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本戦
第40話 六道の輪廻
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「は――が――ぁ――」
意識は――まだ消えていない。鋼鉄のごとく固められた拳を振るう。
「見事なり――!!」
余裕を持って拳を回避しつつ裏拳を魘魅の顔面に当てる。途切れる視界。そこから肘、前蹴り、回し蹴りの連撃を放った。
「ぐふ……!?」
「惜しいな。その体。その才能が惜しい」
揺れる脳と視界の最中にいる魘魅に言い放つ賛美の声。
「魘魅に産まれさえしなければ俺を軽く超える逸材となっただろうに」
ふらついている魘魅に向けて拳を引く。
「なに――を――」
「だがこれもまた運命。せめてこれを手向けとしてやろう」
ミシミシとロープを引っ張るかのような音。引いた腕の関節部分は金剛石のように硬く、なおかつゴムのように伸びる。
神技の殺意にも似た闘気に当てられて魘魅の意識も戻る。
(なんだ!?何が来る!?)
しかし全ては遅く。反応は間に合わず。間に合うはずもなく――。
――それは人生の大半を捧げて辿り着いた境地。一朝一夕でできるような技ではなく。至った拳は光を超えて世界を貫く。
六道の一つ。一撃で天に召されることから神技本人が名付けた唯一の一撃必殺。その名は――。
「――『天道』」
――光が貫いた。
「――――――!!??」
直撃した?と思われる魘魅はトラックに引かれたかのようにぶっ飛ばされ、ガラスと壁を突き破って服屋へと突入した。
立ち上る煙。爆発したかのような音。その景色は『ただ老体が拳を打った』だけとは思えないような惨状だった。
音は聞こえず。もちろん拳も見えず。攻撃に一切の躊躇いもなく。それはまさしく――人間では到底することのできない『神技』である。
「――ふぅぅ」
神技は動いていないように見える。だが拳を放った。
『天道』の原理は関節部分にある。体の筋を極限まで圧縮。さらに健の部分を固めて反発力を貯めることにより可能とした神速。そこへさらにさらに長年の研鑽による[武神]の拳が合わさることにより――最速の拳は完成した。
「――やはりこの大会に参加してよかった」
神技はニッコリと笑顔を浮かべる。元々悪人面なので、見た目はかなり邪悪な笑みだ。
「私もまだまだ――研鑽の余地がある」
人間。ひいては生物の到達点とも思えるような技を出しておきながら『研鑽の余地』があると言っている。謙遜を通り越して嫌味となっている。
「まさか人間相手に『六道』を使うことになろうとは」
よく考えてみればそうだ。人間相手に使っていいような技ではなかった。
「しかも――ダウンさせるどころか、意識を断つことさえ叶わんとは」
――煙が消えた跡には誰もいなかった。
「ぐぅぅ…………!!」
遠くへ。できるだけ遠くへ。滝のような鼻血を出しながら壁に寄りかかる魘魅。
『血の渇望』は解除している。鼻が折れている今の状態で使えば傷を悪化させてしまうからだ。
体はボロボロでも多少は冷静さが残っている。ここまで来ると神技の拳ではなく、魘魅の化け物じみた耐久力の方が評価できる。
「くそっ、クソジジイが……!!」
悪態をつこうとも実力差が縮まるわけじゃない。だから魘魅は逃げている。
「次だ……!!次は絶対にぶちのめしてやる……!!」
今は勝てない。幸いにも人数も時間もまだまだ残っている。作戦を立てる時だ。考え無しに戦える相手じゃないのはこの攻防でわかった。
――今までに魘魅は格上と本気で戦ったことがない。自分よりも何倍も強い相手と戦うのは初めてだ。
普通の人間なら怖気付く。恐れる。恐怖でトラウマが刷り込まれる。――魘魅は違った。突き動かすのは復讐心。顔面にぶち込まれた拳を戒めとし――次こそは自分が勝利する。そう心に誓った。
意識は――まだ消えていない。鋼鉄のごとく固められた拳を振るう。
「見事なり――!!」
余裕を持って拳を回避しつつ裏拳を魘魅の顔面に当てる。途切れる視界。そこから肘、前蹴り、回し蹴りの連撃を放った。
「ぐふ……!?」
「惜しいな。その体。その才能が惜しい」
揺れる脳と視界の最中にいる魘魅に言い放つ賛美の声。
「魘魅に産まれさえしなければ俺を軽く超える逸材となっただろうに」
ふらついている魘魅に向けて拳を引く。
「なに――を――」
「だがこれもまた運命。せめてこれを手向けとしてやろう」
ミシミシとロープを引っ張るかのような音。引いた腕の関節部分は金剛石のように硬く、なおかつゴムのように伸びる。
神技の殺意にも似た闘気に当てられて魘魅の意識も戻る。
(なんだ!?何が来る!?)
しかし全ては遅く。反応は間に合わず。間に合うはずもなく――。
――それは人生の大半を捧げて辿り着いた境地。一朝一夕でできるような技ではなく。至った拳は光を超えて世界を貫く。
六道の一つ。一撃で天に召されることから神技本人が名付けた唯一の一撃必殺。その名は――。
「――『天道』」
――光が貫いた。
「――――――!!??」
直撃した?と思われる魘魅はトラックに引かれたかのようにぶっ飛ばされ、ガラスと壁を突き破って服屋へと突入した。
立ち上る煙。爆発したかのような音。その景色は『ただ老体が拳を打った』だけとは思えないような惨状だった。
音は聞こえず。もちろん拳も見えず。攻撃に一切の躊躇いもなく。それはまさしく――人間では到底することのできない『神技』である。
「――ふぅぅ」
神技は動いていないように見える。だが拳を放った。
『天道』の原理は関節部分にある。体の筋を極限まで圧縮。さらに健の部分を固めて反発力を貯めることにより可能とした神速。そこへさらにさらに長年の研鑽による[武神]の拳が合わさることにより――最速の拳は完成した。
「――やはりこの大会に参加してよかった」
神技はニッコリと笑顔を浮かべる。元々悪人面なので、見た目はかなり邪悪な笑みだ。
「私もまだまだ――研鑽の余地がある」
人間。ひいては生物の到達点とも思えるような技を出しておきながら『研鑽の余地』があると言っている。謙遜を通り越して嫌味となっている。
「まさか人間相手に『六道』を使うことになろうとは」
よく考えてみればそうだ。人間相手に使っていいような技ではなかった。
「しかも――ダウンさせるどころか、意識を断つことさえ叶わんとは」
――煙が消えた跡には誰もいなかった。
「ぐぅぅ…………!!」
遠くへ。できるだけ遠くへ。滝のような鼻血を出しながら壁に寄りかかる魘魅。
『血の渇望』は解除している。鼻が折れている今の状態で使えば傷を悪化させてしまうからだ。
体はボロボロでも多少は冷静さが残っている。ここまで来ると神技の拳ではなく、魘魅の化け物じみた耐久力の方が評価できる。
「くそっ、クソジジイが……!!」
悪態をつこうとも実力差が縮まるわけじゃない。だから魘魅は逃げている。
「次だ……!!次は絶対にぶちのめしてやる……!!」
今は勝てない。幸いにも人数も時間もまだまだ残っている。作戦を立てる時だ。考え無しに戦える相手じゃないのはこの攻防でわかった。
――今までに魘魅は格上と本気で戦ったことがない。自分よりも何倍も強い相手と戦うのは初めてだ。
普通の人間なら怖気付く。恐れる。恐怖でトラウマが刷り込まれる。――魘魅は違った。突き動かすのは復讐心。顔面にぶち込まれた拳を戒めとし――次こそは自分が勝利する。そう心に誓った。
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