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本戦
第33話 重さの暴力
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壁に空いた大穴。割れたガラス。倒れている本棚。地震でも起きたのかと勘違いするほどの壊れっぷり。
2人の前に戦った者たちの跡であるが――分かっていても困惑はする。
「先客が戦りあっていたようだな」
「あれ隣の売り場も壊れてね……?」
「ほんとだ。そんな激しかったのかよ」
「気になるな」
「そうだな」
戦う前とは思えない緊張感。ゆるーい空気が2人を包んでいる。
「さてと――なんでここに来たんだ?」
「強い奴の匂いがしてな。お前は?見た目からして本屋なんて来るタイプじゃないだろ?」
「お互い様だろ、それ」
「はは、そうだな」
――準備体操が始まった。鳳凰はスクワット。アルショムは腕を上に伸ばして背中を逸らしている。
緩い空気は徐々に引き締まってゆき、ピリピリと電気のような圧がやってきた。ただよい出す緊張感。これぞ戦いの前、と言った感じだ。
「1度だけでも読んでみたかったんだ。昔は貧乏で本を買う余裕すらなくてな。大人になってからもトレーニングばかりで……」
「そりゃ悲しいことだ――俺に負けた後でじっくり読みな」
「――いーや、お前を椅子にして読み漁ってやる」
鳳凰が脚を大きく上げた。高く、高く。垂直に。力を溜めて。力を上げて。そして――地面に脚を叩きつける。
「四股を踏む……ってやつか」
「なんだ知ってるのか。頭が悪い、なんて言ってるわりには博識じゃないか」
息を大きく吐く。抜いて。力を抜いて。――自身のケツを思い切り叩いた。
乾いた音が辺りにこだまする。気合いを入れるためのルーティン。スクリーンの前で見ている観客ですら闘志と威圧に体を震わせる。
ならば目の前で見ていたアルショムはどうか。――彼の方も気合いが入っていた。
「――――」
何かに祈りを捧げるように。両手を合わせて合掌している。目を瞑り。呼吸を整え。何を祈るのか――。
「――我が勝利。祖国ロシアに捧げる」
――アルショムが構えた。腰を下ろし、手は前に。野生の熊のように。
――続いて鳳凰も構えた。腰を屈めて両手を地面に下ろす。野生の牛のように。
凪のように静かで。1本の糸のようになだらかに。それでいて溶岩のように熱く。線香花火のように儚い。
ミキ……。
何気ない音。木製の本棚が軋む音。レフェリーは居ない。ならばこれが始まりの合図となるのは自然なことであった――。
格闘技において体重差はとてつもなく重要な事柄だ。だから格闘技には階級差がある。だから格闘技には男女の区分けがある。
鳳凰の体重が161kgなのに対しアルショムの体重はわずか95kg。もちろんアルショムが軽い訳では無いのだが、今回ばかりは相手が悪かった。
――弾丸のような初速。押し合いとなれば鳳凰の方が圧倒的に有利だ。だからアルショムが力負けするのは当然である。
「ッッ――――!!」
本棚をぶち壊し。地面をぶち壊し。舞い上がった本を撒き散らしながら。アルショムを押していく。
まるで馬か牛のような脚力。それともサイか。そんな力で押されても倒れないアルショムの脚力も褒めるべきだ。レスリングで培われた脚力は馬鹿にできない。
土俵があれば『寄りきり』あるいは『押し出し』となる。だが今はノールールの喧嘩に近いバトル。戦いを終わらせるには相手の意識を消すしかない。
「ぐ――あ――ああ――!!」
踏ん張る。引きずられながら踏ん張った。地面には直線の跡。地面があるのだから力は込められる。
単純なパワーじゃダメだ。相手の力を流すかのように。押し込んでいるのは大相撲。それも未曾有の最強。シンプルじゃダメなのだ。自分の使える技術を最大限に使い潰す――。
力は流れだ。ならば力も水のように登る。鳳凰の廻しを掴んでブリッジするように体を逸らす。真正面から受けていた力を自身の後ろへ投げ飛ばす。
自分が使う力は全てを支える腰と脚力のみ。160の肉塊を下半身の力で支え――後ろへと投げ飛ばした。
「がァァァァァァァ――――――!!!」
「ぉぉぉうう――!?」
2人の前に戦った者たちの跡であるが――分かっていても困惑はする。
「先客が戦りあっていたようだな」
「あれ隣の売り場も壊れてね……?」
「ほんとだ。そんな激しかったのかよ」
「気になるな」
「そうだな」
戦う前とは思えない緊張感。ゆるーい空気が2人を包んでいる。
「さてと――なんでここに来たんだ?」
「強い奴の匂いがしてな。お前は?見た目からして本屋なんて来るタイプじゃないだろ?」
「お互い様だろ、それ」
「はは、そうだな」
――準備体操が始まった。鳳凰はスクワット。アルショムは腕を上に伸ばして背中を逸らしている。
緩い空気は徐々に引き締まってゆき、ピリピリと電気のような圧がやってきた。ただよい出す緊張感。これぞ戦いの前、と言った感じだ。
「1度だけでも読んでみたかったんだ。昔は貧乏で本を買う余裕すらなくてな。大人になってからもトレーニングばかりで……」
「そりゃ悲しいことだ――俺に負けた後でじっくり読みな」
「――いーや、お前を椅子にして読み漁ってやる」
鳳凰が脚を大きく上げた。高く、高く。垂直に。力を溜めて。力を上げて。そして――地面に脚を叩きつける。
「四股を踏む……ってやつか」
「なんだ知ってるのか。頭が悪い、なんて言ってるわりには博識じゃないか」
息を大きく吐く。抜いて。力を抜いて。――自身のケツを思い切り叩いた。
乾いた音が辺りにこだまする。気合いを入れるためのルーティン。スクリーンの前で見ている観客ですら闘志と威圧に体を震わせる。
ならば目の前で見ていたアルショムはどうか。――彼の方も気合いが入っていた。
「――――」
何かに祈りを捧げるように。両手を合わせて合掌している。目を瞑り。呼吸を整え。何を祈るのか――。
「――我が勝利。祖国ロシアに捧げる」
――アルショムが構えた。腰を下ろし、手は前に。野生の熊のように。
――続いて鳳凰も構えた。腰を屈めて両手を地面に下ろす。野生の牛のように。
凪のように静かで。1本の糸のようになだらかに。それでいて溶岩のように熱く。線香花火のように儚い。
ミキ……。
何気ない音。木製の本棚が軋む音。レフェリーは居ない。ならばこれが始まりの合図となるのは自然なことであった――。
格闘技において体重差はとてつもなく重要な事柄だ。だから格闘技には階級差がある。だから格闘技には男女の区分けがある。
鳳凰の体重が161kgなのに対しアルショムの体重はわずか95kg。もちろんアルショムが軽い訳では無いのだが、今回ばかりは相手が悪かった。
――弾丸のような初速。押し合いとなれば鳳凰の方が圧倒的に有利だ。だからアルショムが力負けするのは当然である。
「ッッ――――!!」
本棚をぶち壊し。地面をぶち壊し。舞い上がった本を撒き散らしながら。アルショムを押していく。
まるで馬か牛のような脚力。それともサイか。そんな力で押されても倒れないアルショムの脚力も褒めるべきだ。レスリングで培われた脚力は馬鹿にできない。
土俵があれば『寄りきり』あるいは『押し出し』となる。だが今はノールールの喧嘩に近いバトル。戦いを終わらせるには相手の意識を消すしかない。
「ぐ――あ――ああ――!!」
踏ん張る。引きずられながら踏ん張った。地面には直線の跡。地面があるのだから力は込められる。
単純なパワーじゃダメだ。相手の力を流すかのように。押し込んでいるのは大相撲。それも未曾有の最強。シンプルじゃダメなのだ。自分の使える技術を最大限に使い潰す――。
力は流れだ。ならば力も水のように登る。鳳凰の廻しを掴んでブリッジするように体を逸らす。真正面から受けていた力を自身の後ろへ投げ飛ばす。
自分が使う力は全てを支える腰と脚力のみ。160の肉塊を下半身の力で支え――後ろへと投げ飛ばした。
「がァァァァァァァ――――――!!!」
「ぉぉぉうう――!?」
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