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3章「美しき水の世界」
104話「花に水をやる!」
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「――――――あっっ」
一瞬。光の線がヘキオンの腕に照射された。まさしく光の速度。避けることも、反応することもできない。
硝子によって1点に集中した太陽光。その熱量は例えるなら太陽そのもの。炎以上の熱のレーザー。
そんなものが腕に照射されたのならどうなるのか。
「っっつ!!」
片腕に生成していた水の槍は瞬く間に蒸発。水を握りしめていた腕は皮膚の下にまで熱が到達した。
闘志はまだある。片脚に水を圧縮し、オフィサーに向かって蹴り飛ばす。
「――アクアスラッシュ!!!」
飛んでいく斬撃。鋭利な水刃が空を切り裂きながらオフィサーの元へ――。
出てくる紫陽花。斬撃は全て吸収された。水1滴でさえもオフィサーへと到達することは無かった。
「あぁもう――あだ!」
地面に背中から落下する。ズキズキと痛む背中。押さえることはできないのでなんとか耐えながら立ち上がった。
右腕の損傷が酷い。皮膚が焼けただれて赤茶色になっている。皮下脂肪にまで熱は到達したはずだ。
ただ焼けているのは手のひらから肘まで。腕全体じゃないだけマシ。まだ戦える。
コロシアム内で上がったのは歓声ではなく悲鳴。いたいけな少女がボロボロになるところを見るのが耐えられない人もいた。
もともと戦いとはそんなものだが、見ているのはほとんどがただの一般人。そんなことが分かっていたとしても慣れてないのが現状。
そんな悲鳴など無視して構えるヘキオン。片腕は使えないので、もう片方の腕を前に突き出す。
「まだ諦めないか……」
「誰も負けとは言ってない。それに腕をボロボロにされるのは経験済みだよ!」
「……いいだろう。なら完膚なきまでに叩きのめしてやる」
何も考えずに殴れば反射されて場外に。遠距離からの魔法も全て無効。そもそもヘキオンの扱う技のほとんどは吸収されるだろう。相手は一方的に攻撃できる上、拘束技も多数所持……。
客観的に考えればヘキオンに勝ち目はない。とにかく相性が悪いのだ。
しかしそう考えていないのがここに1人。そう、我らがヘキオンである。自分にはまだ勝つチャンスはあると思っている。
もちろんヘキオンは考え無しではない。自分に勝機があると思っているのには理由がある。それはまだ誰にも見せていない秘策の技があるからだ。
「ふぅぅぅ……ウォーターサーチ」
圧縮した水の球体を上へ。そして解放。水蒸気にまで小さくなった水の粒がリングへと降り注ぎ始めた。
ウォーターサーチは相手の場所の探知や、その地形を頭に入れるために使う技。攻撃技でもなんでもない。
「……なんの真似だ」
「さぁね。自分で考えなさい……!」
それをオフィサーは知っている。何かしらの策か、それとも挑発か。どちらにしろ速攻で終わらせるのが手だ。
ヘキオンの後ろに赤い花が咲いた。細くて綺麗な花。
それがひとつ。またひとつ。ゾロゾロと地面から飛び出してきた。数は数十ほど。ヘキオンを囲むようにして咲く。
「諦めを知らないヤツにはこの花をやろう……Distant flowers」
リングに咲き誇る彼岸花。さっきまであった硝子花や向日葵も形を変えて彼岸花へと変わっていった。
「けほっごほっ……なに……」
歪む視界。呼吸器に膜が貼ったような感覚。息をする度に咳が喉から溢れ出てくる。
「さっさと終わらせるのは勿体ないが仕方ない」
地面に手を置き魔力を注ぎ込む。次の攻撃。地面にいる限りはまず当たってしまう。
だからといって片腕を潰されてる今だと、水で飛ぼうにもバランスが取れずに落下してしまう。そっちの方がダメージは大きい。
ヘキオンがとった手は地面で待機すること。仕込みは住んである。下手なギャンブルに手は出す必要は無い。
着実に。確実に。誠実に。その時が来るまで耐えるのみだ。
「Blade flowers」
咲いたのは刃の花弁を持った花。オフィサーの後ろに3つほど。茎はヘキオンの背丈くらいの大きさ。花自体は向日葵ぐらいの大きさだ。
これまたクルクルと丸鋸のように花弁が回転する。全てがヘキオンにロックオン。甲高い音を発しながら茎から飛び出して行った。
「ウォーターウォール!」
出現する水の壁。向かってくる刃。高水圧の壁は丸鋸程度は弾き返すことができる。
予想通りに全て弾く。刃はヘキオンに到達することは無かった。
「ふぅふぅ……ぐぅ……」
足腰の力が弱まる。いつもみたいな元気さを感じない。クリントンとの戦いの時のような力強さも感じない。
音もなくヘキオンの後ろに花が咲く。黒色で蓮の蕾のような形。花はヘキオンの方向へと向いている。
「――Bullet flower」
その花は名前の通り。鋼鉄にも例えられる種を放つ花。
風船のように蕾が膨れる。貯めた空気を一瞬で。ヘキオンに向けて超硬度の種を放出した。
「ぐっ……がぁ……!?」
種はヘキオンの腹部を貫通。内蔵をも貫き、貼っていた水の壁も突破した。
膝をつく。貫通した腹から血が滲み出てくる。さらに吐血。先程出した血を塗り直した。
黒の服なので血はあまり目立たない。だがそれが尚更痛々しさを表していた。
「――??」
鼻からも血が。わけの分からないような表情。ダメージを貰ってない鼻から血がでてきている。
「彼岸花には毒がある。このリングにいる限りはその毒から逃れることはできない」
ウォーターウォールを解除した奥。無感情に立ち尽くすオフィサー。無傷。ボロボロのヘキオンと違って完全な無傷だ。
フラフラと立ち上がった。出てくる鼻血と口からの吐血を前腕で拭う。
「これ以上続ける気か。彼岸花は致死性の毒じゃない。苦しみ続けるだけだぞ」
「……勝てるって時に勝利を手放すバカがどこにいるの?」
ヘキオンはニヤリと笑った。
続く
一瞬。光の線がヘキオンの腕に照射された。まさしく光の速度。避けることも、反応することもできない。
硝子によって1点に集中した太陽光。その熱量は例えるなら太陽そのもの。炎以上の熱のレーザー。
そんなものが腕に照射されたのならどうなるのか。
「っっつ!!」
片腕に生成していた水の槍は瞬く間に蒸発。水を握りしめていた腕は皮膚の下にまで熱が到達した。
闘志はまだある。片脚に水を圧縮し、オフィサーに向かって蹴り飛ばす。
「――アクアスラッシュ!!!」
飛んでいく斬撃。鋭利な水刃が空を切り裂きながらオフィサーの元へ――。
出てくる紫陽花。斬撃は全て吸収された。水1滴でさえもオフィサーへと到達することは無かった。
「あぁもう――あだ!」
地面に背中から落下する。ズキズキと痛む背中。押さえることはできないのでなんとか耐えながら立ち上がった。
右腕の損傷が酷い。皮膚が焼けただれて赤茶色になっている。皮下脂肪にまで熱は到達したはずだ。
ただ焼けているのは手のひらから肘まで。腕全体じゃないだけマシ。まだ戦える。
コロシアム内で上がったのは歓声ではなく悲鳴。いたいけな少女がボロボロになるところを見るのが耐えられない人もいた。
もともと戦いとはそんなものだが、見ているのはほとんどがただの一般人。そんなことが分かっていたとしても慣れてないのが現状。
そんな悲鳴など無視して構えるヘキオン。片腕は使えないので、もう片方の腕を前に突き出す。
「まだ諦めないか……」
「誰も負けとは言ってない。それに腕をボロボロにされるのは経験済みだよ!」
「……いいだろう。なら完膚なきまでに叩きのめしてやる」
何も考えずに殴れば反射されて場外に。遠距離からの魔法も全て無効。そもそもヘキオンの扱う技のほとんどは吸収されるだろう。相手は一方的に攻撃できる上、拘束技も多数所持……。
客観的に考えればヘキオンに勝ち目はない。とにかく相性が悪いのだ。
しかしそう考えていないのがここに1人。そう、我らがヘキオンである。自分にはまだ勝つチャンスはあると思っている。
もちろんヘキオンは考え無しではない。自分に勝機があると思っているのには理由がある。それはまだ誰にも見せていない秘策の技があるからだ。
「ふぅぅぅ……ウォーターサーチ」
圧縮した水の球体を上へ。そして解放。水蒸気にまで小さくなった水の粒がリングへと降り注ぎ始めた。
ウォーターサーチは相手の場所の探知や、その地形を頭に入れるために使う技。攻撃技でもなんでもない。
「……なんの真似だ」
「さぁね。自分で考えなさい……!」
それをオフィサーは知っている。何かしらの策か、それとも挑発か。どちらにしろ速攻で終わらせるのが手だ。
ヘキオンの後ろに赤い花が咲いた。細くて綺麗な花。
それがひとつ。またひとつ。ゾロゾロと地面から飛び出してきた。数は数十ほど。ヘキオンを囲むようにして咲く。
「諦めを知らないヤツにはこの花をやろう……Distant flowers」
リングに咲き誇る彼岸花。さっきまであった硝子花や向日葵も形を変えて彼岸花へと変わっていった。
「けほっごほっ……なに……」
歪む視界。呼吸器に膜が貼ったような感覚。息をする度に咳が喉から溢れ出てくる。
「さっさと終わらせるのは勿体ないが仕方ない」
地面に手を置き魔力を注ぎ込む。次の攻撃。地面にいる限りはまず当たってしまう。
だからといって片腕を潰されてる今だと、水で飛ぼうにもバランスが取れずに落下してしまう。そっちの方がダメージは大きい。
ヘキオンがとった手は地面で待機すること。仕込みは住んである。下手なギャンブルに手は出す必要は無い。
着実に。確実に。誠実に。その時が来るまで耐えるのみだ。
「Blade flowers」
咲いたのは刃の花弁を持った花。オフィサーの後ろに3つほど。茎はヘキオンの背丈くらいの大きさ。花自体は向日葵ぐらいの大きさだ。
これまたクルクルと丸鋸のように花弁が回転する。全てがヘキオンにロックオン。甲高い音を発しながら茎から飛び出して行った。
「ウォーターウォール!」
出現する水の壁。向かってくる刃。高水圧の壁は丸鋸程度は弾き返すことができる。
予想通りに全て弾く。刃はヘキオンに到達することは無かった。
「ふぅふぅ……ぐぅ……」
足腰の力が弱まる。いつもみたいな元気さを感じない。クリントンとの戦いの時のような力強さも感じない。
音もなくヘキオンの後ろに花が咲く。黒色で蓮の蕾のような形。花はヘキオンの方向へと向いている。
「――Bullet flower」
その花は名前の通り。鋼鉄にも例えられる種を放つ花。
風船のように蕾が膨れる。貯めた空気を一瞬で。ヘキオンに向けて超硬度の種を放出した。
「ぐっ……がぁ……!?」
種はヘキオンの腹部を貫通。内蔵をも貫き、貼っていた水の壁も突破した。
膝をつく。貫通した腹から血が滲み出てくる。さらに吐血。先程出した血を塗り直した。
黒の服なので血はあまり目立たない。だがそれが尚更痛々しさを表していた。
「――??」
鼻からも血が。わけの分からないような表情。ダメージを貰ってない鼻から血がでてきている。
「彼岸花には毒がある。このリングにいる限りはその毒から逃れることはできない」
ウォーターウォールを解除した奥。無感情に立ち尽くすオフィサー。無傷。ボロボロのヘキオンと違って完全な無傷だ。
フラフラと立ち上がった。出てくる鼻血と口からの吐血を前腕で拭う。
「これ以上続ける気か。彼岸花は致死性の毒じゃない。苦しみ続けるだけだぞ」
「……勝てるって時に勝利を手放すバカがどこにいるの?」
ヘキオンはニヤリと笑った。
続く
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