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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
15話「魑魅魍魎」
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白いブヨブヨとした人型の化け物がこちらに向いてきた。あれは一体なんなんだ。狼の方を見てみる。かなり大きく、分厚かった狼が薄く、細く、干からびていた。狼の体は段々と白くなっていきやがて、灰となって消えていった。
――なんなんだあいつは。冷や汗が頬を伝う。全く見たことないタイプのやつだ。形は人なのだが見た目が異様すぎる。全身白くて肥満気味の体。目、鼻、耳等の外界を感知するのに必要な物が全てなく、顔には大きめのおちょこ口が一つだけ付いている。ただひたすらに不気味で怖い。
――あぁぁあぁ。
化け物の口が大きくなった。少し後ずさりする。何をしてくるのか全くの未知数だった。化け物の体が後ろにそり始めた。
何が来るんだ。何をするんだ。矢をつがえて構える。
化け物の口から大量のヒルが飛び出てきた。嘔吐音を出しながら数千にも及ぶヒルを口から吐き出した。そのヒルの大群は俺に体を向けた途端、気持ち悪い音を出しながら俺に近づいてきた。
「――なっ!?」
驚きで矢が弦からとれて地面に落ちた。ヒルのスピードはかなり速く、矢を拾っていると一瞬で追いつかれてしまう。ここは矢を捨ててでも逃げるしかない。
体を反転させて全力で走り出した。後ろから粘液か何かは分からないがネチョネチョと︎した音を出している。確実に俺の事を追ってきているようだった。多分今までで1番速く走った。割と重い弓を持っているがそれでも速く走れた。手が空を切り、ストライドはとんでもなく大きくなっているだろう。呼吸を忘れてひたすら角を曲がり続ける。自分の心拍音で後ろからヒルが追ってきているのか、耳で確認することが出来なかった。
足が絡んで地面に倒れた。また走り出そうと腕で体を持ち上げる。出来ない。持ち上がらない。体の上に鉛が乗せられているようだ。足がピクリとも動かない。さっきまで忘れていた呼吸が今になって押し寄せてくる。酸素を取り入れなかったツケが体を襲う。苦しい。体に力が入らない。頭が回らない。心臓の鼓動が防災無線放送位の音量で鳴り響いている。来た道を何とかして視界に入れる。ヒルはもういなかった。安心して力を抜いた。
少し心拍音が収まって、大の字になった。空気中の酸素をできるだけ多く吸う。頭が回り始めた。
なんなんだアイツは。ヒルを吐き出すってなんだよ。聞いたことねぇよ。わけがわからない。もしかして本体のアイツもヒルなのか。確かにヒルを人型化させたらあんなんになるんだろうなっていうのは分かるがな。……確かさっき居た小さめの狼に付いてたやつもヒルみたいなのだったな。アイツも襲われたのかな。
頭が冴えてきたのか、少し前のことを思い出した。あの使われてなさそうだった倉庫にいた男の言葉を。
「狼だ……黒い大きな狼と……あんなの見たことない」
「ヤツらは……ゾンビより……も……危険だ……」
――黒い大きな狼と。――ヤツらは。
そういうことか。あの工場を襲ったのもこのヒルということか。あの異様な量の血はヒルが吸血した後に破裂したからあんなことになってたんだ。やっばいな。どんだけ出したんだよ。
体を持ち上げる。とりあえずは呼吸が整った。あんなやつと戦ってなんかいられない。ここから逃げるか。わざわざ戦う理由もないしな。
――ガルルルルルゥゥゥッッッッ!!!
突然、どこかから狼の鳴き声が聞こえてきた。体が反射的に構えてしまう。
……。ちょっと気になるな。さっきの狼が無事かほんの少しだけ心配……いや、アイツは化け物のはずだ。俺を殺しに来たヤツらと同じ種類の敵だ。ただの敵。心配する必要はない……。ないはず……。
まぁちょっと見に行くだけならいいだろう。ちょっと見に行くだけだからな。ちょっとだけだ。別に心配してるとかそんなんじゃない。俺だって自分の命が1番大切だからな。
声のした方に足を進めた。徐々に血の匂いが漂い始めた。地面にヒルが何匹か転がっている。生きてはいないようだ。弓に矢をつがえる。
狼が見えた。壁に隠れながらそっと近づく。狼とさっきの化け物が対面していた。狼が化け物に向かって唸り、威嚇している。化け物は狼のことを興味深そうに見ている。
狼の体には俺がさっき巻き付けた服があった。てことはさっきの狼か。何してんだろ。
グルルルルルゥゥゥッッッッ!!
カファカファカファァァァアッハッハ!!
狼と化け物が唸り合う。話をしているんだろうか。
狼が鳴き声を上げて化け物の腕に噛み付いた。化け物は噛まれた腕ごと狼を壁に叩きつけた。狼が空中に対空する。そのまま狼の腹を蹴りあげた。狼は反動で天井と床を交互に叩きつけられる。狼はそのまま地面に倒れ伏した。死んではないようだがかなりボロボロになっている。それでも狼はフラフラしながら立ち上がった。化け物はそんな狼にゆっくりと近づいた。そして狼の首根っこを持ち上げて地面にまた叩きつけた。狼の口から血が飛び出る。
…………………………あああぁぁぁもう!!クソッタレめ!!
化け物に向かって矢を放った。矢は化け物の肩に当たった。しかし矢は化け物の肩を少しへこましただけで跳ね返って横の排水路に落ちてしまった。……やばいなこれ。化け物の皮膚が硬すぎる。あのでかい狼よりも硬い。普通の矢だと通らないのか。
狼と化け物がこちらに向いてきた。やばいやばい。
カファカファカファァァアッハッハ!!!
化け物がこちらに走ってきた。まともにやり合ったらやばい。後ろを向いてまた走った。今日は全力で走ることが多いなー。
走りながら化け物の対処法を考える。あの化け物は実質ヒルだろう。ヒルはナメクジの仲間だ。ナメクジの弱点は知っての通り塩だ。つまりあいつに塩をかければいける……塩はどこで手に入るんだろうなー。
クソッタレめ。狼なんて見捨てて逃げてればよかった。どうするどうする。どうする。どうすれば……。
少し前のことを思い出した。
桃と一緒に帰っていた時のことだ。楓が舞っている道を2人で歩いていた。自分でもなかなかロマンチックだと思う。
桃の将来の夢は医者だ。理由は安定してお金を稼げるから。まぁ現実的だな。そういうところも僕は好きだったんだけどな。
「ねぇ!また今度にでも山行こうよ」
桃に話しかけられた。
「別にいいけど……なんで山?」
「えーっと、……運動したくて」
「太ったの?」
「ちょっ、女の子の前でそういうこと普通言う?」
桃に小突かれた。こういう所ほんとに可愛いな。
「ごめんごめん。でも山装備なんて持ってないぞ」
「そこら辺は大丈夫!必要なものメモって来たからねー」
桃がカバンから1枚の神を取り出した。受け取って見てみる。デカいバッグに非常食、水にライター、ガーゼに包帯等とビッシリと紙に必要なものが書かれている。
「えらい書いたね」
「ちゃーんと調べてきたからね。怪我しても応急処置くらいならできるよ」
「さすがだね。将来はものすごい医者になると思うよ」
「コラコラ~。そんなに褒めるでない」
もう一度紙を眺めてみた。すると気になるものを見つけた。
「ねぇ、なんで塩水なんか持っていくんだ?」
「え?あぁそれはね、ヤマヒル対策だよ」
「ヤマヒルってあのヤマヒル?」
「楓夜が言ってるのがどのヤマヒルかは分からないけど多分そう。命に関わることじゃないんだけど、痒くなったりするから一応ね」
「ヒルって塩で取れんの?」
「ナメクジの仲間だから取れるよ。だから塩を直接ふりかけても剥せるし」
「はえー。初耳だね」
「塩水がなかったら、ライターで炙ればいいよ」
ほんとにこの子は物知りだな。医者を目指してるだけはある。
そうして雑談しながら俺と桃は家に帰っていった。そういえば結局山には行けなかったな。こんなことが起きなかったら2人で行ってたのに。
そうだ。火だ。桃は火で炙ればヒルは取れるって言ってた。なら火で焼けば殺せるんじゃないか。ここは下水道だ。油も流れてくるはず。そうと決まれば油を探さなくては。
続く
――なんなんだあいつは。冷や汗が頬を伝う。全く見たことないタイプのやつだ。形は人なのだが見た目が異様すぎる。全身白くて肥満気味の体。目、鼻、耳等の外界を感知するのに必要な物が全てなく、顔には大きめのおちょこ口が一つだけ付いている。ただひたすらに不気味で怖い。
――あぁぁあぁ。
化け物の口が大きくなった。少し後ずさりする。何をしてくるのか全くの未知数だった。化け物の体が後ろにそり始めた。
何が来るんだ。何をするんだ。矢をつがえて構える。
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「――なっ!?」
驚きで矢が弦からとれて地面に落ちた。ヒルのスピードはかなり速く、矢を拾っていると一瞬で追いつかれてしまう。ここは矢を捨ててでも逃げるしかない。
体を反転させて全力で走り出した。後ろから粘液か何かは分からないがネチョネチョと︎した音を出している。確実に俺の事を追ってきているようだった。多分今までで1番速く走った。割と重い弓を持っているがそれでも速く走れた。手が空を切り、ストライドはとんでもなく大きくなっているだろう。呼吸を忘れてひたすら角を曲がり続ける。自分の心拍音で後ろからヒルが追ってきているのか、耳で確認することが出来なかった。
足が絡んで地面に倒れた。また走り出そうと腕で体を持ち上げる。出来ない。持ち上がらない。体の上に鉛が乗せられているようだ。足がピクリとも動かない。さっきまで忘れていた呼吸が今になって押し寄せてくる。酸素を取り入れなかったツケが体を襲う。苦しい。体に力が入らない。頭が回らない。心臓の鼓動が防災無線放送位の音量で鳴り響いている。来た道を何とかして視界に入れる。ヒルはもういなかった。安心して力を抜いた。
少し心拍音が収まって、大の字になった。空気中の酸素をできるだけ多く吸う。頭が回り始めた。
なんなんだアイツは。ヒルを吐き出すってなんだよ。聞いたことねぇよ。わけがわからない。もしかして本体のアイツもヒルなのか。確かにヒルを人型化させたらあんなんになるんだろうなっていうのは分かるがな。……確かさっき居た小さめの狼に付いてたやつもヒルみたいなのだったな。アイツも襲われたのかな。
頭が冴えてきたのか、少し前のことを思い出した。あの使われてなさそうだった倉庫にいた男の言葉を。
「狼だ……黒い大きな狼と……あんなの見たことない」
「ヤツらは……ゾンビより……も……危険だ……」
――黒い大きな狼と。――ヤツらは。
そういうことか。あの工場を襲ったのもこのヒルということか。あの異様な量の血はヒルが吸血した後に破裂したからあんなことになってたんだ。やっばいな。どんだけ出したんだよ。
体を持ち上げる。とりあえずは呼吸が整った。あんなやつと戦ってなんかいられない。ここから逃げるか。わざわざ戦う理由もないしな。
――ガルルルルルゥゥゥッッッッ!!!
突然、どこかから狼の鳴き声が聞こえてきた。体が反射的に構えてしまう。
……。ちょっと気になるな。さっきの狼が無事かほんの少しだけ心配……いや、アイツは化け物のはずだ。俺を殺しに来たヤツらと同じ種類の敵だ。ただの敵。心配する必要はない……。ないはず……。
まぁちょっと見に行くだけならいいだろう。ちょっと見に行くだけだからな。ちょっとだけだ。別に心配してるとかそんなんじゃない。俺だって自分の命が1番大切だからな。
声のした方に足を進めた。徐々に血の匂いが漂い始めた。地面にヒルが何匹か転がっている。生きてはいないようだ。弓に矢をつがえる。
狼が見えた。壁に隠れながらそっと近づく。狼とさっきの化け物が対面していた。狼が化け物に向かって唸り、威嚇している。化け物は狼のことを興味深そうに見ている。
狼の体には俺がさっき巻き付けた服があった。てことはさっきの狼か。何してんだろ。
グルルルルルゥゥゥッッッッ!!
カファカファカファァァァアッハッハ!!
狼と化け物が唸り合う。話をしているんだろうか。
狼が鳴き声を上げて化け物の腕に噛み付いた。化け物は噛まれた腕ごと狼を壁に叩きつけた。狼が空中に対空する。そのまま狼の腹を蹴りあげた。狼は反動で天井と床を交互に叩きつけられる。狼はそのまま地面に倒れ伏した。死んではないようだがかなりボロボロになっている。それでも狼はフラフラしながら立ち上がった。化け物はそんな狼にゆっくりと近づいた。そして狼の首根っこを持ち上げて地面にまた叩きつけた。狼の口から血が飛び出る。
…………………………あああぁぁぁもう!!クソッタレめ!!
化け物に向かって矢を放った。矢は化け物の肩に当たった。しかし矢は化け物の肩を少しへこましただけで跳ね返って横の排水路に落ちてしまった。……やばいなこれ。化け物の皮膚が硬すぎる。あのでかい狼よりも硬い。普通の矢だと通らないのか。
狼と化け物がこちらに向いてきた。やばいやばい。
カファカファカファァァアッハッハ!!!
化け物がこちらに走ってきた。まともにやり合ったらやばい。後ろを向いてまた走った。今日は全力で走ることが多いなー。
走りながら化け物の対処法を考える。あの化け物は実質ヒルだろう。ヒルはナメクジの仲間だ。ナメクジの弱点は知っての通り塩だ。つまりあいつに塩をかければいける……塩はどこで手に入るんだろうなー。
クソッタレめ。狼なんて見捨てて逃げてればよかった。どうするどうする。どうする。どうすれば……。
少し前のことを思い出した。
桃と一緒に帰っていた時のことだ。楓が舞っている道を2人で歩いていた。自分でもなかなかロマンチックだと思う。
桃の将来の夢は医者だ。理由は安定してお金を稼げるから。まぁ現実的だな。そういうところも僕は好きだったんだけどな。
「ねぇ!また今度にでも山行こうよ」
桃に話しかけられた。
「別にいいけど……なんで山?」
「えーっと、……運動したくて」
「太ったの?」
「ちょっ、女の子の前でそういうこと普通言う?」
桃に小突かれた。こういう所ほんとに可愛いな。
「ごめんごめん。でも山装備なんて持ってないぞ」
「そこら辺は大丈夫!必要なものメモって来たからねー」
桃がカバンから1枚の神を取り出した。受け取って見てみる。デカいバッグに非常食、水にライター、ガーゼに包帯等とビッシリと紙に必要なものが書かれている。
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「さすがだね。将来はものすごい医者になると思うよ」
「コラコラ~。そんなに褒めるでない」
もう一度紙を眺めてみた。すると気になるものを見つけた。
「ねぇ、なんで塩水なんか持っていくんだ?」
「え?あぁそれはね、ヤマヒル対策だよ」
「ヤマヒルってあのヤマヒル?」
「楓夜が言ってるのがどのヤマヒルかは分からないけど多分そう。命に関わることじゃないんだけど、痒くなったりするから一応ね」
「ヒルって塩で取れんの?」
「ナメクジの仲間だから取れるよ。だから塩を直接ふりかけても剥せるし」
「はえー。初耳だね」
「塩水がなかったら、ライターで炙ればいいよ」
ほんとにこの子は物知りだな。医者を目指してるだけはある。
そうして雑談しながら俺と桃は家に帰っていった。そういえば結局山には行けなかったな。こんなことが起きなかったら2人で行ってたのに。
そうだ。火だ。桃は火で炙ればヒルは取れるって言ってた。なら火で焼けば殺せるんじゃないか。ここは下水道だ。油も流れてくるはず。そうと決まれば油を探さなくては。
続く
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