迦神杯バトルロイヤル

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
12 / 42
本戦

第11話 ハイスペック

しおりを挟む
挨拶がわりのジャブ連打。右、左、そして右。ヘビー級ながら、ライト級にも劣らぬ速度のパンチを繰り出す。

――左、右、そして左。本気では無いとはいえ、素早いジャブを難なく躱された。

「ひひ――」

左のハイキック。狙うは顔面。だが見え見えの攻撃はフランシスに当たらない。体を逸らせて回避する。


逸らした体は反動という名の力が溜まり、フランシスのパンチ力をさらにアップさせる。相手はハイキックで片足1本攻撃を避ける手段はない。絶好の的だ。

相手の顔面に右ストレートを――

「っ――!?」

――先に攻撃が当たったのはなんと魘魅。片脚立ちの体勢からボディへ拳を打っていた。

(こいつ……とんでもない体勢のクセになんて重い一撃を……!!)

パンチは体幹と両脚の支えが要となる技。魘魅が放ったボディへの一撃は明らかに『支え』の部分が欠如している。

つまるところ体の回転のみで打った一撃。普通ならバランスもとれずに威力も出ないはず。しかしフランシスの腹部には染み渡る痛みが断続的にやってきていた。

「こんな『変則パンチ』体験したことねぇだろ?なぁチャンピオン――!!」


上から下へ振り下ろす蹴り。かかと落としのつま先バージョン、といったところか。人外的な体幹を存分に使って攻撃してくる。

避ける――しかし攻撃は止まない。回し蹴りから前蹴りを2発。空中へと飛び上がり前宙しながらかかと落とし――。

まるでゲームみたいな挙動だ。それでいてゲームのように素早い。普通なら蹴り技には隙が生じるはずだが、後隙をスキップしているかのように高速で攻撃し続ける。

隙を付いて攻撃しようとしたフランシスも、こうも絶え間なく攻撃されては反撃のしようもない。回避に集中、防戦一方となるばかりだ。

「くっ……!」
「どうした!?ビビってんのかよ!?殴り返さなきゃつまらねぇだろ!?」

右脚の回し蹴り。回避した瞬間――後ろから鈍い音が聞こえた。

(こいつ――コンクリートを壊しやがった!?)

コンクリートの柱には大きなヒビが入っていた。素手でコンクリートを壊す――確かに人間とは思えないパワー。

だが本質はそこじゃない。もっと魘魅には優れた能力がある。そこに気がつくのは1秒後。きっかけは驚きで一瞬固まったフランシスに与えた攻撃だった。


「――――!?」

蹴りが来た。真正面から足の甲がやってきた。優れた反射神経でかろうじてガードするも、ガードした前腕が赤くなる。

「お――まえっ――!?」
「ははは!!鍛え方が違うんだよ『格闘家』って奴とはな!!」


魘魅は柱に垂直に立っていた。蹴ったのは軸足だったはずの左脚。

「な、なんだそれ!?」
「簡単なことだ。ロッククライミングは指の力だけで崖を登るだろ?同じこと――違うのは今使っているのがってことだけだ」



魘魅の驚異的なバランス能力は、体幹による影響も確かにある。だが1番の理由は『足の指の力』である。

化け物じみたスピードは足の指の力で加速しているだけ。バランス能力も指の力で体重を支えているだけ。シンプルながら誰にでもできる芸当ではない。

それでいて足の指で散髪ができるほどに器用。器用さとパワー、これら2つを手にしている魘魅にとって、壁に立つなど階段を上ることと同じことである。



「やはりお前も中国拳法エセ武術と同じ。俺を楽しませてはくれないんだな」

――柱をむしり取ってばら撒く。ほとんど粉状となったコンクリートは煙幕のようにフランシスの前を塞いだ。

視界は目隠しをしたかのように閉ざされる。頼れるのは音。しかしその音も――速すぎては意味がない。

砂となったコンクリート片から飛び出す拳。それは空気を切り裂く威力。周りの粉をもかき消す力。当たれば1発ダウンは確実。

そんな拳が迫る。迫っていく。反射神経で避けられる代物じゃない。拳が狙うはただ一つ。フランシスの顔面――。



――避けた。拳は頬を切って、空を叩く。そのままの勢いで前へと出てきた魘魅にボディブローを叩き込んだ。

「が――ぁ――!?」

世界チャンピオンのボディブロー。その拳は魘魅の体を浮かせた。


2発目の追撃はバックステップで回避される。しかしダメージは絶大。胃の内容物が行き場所を求めて逆流しようとしていた。

ギリギリで吐かずに耐える。並の鍛え方をしていない魘魅だからこそ、この程度で済んだのだ。普通の格闘家なら吐きながら痛みで転げ回っているところである。

「目隠しか――路上戦ストリートファイトでは当たり前の戦法だな」
「ぐふっ……!」


反射神経じゃない。言うなれば『経験』から導き出された『予測』だ。何度も何度もやってきた喧嘩。それが今のフランシスを支えている。

「喜べ小僧――俺が楽しさを教えてやる」
「はは――いいね。面白くなってきた」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

おっ☆パラ

うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!? 新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美
キャラ文芸
才能ある者が地下へ落とされる。 歪つな世界の物語。

KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-

ジェド
歴史・時代
1894年、東洋の島国・琉球王国が沖縄県となった明治時代―― 後の世で「空手」や「琉球古武術」と呼ばれることとなる武術は、琉球語で「ティー(手)」と呼ばれていた。 ティーの修業者たちにとって腕試しの場となるのは、自由組手形式の野試合「カキダミシ(掛け試し)」。 誇り高き武人たちは、時代に翻弄されながらも戦い続ける。 拳と思いが交錯する空手アクション歴史小説、ここに誕生! ・検索キーワード 空手道、琉球空手、沖縄空手、琉球古武道、剛柔流、上地流、小林流、少林寺流、少林流、松林流、和道流、松濤館流、糸東流、東恩流、劉衛流、極真会館、大山道場、芦原会館、正道会館、白蓮会館、国際FSA拳真館、大道塾空道

処理中です...