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本戦
第9話 裏の裏
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挨拶がてらの回し蹴り。一回転してジャンプし、ブラカーンの顔に向けて足の甲を叩きつける。
――防ぐ。意に返す様子もなく反撃の一手を指した。
肘打ち。ムエタイが「立ち技最強」と呼ばれる所以たる一つ。ブラカーンの肘打ちはイジュンのこめかみにヒットした。
「――」
視界が歪む。頭が歪む。電撃のようにやってくる痛み。まともに喰らってしまっては、次の攻撃も受けてしまう。
次は『縦肘打ち』への流れる連携。顔面の中心を付いた攻撃はイジュンの整っている顔面を壊す。
「ぶっ――!?」
歪んでいた視界を自身の血によって塞ぐ。顔面を殴られると必然的に発生する視界のピントズレ。肘打ちのコンビネーションによってそれは本来ピントズレが治るはずの時間を大きく超えていた。
追撃はやまない。今度は髪を掴んで顔面に飛び膝蹴りを叩き込んだ。
「ぬぉ――が――」
鼻は折れ曲がる。頬にはヒビが入る。歯は砕けた。超接近戦での3連撃。異種格闘技戦の経験がないイジュンにとって、この連続攻撃は予想以上のダメージを与えた。
「ぐ――」
しかし――倒れない。折れ曲がった鼻を真っ直ぐに治す。
「俺の――イケてる顔が台無しになったじゃないか」
「今の方が俺はいいと思うぜ――」
――喋ってる最中に後ろ蹴りを放つ。
「――随分とせっかちだな」
攻撃は――当たらなかった。予測していたかのように後ろへ体を逸らしていた。数cm。あと数cmで当たるというところまで。
残った軸足にローキック。重い一撃が神経、その奥の骨にまで響いた。
「ぐぁ――ァァァァ!!!!」
痛みは持続的にイジュンの神経を削っていく。――ここに来て気合いを入れ直す。長期戦の予想されるこの大会でこれ以上のダメージは避けたい。
(予想以上だブラカーン……だがここで決めさせてもらう)
体勢を立て直しながら軸足を入れ替える
横蹴り――後ろ回し蹴り――飛び横蹴り――飛び後ろ回し蹴り。
ダイナミックな四連撃。スケートの上を滑るように繰り出すことから名付けたイジュンの確定勝利パターン。
ジュースを飲みながらイジュンの仲間が呟く。
「『トリプルアクセル』だ」
「これは勝ったな」
仲間たちは確信していた。イジュンの勝利を――。
――この数ヶ月。イジュンと仲間たちは大会に向けて徹底的な練習をしていた。異種格闘技……特にムエタイへの対抗策を。
「まず相手はプロだ。まともに蹴りを出しても避けられるし防がれる」
「だからこその隙が生まれる」
「一撃で倒れさえしなければ勝機があるのはイジュンだ」
シュミレーションは何百回も行った。作戦のためにあえて肘打ちの攻撃を喰らった。その傷と痛みは今のイジュンの糧となっている。
どれもこれも全ては優勝のため。強さのため。協力してもらった、支えてくれた人のための恩返し。
(実戦でもテコンドーが通用するってのを証明してやる――)
その思いを胸に。イジュンは日本へ渡ってきたのだ――。
『トリプルアクセル』は流れる4連撃。反撃できそうで出来ない、というのが特徴だ。
反撃をしようとすれば次の手が来る。なら全てが終わるまで待つ――のも現実的じゃない。なぜなら移動距離こそがこの技の強みだからだ。
テコンドーの試合で使えば、相手をコートの端まで追い詰められる。背を向けるのはルール違反なので、相手は防ぐか、モロに攻撃を受けるしかない。
ならこの状況――実戦ならばどうか。ブラカーンの背後には壁がない。ということは避けられて反撃されるだけでは?となる。そこだ。イジュンが狙っているのはそこである。
イジュンの狙い通りに素直に避けるブラカーン。四連撃は終わりを迎え、生まれでた大きな隙に攻撃を仕掛けようとする――。
――そこへ前蹴り上げを放った。大技を繰り出した直後の攻撃。必ずできるはずの隙をイジュンは無理矢理消した。
もちろんタダじゃ済まない。回転の勢いを止めた左足首は甚大なダメージを負った。肉の筋がブチッと音を立てる。
(これで『神様』を倒せるんなら安いもんだ――!!)
前蹴り上げは――虚しく外す。だがまだだ。狙いはもっと先にある。粘り強く。辛抱強く。痛みに耐え続ける。
前蹴り上げは布石。そこから力を加えて地面に脚を落とす。『踵落とし』だ。だが――これも外す。作戦のために外れると分かっていても本気で放った。
これで本当の隙ができる。今度こそ出来た隙を逃さずにくるブラカーンの肘――。
(ここだ――!!!)
狙いは一点。打撃勝負を続けては分が悪い。ならば一撃で決める。狙うは――顎。
(ずっと近距離で攻撃を貰ってやっただろ――『この距離なら足技は使えないから』って理由でな――!!)
――そう。奥の手。それはシンプルイズベスト。『拳』による殴打である。
テコンドーは足技だけ。見せかけだけ。――否。本来ならテコンドーも腕を使うのだ。拳を使うのだ。ムエタイとやることは一緒なのだ。
隠して、隠して、隠し抜いた必殺の一撃。僅かな隙を狙いすました拳はブラカーンの顎を――。
――防ぐ。意に返す様子もなく反撃の一手を指した。
肘打ち。ムエタイが「立ち技最強」と呼ばれる所以たる一つ。ブラカーンの肘打ちはイジュンのこめかみにヒットした。
「――」
視界が歪む。頭が歪む。電撃のようにやってくる痛み。まともに喰らってしまっては、次の攻撃も受けてしまう。
次は『縦肘打ち』への流れる連携。顔面の中心を付いた攻撃はイジュンの整っている顔面を壊す。
「ぶっ――!?」
歪んでいた視界を自身の血によって塞ぐ。顔面を殴られると必然的に発生する視界のピントズレ。肘打ちのコンビネーションによってそれは本来ピントズレが治るはずの時間を大きく超えていた。
追撃はやまない。今度は髪を掴んで顔面に飛び膝蹴りを叩き込んだ。
「ぬぉ――が――」
鼻は折れ曲がる。頬にはヒビが入る。歯は砕けた。超接近戦での3連撃。異種格闘技戦の経験がないイジュンにとって、この連続攻撃は予想以上のダメージを与えた。
「ぐ――」
しかし――倒れない。折れ曲がった鼻を真っ直ぐに治す。
「俺の――イケてる顔が台無しになったじゃないか」
「今の方が俺はいいと思うぜ――」
――喋ってる最中に後ろ蹴りを放つ。
「――随分とせっかちだな」
攻撃は――当たらなかった。予測していたかのように後ろへ体を逸らしていた。数cm。あと数cmで当たるというところまで。
残った軸足にローキック。重い一撃が神経、その奥の骨にまで響いた。
「ぐぁ――ァァァァ!!!!」
痛みは持続的にイジュンの神経を削っていく。――ここに来て気合いを入れ直す。長期戦の予想されるこの大会でこれ以上のダメージは避けたい。
(予想以上だブラカーン……だがここで決めさせてもらう)
体勢を立て直しながら軸足を入れ替える
横蹴り――後ろ回し蹴り――飛び横蹴り――飛び後ろ回し蹴り。
ダイナミックな四連撃。スケートの上を滑るように繰り出すことから名付けたイジュンの確定勝利パターン。
ジュースを飲みながらイジュンの仲間が呟く。
「『トリプルアクセル』だ」
「これは勝ったな」
仲間たちは確信していた。イジュンの勝利を――。
――この数ヶ月。イジュンと仲間たちは大会に向けて徹底的な練習をしていた。異種格闘技……特にムエタイへの対抗策を。
「まず相手はプロだ。まともに蹴りを出しても避けられるし防がれる」
「だからこその隙が生まれる」
「一撃で倒れさえしなければ勝機があるのはイジュンだ」
シュミレーションは何百回も行った。作戦のためにあえて肘打ちの攻撃を喰らった。その傷と痛みは今のイジュンの糧となっている。
どれもこれも全ては優勝のため。強さのため。協力してもらった、支えてくれた人のための恩返し。
(実戦でもテコンドーが通用するってのを証明してやる――)
その思いを胸に。イジュンは日本へ渡ってきたのだ――。
『トリプルアクセル』は流れる4連撃。反撃できそうで出来ない、というのが特徴だ。
反撃をしようとすれば次の手が来る。なら全てが終わるまで待つ――のも現実的じゃない。なぜなら移動距離こそがこの技の強みだからだ。
テコンドーの試合で使えば、相手をコートの端まで追い詰められる。背を向けるのはルール違反なので、相手は防ぐか、モロに攻撃を受けるしかない。
ならこの状況――実戦ならばどうか。ブラカーンの背後には壁がない。ということは避けられて反撃されるだけでは?となる。そこだ。イジュンが狙っているのはそこである。
イジュンの狙い通りに素直に避けるブラカーン。四連撃は終わりを迎え、生まれでた大きな隙に攻撃を仕掛けようとする――。
――そこへ前蹴り上げを放った。大技を繰り出した直後の攻撃。必ずできるはずの隙をイジュンは無理矢理消した。
もちろんタダじゃ済まない。回転の勢いを止めた左足首は甚大なダメージを負った。肉の筋がブチッと音を立てる。
(これで『神様』を倒せるんなら安いもんだ――!!)
前蹴り上げは――虚しく外す。だがまだだ。狙いはもっと先にある。粘り強く。辛抱強く。痛みに耐え続ける。
前蹴り上げは布石。そこから力を加えて地面に脚を落とす。『踵落とし』だ。だが――これも外す。作戦のために外れると分かっていても本気で放った。
これで本当の隙ができる。今度こそ出来た隙を逃さずにくるブラカーンの肘――。
(ここだ――!!!)
狙いは一点。打撃勝負を続けては分が悪い。ならば一撃で決める。狙うは――顎。
(ずっと近距離で攻撃を貰ってやっただろ――『この距離なら足技は使えないから』って理由でな――!!)
――そう。奥の手。それはシンプルイズベスト。『拳』による殴打である。
テコンドーは足技だけ。見せかけだけ。――否。本来ならテコンドーも腕を使うのだ。拳を使うのだ。ムエタイとやることは一緒なのだ。
隠して、隠して、隠し抜いた必殺の一撃。僅かな隙を狙いすました拳はブラカーンの顎を――。
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