Catastrophe

アタラクシア

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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)

26話「命の隙間」

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ガキン!!!

鉄と鉄がぶつかる高い音が聞こえた。前を向く。

「ぬぬぬ……」

そこには刀でハーデストのハサミを受け止めている笠松の姿があった。ハーデストの体格は2m近くある。そんな化け物相手に力で張り合っているのだ。

「楓夜!立てる!?」

マヤが肩を貸してくれた。悔しいが一旦離れないと。あんな脳みそなさそうなやつにしてやられたのは腹が立つが仕方ない。

「……この刀は名刀・三日月宗近。天下五剣の内の1本。あんたなんかに壊せる代物じゃないわ……よっ!」

笠松がハーデストを押し飛ばした。かんな鎧みたいな外骨格をしていたら体重もかなりあるだろう。そんなやつに力勝ちしてるのはすごいを通り越してもはや怖い。


少し離れた所に座らされた。呼吸はまだ整わないが頭は戻ってきた。

「どうしよう……」

マヤが呟いた。まったく正気がない訳では無い。ハーデストが甲殻類を元にしているならあの外骨格には隙間があるはずだ。全身隙間なく外骨格が敷き詰められてるならまったく動けないだろう。隙間があるとしたら多分――。

「関節部分だな……」
「え?」
「関節部分なら攻撃が通るはずだ。例えば膝の裏とか脇とか」
「なるほど」

ただやはり気になることがある。あの女はハーデストを『最強で最硬の生物』と言っていた。そんなやつがこうも簡単に弱点を見破られるのか?もちろんハッタリの可能性もある。しかし何かがありそうな気がする……。

「私が言ってくる」
「待て、俺も行く」
「少し休んでから来て。その前にマギーとワイトを安全な場所に移すから」

マヤが走り出した。俺もさっさと行かなくては。

「ぬぅん!!」

ハーデストのハサミと笠松の刀がぶつかり合う。かなり激しい戦いだ。ハーデストはあんな見た目でも近接戦なら速い。そのせいで俺は行動が遅れたんだからな。

柱に這いずって隠れた。何とか呼吸を整えたい。肺に突き刺さってる矢に手を伸ばす。触れただけで痛い。だけどこれがあるせいで呼吸ができないんだ。息を大きく吐いた。

肺に刺さってる矢を抜いた。痛いが呼吸できないよりマシだ。少しだけ呼吸ができるようになった。これなら動ける。笠松の援護をしないと。

柱から出て矢を向ける。今度の狙いは脇。ハーデストが腕をあげた瞬間に撃つ。

「はぁはぁ……ハハ……剣道の試合でもこんなにいい戦いは……なかったわよ……」

笠松が刀を構える。ハーデストが笠松を殺そうと腕を振り上げた。

今だ――。

指を緩めた。矢が空中に放たれる。空を切る音を出しながら矢はハーデストの脇に向かった――。

「なっ――」

矢はハーデストより大きく外れて壁に当たって弾けた。

よく考えてみればそらそうだ。今は片目の視力が無くなっている。そんな状態で撃っても当たるはずがない。しかも俺のきき目は右だ。当たり前のはずだがやはりショックだな。









「ナイスだったよ!楓夜!!」
「えっっっ――」

マヤがハーデストの背後を走っていた。いつの間にいたんだ!?

「ちょっとの間だけ倒れててね!!」

マヤが体を下げてスライディングをした。地面を滑りながらクロスボウを構える。矢が放たれた。俺の矢と違って木製だが貫通力は俺の矢と同等か上だ。当たればダメージはあるはずだ。

「――え」

木が弾ける音がした。矢が粉々に砕けている。どうゆう事だ。関節には当たったはずだ。……まさか関節まで硬いとでも言うのか。

「嘘でしょ――」

笠松がマヤにほんの少しだけ目を移した。ほんの少しだ。時間にしたら1秒にも満たないだろう。しかしハーデストはその隙を見逃さなかった。

笠松にハサミの右手を叩きつけた。笠松もすぐに気がついて、刀で防御する。しかしハサミは右手だけではなかった。

「笠松!!」

叫んだがまた遅かった。俺はいつも遅いんだ。

ハーデストの左手のハサミが笠松の上半身と下半身を分断させた。笠松の口から血が雪崩のように出てきた。

「ガ――グッ――」

笠松の下半身が地面に膝を着いた。しかし、その顔はまだ死んでいなかった。

「九州男児の力を舐めないでよね……このまま何もせずに死ねないのよ!!腕1本は貰ってくわよ!!」

笠松の刀がハーデストの左肩に叩きつけられた。しかし、火花が散るだけで斬れることはない。

「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!」

鬼のような気迫で刀に力を入れている。俺でもたじろいだ。だけど腕が斬れることはなかった。

「――あぁぁ」

気迫がなくなり笠松の気迫が無くなった。浮いていた上半身が力なく地面に落ちていった。









ゴトンッ

笠松の体が落ちたと同時だった。なんのハーデストの左腕が地面に落ちた。ハーデストの腕から紫色の血が水鉄砲のように出ている。

「フフ……ど……うよ……」

笠松の顔が地面に落ちた。マヤの顔が曇った。悲しいのだろう。俺ももちろん悲しい。しかしそれよりも疑問が頭の中を支配した。

なぜ切れたんだ。脇の方から腕を切るのは分かるが肩からなぜ切れるんだ。隙間があったのか?ならどこの隙間だ。なんでマヤのクロスボウではダメージすら与えられなかったのに笠松の刀で腕が切り落とせるんだ。なんでだ。……なんで。




ふとハーデストの切れた腕の断面を見てみた。紫色の血がドロドロと固形物のように流れている。細い血管に黄色い筋肉。まるでエイリアンのようだった。
切れた腕はまっすぐではなく斜めに切れていた。まっすぐではなく斜めだ。……なぜ斜めだ。なぜまっすぐじゃない。


――そういう事か。なるほどわかったぞ。これなら膝の裏を撃っても傷1つつかなかったのにも理由ができる。

「弱点が分かればこっちのものだ……」

俺はハーデストに向かって走り出した。












続く
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