92 / 117
3章「美しき水の世界」
92話「筋肉に隙はない!」
しおりを挟む
先手を取ったのはクリントン。数メートルの距離を一瞬で詰める。地面を壊すほどの初速。瞬きも反応する暇を与えない。
単純な右ストレート。鉄球のような握り拳を相手に叩きつけるシンプルなもの。しかし当たれば大ダメージ。
「シュ――!!!」
虚空を切る音。体を横にずらしてパンチを避ける。ジャブ気味ではなく完全なストレート。途中で引っ込めることもできず、そのまま前へと体重がかかる。
そこへと放たれるカウンターのパンチ。腰を回して威力を高めた拳がクリントンの顔面を捉えた。
パンチの威力、そして前傾姿勢。ふたつの要因が重なり、普通に受けるよりも強いダメージをくらう。
――そのはずだ。だがクリントンは血を出さない。鼻の部分が少し赤くなっただけ。顔面の筋肉すらも鍛え上げているというのか。
攻撃を意に返さず、すぐに次の攻撃へ。片脚を軸にしてコマのように回転。地面に擦り傷をつけながら、ヘキオンのみぞおちに向かって回し蹴りを放った。
これを避けるヘキオン。弾丸のように放たれた蹴りをしゃがんで避ける。ふわりと舞う髪の毛を刈り取るように毛先が吹き飛んだ。
今のクリントンは片脚立ちの状態。1本の鉄の棒を真っ直ぐに打ち付けられているのかと思うほどの体幹。曲げるのは至難の業。だからとて相手の体勢を崩すのはさして難しいものでは無い。
しゃがんでる状態でクリントンの脚を薙ぎ払う。水でブーストしたその蹴りは、クリントンを転倒させるのに十分な力であった。
体を支えるものが全て地上から離れ、重力に習って体が地面に落ちる。
「ふッッ――」
地面に落ちてくるクリントンを上へと蹴り飛ばす。重い音。まるで大木にビンタした時のような音。ダメージがあるような音とは思えない。
空中を舞う巨嫗。水で勢いをつけた蹴りを空にいるクリントンに叩き入れた。アバラにめり込む足。ヘキオンの足から感じるイメージは「岩」であった。
サッカーボールのように蹴り飛ばされる。普通なら大ダメージ。骨の一本や2本折れていてもおかしくない。しかしそれは普通である。
衝撃を地面に。痕をつけながら体が飛ばされるのを防ぐ。
「――っふぅ。いい蹴りだね」
傷は見当たらない。ダメージがあるようにも見えない。
「でもまだ本気じゃないんだろ?」
「……まぁね」
「あー楽しみだな。本気じゃなくてこれなのかぁ……もっともっと楽しくなるぞ……!」
ヘキオンが構える。同じ姿勢。同じ威圧。前を見すえる先にはクリントンがいる。
先に動いたのはヘキオン。残像すら追いつかない速度で懐に入り込む。小さい体はこういうところで役に立つようだ。
力は溜め込んである。拳に集まる水。腰の捻りと拳。関節はできるだけ硬め、下半身も地面に固定するイメージ。
「――アクアスマッシュ!!!」
殴ると同時に硬めていた水を解放。爆撃のような威力のパンチがクリントンの腹筋に突き刺さった。
「ぬぅ――」
盛れたのは声。固めた腹筋を貫くことはできなかった。むしろダメージを受けたのはヘキオン側。
鋼鉄を素手で殴った代償。アクアスマッシュの反動と同時に痛みがやってくる。痺れる指を後ろに。残っている左腕を前へと押し上げた。
「――っっチッッ!!」
纏われる水。次の攻撃。攻撃が効かなくてもやるのはひとつ。こういう筋肉こそパワーみたいな相手に小手先の技は通用しない。そのことを理解していた。
しかし先に攻撃が発動したのはクリントンの方。上からヘキオンの頭部に向かって拳を叩きつけてくる。
ハンマーナックル。固めた握り拳を相手に叩きつける技。簡単な技だが当たれば高威力。使う人にもよるが、クリントンが使えばもちろん必殺の威力だ。
「んな――!?」
類稀なる反射神経で攻撃に反応。振り下ろされる拳から逃げるようにクリントンから離れる。
弾ける舞台。舞い散る砂煙。コンクリートが壊れ、破片が辺りに躍動する。その一撃はもはや隕石。小さい隕石が落ちてきたかのような音、威力だ。
離れていても感じるその威力。観客ですらその威力を感じ取った。ならば近くにいるヘキオンが恐れを感じるのも必然的。
大きく離れたヘキオンの頬を汗が伝う。当たればどうなるかなど考えるだけ無駄。どうやったとしてもまともに耐えられるはずなどない。
1発当たるだけでもアウト。意識が消えればそれは負けと同義。当たって場外に飛ばされればそれこそ本当の負けとなる。
「1発も当たったらダメなんて……気が滅入ってきた」
だからといってやめるわけにもいかない。スピードはヘキオンの方が上。完全に勝機がないわけではない。
勝つ道など幾らでもある。ヘキオンの負けはまだ決まってない。やるなら徹底的に。
ヘキオンは次の攻撃に備えた。
続く
単純な右ストレート。鉄球のような握り拳を相手に叩きつけるシンプルなもの。しかし当たれば大ダメージ。
「シュ――!!!」
虚空を切る音。体を横にずらしてパンチを避ける。ジャブ気味ではなく完全なストレート。途中で引っ込めることもできず、そのまま前へと体重がかかる。
そこへと放たれるカウンターのパンチ。腰を回して威力を高めた拳がクリントンの顔面を捉えた。
パンチの威力、そして前傾姿勢。ふたつの要因が重なり、普通に受けるよりも強いダメージをくらう。
――そのはずだ。だがクリントンは血を出さない。鼻の部分が少し赤くなっただけ。顔面の筋肉すらも鍛え上げているというのか。
攻撃を意に返さず、すぐに次の攻撃へ。片脚を軸にしてコマのように回転。地面に擦り傷をつけながら、ヘキオンのみぞおちに向かって回し蹴りを放った。
これを避けるヘキオン。弾丸のように放たれた蹴りをしゃがんで避ける。ふわりと舞う髪の毛を刈り取るように毛先が吹き飛んだ。
今のクリントンは片脚立ちの状態。1本の鉄の棒を真っ直ぐに打ち付けられているのかと思うほどの体幹。曲げるのは至難の業。だからとて相手の体勢を崩すのはさして難しいものでは無い。
しゃがんでる状態でクリントンの脚を薙ぎ払う。水でブーストしたその蹴りは、クリントンを転倒させるのに十分な力であった。
体を支えるものが全て地上から離れ、重力に習って体が地面に落ちる。
「ふッッ――」
地面に落ちてくるクリントンを上へと蹴り飛ばす。重い音。まるで大木にビンタした時のような音。ダメージがあるような音とは思えない。
空中を舞う巨嫗。水で勢いをつけた蹴りを空にいるクリントンに叩き入れた。アバラにめり込む足。ヘキオンの足から感じるイメージは「岩」であった。
サッカーボールのように蹴り飛ばされる。普通なら大ダメージ。骨の一本や2本折れていてもおかしくない。しかしそれは普通である。
衝撃を地面に。痕をつけながら体が飛ばされるのを防ぐ。
「――っふぅ。いい蹴りだね」
傷は見当たらない。ダメージがあるようにも見えない。
「でもまだ本気じゃないんだろ?」
「……まぁね」
「あー楽しみだな。本気じゃなくてこれなのかぁ……もっともっと楽しくなるぞ……!」
ヘキオンが構える。同じ姿勢。同じ威圧。前を見すえる先にはクリントンがいる。
先に動いたのはヘキオン。残像すら追いつかない速度で懐に入り込む。小さい体はこういうところで役に立つようだ。
力は溜め込んである。拳に集まる水。腰の捻りと拳。関節はできるだけ硬め、下半身も地面に固定するイメージ。
「――アクアスマッシュ!!!」
殴ると同時に硬めていた水を解放。爆撃のような威力のパンチがクリントンの腹筋に突き刺さった。
「ぬぅ――」
盛れたのは声。固めた腹筋を貫くことはできなかった。むしろダメージを受けたのはヘキオン側。
鋼鉄を素手で殴った代償。アクアスマッシュの反動と同時に痛みがやってくる。痺れる指を後ろに。残っている左腕を前へと押し上げた。
「――っっチッッ!!」
纏われる水。次の攻撃。攻撃が効かなくてもやるのはひとつ。こういう筋肉こそパワーみたいな相手に小手先の技は通用しない。そのことを理解していた。
しかし先に攻撃が発動したのはクリントンの方。上からヘキオンの頭部に向かって拳を叩きつけてくる。
ハンマーナックル。固めた握り拳を相手に叩きつける技。簡単な技だが当たれば高威力。使う人にもよるが、クリントンが使えばもちろん必殺の威力だ。
「んな――!?」
類稀なる反射神経で攻撃に反応。振り下ろされる拳から逃げるようにクリントンから離れる。
弾ける舞台。舞い散る砂煙。コンクリートが壊れ、破片が辺りに躍動する。その一撃はもはや隕石。小さい隕石が落ちてきたかのような音、威力だ。
離れていても感じるその威力。観客ですらその威力を感じ取った。ならば近くにいるヘキオンが恐れを感じるのも必然的。
大きく離れたヘキオンの頬を汗が伝う。当たればどうなるかなど考えるだけ無駄。どうやったとしてもまともに耐えられるはずなどない。
1発当たるだけでもアウト。意識が消えればそれは負けと同義。当たって場外に飛ばされればそれこそ本当の負けとなる。
「1発も当たったらダメなんて……気が滅入ってきた」
だからといってやめるわけにもいかない。スピードはヘキオンの方が上。完全に勝機がないわけではない。
勝つ道など幾らでもある。ヘキオンの負けはまだ決まってない。やるなら徹底的に。
ヘキオンは次の攻撃に備えた。
続く
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる
シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。
そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。
なんでも見通せるという万物を見通す目だった。
目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。
これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!?
その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。
魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。
※他サイトでも連載しています。
大体21:30分ごろに更新してます。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。
トロ猫
ファンタジー
2025.2月下旬コミックス2巻出荷予定
2024.7月下旬5巻刊行
2024.6月下旬コミックス1巻刊行
2024.1月下旬4巻刊行
2023.12.19 コミカライズ連載スタート
2023.9月下旬三巻刊行
2023.3月30日二巻刊行
2022.11月30日一巻刊行
寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。
しかも誰も通らないところに。
あー詰んだ
と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。
コメント欄を解放しました。
誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。
書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。
出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。

クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる