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本戦
第12話 悪魔を見た
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映画館にいる全ての人が見とれていた。見入っていた。魘魅の人外じみた動き。それを捌いて反撃すらしているフランシス。
さっきまでの一瞬で終わったり、一方的な戦いとは違う。どちらが勝つか分からない。これぞ格闘技の面白いところだ。
「――――」
そんな人たちの後ろで静かに佇む老人。近くにいるのは若い男女の集団。目立つはず――なのに誰も気にしていない。
それほど集中しているのか。それともこの人たちの影が薄いのか。意図的に薄くしているのか。
「――予想以上だね」
「世界チャンピオンの名は伊達じゃねぇな」
男と女が口を開いた。
「もう少しあれを温存して戦うべきかと思ったが……あの男相手ではキツイかもな」
「本来はアイツも使う気すらなかったんだ――」
――老人が喋っていた男の首を切り裂いた。
「――今は『魘魅様』だ。貴様みたいな虫ケラがアイツなどと呼ぶな」
血が飛び散る。前にいた人にもかかった――はずだが気がつかない。気がついていない。後ろで起こっている異常な惨状に目も耳も肌も匂いも感じていない。
幸運?それとも気がついて知らんぷりをしている?どれにしたって後ろの惨状は変わらない。
「――やめてくれよ爺ちゃん。従業員さんが片付けの時にびっくりするだろ」
「ふん。あれだけ言ったのに分かっていない方が悪いわ」
「もーどうする?誰が片付けする?」
「そこは――いつも通りジャンケンだろ」
まるで当たり前かのように話をしている。今目の前で人が殺されたのにだ。意義や抗議どころか、『殺されて当たり前』という感情すら見て取れる。
そしてもうひとつ。――血の渇望、とは。暗い闇のように。真っ黒な謎が老人たちを覆っていた。
老人たちとは違う場所で見ている蓮花たち。彼らも熱い戦いを目に焼き付けるため、スクリーンに見入っていた。
「あのっっ……あのパンチを避けれんのかっっ……!?」
「凄い……!」
「やっぱりフランシスは最強だ!」
指を鳴らして興奮する蓮花と美馬。ただやはり隣では未だに男が震えていた。
「違う……まだ違う……」
痺れを切らしたマイクが男に詰め寄った。
「何が違うんだ。お前は何を知っている。なぜフランシスが負けると思っている」
「……5年前。私の修行仲間がとある大会に出た時のことです」
――5年前。
その日はとても観客が多かった。老若男女問わず大勢の人が見ていた。テレビも含めたらもっと多いかもしれない。
そんな公衆の面前に――魘魅は現れた。姿形は今と全く変わらない。邪悪な笑みを浮かべたままだった。
第四試合。男――蘭の友人であり、楊詠春の弟子である白狼湾と魘魅の戦いでのこと。
戦いの序盤こそ狼湾が圧倒していたものの、さっきも見せていた変則的なパンチや強烈なキックによって徐々に狼湾は押され始めていた。
「――つまらん」
「な、なんだと!?」
「つまらんつまらん。やはり偽物じゃダメだな。面白みに欠ける」
魘魅の発言に憤慨した狼湾だったが――その直後。蛇に睨まれたカエルのように動けなくなる。
変身……それとも化けの皮が剥がれたのか。あるいは夢か幻か。魘魅が見せた幻覚だったのか。
目の前にいたはずの魘魅。その姿が――変わった。禍々しいものへと変化した。
「もういい。――死ね」
その後――魘魅の拳は狼湾の顎を撃ち抜いた。通常、人間は顎を殴られれば気絶する。
だが魘魅の攻撃は気絶なんて生易しいものじゃない。さっきも述べた通り顎を撃ち抜いたのだ。顎そのものは砕け散り、血飛沫が舞い散った。
さらにダメ押しのもう一撃。胸に軽く拳を当てる。――魘魅のパワーならそれだけで十分過ぎるほどの威力。心臓は止まり、救急措置も虚しく狼湾は死亡した。
もちろん魘魅は失格。その日から魘魅は『殺し屋』と呼ばれ、表社会の武術家を次々と殺していった――。
「「「「…………」」」」
にわかには信じ難い話だ。むしろ信じろという方が無茶である。
「そ、そんなことすれば大会とはいえ、故意とみなされて捕まるだろ?」
「アイツは裏と繋がっています。顔が広いんです。だから殺人の記録すら残らない」
「でもテレビでもやってたんでしょ?そしたらみんな違和感を持つはず――」
「――アイツは裏そのものです。それだけで……察せるでしょ?」
下手に喋れば殺される。ネットで配信しようとすれば特定されて殺される。海外に逃げても現地にいる裏の人物に殺される。
まさに異名通りの人物。[殺し屋]の名は嘘偽りない。それこそが今戦っている魘魅という男であった。
「……知るか。知るか知るか。フランシスは絶対に負けない。たとえ相手が殺し屋でもな」
言い聞かせるように。信じきれていないかのように。マイクは呟き続ける。
(この戦いは一体……どうなるんだ……!?)
さっきまでの一瞬で終わったり、一方的な戦いとは違う。どちらが勝つか分からない。これぞ格闘技の面白いところだ。
「――――」
そんな人たちの後ろで静かに佇む老人。近くにいるのは若い男女の集団。目立つはず――なのに誰も気にしていない。
それほど集中しているのか。それともこの人たちの影が薄いのか。意図的に薄くしているのか。
「――予想以上だね」
「世界チャンピオンの名は伊達じゃねぇな」
男と女が口を開いた。
「もう少しあれを温存して戦うべきかと思ったが……あの男相手ではキツイかもな」
「本来はアイツも使う気すらなかったんだ――」
――老人が喋っていた男の首を切り裂いた。
「――今は『魘魅様』だ。貴様みたいな虫ケラがアイツなどと呼ぶな」
血が飛び散る。前にいた人にもかかった――はずだが気がつかない。気がついていない。後ろで起こっている異常な惨状に目も耳も肌も匂いも感じていない。
幸運?それとも気がついて知らんぷりをしている?どれにしたって後ろの惨状は変わらない。
「――やめてくれよ爺ちゃん。従業員さんが片付けの時にびっくりするだろ」
「ふん。あれだけ言ったのに分かっていない方が悪いわ」
「もーどうする?誰が片付けする?」
「そこは――いつも通りジャンケンだろ」
まるで当たり前かのように話をしている。今目の前で人が殺されたのにだ。意義や抗議どころか、『殺されて当たり前』という感情すら見て取れる。
そしてもうひとつ。――血の渇望、とは。暗い闇のように。真っ黒な謎が老人たちを覆っていた。
老人たちとは違う場所で見ている蓮花たち。彼らも熱い戦いを目に焼き付けるため、スクリーンに見入っていた。
「あのっっ……あのパンチを避けれんのかっっ……!?」
「凄い……!」
「やっぱりフランシスは最強だ!」
指を鳴らして興奮する蓮花と美馬。ただやはり隣では未だに男が震えていた。
「違う……まだ違う……」
痺れを切らしたマイクが男に詰め寄った。
「何が違うんだ。お前は何を知っている。なぜフランシスが負けると思っている」
「……5年前。私の修行仲間がとある大会に出た時のことです」
――5年前。
その日はとても観客が多かった。老若男女問わず大勢の人が見ていた。テレビも含めたらもっと多いかもしれない。
そんな公衆の面前に――魘魅は現れた。姿形は今と全く変わらない。邪悪な笑みを浮かべたままだった。
第四試合。男――蘭の友人であり、楊詠春の弟子である白狼湾と魘魅の戦いでのこと。
戦いの序盤こそ狼湾が圧倒していたものの、さっきも見せていた変則的なパンチや強烈なキックによって徐々に狼湾は押され始めていた。
「――つまらん」
「な、なんだと!?」
「つまらんつまらん。やはり偽物じゃダメだな。面白みに欠ける」
魘魅の発言に憤慨した狼湾だったが――その直後。蛇に睨まれたカエルのように動けなくなる。
変身……それとも化けの皮が剥がれたのか。あるいは夢か幻か。魘魅が見せた幻覚だったのか。
目の前にいたはずの魘魅。その姿が――変わった。禍々しいものへと変化した。
「もういい。――死ね」
その後――魘魅の拳は狼湾の顎を撃ち抜いた。通常、人間は顎を殴られれば気絶する。
だが魘魅の攻撃は気絶なんて生易しいものじゃない。さっきも述べた通り顎を撃ち抜いたのだ。顎そのものは砕け散り、血飛沫が舞い散った。
さらにダメ押しのもう一撃。胸に軽く拳を当てる。――魘魅のパワーならそれだけで十分過ぎるほどの威力。心臓は止まり、救急措置も虚しく狼湾は死亡した。
もちろん魘魅は失格。その日から魘魅は『殺し屋』と呼ばれ、表社会の武術家を次々と殺していった――。
「「「「…………」」」」
にわかには信じ難い話だ。むしろ信じろという方が無茶である。
「そ、そんなことすれば大会とはいえ、故意とみなされて捕まるだろ?」
「アイツは裏と繋がっています。顔が広いんです。だから殺人の記録すら残らない」
「でもテレビでもやってたんでしょ?そしたらみんな違和感を持つはず――」
「――アイツは裏そのものです。それだけで……察せるでしょ?」
下手に喋れば殺される。ネットで配信しようとすれば特定されて殺される。海外に逃げても現地にいる裏の人物に殺される。
まさに異名通りの人物。[殺し屋]の名は嘘偽りない。それこそが今戦っている魘魅という男であった。
「……知るか。知るか知るか。フランシスは絶対に負けない。たとえ相手が殺し屋でもな」
言い聞かせるように。信じきれていないかのように。マイクは呟き続ける。
(この戦いは一体……どうなるんだ……!?)
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