無職で何が悪い!

アタラクシア

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3章「美しき水の世界」

95話「完全勝利!」

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一気に膨張する水の塊。溜め込まれていた圧が外へ外へと押し出される。それはまさしく爆弾。

「なに――」

巨大な体を持っていたとしても、それはあくまで生物。爆弾の威力はそんな生物を吹き飛ばすのも容易なほどの威力だ。


「――ウォーターボム水撃


それは水の爆弾。英智の結晶を水に置き換えたもの。数々の人の命を奪った人の業。この世界でもその業は魔法によって受け継がれていた。





「――クリントン選手場外!!この戦いの勝者は……ヘキオン選手だァァァ!!!」

どこからともなく現れたリベレイター。リングの中心でヘキオンに手をかざす。


クリントンは場外へ。満足そうな笑みを浮かべて天を仰いでいる。

ヘキオンはリングの中。喰らったパンチの威力に悶えていた。



「――よっこいしょっと!!」

跳ね上がるクリントン。首をコキコキと鳴らしている。……なんか全然元気そうだ。

負傷もほとんどない。多少口から血が出たのと、鼻から血が出ているだけ。拭えばダメージの痕跡すら見えなくなる。

「ひっさびさにいい汗かいたなぁ!」

リングの中へ。モゾモゾ動いているヘキオンへと歩いていく。



「くぅぅ…………!!」

まともに喰らったのは1発だけ。それなのに散々攻撃を受けたクリントンよりも堪えまくっている。

「凄いなヘキオン!あたしビックリしたよ!」
「あはは……ありが……とう……!」

涙目なのに無理して笑ってる。こう見るとどっちが勝者か分からないな。

「立てるか?」
「ちょっと……無理っ……ぽいです」
「そうか。任せろ」
「……ふぇ?」


倒れているヘキオン。その小さい体をお姫様抱っこした。

「んな――!?」

顔を真っ赤にしてバタバタする。大衆の面前でのお姫様抱っこは恥ずかしいのか。まぁ恥ずかしいだろうな。

「ちょ、ちょっと!恥ずかしいです!」
「はぁ?女同士だろ?それにお前は勝者だ。もうちょっと偉そうにしてもいいんだぞ」
「それは……その……」





拍手喝采。会場が手を鳴らす音で覆われる。歓声。賛辞。明るい言葉がリングの勝者に告げられていた。

ヘキオンの勝利を願った者たち。全員が興奮。躍動。ヘキオンの優勝を確信する者もいる。

クリントンの勝利を願った者たち。悲しみにくれてはいるが、この勝負に不満はなさそう。それどころか勝利したヘキオンにも賛美の言葉を送っていた。もちろんクリントンにも。

ブフイック闘技大会。その決勝の1回戦1回目。まだまだ戦いは始まったばかり。盛り上がる場面はもっとある。

そんな事実が頭によぎる観客たち。嬉しさと興奮がその事実を熱狂させていた。







「うぅ……なんでこんな大衆の面前で羞恥プレイを……」

選手控え室で下ろされたヘキオン。体全体を真っ赤にして顔を抑えていた。割と乙女な所もあるのだね。


「――おかえりヘキオンちゃーん!!」

トテトテと駆け寄るロード。ヘキオンにぎゅっと飛びつく。

「……ぐるしぃ」
「あ、ごめんね」

ぴょんと飛び降りた。


「凄かったねヘキオンちゃん!あのクリントンを倒すなんて!!」
「倒してないよ。ただ場外に落としただけ。……クリントンさんの本気も出せられなかったし、本当の殺し合いなら負けてるよ」
「それでも勝ったのには変わりないじゃん!」

嬉しそうだ。自分のことではないのにとても喜んでいる。自然とヘキオンも優しい顔になった。


「――あんたも凄かったな!」

クリントンも褒められていた。同じような体格をしているレオンに背中を叩かれる。

「何言ってるんだい。アタシは負けたんだよ」
「だとしてもだ!いい戦いだった!……ところであんた。彼氏とかっているのか?」
「アタシかい?別にいないが……」
「……今の戦いを見て、オレはアンタに惚れちまったよ」


「「「「「「「――はい?」」」」」」」


選手控え室にいた全員が困惑を言葉に発した。


「――な、何言ってるんだ?」
「そのまんまだ!あんたのことが好きになったようなんだ!!付き合ってくれ!!」
「……お、お前正気か?」

後ろからルネサンス。心配そうに聞いてくる。

「え?なんでだ?こんな素敵な女性は見たことないぞ!!……あ、ヘキオンちゃんももちろん素敵だが……俺はムキムキの女性が好きなんだ!!」
「そ、そうなん……ですかぁ……」

あまりの熱意に押される他の選手。燃えるような眼をクリントンに向けていた。

そんな熱い視線を向けられているクリントン。




「なんだい……恥ずかしいじゃないか」

乙女のような表情になっていた。

「……クリントンさんそんな表情するんだね」
「私も初めて見た……」

突然の告白劇。そしてされた方は満更でも無い様子。どういう感情になればいいか分からない空間である。


「……クリントン!!俺が優勝したら、俺と付き合ってくれないか!?」
「……よ、喜んで……」
「――よっしゃァァァァァ!!!」


天に拳を掲げるレオン。その横で顔を赤らめているクリントン。

そしてなんとも言えない顔になっている他の選手達であった。











続く
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