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本戦
第28話 全ては突然に
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――空になった容器。爪楊枝で歯に挟まった青のりを取っている。
「ふぅ……」
「満足か?」
「あぁ……満足だ」
「そうか」
2人の間にしばらく沈黙が流れた。いつもは賑わっているフードコートも2人が喋らなければ静寂に飲み込まれる。
これが初対面。だけど2人には奇妙な仲ができた。この短い間で友達になってしまった。それでも『戦わない』なんて選択肢は持ち合わせていない。
これから戦う。このまま戦う。シュミレーションがもうすぐで現実となる。楽しみに待つのがいいのか。それとも惜しむのがいいのか。そんなものは誰にも分からない。
「……そろそろ」
「……始めるか」
ただ一つ分かること。それは――とても楽しい戦いとなることだ。
――グレゴリーが蹴り上げた。テーブルを破壊するほどの威力。合金は回避しない。なぜなら当たらないことが分かっているから。あくまでも蹴りは目隠しのため。
本命は次の一撃。目元に向けた水平チョップを――予測した合金。同時に立ち上がってグレゴリーの前腕に拳を置く。
攻撃は『振り』だ。ならば振る前に止めれば攻撃は発動しない。反射的な行動だったのでカウンターにはならないが――グレゴリーが合金を警戒させるには十分な行動だった。
「――」
「――」
同タイミングで再度攻撃。合金は顔面に向けてのストレート。グレゴリーはみぞおちに向けての掌底だ。
攻撃が当たったのも同時。だが怯む時間が長かったのは合金だ。内蔵へ響く攻撃を喰らったのが理由。グレゴリーはパンチなど幾らでも喰らっている。復帰にも時間はかからない。
顔、目の部分に向けてビンタのような掌底。これで視界は塞がれた。さらに額を押して足払い。合金を地面に倒した。
「っ――!?」
顔面を思い切り踏みつける――これは避けた。立ち上がろうとするが狭くて思うように動けない。
――そこへ下段のキック。防ぎはするが鈍い痛みが響いてくる。
――さらに追撃の下段キック。――同時に合金の前蹴りが炸裂した。
座っている状態。威力は出ない。だが怯ませることには成功。キックも目の前で逸れた。
「チッ――」
「くっっ――」
起き上がる。数瞬だけ怯んだグレゴリーも攻撃態勢へと移った。拳は引く。両者ともに。本日4回目の同時攻撃が始まった――。
――当たったのは合金。グレゴリーの拳は合金に当たらず外れた。
「ぐ……な……なるほど」
しかし防いでいた。残った腕で顔面を防いでいた。
「これが……例のやつか」
「へぇ、知ってんだ」
「まぁな」
防いだ腕が青くなっている。青アザ……なんてものじゃない。受けた本人が理解している。――完全に折れた。
人にもよるが、さすがにパンチ一発で腕はへし折れない。しかもグレゴリーは猛者中の猛者。鍛え方は常人の比じゃない。なのに一撃で折れた。
むしろ防いだのは幸運。もし顔面に当たっていれば骨は崩壊。一発で終わっていただろう。
「『生身一つで戦場を歩くは金剛の一族』なんて噂で聞いてたが……」
「噂は本当だった……か?」
「――今のが『金剛拳』だな」
「ご名答」
金剛拳。その真髄は硬直にある。打撃を当てる瞬間、クッションとなる関節部分を硬直させる。クッションが無くなれば攻撃は100パーセント相手に伝えることが可能。
言うなれば鉄球がぶつかるのと同義であり、骨は折れて当然。攻撃は単調で見やすくなるが、それを補って余りあるほどのパワーを出すことができる。
空手で言う『剛体術』をベースとしたこの技は戦場で生き抜いたグレゴリーすらも驚かせた。
「厄介……だな」
「ならやめるか?ギブアップなら聞くぜ」
「いや――問題ない」
――硬直は体を動かす上で基本のこと。金剛拳は誰でもできることを『技』まで昇華させただけ。ただ硬直させるのならば誰だってできる。
グレゴリーも同じこと。折れた腕の部分を硬直。骨の代わりとなるレベルにまで筋肉を締め上げた。
「随分と無理やりだな。体を壊すぞ」
「戦場では日常だ」
「そうか――ならここが『非日常』ってのを思い知らせてやる」
「ふぅ……」
「満足か?」
「あぁ……満足だ」
「そうか」
2人の間にしばらく沈黙が流れた。いつもは賑わっているフードコートも2人が喋らなければ静寂に飲み込まれる。
これが初対面。だけど2人には奇妙な仲ができた。この短い間で友達になってしまった。それでも『戦わない』なんて選択肢は持ち合わせていない。
これから戦う。このまま戦う。シュミレーションがもうすぐで現実となる。楽しみに待つのがいいのか。それとも惜しむのがいいのか。そんなものは誰にも分からない。
「……そろそろ」
「……始めるか」
ただ一つ分かること。それは――とても楽しい戦いとなることだ。
――グレゴリーが蹴り上げた。テーブルを破壊するほどの威力。合金は回避しない。なぜなら当たらないことが分かっているから。あくまでも蹴りは目隠しのため。
本命は次の一撃。目元に向けた水平チョップを――予測した合金。同時に立ち上がってグレゴリーの前腕に拳を置く。
攻撃は『振り』だ。ならば振る前に止めれば攻撃は発動しない。反射的な行動だったのでカウンターにはならないが――グレゴリーが合金を警戒させるには十分な行動だった。
「――」
「――」
同タイミングで再度攻撃。合金は顔面に向けてのストレート。グレゴリーはみぞおちに向けての掌底だ。
攻撃が当たったのも同時。だが怯む時間が長かったのは合金だ。内蔵へ響く攻撃を喰らったのが理由。グレゴリーはパンチなど幾らでも喰らっている。復帰にも時間はかからない。
顔、目の部分に向けてビンタのような掌底。これで視界は塞がれた。さらに額を押して足払い。合金を地面に倒した。
「っ――!?」
顔面を思い切り踏みつける――これは避けた。立ち上がろうとするが狭くて思うように動けない。
――そこへ下段のキック。防ぎはするが鈍い痛みが響いてくる。
――さらに追撃の下段キック。――同時に合金の前蹴りが炸裂した。
座っている状態。威力は出ない。だが怯ませることには成功。キックも目の前で逸れた。
「チッ――」
「くっっ――」
起き上がる。数瞬だけ怯んだグレゴリーも攻撃態勢へと移った。拳は引く。両者ともに。本日4回目の同時攻撃が始まった――。
――当たったのは合金。グレゴリーの拳は合金に当たらず外れた。
「ぐ……な……なるほど」
しかし防いでいた。残った腕で顔面を防いでいた。
「これが……例のやつか」
「へぇ、知ってんだ」
「まぁな」
防いだ腕が青くなっている。青アザ……なんてものじゃない。受けた本人が理解している。――完全に折れた。
人にもよるが、さすがにパンチ一発で腕はへし折れない。しかもグレゴリーは猛者中の猛者。鍛え方は常人の比じゃない。なのに一撃で折れた。
むしろ防いだのは幸運。もし顔面に当たっていれば骨は崩壊。一発で終わっていただろう。
「『生身一つで戦場を歩くは金剛の一族』なんて噂で聞いてたが……」
「噂は本当だった……か?」
「――今のが『金剛拳』だな」
「ご名答」
金剛拳。その真髄は硬直にある。打撃を当てる瞬間、クッションとなる関節部分を硬直させる。クッションが無くなれば攻撃は100パーセント相手に伝えることが可能。
言うなれば鉄球がぶつかるのと同義であり、骨は折れて当然。攻撃は単調で見やすくなるが、それを補って余りあるほどのパワーを出すことができる。
空手で言う『剛体術』をベースとしたこの技は戦場で生き抜いたグレゴリーすらも驚かせた。
「厄介……だな」
「ならやめるか?ギブアップなら聞くぜ」
「いや――問題ない」
――硬直は体を動かす上で基本のこと。金剛拳は誰でもできることを『技』まで昇華させただけ。ただ硬直させるのならば誰だってできる。
グレゴリーも同じこと。折れた腕の部分を硬直。骨の代わりとなるレベルにまで筋肉を締め上げた。
「随分と無理やりだな。体を壊すぞ」
「戦場では日常だ」
「そうか――ならここが『非日常』ってのを思い知らせてやる」
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