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Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)
8話「暗い、暗い世界」※閲覧注意
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※この話には嘔吐シーンや児童虐待、その他もろもろの大変不快な表現を含むシーンがあります。閲覧の際は注意してください。それが嫌という人は他の作品をお楽しみください。
ガラスの扉を開けて暗い校舎の中に入る。肌寒い空気が体に染み込む。周りを見渡すが暗すぎて凝視しないと見えない。銃を握りしめて歩きだす。目的は日向ちゃんの奪取と鍵の入手、それと食料の確保。やるべきことがわかったのなら進むのみ。ここから近いのは職員室。すぐ横の階段を登ってまっすぐ進んで左に曲がれば着く。誘拐されてから時間が経つごとに生存確率が低くなるというのを聞いたことがある。3日も帰ってないということは死んでいる可能性が高い。残念ながらこちらとしての優先順位は低くなる。しかしあの男の子に戻ってくると言ってしまったのだ。生きててくれと願いながら階段を登り始めた。
階段を登り終えるとまた違う感覚が肌を襲った。寒さによる震えから、何かがいる恐怖の震えに変わった。ゾンビはまだこの校舎の中では見ていない。化け物がいるのだろうか。それだけは嫌だ。この暗闇で襲われたのなら命は絶対にない。化け物が出ないことも願いに追加して歩みを進める。更に空気が冷たくなる。もうそろそろ夏が来ると思うのだが今の状態は冬のようだ。暗闇に少しずつ視界が慣れてくる。廊下には何もいない。後ろを見てもいない。少し安心して足を進める。廊下の先に左側に進める道を見つけた。ここを曲がって少し進めば職員室だ。足早に進む。道の前まで来た。壁を背にして慎重に職員室の扉を見る。横のトイレが真っ暗で怖いがそれ以外は問題がない。化け物もいない。また足を動かす。ここまで暗いと朝に行けばよかったと後悔する。自分はホラーの世界に来てしまったのかと思ってしまう。いやまぁ一応ゾンビ物のジャンルはホラーなんですけどね。
扉の前まで着いた。体育館の扉が空いていたということは職員室から鍵をとって行ったということだと思う。ガラスを壊せば侵入はできるがガラスが壊れていた形跡はなかった。つまり鍵を開けて入ったということ。職員室の扉を開ける。真っ暗な世界が視界に入る。ここまで暗いとは思わなかった。ほぼ完全に暗闇。自分の手元が見えない。こんな所で襲われるとやばい。一旦アーチェリー場の鍵は諦めて日向ちゃんを探すのを先にするか……でもここまで来たのだからさっさと取ろう。鍵は壁沿いに進んでいけば鍵置き場がある。そこからすぐに取れば大丈夫だ。
壁に手を当ててゆっくりと進む。視界がないためか他の感覚が敏感になる。自分の足音と呼吸音がいつも以上に耳に入ってくる。空気の冷たさがいつも以上に肌を撫でてくる。学校の独特な匂いがいつも以上に鼻に入ってくる。コンクリートの壁を触りながら進んでいると色々なものが手にぶつかってくる。黒板にチョークや鉛筆、紙、ゴミ箱、ネームペン。それらを無視しながら確実に進んでいく。時間が無限にも感じる。長く。長く。長く。長く。
そうして進んでいると鍵置き場に着いた。ようやく着いたので喜んだが完全にやらかしてしまったのに気がついてしまった。真っ暗闇なので鍵の種類が分からない。懐中電灯を持ってこなかった自分に罵倒する。ここまできてまた戻るのはめんどくさい。と、ここで閃いた。わざわざ鍵ひとつを取らなくてもいいじゃないか。鍵の形とかは覚えているがそれを手の感覚で探すのは難しい。ならば全て取って後で確認すればいい。なーぜこんな簡単な所に気がつかなかったのだ。鍵を片っ端からとってバッグに入れる。バッグには最低限の物しか入れてないので全ての鍵を入れたとしても食料が余裕で入る。ガチャガチャと音を鳴らしながら全ての鍵をバッグに入れていく。手を当てて全ての鍵を取ったことを確認する。これで後は前のルートに沿って歩くだけだ。もう一度壁に手を当てる。
バァン!!
何かの音が響いた。突然の爆音に耳が痛くなる。なんの音だ。持っている銃を構える。しかし何も見えない。何かが落ちた音か。それにしてはでかすぎる……。そんなことを思っているとふと腕の方に違和感を感じた。右腕の前腕の部分。少し違和感のある場所に触れてみた。ピチャ……。何かの液体。嫌な予感がする。その液体の匂いを嗅ぐ。鉄の匂い。独特な匂いが鼻をつんざく。血の匂いだ。血の匂いがわかった途端一気に痛みが襲ってくる。なにが起こったのか分からず辺りを見渡すが何も見えない。呼吸が乱れる。バァン!バァン!とまた2回ほど爆音がなる。腰が抜けて地面に座り込む。壁から手を離してしまったせいでここがどこだか分からなくなった。まだ壁の方から遠くまでは離れていないはず。手をまさぐって壁を探す。探していると口から液体が溢れた。地面に液体が大粒の雨のように落ちる。おそらく今の爆音は銃声。口から出た液体は多分、血だ。しかしこんな暗闇でここまで正確に俺を狙うのは不可能だ。何かの化け物なのかもしれない。それとも透くんが言っていたおじいさんか。とにかくここにいるとまずい。手を一生懸命振って壁の位置を特定しようとする。バァン!バァン!バァン!と爆音がなる。今度は3発の銃声が聞こえた。まずいまずいまずい。どこに当たったのかが分からない。それがいちばん怖い。なんとかして壁を特定した。壁に沿って後ろに下がっていく。また撃たれる前に逃げなければ。息が乱れてくる。バァン!カチャカチャ……。しめた!弾切れの音だ。体を持ち上げて急いで壁に沿いながら扉の方向へ向かう。
扉に着いた。少しだけ視界が戻る。後ろを振り向く。職員室は真っ暗闇で誰が追ってきているか分からない。息を思い切り吸い込んで走り出した。全速力で走った。思考が体に追いつかない。後ろから物音はしない。追ってきてはいないようだ。走って走って走って走って走った。
なにかにつまづいて転けてしまう。視界が鈍っている。暗闇にずっと居たせいで比較的明るいところに来ると視界が元に戻るのに時間がかかる。肩が上下に大きく動く。心臓が大きく鳴っている。頭を落ち着けるために座り込んで体を休める。息を整えて落ち着かせる。落ち着いてきたら思考が冴えてきた。傷の場所を確認する。まず右腕の前腕部分。暗闇の中で確実に確認できたのはここだけ。体をまさぐってどこに当たったのかを探す。1つは腹に命中していた。また腹だ。なぜ皆は俺の腹をよく狙ってくるのだろうか。そしてもう1つは頭。頭はかすっただけだが少し血が流れ出ていた。それ以外は傷を確認できなかった。とりあえず確認している部位の止血をする。ガーゼを少ししか持ってきてないことを悔いた。まず腹の処置をする。前腕はほんの少ししかガーゼを付けれなかったが血は止まったので安心する。
そういえばここはどこなのだろう。急いで走っていたので場所が分からない。辺りを見渡す。……嫌な所に来てしまった。4階のコンピュータ関連の部屋が並ぶ廊下に来てしまった。最悪だ。何も考えずに走ったせいでわざわざ上まで来てしまった。下に降りた時に出会う可能性がある。それにここら辺はあまり来たことがないため道が分からない。どう逃げたらいいか。とりあえずここにいたらまた来るかもしれない。
立ち上がろうとした時に床に何かがあるのを見つけた。職員室よりは明るいとはいえそれでも暗いのでよく見えない。よく見ると液体のようだ。嫌な予感がしてきた。触るのは危ないので匂いを少し嗅いでみる。強烈な酸味を帯びた臭いが鼻腔を突き刺してきた。吐きそうになる。腹の中の物が出そうになった。目に涙が溜まる。近くの窓をこじ開けて外の空気を大きく吸う。外はとてもいい匂いに感じた。嫌な予感がする。薄暗い廊下にバラバラの感覚で液体が落ちている。進むべきではないと本能でわかった。ここから先に行くと地獄を見ることになると本能が言っている。しかし気になる。ほんの少しだけ。ほんのちょっとだけ見に行こう。頭は否定するが足は動いてしまう。液体の道筋に沿いながら歩く。視界がだんだん明るくなってくる。月の明かりが周りに光を灯している。だんだんと液体の色が見えてくる。少し黄色がかっている。液体の中には小さい固形物が見えた。さっきの匂いとこの色。そして固形物。これが何かというのは頭でわかった。それと同時にこれ以上進むのはやめた方がいいというのも頭でわかった。体がこれ以上行くのを拒む。だが、何故か行かなくてはならないという使命感が心の中にある。足を進める。足を進ませられば進ませるほど匂いが周りに漂ってきた。鼻が曲がるほどの臭い。嘔吐感を我慢しながら進む。臭いが強くなるのと一緒に液体の数が増えていく。どんどんと嘔吐感が増していきついに吐いてしまう。近くの窓を開けて外に吐き出す。吐き出したが気持ち悪さが取れない。窓の外に発電機が見えた。人が使った形跡がある。嫌な予感が更に増してきた。足を進める。喉に不快感が溜まる。目から涙が溢れてくる。足を1歩進めることに嘔吐感が体を襲ってくる。また外に吐き出す。気持ち悪さが悪い。しかしここまできて帰れるわけがない。体に力を入れて歩きだす。1呼吸する度に吐きそうになる。服で鼻を覆うがそれでも臭いがしてきて服の中に吐きそうになる。液体がだんだんと伸びていってある部屋の中に続いていた。その時には足を1歩動かす度に嘔吐してしまうほど匂いが強くなっていった。それでも1歩ずつ進んでいく。1歩進んで吐く。1歩進んで吐く。それを繰り返しながら扉の前まで足を進める。扉の前までに着く頃にはもう胃液しか出すことができなくなっていた。強烈な臭いでドアノブに手を置くのに躊躇してしまう。息ができないほどの匂い。その原因はおそらくここにある。それを肯定するかのようにとても普通じゃ嗅ぐことができないほどの臭いがこの扉の先から漂ってくる。行きたくない。行きたくない。それでも興味がある。しかし行くべきではないというのは確実にわかる。この場に立っているだけででも気を失いそうになる。ここに長時間はいられない。開けるのならすぐに。意を決してドアノブに手をかける。そして扉を開けた。とんでもない今まで嗅いだことの無い臭いが襲いかかってくる。さっきまでの覚悟が一気に消えた。あまりの臭さに立ち上がれなくなる。外の窓に這いずって向かう。窓を開けて外の空気を吸う。しかし後ろからの臭いが混ざり吐いてしまう。臭いから逃げられる場所が存在しない。もう逃げられない。ならばせめて中身を見る。外に発電機があったのを思い出した。電気関連のことは知らないがもしかしたら電気が来ているかもしれない。全細胞に力を入れて歩きだす。臭いの根源に向かって足を進める。ほんの2m。しかし足が進まない。口から血と胃液が混ざった液体が流れてくる。それでも前に進める。中は暗闇で何も見えない。臭いはもっときつくなるが無理矢理足を進める。少し顔を入れる。さっきの臭いがいい匂いに思えるほど辺りに死ぬほど不快な臭いが漂う。息を止めるがそれでも臭い。手をまさぐって電気のスイッチの場所を特定しようとする。少しだけ足を入れる。足にグチャっとした感覚がまとわりつく。何かわからないがただただ不快だ。ようやくスイッチを見つけた。既に体の穴という穴から液体が流れている。体は限界だ。スイッチを入れた。その瞬間視界が真っ白になり目が潰れた。臭いがほんの少しだけ紛れたがそれは数瞬だった。俺は目の前の景色を見てここに来たことを後悔した。今までのどんな光景よりも地獄だった。
そこには床や天井、壁に至るまでにほとんど全ての場所に吐瀉物や排泄物、血や精液が撒き散らされていた部屋があった。そしてその奥には血塗れになって裸で拘束されている少女が見えた。手と足を一緒に拘束されて吊るされている。目隠しをされており、口は強制的に開けられる器具をはめられている。肛門には何か筒のような物が無理矢理ねじ込まれている。それだけならまだ良かった。しかし体が見るに堪えない状態になっていた。両手の指は全てなくなっており、足の指は親指のみ完全に切られており、その他の指は半分切られていた。顔はあまり傷つけられていないが、口周りは汚く茶色の物体や白い乾いた何かが着いていた。乳首が切られてなくなっており、性器は1番酷かった。ぐちゃぐちゃにされており、中からは血が大量に出た跡がある。辺りに目を配るが本当に地獄だった。なぜそんなところに着いたのかと思う所にまで不快な物が着いている。少女の真下は汚いものの詰め合わせという感じで人が出せる汚さの限界みたいな状態になっていた。俺はここに来たことを後悔した。地獄だ。頭がおかしくなる。今までのヤツらだけで考えるとすると、ゾンビや化け物には知能がない。つまりこれは自我を持った人間がやったということだ。どんなに頭が狂ったとしてもこんなことを出来るやつは存在しない。こんなのを8歳の少女にやるか普通。やるわけがない。8歳の少女じゃなくてもこんなことはしない。もはや不快などという感情を超えてきた。臭いにはまだ慣れてないがそれ以上に思考が回らなかった。誰かが死んでいてその死体が腐敗しているという方が全然良かった。その方が幸せだった。なんと少女は生きていた。この地獄のような部屋で。俺はここに来るまでで何度も吐いてしまい、胃の中の物が全て無くなった。それほど地獄だった。この少女は小さい呼吸を何度もしていた。この地獄でも生きるために。もはや殺した方が楽なのかもしれない。こんな状態で生かせているのは拷問以外の何物でもない。これが夢ならどれほど良かっただろうか。こんなのを透くんになんて言えばいいのだ。言えるわけがない。震える手で銃を構える。俺の思い込みかもしれないがそれでも殺す方が慈悲になると思った。こんな状態で助けてこの子は将来どうなるのか。考えるだけでも嫌だった。指を引き金に入れる。確実に頭を狙う。これがせめてもの救いとなることを願って。引き金を引いた。少女の頭が吹き飛び、頭がない体は力なく吊られたままだった。俺は吐いた。胃液も全て吐いた。何もかも吐いた。地獄だ。いや、地獄の方がマシかもしれない。頭が考えるのを拒否している。もうここは人間の住むところではない。力が無くなった体を動かして部屋の電気を消して、また歩き出した。食料を漁れる状態ではない。もう当分は何も食べたくない。食べれない。
この世には触れてはいけないものもある。それを身をもって確認した。この世界は元々狂っていた。それでもなんとか希望を見出そうとしていた。だがこれでわかった。希望なんてない。あの地獄すらも生ぬるい状態は化け物では無く同じ人間が同じ手で作り出した。それがわかった時点でもう終わりだ。ふらふらの体をなんとか動かす。
俺の背中はおそらく他の人から見たら薬物廃人みたいに見えるだろう。それほどまでに俺の精神は壊れてしまった。
続く
ガラスの扉を開けて暗い校舎の中に入る。肌寒い空気が体に染み込む。周りを見渡すが暗すぎて凝視しないと見えない。銃を握りしめて歩きだす。目的は日向ちゃんの奪取と鍵の入手、それと食料の確保。やるべきことがわかったのなら進むのみ。ここから近いのは職員室。すぐ横の階段を登ってまっすぐ進んで左に曲がれば着く。誘拐されてから時間が経つごとに生存確率が低くなるというのを聞いたことがある。3日も帰ってないということは死んでいる可能性が高い。残念ながらこちらとしての優先順位は低くなる。しかしあの男の子に戻ってくると言ってしまったのだ。生きててくれと願いながら階段を登り始めた。
階段を登り終えるとまた違う感覚が肌を襲った。寒さによる震えから、何かがいる恐怖の震えに変わった。ゾンビはまだこの校舎の中では見ていない。化け物がいるのだろうか。それだけは嫌だ。この暗闇で襲われたのなら命は絶対にない。化け物が出ないことも願いに追加して歩みを進める。更に空気が冷たくなる。もうそろそろ夏が来ると思うのだが今の状態は冬のようだ。暗闇に少しずつ視界が慣れてくる。廊下には何もいない。後ろを見てもいない。少し安心して足を進める。廊下の先に左側に進める道を見つけた。ここを曲がって少し進めば職員室だ。足早に進む。道の前まで来た。壁を背にして慎重に職員室の扉を見る。横のトイレが真っ暗で怖いがそれ以外は問題がない。化け物もいない。また足を動かす。ここまで暗いと朝に行けばよかったと後悔する。自分はホラーの世界に来てしまったのかと思ってしまう。いやまぁ一応ゾンビ物のジャンルはホラーなんですけどね。
扉の前まで着いた。体育館の扉が空いていたということは職員室から鍵をとって行ったということだと思う。ガラスを壊せば侵入はできるがガラスが壊れていた形跡はなかった。つまり鍵を開けて入ったということ。職員室の扉を開ける。真っ暗な世界が視界に入る。ここまで暗いとは思わなかった。ほぼ完全に暗闇。自分の手元が見えない。こんな所で襲われるとやばい。一旦アーチェリー場の鍵は諦めて日向ちゃんを探すのを先にするか……でもここまで来たのだからさっさと取ろう。鍵は壁沿いに進んでいけば鍵置き場がある。そこからすぐに取れば大丈夫だ。
壁に手を当ててゆっくりと進む。視界がないためか他の感覚が敏感になる。自分の足音と呼吸音がいつも以上に耳に入ってくる。空気の冷たさがいつも以上に肌を撫でてくる。学校の独特な匂いがいつも以上に鼻に入ってくる。コンクリートの壁を触りながら進んでいると色々なものが手にぶつかってくる。黒板にチョークや鉛筆、紙、ゴミ箱、ネームペン。それらを無視しながら確実に進んでいく。時間が無限にも感じる。長く。長く。長く。長く。
そうして進んでいると鍵置き場に着いた。ようやく着いたので喜んだが完全にやらかしてしまったのに気がついてしまった。真っ暗闇なので鍵の種類が分からない。懐中電灯を持ってこなかった自分に罵倒する。ここまできてまた戻るのはめんどくさい。と、ここで閃いた。わざわざ鍵ひとつを取らなくてもいいじゃないか。鍵の形とかは覚えているがそれを手の感覚で探すのは難しい。ならば全て取って後で確認すればいい。なーぜこんな簡単な所に気がつかなかったのだ。鍵を片っ端からとってバッグに入れる。バッグには最低限の物しか入れてないので全ての鍵を入れたとしても食料が余裕で入る。ガチャガチャと音を鳴らしながら全ての鍵をバッグに入れていく。手を当てて全ての鍵を取ったことを確認する。これで後は前のルートに沿って歩くだけだ。もう一度壁に手を当てる。
バァン!!
何かの音が響いた。突然の爆音に耳が痛くなる。なんの音だ。持っている銃を構える。しかし何も見えない。何かが落ちた音か。それにしてはでかすぎる……。そんなことを思っているとふと腕の方に違和感を感じた。右腕の前腕の部分。少し違和感のある場所に触れてみた。ピチャ……。何かの液体。嫌な予感がする。その液体の匂いを嗅ぐ。鉄の匂い。独特な匂いが鼻をつんざく。血の匂いだ。血の匂いがわかった途端一気に痛みが襲ってくる。なにが起こったのか分からず辺りを見渡すが何も見えない。呼吸が乱れる。バァン!バァン!とまた2回ほど爆音がなる。腰が抜けて地面に座り込む。壁から手を離してしまったせいでここがどこだか分からなくなった。まだ壁の方から遠くまでは離れていないはず。手をまさぐって壁を探す。探していると口から液体が溢れた。地面に液体が大粒の雨のように落ちる。おそらく今の爆音は銃声。口から出た液体は多分、血だ。しかしこんな暗闇でここまで正確に俺を狙うのは不可能だ。何かの化け物なのかもしれない。それとも透くんが言っていたおじいさんか。とにかくここにいるとまずい。手を一生懸命振って壁の位置を特定しようとする。バァン!バァン!バァン!と爆音がなる。今度は3発の銃声が聞こえた。まずいまずいまずい。どこに当たったのかが分からない。それがいちばん怖い。なんとかして壁を特定した。壁に沿って後ろに下がっていく。また撃たれる前に逃げなければ。息が乱れてくる。バァン!カチャカチャ……。しめた!弾切れの音だ。体を持ち上げて急いで壁に沿いながら扉の方向へ向かう。
扉に着いた。少しだけ視界が戻る。後ろを振り向く。職員室は真っ暗闇で誰が追ってきているか分からない。息を思い切り吸い込んで走り出した。全速力で走った。思考が体に追いつかない。後ろから物音はしない。追ってきてはいないようだ。走って走って走って走って走った。
なにかにつまづいて転けてしまう。視界が鈍っている。暗闇にずっと居たせいで比較的明るいところに来ると視界が元に戻るのに時間がかかる。肩が上下に大きく動く。心臓が大きく鳴っている。頭を落ち着けるために座り込んで体を休める。息を整えて落ち着かせる。落ち着いてきたら思考が冴えてきた。傷の場所を確認する。まず右腕の前腕部分。暗闇の中で確実に確認できたのはここだけ。体をまさぐってどこに当たったのかを探す。1つは腹に命中していた。また腹だ。なぜ皆は俺の腹をよく狙ってくるのだろうか。そしてもう1つは頭。頭はかすっただけだが少し血が流れ出ていた。それ以外は傷を確認できなかった。とりあえず確認している部位の止血をする。ガーゼを少ししか持ってきてないことを悔いた。まず腹の処置をする。前腕はほんの少ししかガーゼを付けれなかったが血は止まったので安心する。
そういえばここはどこなのだろう。急いで走っていたので場所が分からない。辺りを見渡す。……嫌な所に来てしまった。4階のコンピュータ関連の部屋が並ぶ廊下に来てしまった。最悪だ。何も考えずに走ったせいでわざわざ上まで来てしまった。下に降りた時に出会う可能性がある。それにここら辺はあまり来たことがないため道が分からない。どう逃げたらいいか。とりあえずここにいたらまた来るかもしれない。
立ち上がろうとした時に床に何かがあるのを見つけた。職員室よりは明るいとはいえそれでも暗いのでよく見えない。よく見ると液体のようだ。嫌な予感がしてきた。触るのは危ないので匂いを少し嗅いでみる。強烈な酸味を帯びた臭いが鼻腔を突き刺してきた。吐きそうになる。腹の中の物が出そうになった。目に涙が溜まる。近くの窓をこじ開けて外の空気を大きく吸う。外はとてもいい匂いに感じた。嫌な予感がする。薄暗い廊下にバラバラの感覚で液体が落ちている。進むべきではないと本能でわかった。ここから先に行くと地獄を見ることになると本能が言っている。しかし気になる。ほんの少しだけ。ほんのちょっとだけ見に行こう。頭は否定するが足は動いてしまう。液体の道筋に沿いながら歩く。視界がだんだん明るくなってくる。月の明かりが周りに光を灯している。だんだんと液体の色が見えてくる。少し黄色がかっている。液体の中には小さい固形物が見えた。さっきの匂いとこの色。そして固形物。これが何かというのは頭でわかった。それと同時にこれ以上進むのはやめた方がいいというのも頭でわかった。体がこれ以上行くのを拒む。だが、何故か行かなくてはならないという使命感が心の中にある。足を進める。足を進ませられば進ませるほど匂いが周りに漂ってきた。鼻が曲がるほどの臭い。嘔吐感を我慢しながら進む。臭いが強くなるのと一緒に液体の数が増えていく。どんどんと嘔吐感が増していきついに吐いてしまう。近くの窓を開けて外に吐き出す。吐き出したが気持ち悪さが取れない。窓の外に発電機が見えた。人が使った形跡がある。嫌な予感が更に増してきた。足を進める。喉に不快感が溜まる。目から涙が溢れてくる。足を1歩進めることに嘔吐感が体を襲ってくる。また外に吐き出す。気持ち悪さが悪い。しかしここまできて帰れるわけがない。体に力を入れて歩きだす。1呼吸する度に吐きそうになる。服で鼻を覆うがそれでも臭いがしてきて服の中に吐きそうになる。液体がだんだんと伸びていってある部屋の中に続いていた。その時には足を1歩動かす度に嘔吐してしまうほど匂いが強くなっていった。それでも1歩ずつ進んでいく。1歩進んで吐く。1歩進んで吐く。それを繰り返しながら扉の前まで足を進める。扉の前までに着く頃にはもう胃液しか出すことができなくなっていた。強烈な臭いでドアノブに手を置くのに躊躇してしまう。息ができないほどの匂い。その原因はおそらくここにある。それを肯定するかのようにとても普通じゃ嗅ぐことができないほどの臭いがこの扉の先から漂ってくる。行きたくない。行きたくない。それでも興味がある。しかし行くべきではないというのは確実にわかる。この場に立っているだけででも気を失いそうになる。ここに長時間はいられない。開けるのならすぐに。意を決してドアノブに手をかける。そして扉を開けた。とんでもない今まで嗅いだことの無い臭いが襲いかかってくる。さっきまでの覚悟が一気に消えた。あまりの臭さに立ち上がれなくなる。外の窓に這いずって向かう。窓を開けて外の空気を吸う。しかし後ろからの臭いが混ざり吐いてしまう。臭いから逃げられる場所が存在しない。もう逃げられない。ならばせめて中身を見る。外に発電機があったのを思い出した。電気関連のことは知らないがもしかしたら電気が来ているかもしれない。全細胞に力を入れて歩きだす。臭いの根源に向かって足を進める。ほんの2m。しかし足が進まない。口から血と胃液が混ざった液体が流れてくる。それでも前に進める。中は暗闇で何も見えない。臭いはもっときつくなるが無理矢理足を進める。少し顔を入れる。さっきの臭いがいい匂いに思えるほど辺りに死ぬほど不快な臭いが漂う。息を止めるがそれでも臭い。手をまさぐって電気のスイッチの場所を特定しようとする。少しだけ足を入れる。足にグチャっとした感覚がまとわりつく。何かわからないがただただ不快だ。ようやくスイッチを見つけた。既に体の穴という穴から液体が流れている。体は限界だ。スイッチを入れた。その瞬間視界が真っ白になり目が潰れた。臭いがほんの少しだけ紛れたがそれは数瞬だった。俺は目の前の景色を見てここに来たことを後悔した。今までのどんな光景よりも地獄だった。
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この世には触れてはいけないものもある。それを身をもって確認した。この世界は元々狂っていた。それでもなんとか希望を見出そうとしていた。だがこれでわかった。希望なんてない。あの地獄すらも生ぬるい状態は化け物では無く同じ人間が同じ手で作り出した。それがわかった時点でもう終わりだ。ふらふらの体をなんとか動かす。
俺の背中はおそらく他の人から見たら薬物廃人みたいに見えるだろう。それほどまでに俺の精神は壊れてしまった。
続く
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