腕を受け止めた。目の前がマギーの血で染まった。
「マギ……」
声を出したかった。助けたかった。だが今は最大級のチャンス。それもマギーが作ってくれたものだ。それを無に返すことはできない。
俺はマギーを避けて走った。クイーバーから矢を取り出す。狙うはハーデストの口の奥。
――矢を握りしめる。
――腰を捻って力を溜める。
――息を大きく吐いて脱力する。
――手の力を抜いてムチのようにしならせる。
――足は固定してうごかさないようにする。
溜めた力を解放させてハーデストの口の中に矢を差し込んだ。ゴリッという音を立てながら奥に奥にねじ込む。
「カカカカカ」
ハーデストの口から紫色の唾液にも似た血がドバドバと出てくる。ハーデストがブルブルと震えている。
「がぁ!!ぁぁぁ……」
後ろで肉が落ちるような音が聞こえた。何の音かは考えたくない。今はとにかくこいつを殺すことだけに集中する。
ブゥゥゥゥゥン!!!
後ろから音が近づいてきた。まだハーデストは生きている。せめてあと少しだけ……あとほんの少しだけ……。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ガルルルルルゥゥゥ!!!!!!」
ワイトとヒルの声が聞こえた。それと同時に肉が裂ける音も聞こえる。……せめてこいつを、こいつを殺さないと……。
「……これで、終わりだァァァ!!!」
矢をさらに奥へと差し込んだ。
「ガ……ガブッ……」
後ろからの音が消えた。地面に金属が落ちるような音がする。ハーデストの膝がついた。
「ハァハァ……クソッタレめ……」
俺の膝もついた。疲れからか頭がぼーっとする。
肩から地面に倒れた。せめて気絶する前にちゃんとハーデストが死んだかを確認しないと……。
ハーデストに目をやる。ハーデストの頭は白く風化していった。そして、いつものように。いつも見ていたように白い灰となって消えていった。
よかった。倒せたんだ。みんなで力を合わせて倒せたんだ。これで終わった。少しだけ疲れたな。だけどまだ休んでられない。
桃を助けないと。桃だ。皆が桃を助けるために俺を生かしたんだ。俺はせめて役目を果たさないと。……でもちょっとだけ。ちょっとだけ――寝ようかな――。
「クゥゥゥン……」
目が覚めた。何とか体を起こした。近くにはヒルがいた。
「あぁ……ヒルか……よーしよしよし」
ヒルの頭を撫でる。ヒルにもかなり助けられた。この子の功績はなかなかでかいぞ。後でお肉やろう。
そうだ。みんなと一緒に食べよう。やっぱりタンパク質を取らないと人間は生きてられないや。
「なぁ、皆で肉を食べようぜ。確か缶ずめであったよな――」
俺の見えてる景色に生きている人はいなかった。地面は洪水でも起きたかのように血で満たされている。辺り一体には鉄の香りが漂っている。いつも嗅いでいたはずだ。なのに……なぜか今日のは……いつもより嫌な感じだ。
笠松の上半身だけが近くで倒れている。
マギーの切れた体から血が出ている。
ワイトの半分に割れた体が血溜まりに浮かんでいる。
マヤの頭が近くに寄ってきた。顔からは涙が流れていた。
「ハハ……結構、こうなるのかよ……」
俺は死体から目を逸らすように天井を見上げながらそう呟いたのだった。
続く
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