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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
12話「飢えた狼」
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短い河川敷を俺は歩いていた。横には桃がいる。桃は自転車を押しながら歩いている。少し遅いペースなので歩幅を合わせて歩いた。会話は特にない。付き合ってはいるが別にいつも会話のネタがある訳ではないさ。ただ一緒に歩く。それだけで案外幸せなものさ。とてもいい気分だ。
当たり前だ。これが現実なわけがない。夢なのは分かってる。桃は俺の手で殺したんだからな。分かってるさ。分かってる。でもさ。いいじゃないか。急ぐ程の用事は持ち合わせていない。ちょっとくらいなら夢くらい見せてくれたってもバチは当たらないさ。
桃と顔を見合わせる。桃はいつものように太陽のように眩しい笑顔を見せてくれた。その笑顔に俺はできる限り笑顔を作った。
目が覚めた。いい夢だったな。体を起こす。さっきの男は消えていた。おそらく灰になって消滅していったのだろう。外を見てみると、既に夜は明けていて朝日がガンガンと外を照らしていた。
ふと自分の体を見て見た。まだ至る所が痛いが血が出ている気配がない。
「……は?」
体から血は止まっていた。しかし服がとんでもない事になってた。なんて言ったらいいか難しいが、服と傷が引っ付いている。服が自分の血で赤黒く染まっていたのだ。
服を脱ごうとしたが、体の傷と合体してるので超痛い。血が固まって止血してるので出血多量にはならないだろうが何とも変な気分だ。
「……まぁ、死んでないだけいいか」
俺はそう呟いた。
透くんとそのお母さんの遺体を校庭の土に埋めた。結構な重労働だったが割といけた。埋めたところに黙祷をする。出来れば日向ちゃんも埋葬してあげたかったがあんな所には二度と行きたくない。俺は埋めたところに水を少量かけてその場から歩き去った。
「……おかしいな」
しばらく住宅街を進んでいると、さっきまでいたゾンビが全く見えなくなった。何もいない。嫌な予感がする。しかし戻る理由も無いからな。俺はそのまま進んだ。
また、しばらく進むと大きい倉庫を見つけた。中から金属の匂いがする。周りにゾンビはいないから、人がいるかもしれない。俺は倉庫の大きな扉を開けた。
中は薄暗かったが、外が明るかったので中身は見えた。外から匂ったのはただの金属の匂いではなかったらしい。おびただしい血の海が目の前に広がっていた。床はほとんど血溜まりになっている。辺りには血の匂いと機械の鉄臭い匂いが混ざりあって強烈に不快な匂いを発している。普通の人がここに来たならこの時点で脱落してるだろう。ただ俺は地獄を生き抜いた男だからな。もう正直この程度は慣れた。
血の水溜まりに足をつけて歩く。厚底の靴なので血が靴の中に入ることはない。俺もここら辺は一応気にするからな。機械は当たり前だが全く動いてる気配はない。
少し疑問がある。なぜこんな大きい工場の床一面に血が張り巡らせているのだろうか。この血の量は異常だ。人が何人血を出したらこんなことになるんだろうか。それにここの周りにはゾンビがいない。だからゾンビがやったというのは考えられない。じゃあ一体誰がこんなことをしたのだろうか。……なんかまた変なやつが出てくる気がする。ここ最近はゾンビより化け物と戦ってる気がする。また化け物は嫌だな。まぁゾンビも嫌だが。何にもないのが一番だからな。
しばらく探索しているとこれまた結構大きな扉を見つけた。血の匂いが一層強くなる。何かがここにはあるようだ。ワクワクはしないが気になる。俺は迷うことなく手に力を入れて扉を開けた。
その瞬間、扉から血が溢れ出てくると同時に何かが飛びついてきた。衝撃で後ろに倒れる。血が辺りに飛び散った。目の前にいる生物を確認してみると、それは黒い犬だった。いや狼と言った方がいいか。
その狼は歯をガチガチ鳴らして俺に噛み付こうとしてくる。首筋を掴んで離そうとするが、力がとんでもなく強い。全く引き剥がせない。狼の顔が段々と近づいてきた。狼の涎が顔に少しかかる。
体を横に倒して、狼を横になぎ倒した。狼との距離が少し離れる。腰から矢を取り出す。狼がまた俺に飛びついてきた。俺は持っていた矢を狼の眉間に突き刺した。
狼が地面に倒れる。斑紋が辺りに広がった。この程度の奴なら余裕で倒せる。
「――しかしなんなんだこいつは」
今まで見た事ないタイプだ。今まで見たやつはあくまでも人間を元にした奴だけだ。しかしこいつは人間ではなく狼。どうやら化け物は俺が思っているよりも大量にいるらしい。
扉の先を見てみた。扉の先には大量の死体が置かれてあった。頭がぐちゃぐちゃになってるもの。四肢がないもの。どれもこれも全てに小さい噛み跡がついていた。さっきの狼がしたのだろうか。しかし化け物とはいえ、そこまで大きくない狼一匹でここまでできるのは考えにくい。もっとやばい何かがいる。俺はそう確信した。
辺りを探索していると、壁にもたれかかって少し震えている男を見つけた。傷だらけだが生存者だ。俺は男に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「……君……今すぐ逃げろ……」
男がか細い声で喋った。
「これは一体なんなんだ?何が起こったらこんなことになるんだ?」
「狼だ……黒い大きな狼と……あんなの見たことない」
「狼って……」
やはり何かいた。おそらくさっきの狼よりもでかいヤバいやつがいる。
「ヤツらは……ゾンビより……も……危険……だ……」
男の首が下に下がった。全く動かない。死んでしまったようだ。
立ち上がって辺りを見渡す。特に音はしない。とりあえずここから出るか。ここに長居したらこの人の言っていた狼に会うかもしれない。俺は出口に足を進めた。
続く
当たり前だ。これが現実なわけがない。夢なのは分かってる。桃は俺の手で殺したんだからな。分かってるさ。分かってる。でもさ。いいじゃないか。急ぐ程の用事は持ち合わせていない。ちょっとくらいなら夢くらい見せてくれたってもバチは当たらないさ。
桃と顔を見合わせる。桃はいつものように太陽のように眩しい笑顔を見せてくれた。その笑顔に俺はできる限り笑顔を作った。
目が覚めた。いい夢だったな。体を起こす。さっきの男は消えていた。おそらく灰になって消滅していったのだろう。外を見てみると、既に夜は明けていて朝日がガンガンと外を照らしていた。
ふと自分の体を見て見た。まだ至る所が痛いが血が出ている気配がない。
「……は?」
体から血は止まっていた。しかし服がとんでもない事になってた。なんて言ったらいいか難しいが、服と傷が引っ付いている。服が自分の血で赤黒く染まっていたのだ。
服を脱ごうとしたが、体の傷と合体してるので超痛い。血が固まって止血してるので出血多量にはならないだろうが何とも変な気分だ。
「……まぁ、死んでないだけいいか」
俺はそう呟いた。
透くんとそのお母さんの遺体を校庭の土に埋めた。結構な重労働だったが割といけた。埋めたところに黙祷をする。出来れば日向ちゃんも埋葬してあげたかったがあんな所には二度と行きたくない。俺は埋めたところに水を少量かけてその場から歩き去った。
「……おかしいな」
しばらく住宅街を進んでいると、さっきまでいたゾンビが全く見えなくなった。何もいない。嫌な予感がする。しかし戻る理由も無いからな。俺はそのまま進んだ。
また、しばらく進むと大きい倉庫を見つけた。中から金属の匂いがする。周りにゾンビはいないから、人がいるかもしれない。俺は倉庫の大きな扉を開けた。
中は薄暗かったが、外が明るかったので中身は見えた。外から匂ったのはただの金属の匂いではなかったらしい。おびただしい血の海が目の前に広がっていた。床はほとんど血溜まりになっている。辺りには血の匂いと機械の鉄臭い匂いが混ざりあって強烈に不快な匂いを発している。普通の人がここに来たならこの時点で脱落してるだろう。ただ俺は地獄を生き抜いた男だからな。もう正直この程度は慣れた。
血の水溜まりに足をつけて歩く。厚底の靴なので血が靴の中に入ることはない。俺もここら辺は一応気にするからな。機械は当たり前だが全く動いてる気配はない。
少し疑問がある。なぜこんな大きい工場の床一面に血が張り巡らせているのだろうか。この血の量は異常だ。人が何人血を出したらこんなことになるんだろうか。それにここの周りにはゾンビがいない。だからゾンビがやったというのは考えられない。じゃあ一体誰がこんなことをしたのだろうか。……なんかまた変なやつが出てくる気がする。ここ最近はゾンビより化け物と戦ってる気がする。また化け物は嫌だな。まぁゾンビも嫌だが。何にもないのが一番だからな。
しばらく探索しているとこれまた結構大きな扉を見つけた。血の匂いが一層強くなる。何かがここにはあるようだ。ワクワクはしないが気になる。俺は迷うことなく手に力を入れて扉を開けた。
その瞬間、扉から血が溢れ出てくると同時に何かが飛びついてきた。衝撃で後ろに倒れる。血が辺りに飛び散った。目の前にいる生物を確認してみると、それは黒い犬だった。いや狼と言った方がいいか。
その狼は歯をガチガチ鳴らして俺に噛み付こうとしてくる。首筋を掴んで離そうとするが、力がとんでもなく強い。全く引き剥がせない。狼の顔が段々と近づいてきた。狼の涎が顔に少しかかる。
体を横に倒して、狼を横になぎ倒した。狼との距離が少し離れる。腰から矢を取り出す。狼がまた俺に飛びついてきた。俺は持っていた矢を狼の眉間に突き刺した。
狼が地面に倒れる。斑紋が辺りに広がった。この程度の奴なら余裕で倒せる。
「――しかしなんなんだこいつは」
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扉の先を見てみた。扉の先には大量の死体が置かれてあった。頭がぐちゃぐちゃになってるもの。四肢がないもの。どれもこれも全てに小さい噛み跡がついていた。さっきの狼がしたのだろうか。しかし化け物とはいえ、そこまで大きくない狼一匹でここまでできるのは考えにくい。もっとやばい何かがいる。俺はそう確信した。
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「大丈夫か?」
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続く
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