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3章「美しき水の世界」
97話「狂った目付き!」
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「――」
静まり返る会場。目の前の光景が信じられないような表情だ。それは他の選手も同様。
どちらが勝つかは分からない勝負ではあった。だがこんなあっさり終わるとは予想もしてないだろう。
「ロー――!」
観客席。ロードのダウンに驚きと心配の声を上げかけたカエデ。手には木の棒が握りしめられている。
「……っ!」
ギリっと噛み締める。この戦いはロードが選んだこと。カエデに干渉する義理はない。
ロードの元へと向かおうとする体を無理やり椅子に落とした。
止まった空気。それを変えたのはリベレイターだった。
「――ロード選手場外!!勝者はオフィサー選手です!!」
響き渡る声。ただ今回は誰も反応しない。静まったまま。叫び声も歓声もあげるものは誰もいなかった。
血は流れていない。なのに残酷。理解のできない状況に観客も他の選手も固まることしかできなかったのだ。
「……ふん」
軽く鼻を鳴らしたオフィサー。まるで自分が勝つことが分かっていたかのように。堂々とした歩き方で控え室へと歩いていく。
腹に咲いていた花はいつの間にか無くなっていた。枯れたのだろうか。それとも幻だったのだろうか。
しかし目の前の事実は変わっていない。ロードは地面に倒れたまま動かない。死んではなさそうだ。目立った怪我もない。
「――ハァーーイ!救護班!!」
指を鳴らす。煙と共に出てくる人たち。おそらく救護班だろう。
ストレッチャーにロードを素早く乗せ、どこかへと運んでいった。淡々と仕事をしている。なんだか不気味。不気味なことが多いな。
「……ロードちゃん」
控え室から覗いていたヘキオン。心配そうに運ばれていくロードを見ていた。
「大丈夫だよ。アイツは無駄に硬いからな」
ヘキオンを安心させるためか。元気づけるようにクリントンが話しかける。
事実、見た目のダメージはなさそうだった。怪我もしていない。そんなに心配する程でもないだろう。
だがヘキオンの性格上そうともいかない。どうしても気になってしまう。
「……うん」
そうとも言ってられない状況。トーナメント式の大会。ならば次にオフィサーと戦うのはヘキオンだ。
相手の戦術が全く分からない。クリントンは見た目でなんとなく分かるだろうが、今回は全然ダメ。
どんな戦い方。どんな技。魔法メインか、格闘メインか。予選では物理攻撃で突破している。ならば格闘メインか……。
考えるヘキオン。しかしロードへの心配がそれらを上回る。考えてなどいられない。
隣。悩んでいるヘキオンの隣に立ったのはオフィサーだ。横から見えるサングラスの奥。ギラギラとした怪物のような目付きがヘキオンを突き刺す。
音はなかった。横に立たれたのすら感じなかった。驚きで硬直する。
「――ヘキオンと言ったな」
「……うん」
突然の質問。頭の中のことを一旦置き、とりあえず目の前の問いに答えた。
「この中ではお前が1番強いと私は思っている」
「勘違いじゃない?」
「いや。私の目が狂ってなければ勘違いでもない」
「じゃあ目が狂ってるんでしょ」
「狂ってもない。だから勘違いでもない」
「……案外しつこい性格だね。それだと女の子にモテないよ」
「余計なお世話だ」
珍しくヘキオンが敬語じゃない。ロードを瞬殺したからいい印象を持ってないのだろうか。
「――次に戦うのはお前だ。あんまり私を失望させるなよ」
「それはこっちの台詞。ロードちゃんの仇をとってやるんだから」
嬉しそうだ。自分に対抗されたのがよかったのか。バチバチとした雰囲気のまま、オフィサーは奥へと歩いていった。
「――大波乱の展開!まさかの瞬殺!!これはこれで準決勝の試合が楽しみですねぇ!!」
再度盛り上げるリベレイター。あんなに静かだった会場がまた盛り上がりを見せていた。さすが司会者。見事な手腕と言ったところか。
「謎の技を扱うオフィサー選手にヘキオン選手はどう立ち向かうのか……これは目が離せませんよぉ!!」
戦いはまだ始まったばかり。これからどうなるのか。ここからどうなるのか。未来を知ることはできない。
「それでは次の戦いへと参りましょう……三組目のご登場だぁぁぁぁ!!!」
リベレイターは高らかに指をあげた。同じタイミングで吹き出る2つの煙。
人を覆い隠すほどの大きさの煙は徐々に晴れていく。もったいぶる必要も今更ない。それをわかっているかのような煙。サラサラと薄く、静かに消えていった。
「次の対戦は――」
続く
静まり返る会場。目の前の光景が信じられないような表情だ。それは他の選手も同様。
どちらが勝つかは分からない勝負ではあった。だがこんなあっさり終わるとは予想もしてないだろう。
「ロー――!」
観客席。ロードのダウンに驚きと心配の声を上げかけたカエデ。手には木の棒が握りしめられている。
「……っ!」
ギリっと噛み締める。この戦いはロードが選んだこと。カエデに干渉する義理はない。
ロードの元へと向かおうとする体を無理やり椅子に落とした。
止まった空気。それを変えたのはリベレイターだった。
「――ロード選手場外!!勝者はオフィサー選手です!!」
響き渡る声。ただ今回は誰も反応しない。静まったまま。叫び声も歓声もあげるものは誰もいなかった。
血は流れていない。なのに残酷。理解のできない状況に観客も他の選手も固まることしかできなかったのだ。
「……ふん」
軽く鼻を鳴らしたオフィサー。まるで自分が勝つことが分かっていたかのように。堂々とした歩き方で控え室へと歩いていく。
腹に咲いていた花はいつの間にか無くなっていた。枯れたのだろうか。それとも幻だったのだろうか。
しかし目の前の事実は変わっていない。ロードは地面に倒れたまま動かない。死んではなさそうだ。目立った怪我もない。
「――ハァーーイ!救護班!!」
指を鳴らす。煙と共に出てくる人たち。おそらく救護班だろう。
ストレッチャーにロードを素早く乗せ、どこかへと運んでいった。淡々と仕事をしている。なんだか不気味。不気味なことが多いな。
「……ロードちゃん」
控え室から覗いていたヘキオン。心配そうに運ばれていくロードを見ていた。
「大丈夫だよ。アイツは無駄に硬いからな」
ヘキオンを安心させるためか。元気づけるようにクリントンが話しかける。
事実、見た目のダメージはなさそうだった。怪我もしていない。そんなに心配する程でもないだろう。
だがヘキオンの性格上そうともいかない。どうしても気になってしまう。
「……うん」
そうとも言ってられない状況。トーナメント式の大会。ならば次にオフィサーと戦うのはヘキオンだ。
相手の戦術が全く分からない。クリントンは見た目でなんとなく分かるだろうが、今回は全然ダメ。
どんな戦い方。どんな技。魔法メインか、格闘メインか。予選では物理攻撃で突破している。ならば格闘メインか……。
考えるヘキオン。しかしロードへの心配がそれらを上回る。考えてなどいられない。
隣。悩んでいるヘキオンの隣に立ったのはオフィサーだ。横から見えるサングラスの奥。ギラギラとした怪物のような目付きがヘキオンを突き刺す。
音はなかった。横に立たれたのすら感じなかった。驚きで硬直する。
「――ヘキオンと言ったな」
「……うん」
突然の質問。頭の中のことを一旦置き、とりあえず目の前の問いに答えた。
「この中ではお前が1番強いと私は思っている」
「勘違いじゃない?」
「いや。私の目が狂ってなければ勘違いでもない」
「じゃあ目が狂ってるんでしょ」
「狂ってもない。だから勘違いでもない」
「……案外しつこい性格だね。それだと女の子にモテないよ」
「余計なお世話だ」
珍しくヘキオンが敬語じゃない。ロードを瞬殺したからいい印象を持ってないのだろうか。
「――次に戦うのはお前だ。あんまり私を失望させるなよ」
「それはこっちの台詞。ロードちゃんの仇をとってやるんだから」
嬉しそうだ。自分に対抗されたのがよかったのか。バチバチとした雰囲気のまま、オフィサーは奥へと歩いていった。
「――大波乱の展開!まさかの瞬殺!!これはこれで準決勝の試合が楽しみですねぇ!!」
再度盛り上げるリベレイター。あんなに静かだった会場がまた盛り上がりを見せていた。さすが司会者。見事な手腕と言ったところか。
「謎の技を扱うオフィサー選手にヘキオン選手はどう立ち向かうのか……これは目が離せませんよぉ!!」
戦いはまだ始まったばかり。これからどうなるのか。ここからどうなるのか。未来を知ることはできない。
「それでは次の戦いへと参りましょう……三組目のご登場だぁぁぁぁ!!!」
リベレイターは高らかに指をあげた。同じタイミングで吹き出る2つの煙。
人を覆い隠すほどの大きさの煙は徐々に晴れていく。もったいぶる必要も今更ない。それをわかっているかのような煙。サラサラと薄く、静かに消えていった。
「次の対戦は――」
続く
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