迦神杯バトルロイヤル

アタラクシア

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本戦

第27話 戦場に潜む蛇

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ショッピングモールと聞いて何を思い浮かべるだろうか。服屋?おもちゃ屋?それともゲームセンター?――答えはそう。フードコートだ。

隣接する多様な飲食店の屋台共有スペース。子供から大人まで誰しもが通る道であり、皆がここで食事をすることを何よりの幸福としている……というのは過言としても、フードコートが嫌いという人間は少数派だろう。

もちろんドリームタウンにもフードコートはあり、オムライスやら牛丼やらペッパーランチやらラーメンやら、「まず嫌いな人はいないだろ」という無難な物が並んでいる。

普段は賑わっているフードコートも、バトルロイヤルの関係で現在は寂しい空間になっていた。しかし食事はできるようになっている。

このバトルロイヤルは長い戦いだ。場合によってはトーナメントのように間を空けたりせずに戦う。常に気を張っていなければならない過酷な大会。

そんな場所で――とある男がたこ焼きを焼いていた。



慣れた手つきで鉄板に油を塗り、火をつける。ちょうどよく熱されたタイミングで生地を投入。タコ、ネギ、紅しょうがをサッサッサッと入れていき――完璧なタイミングで回す。

出来上がったたこ焼きを木船の皿に盛り付け、異様な高さからマヨネーズとソースを投下。青のりを散らして――完成。

まるでウェイターのように座席まで持ってゆき――座っている男の前に置いた。

「――へいお待ち」
「……」

座っている男。服がはち切れんばかりの筋肉を身に付けている。脚を組めば威圧感は倍増。サングラスの奥で睨みつけている目を見てしまえば、誰だって腰を抜かすはずだ。

楊枝を手に取りたこ焼きに指す。――中からホワッと熱い匂い。そしてカリカリの外にトロトロの中身。実に良いたこ焼き。これぞたこ焼き。白米のお供としても最適。

持ち上げてみれば重厚感に圧倒される。中に入ってるのはタコと小さい具、そして生地のみ。なのにとても重い。この小さな球体の中にはどれほどの旨味が入っているのだ。

口内で駆け巡る唾液を飲み込み――たこ焼きを口の中へと放り込んだ。

香る青のり。ほどよい酸味の紅しょうが。ほんのり甘い生地。絡み合うソース。まろやかなマヨネーズ。噛めば噛むほど旨味が出るタコ。それ以上に――。



「――――あっっっっっつ!!!??」
「馬鹿!!一口で食うからだよ!!」

火傷しそうな程の熱さを感じていた。





「……」
「……」
「……」
「「…………何してんの?」」
「わ、私に聞かないで」

詰めて来る2人にタジタジになっていた。

「なんでこれから戦う2人がたこ焼きなんか食ってんの?」
「合金って関西人だし……」
「関西人がどこでもたこ焼き食う訳じゃねぇだろ」

さっきまで喧嘩していた2人だったが、今だけは息ぴったりになっている。果糖に聞いたところで答えが得られるはずもないというのに。

そして果糖の隣では――やっぱり喧嘩が起こっていた。

「貴様――どういう育て方をしとるんだ!」
「そうじゃ!敵に施しなんぞしおって!」
「合金……優しい子に育ったわねぇ」
「昔からそうだったよあの子は……困っている人がいたらすぐに助けに行くような奴で――」
「「無視するな!!」」





ここに対面するは『蛇龍拳』と『金剛拳』を継承した[鉄蛇]龍名合金りゅうめいごうきん。それと数多の戦場を素手のみで駆け抜けた[戦人]グレゴリー・ウィンレイ。

戦闘愛好家バトルジャンキー2人が対面すれば戦いになることは必然……であるはずだが。なぜだか合金がグレゴリーにたこ焼きを振舞っていた。

「――ぷはぁ!助かった!」
「ったく……出来たてのたこ焼きを一口って自殺行為だぞ」
「先に言ってくれよ。日本の食事マナーは知らないんだ」

紙コップの縁スレスレまで入れられた水を飲み干したグレゴリー。今度は合金に食べ方を教えてもらいながら食事をおこなう。

「まず爪楊枝で中身を開ける」
「ふむふむ」
「たこ焼きが熱いのは中身だからな。これでしばらく冷やすんだ」
「――これくらいか?」
「そうそう。そして息で冷ましながら食べる。それでも熱かったら水を口に含みながら食べるんだ」
「ほうほう――ん!うんまい!!」

屈強な見た目とは裏腹に、子供のようにはしゃぎながらタコ焼きを食べている。

「日本の食べ物が美味いってのはよく聞くがここまでとはな……!!」
「そう言ってくれると嬉しいな」
「しかし悪いな。戦う前にワガママを言っちゃって」
「いいんだよ。むしろ緊張が抜けた」

――リラックスしているように見える2人。だが実は違う。どちらも準備は万端だ。
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