無職で何が悪い!

アタラクシア

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3章「美しき水の世界」

109話「熱は全てを凌駕する!」

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――ピシッ。

拳は寸前のところで停止した。運動エネルギーはゼロに。ピクリとも拳は動かない。

「なっ――」

驚くのも至極当然。完全に勝ったと思い込んだ男の攻撃が止められたのだ。


見上げるノノ。その先に映っていた景色。

「――レットバインド紅縄

灼熱の炎。それが質量を持ち、レオンの体全体に巻きついていた。鎖、縄。巻き付けるものなら何を想像してもいい。


「これは……」
「レットバインド。炎の縄。この熱から逃げることはできない」

動こうともがくたびに熱が体の中へと侵入してくる。ジワジワと焼肉のような音と匂いを立ててレオンの体を焼いていく。


形成逆転。余裕の笑みを浮かべながら、動けないレオンの背中側に回り込む。

「……あんたにまともに攻撃しても場外に落ちない。だからといって倒すのも魔力の関係上、難しい。……ならこうするのが楽」
「――?」




場外まで1m。ノノはそこまで追い詰められていた。しかし今は形成逆転している。後ろから攻撃でもすれば落とせるだろう。

しかしそれは普通の人間ならばの話。この男に攻撃しても場外に落とすどころか、ノックバックすらしないはずだ。

ましてや魔力をほとんど消費しているノノ。物理攻撃は無理。魔法もほとんど効かない上に魔力切れ寸前。




ノノの手に生成される炎。その炎は形を変えて質量を作り出す。

「――バーナーソード炎剣

炎は剣となった。燃え盛る刃がメラメラと音を立てる。

「悪く思わないでよね――」

炎の刃が突き立てられた――。








ガコッとリングが崩れる。レットバインドがかき消され、体の動きが自由に。

「――」

体は下へと。場外に吸い込まれるかのように地面に落ちていく。こうとなっては筋肉は役に立たない。

重力に従って地面に進む。ルールを壊すことはできない。無理やり作ったルールではなく、元からあったルールは壊すことのできない絶対的なモノだ。








「――レオン選手場外!!よってこの戦いの勝者は……ノノ選手!!!!!!!」

戦いは決着した。

ノノが切り落としたのはリング。まともに押し出すのは無理と判断したノノは、リングごと切り倒して場外に落とすことを考えた。

そしてその目論見は成功。レオンの体は地面へと落とされてしまったのだ。まぁそもそもレオンを斬ったとしても傷が付くか分からないが。


ノノの勝利に盛り上がる観客席。その熱狂は天にまで登った。その歓声は地底を掘り進んだ。

レオンは敗北した。それでも賞賛の声は少なくない。あれだけの戦いを見せてもらって罵倒するものなどいない。

ただノノの賞賛の声はレオンを超えていた。勝利者に声をあげるのは当然。十分以上の声がノノに向けられていた。


「――負けちゃったか」

落ちた腰を持ち上げる。腕はボロボロ。皮膚には焼けた紐を押し付けられた痕がついていた。

それでもケロッとしている。拳が焼け焦げているのは気にしていない。

「やっぱり強いな!さすが勇者パーティの魔法使い!」
「……嫌味?それは?」


魔力が完全に無くなったノノ。もう魔法を撃つことはできない。

もしこれが殺し合いならば場外などない。続けていれば魔法を撃てないノノに勝ち目はない。勝っていたのはレオンだろう。

一見のダメージはレオンの方が大きい。しかし体力の差はレオンとノノでは圧倒的な差がある。持久戦で負けるのはノノだ。


「嫌味じゃないさ。勝ちは勝ち。あんたの勝利だ」
「……ふん」

ノノは不満そうに鼻を鳴らした。








選手控え室。そこには少しだけ哀しそうな顔をしたクリントンがいた。

「――すまないクリントン」

病室に行かずにそのまま選手控え室に来たレオン。かなりの重症のはずだが、なんかやっぱり元気そう。

クリントンに頭を下げるレオン。その姿は物悲しそうだ。


「……負けたものは仕方ない。だが約束をしたのはレオンから。それは守って……貰わないと……」

詰まり詰まりの言葉。クリントンも本意では無い。両者ともに辛そうな顔をした。


レオンの後ろでノノは腕を組んでいた。とんでもなく偉そうに。というか腕にヒビが入ってたはずだが……。

「……別に普通に付き合えばよくない?」
「だ、だが約束が……」
「約束なんて無くしてさ、普通に告白すれば?」
「普通に……告白……」
「二人ともお似合いだし。両方とも付き合いたいんでしょ?わざわざ変な条件付けなくてもいいじゃん」


少しの間と共に無言で頷く2人。今頃になってそんなことに気がついたのか。

「――そうだな。付き合ってくれクリントン!」
「――はい」

その間わずか3秒。これほどまでに早い告白は世界中を見渡してもほとんどいないだろう。


イチャイチャする2人。その後ろでは「……やっぱり言わなければよかった」と呟くノノが居たのだった。











続く
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