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3章「美しき水の世界」
92話「筋肉に隙はない!」
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先手を取ったのはクリントン。数メートルの距離を一瞬で詰める。地面を壊すほどの初速。瞬きも反応する暇を与えない。
単純な右ストレート。鉄球のような握り拳を相手に叩きつけるシンプルなもの。しかし当たれば大ダメージ。
「シュ――!!!」
虚空を切る音。体を横にずらしてパンチを避ける。ジャブ気味ではなく完全なストレート。途中で引っ込めることもできず、そのまま前へと体重がかかる。
そこへと放たれるカウンターのパンチ。腰を回して威力を高めた拳がクリントンの顔面を捉えた。
パンチの威力、そして前傾姿勢。ふたつの要因が重なり、普通に受けるよりも強いダメージをくらう。
――そのはずだ。だがクリントンは血を出さない。鼻の部分が少し赤くなっただけ。顔面の筋肉すらも鍛え上げているというのか。
攻撃を意に返さず、すぐに次の攻撃へ。片脚を軸にしてコマのように回転。地面に擦り傷をつけながら、ヘキオンのみぞおちに向かって回し蹴りを放った。
これを避けるヘキオン。弾丸のように放たれた蹴りをしゃがんで避ける。ふわりと舞う髪の毛を刈り取るように毛先が吹き飛んだ。
今のクリントンは片脚立ちの状態。1本の鉄の棒を真っ直ぐに打ち付けられているのかと思うほどの体幹。曲げるのは至難の業。だからとて相手の体勢を崩すのはさして難しいものでは無い。
しゃがんでる状態でクリントンの脚を薙ぎ払う。水でブーストしたその蹴りは、クリントンを転倒させるのに十分な力であった。
体を支えるものが全て地上から離れ、重力に習って体が地面に落ちる。
「ふッッ――」
地面に落ちてくるクリントンを上へと蹴り飛ばす。重い音。まるで大木にビンタした時のような音。ダメージがあるような音とは思えない。
空中を舞う巨嫗。水で勢いをつけた蹴りを空にいるクリントンに叩き入れた。アバラにめり込む足。ヘキオンの足から感じるイメージは「岩」であった。
サッカーボールのように蹴り飛ばされる。普通なら大ダメージ。骨の一本や2本折れていてもおかしくない。しかしそれは普通である。
衝撃を地面に。痕をつけながら体が飛ばされるのを防ぐ。
「――っふぅ。いい蹴りだね」
傷は見当たらない。ダメージがあるようにも見えない。
「でもまだ本気じゃないんだろ?」
「……まぁね」
「あー楽しみだな。本気じゃなくてこれなのかぁ……もっともっと楽しくなるぞ……!」
ヘキオンが構える。同じ姿勢。同じ威圧。前を見すえる先にはクリントンがいる。
先に動いたのはヘキオン。残像すら追いつかない速度で懐に入り込む。小さい体はこういうところで役に立つようだ。
力は溜め込んである。拳に集まる水。腰の捻りと拳。関節はできるだけ硬め、下半身も地面に固定するイメージ。
「――アクアスマッシュ!!!」
殴ると同時に硬めていた水を解放。爆撃のような威力のパンチがクリントンの腹筋に突き刺さった。
「ぬぅ――」
盛れたのは声。固めた腹筋を貫くことはできなかった。むしろダメージを受けたのはヘキオン側。
鋼鉄を素手で殴った代償。アクアスマッシュの反動と同時に痛みがやってくる。痺れる指を後ろに。残っている左腕を前へと押し上げた。
「――っっチッッ!!」
纏われる水。次の攻撃。攻撃が効かなくてもやるのはひとつ。こういう筋肉こそパワーみたいな相手に小手先の技は通用しない。そのことを理解していた。
しかし先に攻撃が発動したのはクリントンの方。上からヘキオンの頭部に向かって拳を叩きつけてくる。
ハンマーナックル。固めた握り拳を相手に叩きつける技。簡単な技だが当たれば高威力。使う人にもよるが、クリントンが使えばもちろん必殺の威力だ。
「んな――!?」
類稀なる反射神経で攻撃に反応。振り下ろされる拳から逃げるようにクリントンから離れる。
弾ける舞台。舞い散る砂煙。コンクリートが壊れ、破片が辺りに躍動する。その一撃はもはや隕石。小さい隕石が落ちてきたかのような音、威力だ。
離れていても感じるその威力。観客ですらその威力を感じ取った。ならば近くにいるヘキオンが恐れを感じるのも必然的。
大きく離れたヘキオンの頬を汗が伝う。当たればどうなるかなど考えるだけ無駄。どうやったとしてもまともに耐えられるはずなどない。
1発当たるだけでもアウト。意識が消えればそれは負けと同義。当たって場外に飛ばされればそれこそ本当の負けとなる。
「1発も当たったらダメなんて……気が滅入ってきた」
だからといってやめるわけにもいかない。スピードはヘキオンの方が上。完全に勝機がないわけではない。
勝つ道など幾らでもある。ヘキオンの負けはまだ決まってない。やるなら徹底的に。
ヘキオンは次の攻撃に備えた。
続く
単純な右ストレート。鉄球のような握り拳を相手に叩きつけるシンプルなもの。しかし当たれば大ダメージ。
「シュ――!!!」
虚空を切る音。体を横にずらしてパンチを避ける。ジャブ気味ではなく完全なストレート。途中で引っ込めることもできず、そのまま前へと体重がかかる。
そこへと放たれるカウンターのパンチ。腰を回して威力を高めた拳がクリントンの顔面を捉えた。
パンチの威力、そして前傾姿勢。ふたつの要因が重なり、普通に受けるよりも強いダメージをくらう。
――そのはずだ。だがクリントンは血を出さない。鼻の部分が少し赤くなっただけ。顔面の筋肉すらも鍛え上げているというのか。
攻撃を意に返さず、すぐに次の攻撃へ。片脚を軸にしてコマのように回転。地面に擦り傷をつけながら、ヘキオンのみぞおちに向かって回し蹴りを放った。
これを避けるヘキオン。弾丸のように放たれた蹴りをしゃがんで避ける。ふわりと舞う髪の毛を刈り取るように毛先が吹き飛んだ。
今のクリントンは片脚立ちの状態。1本の鉄の棒を真っ直ぐに打ち付けられているのかと思うほどの体幹。曲げるのは至難の業。だからとて相手の体勢を崩すのはさして難しいものでは無い。
しゃがんでる状態でクリントンの脚を薙ぎ払う。水でブーストしたその蹴りは、クリントンを転倒させるのに十分な力であった。
体を支えるものが全て地上から離れ、重力に習って体が地面に落ちる。
「ふッッ――」
地面に落ちてくるクリントンを上へと蹴り飛ばす。重い音。まるで大木にビンタした時のような音。ダメージがあるような音とは思えない。
空中を舞う巨嫗。水で勢いをつけた蹴りを空にいるクリントンに叩き入れた。アバラにめり込む足。ヘキオンの足から感じるイメージは「岩」であった。
サッカーボールのように蹴り飛ばされる。普通なら大ダメージ。骨の一本や2本折れていてもおかしくない。しかしそれは普通である。
衝撃を地面に。痕をつけながら体が飛ばされるのを防ぐ。
「――っふぅ。いい蹴りだね」
傷は見当たらない。ダメージがあるようにも見えない。
「でもまだ本気じゃないんだろ?」
「……まぁね」
「あー楽しみだな。本気じゃなくてこれなのかぁ……もっともっと楽しくなるぞ……!」
ヘキオンが構える。同じ姿勢。同じ威圧。前を見すえる先にはクリントンがいる。
先に動いたのはヘキオン。残像すら追いつかない速度で懐に入り込む。小さい体はこういうところで役に立つようだ。
力は溜め込んである。拳に集まる水。腰の捻りと拳。関節はできるだけ硬め、下半身も地面に固定するイメージ。
「――アクアスマッシュ!!!」
殴ると同時に硬めていた水を解放。爆撃のような威力のパンチがクリントンの腹筋に突き刺さった。
「ぬぅ――」
盛れたのは声。固めた腹筋を貫くことはできなかった。むしろダメージを受けたのはヘキオン側。
鋼鉄を素手で殴った代償。アクアスマッシュの反動と同時に痛みがやってくる。痺れる指を後ろに。残っている左腕を前へと押し上げた。
「――っっチッッ!!」
纏われる水。次の攻撃。攻撃が効かなくてもやるのはひとつ。こういう筋肉こそパワーみたいな相手に小手先の技は通用しない。そのことを理解していた。
しかし先に攻撃が発動したのはクリントンの方。上からヘキオンの頭部に向かって拳を叩きつけてくる。
ハンマーナックル。固めた握り拳を相手に叩きつける技。簡単な技だが当たれば高威力。使う人にもよるが、クリントンが使えばもちろん必殺の威力だ。
「んな――!?」
類稀なる反射神経で攻撃に反応。振り下ろされる拳から逃げるようにクリントンから離れる。
弾ける舞台。舞い散る砂煙。コンクリートが壊れ、破片が辺りに躍動する。その一撃はもはや隕石。小さい隕石が落ちてきたかのような音、威力だ。
離れていても感じるその威力。観客ですらその威力を感じ取った。ならば近くにいるヘキオンが恐れを感じるのも必然的。
大きく離れたヘキオンの頬を汗が伝う。当たればどうなるかなど考えるだけ無駄。どうやったとしてもまともに耐えられるはずなどない。
1発当たるだけでもアウト。意識が消えればそれは負けと同義。当たって場外に飛ばされればそれこそ本当の負けとなる。
「1発も当たったらダメなんて……気が滅入ってきた」
だからといってやめるわけにもいかない。スピードはヘキオンの方が上。完全に勝機がないわけではない。
勝つ道など幾らでもある。ヘキオンの負けはまだ決まってない。やるなら徹底的に。
ヘキオンは次の攻撃に備えた。
続く
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