無職で何が悪い!

アタラクシア

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3章「美しき水の世界」

108話「猪突猛進の極み!」

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別段考えてもなかったことではなかったようだ。驚くような素振りも見せずに次の攻撃へと移る。

炎の球体がノノの周りを回転する。数は9つ。大きさは野球ボールくらい。

球体はノノの後ろに円を作った。全ての炎がレオンにロックオン。狙いを定めた。

オーバーヒートレーザー高音熱線!!」

炎から放たれたのはレーザー。真っ赤な1本の直線。超高音の熱線がレオンに向けられた。


コンクリートを焼き斬る熱線。そんなものが人間に当たればどうなるのか。想像するのは簡単だ。

レオンに9本の熱線が直撃した。火花がレオンの後ろに飛び散る。

「――チッ。化け物……」

顔面に降りかかる超高音の熱。それをお構い無しに真っ直ぐ突き進む。猪突猛進。

降りかかる高音。耐えることも不可能なその灼熱の中を突き進む。普通なら体に穴が空いてもおかしくない。


そんな熱線の中を歩き続ける。1歩1歩。着実に。距離は徐々に詰まっていく。

5m。4m。3m。2m。1m……。距離はレオンの射程まで。

「嘘――!!」

オーバーヒートレーザーを放っている間は動くことができない。ただしレーザーに近づけば近づくほど熱量は上昇。レーザーも一点に収縮していく。

それでも前に。腕を後ろに下げる。筋肉がボコりと大きく。血管がビキビキと波打つ。鉄骨のような拳がノノを捉える。

レーザーを停止。同じタイミングで放たれる拳。強力なパワーを纏った拳は熱空気を切り裂いてノノへと叩きつけられた――。


咄嗟の防御が間に合ったようだ。顔に向かって叩きつけられた拳を腕でガードする。

衝撃。後ろへと飛ばされる。矢印に引っ張られるかのように場外へと押されてゆく。

脳が頭の中でピンボールのように。頭蓋骨の中をゴロゴロと転がる感覚がノノを襲った。

「――」

思っていたよりもぶっ飛ぶことは無かった。ノノは数mだけ空中に投げ出され、腰から地面へと落ちる。


腕がダランと垂れていた。骨の髄までジーンと響く衝撃がノノの中で蠢く。折れてはいないが、ヒビが入ってるだろう。

ピクピク震える指を抑えて立ち上がる。未だ闘志の炎は消えず。


「……なるほどね」

レオンが腕を見つめる。ノノを殴った拳。握りしめていたその手は炭化したかのように真っ黒に染まっていた。

「フゥフゥ……フレイムシールド炎纏盾




攻撃が当たる直前。ノノはガードした腕に炎を纏っていた。ただの炎では無い。それもレーザーよりさらに高音。

触れるだけで人を分解までしそうなほどの火力。一瞬展開した炎。ほんの一瞬だけ展開した炎だが、その熱は観客席にいる人たち全員に汗を吹き出させた。




「これでは俺の分が悪い……と言いたいところだが。自分のダメージに目を瞑れば、俺でも倒せそうだ」

肩を鳴らす。握りしめた拳は開けることは無い。いや、開けられない。炭化して皮膚がくっついている。

ダメージはもちろん尋常ではないはず。普通なら即座に手術しないといけない。


だが臆することなく前へと進む。目前にあるのはノノの姿。残っているもう片方の手を握りしめた。

ノノとの距離は7m。すぐに追いつく。もう一度レオンは地面を踏み込んだ。


「奥の手のつもりだったけど……仕方ない」

ノノの後ろから現れる炎の津波。それは水のように、雪崩のようにノノを飲み込みながら形を変えた。

変形していく。顔から始まり、胴体を中間とし、脚を生成。

鋭い眼光。しなやかな筋肉。見える牙。こっちの世界でも知らない人はいないであろうあの生き物の形。

「――炎虎えんこ



身長2mを超えるレオンを見下ろすほどの大きさ。丸呑みはきついが、それでも体の半分は一口で噛み付くことができるだろう。

炎の虎はレオンに狙いを定める。獲物が隠れもせず、逃げもせずに我が元に歩いてきているのだ。チャンス。絶好のチャンス。

かぶりつく他はない。レオンに向かって突撃する虎。避ける気すらないレオン。

虎の口に吸い込まれるかのように。虎の鋭利な炎の牙がレオンに食い込んだ。

「ッ――」

連続の熱攻撃。皮膚もそろそろ限界に達していたのだろう。ついにその体から血が出てきた。

炎が筋肉を通して体内に。焼肉のように体の内部の温度を上昇させてゆく。


「――まだまだァ!!!」

炎の虎にハグ。可愛いものでは無い。虎の首をギチギチと締め付け、炎の質量を徐々に減らしていく。

その間も前へ前へと進む。その威圧。その行動。ノノは後ずさりをする。連続の魔法使用により魔力が枯渇し始めていた。

炎虎はノノの扱える技の中でも最大火力の技。連発はできない。



そんな大技をレオンはかき消した。いや、締め消したと言うべきか。

虎の首をへし折り、その炎を鎮火させる。燃え盛る虎は一瞬で消え、本体であるノノの姿をレオンの瞳に写した。


距離は6m。容易に近付くことの出来る距離。魔力と体力が限界に近いノノの動きは鈍かった。ゆっくりと近寄るレオンよりも。

「くっ――」

折れてる腕をレオンに向ける。手の先から炎の球体。向けられた炎はレオンに発射された。

ファイアーボール炎遠的!!」

顔面に直撃する。モクモクとあげる煙の中から無傷の顔が登場。一切怯むことなくノノの元へと歩く。


ファイアーボール炎遠的!!ファイアーボール炎遠的!!」

連発する。2発、3発、4発、5発。全て顔で受け止めるレオン。いくら撃ってもダメージが見えない。


踏みしめる脚に力が篭る。握りしめた拳に力が宿る。鼓動のように膨張と収縮を繰り返す筋肉。

拳を後ろに。ノノの後ろは場外。当たればどんなことをしたとしても場外へと落ちる。そうなればダメージの総量がこちらの方が少なくても負け。

避けねばなるまい。それでも体は動いていなかった。砂漠の水のように少なくなった魔力。捻り出さないとまともに出てこないほどの魔力。

防御はできる。まだギリギリフレイムシールドを展開することもできる。だがしたとしても負ける。


溜めた力を解放。レオンの拳はノノの顔面に向かって放たれた――。











続く
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