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本戦
第38話 不意打ち二連発
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「いい戦いだったなぁ」
「そうだね」
鳳凰とアルショムの戦いが終わり、爽やかな空気が映画館を包んでいた。
「そういや蘭君とかは?」
「なんか『師範の容態が気になる』とか言って医務室に行ったよ」
「まぁあのダメージじゃ心配だよね」
顔面を潰されてぶっ飛ばされているのだ。死んでたっておかしくはない。
「あれは酷かったね……戦いとはいえあそこまでするなんて」
「そうだよな。下手すりゃ死んでるだろ」
「子供ねー。試合なんて殺し合い。『怪我させちゃってゴメン』やら『殺しちゃってゴメン』なんて言ってたらむしろ侮辱になるわよ」
「頭も悪けりゃ性格まで悪いのか」
「あ?」
「んー?」
「もーやめてよー」
もはやお家芸とまでなってきた2人の喧嘩。火花を散らすように睨み合っている。
「ごめんねぇ。ちょっと横に座ってもいいかい?」
――そこへ老夫婦がやってきた。顔にはシワがポツポツと。白髪も混じった60代くらいに見える。
「あ、全然どうぞ」
「ありがとうねぇ」
静かに横へ座る2人。なんだか微笑ましい姿だ。
「誰の付き添いで?」
「俺たちの息子『エルヴィス・ホール』だよ」
「へぇ息子さんが。僕も姉が出場してるんですよ。あの黒木花音って名前のチビで」
「えー!最初に戦ってたあの小さい子が?いいお姉ちゃん持ったわねぇ」
「それほどでもぉ――ん?」
……なんだか凄い名前が出た気がする。この場にいた3人が同じことを考えた。
「……えっと、誰って?」
「俺たちの息子だよ」
「名前は……?」
「エルヴィス・ホールだ」
「「「――――えぇ!!??」」」
当たり前と言えば当たり前だが、あんな化け物みたいな体をしている男の両親がいることに3人は驚いた。しかも見た目はすごく普通。なんなら細いくらいだ。
性格も優しそう。詠春の顔面を砕いた男の親とは到底思えないほどの見た目。本当にそうなのか勘ぐってしまう。
「エルヴィスの母のイヴリン・ホールです」
「同じく父のアーロだ」
「な、なんか……」
「至って普通……」
「よく言われますぅ」
ニコニコして優しそうなイヴリン。同じく優しい笑顔のアーロ。どうしてもエルヴィスと結びつかない。
「あの子も逞しくなったわねぇ」
「そうだな。昔はあんなに小さかったのに。今じゃ俺を片手で持ち上げられるくらいになってしまってな」
「逞しいなんてレベルじゃない気がしますけど……」
色々と聞きたいことが満載。だが――そんな時に限って次の戦いが始まろうとしていた。
気になることも多いが戦いの方が優先。とりあえずスクリーンに目を向けると――見たことのある男が映し出された。
場所はメガネ屋の前。2階の通路。そして居るのは――なんと魘魅であった。
「ちゃんと戦えんのかぁ爺さん」
白髪の混ざった髪。逆だった髪はグリースを付けているかのように固定されている。真っ白な道着に身を包んだこの男は――冥王神技。[武神]と呼ばれる男である。
「心配無用」
黒帯を強く締める神技。1戦を終えている魘魅と違って体力は万全だ。しかし体はまだ温まっていない。準備運動は完璧とは言えまいだろう。
その点、魘魅の体はストーブのように温まっている。まるで熱を持った機関車。ならば魘魅は暴走機関車だ。
ゆっくりと神技に向かって歩いていく魘魅。
「まずは……握手を」
罠だ。見え見えの罠。分かりきった地雷。死地へと自ら飛び込む人間は居るはずが――。
――居た。すごく普通に手を出す。馬鹿なのか。それとも勝算があるのか。それが分かるのはすぐ後。
「ははは!!この馬鹿ジジイが――――!!」
予定調和のように不意打ちをかます魘魅。掴んだ瞬間に顔面へのハイキックを放った――。
――吹っ飛んだ。神技ではなく、魘魅が。鼻血を出しながら地面を転がっていく。
「――愚か者が」
「いいな……それでこそ楽しみがいがある」
首を回して立ち上がる。
(何を喰らったんだ俺は……全く見えなかったぞ)
困惑を表に出してしまっては弱点となってしまう。だから表情はいつも通り狂気の笑顔を貼り付ける。
何も見えなくともやることは一緒。相手を完膚なきまでにぶちのめすのみ。
「踏み潰してやるよ糞ジジイ――!!」
「ならばこちらは蹴散らしてやろう。来い小僧――!!」
「そうだね」
鳳凰とアルショムの戦いが終わり、爽やかな空気が映画館を包んでいた。
「そういや蘭君とかは?」
「なんか『師範の容態が気になる』とか言って医務室に行ったよ」
「まぁあのダメージじゃ心配だよね」
顔面を潰されてぶっ飛ばされているのだ。死んでたっておかしくはない。
「あれは酷かったね……戦いとはいえあそこまでするなんて」
「そうだよな。下手すりゃ死んでるだろ」
「子供ねー。試合なんて殺し合い。『怪我させちゃってゴメン』やら『殺しちゃってゴメン』なんて言ってたらむしろ侮辱になるわよ」
「頭も悪けりゃ性格まで悪いのか」
「あ?」
「んー?」
「もーやめてよー」
もはやお家芸とまでなってきた2人の喧嘩。火花を散らすように睨み合っている。
「ごめんねぇ。ちょっと横に座ってもいいかい?」
――そこへ老夫婦がやってきた。顔にはシワがポツポツと。白髪も混じった60代くらいに見える。
「あ、全然どうぞ」
「ありがとうねぇ」
静かに横へ座る2人。なんだか微笑ましい姿だ。
「誰の付き添いで?」
「俺たちの息子『エルヴィス・ホール』だよ」
「へぇ息子さんが。僕も姉が出場してるんですよ。あの黒木花音って名前のチビで」
「えー!最初に戦ってたあの小さい子が?いいお姉ちゃん持ったわねぇ」
「それほどでもぉ――ん?」
……なんだか凄い名前が出た気がする。この場にいた3人が同じことを考えた。
「……えっと、誰って?」
「俺たちの息子だよ」
「名前は……?」
「エルヴィス・ホールだ」
「「「――――えぇ!!??」」」
当たり前と言えば当たり前だが、あんな化け物みたいな体をしている男の両親がいることに3人は驚いた。しかも見た目はすごく普通。なんなら細いくらいだ。
性格も優しそう。詠春の顔面を砕いた男の親とは到底思えないほどの見た目。本当にそうなのか勘ぐってしまう。
「エルヴィスの母のイヴリン・ホールです」
「同じく父のアーロだ」
「な、なんか……」
「至って普通……」
「よく言われますぅ」
ニコニコして優しそうなイヴリン。同じく優しい笑顔のアーロ。どうしてもエルヴィスと結びつかない。
「あの子も逞しくなったわねぇ」
「そうだな。昔はあんなに小さかったのに。今じゃ俺を片手で持ち上げられるくらいになってしまってな」
「逞しいなんてレベルじゃない気がしますけど……」
色々と聞きたいことが満載。だが――そんな時に限って次の戦いが始まろうとしていた。
気になることも多いが戦いの方が優先。とりあえずスクリーンに目を向けると――見たことのある男が映し出された。
場所はメガネ屋の前。2階の通路。そして居るのは――なんと魘魅であった。
「ちゃんと戦えんのかぁ爺さん」
白髪の混ざった髪。逆だった髪はグリースを付けているかのように固定されている。真っ白な道着に身を包んだこの男は――冥王神技。[武神]と呼ばれる男である。
「心配無用」
黒帯を強く締める神技。1戦を終えている魘魅と違って体力は万全だ。しかし体はまだ温まっていない。準備運動は完璧とは言えまいだろう。
その点、魘魅の体はストーブのように温まっている。まるで熱を持った機関車。ならば魘魅は暴走機関車だ。
ゆっくりと神技に向かって歩いていく魘魅。
「まずは……握手を」
罠だ。見え見えの罠。分かりきった地雷。死地へと自ら飛び込む人間は居るはずが――。
――居た。すごく普通に手を出す。馬鹿なのか。それとも勝算があるのか。それが分かるのはすぐ後。
「ははは!!この馬鹿ジジイが――――!!」
予定調和のように不意打ちをかます魘魅。掴んだ瞬間に顔面へのハイキックを放った――。
――吹っ飛んだ。神技ではなく、魘魅が。鼻血を出しながら地面を転がっていく。
「――愚か者が」
「いいな……それでこそ楽しみがいがある」
首を回して立ち上がる。
(何を喰らったんだ俺は……全く見えなかったぞ)
困惑を表に出してしまっては弱点となってしまう。だから表情はいつも通り狂気の笑顔を貼り付ける。
何も見えなくともやることは一緒。相手を完膚なきまでにぶちのめすのみ。
「踏み潰してやるよ糞ジジイ――!!」
「ならばこちらは蹴散らしてやろう。来い小僧――!!」
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